『女奴隷船』:1960、日本

昭和二十年、敗戦の色濃き頃。日本は台湾海峡の制空権も制海権も敵に奪われ、レーダー網によって行動を全て補足されていた。日本海軍マレー方面司令部に呼び出された須川中尉は、大本営へ飛ぶよう司令官から命じられた。司令官はドイツの潜水艦がレーダーの設計図を届けて来たことを説明し、その情報が裏に二重写しされている女性の写真を須川に渡した。陸軍作戦腕部の栗本中佐に届けるよう言われた須川は、輸送機に乗り込んだ。しかし戦闘機部隊の銃撃を受け、輸送機は海に墜落した。
須川が意識を取り戻すと、上海へ帰る貨物船の厨房にいた。船倉から勝手に甲板へ出た瑠美子は、クイーンに見つかった。クイーンの指示を受けた水夫たちは瑠美子を柱に縛り、ロープで何度も殴り付けた。悲鳴を耳にした須川は甲板へ行き、水夫たちを蹴散らした。クイーンは瑠美子を船倉に戻らせ、須川を船長室へ連れて行く。船長は須川に、この船が「お唐さん船」であること、九州から支那へ売られて行く女たちを乗せていることを説明した。
須川は墜落した自分を救助したクイーンから、おとなしく言うことを聞くよう促される。須川が拒否すると、船長は女たちと同じ船倉に入れた。お豊は自分たちが商売女であること、瑠美子だけは叔父に「野戦看護婦になれる」と騙されて船に乗ったことを話した。クイーンは船長から須川に惚れたのだろうと指摘され、「私はアンタだけの物さ」と否定した。お唐さん船は海賊船と遭遇し、銃撃戦になった。海賊は小舟でお唐さん船に乗り込み、水夫を次々に殺害した。
須川の戦いを見た海賊の首領は、手下たちに殺すなと命じた。海賊は須川と女たちを連行し、お唐さん船に火を付けて沈没させた。須川はクイーンから「抱いて」と誘惑され、冷淡に拒絶した。海賊船にはアメリカのスパイである珍からの電報が届き、首領は幾らでも払うので須川を引き渡してほしいと要求された。何か裏があると確信した首領は須川を身体検査し、女性の写真を発見した。須川は妹だと嘘をつき、海賊の瓜や鉄たちから暴行を受けても「何も知らない」と主張した。
営倉に入れられた須川に、海賊の海蛇は「手を組んで一緒に逃げないか」と持ち掛けた。彼は自分が日本人であること、海賊稼業に辟易していることを語る。須川は海蛇を騙して昏倒させ、銃を奪い取った。彼は首領を脅して女たちを解放させ、船を日本に向かわせる。だが、すぐに女たちが捕まり、形勢は逆転した。クイーンは首領に、女たちの行動を知らせるので自分を大事に扱ってくれと取引を持ち掛けた。クイーンが自分を絶対に売らない約束を求めると、首領は承諾した。
海賊船が岸に到着すると須川は牢に入れられ、女たちは競りに掛けられた。競り落とされた女に首領が烙印を押させようとすると、瑠美子は「みんな舌を噛んで死ぬ」と抗議した。買い手からも反対の声が上がり、首領は烙印を断念した。首領は珍に、アメリカにとって須川はどんな価値があるのかと尋ねた。珍が返答を避けると、海賊が取り囲んだ。しかし珍の手下たちが駆け付けて銃を向け、海賊たちの動きを制した。珍は余裕の笑みを浮かべ、その場を立ち去った。
クイーンは見張りの銃を奪い取り、須川を解放させた。彼女は須川に「大事な任務を果たすため、早く日本へ帰るべき」と言い、自分と一緒に逃げるよう促す。須川は女たちを助けに行くと主張し、クイーンと口論になった。そこへ珍と手下たちが現れ、2人は捕まった。すぐに海賊が現れて手下たちを始末し、須川を牢に入れた。クイーンは女たちと同じ牢に入れられ、冷たい視線を浴びた。首領は珍から、須川の写真に関する情報を聞き出した。須川は連れ出しに来た海賊を叩きのめし、女たちを解放して島からの脱出を図る。クイーンは首領の元へ行き、須川たちが西側の入り江へ向かったことを知らせた…。

監督は小野田嘉幹、原作は舟橋淳(『お唐さん』より)、脚本は田辺虎男、製作は大蔵貢、企画は竹中美弘、撮影は山中晋、照明は傍士延雄、録音は竹口一雄、美術は小汲明、編集は笠間秀敏、音楽は渡辺宙明。
出演は菅原文太、三ツ矢歌子、三原葉子、丹波哲郎、杉山弘太郎、大友純、中村虎彦、沢井三郎、左京路子(左京未知子)、川部修詩、高松政雄、高村洋三、由木城太郎、菊地双三郎、浜野桂子(浜野圭子)、西朱実、荒井八重子(市川啓子)、柿市安代、長谷川恵子、野辺澄栄、上野綾子、新宮寺寛、晴海勇三、池月正、北村勝造、森本千太、醍醐布欣子、可児朱実、大倉寿子ら。


大蔵貢が社長を務めていた頃の新東宝が製作したお正月映画。
監督は『人形佐七捕物帖 鮮血の血房』『偽りの情事』の小野田嘉幹。脚本は『江戸の名物男 一心太助』『怪談乳房榎』の田辺虎男。
併映作品は嵐寛寿郎が主演の『大天狗出現』。
須川を演じたのは、新東宝がハンサムタワーズとして売り出していた頃の菅原文太。瑠美子を三ツ矢歌子、クイーンを三原葉子、首領を丹波哲郎、海蛇を杉山弘太郎、瓜を大友純、鉄を沢井三郎、お豊を左京路子(左京未知子)、陳を川部修詩が演じている。

大蔵貢時代の新東宝は、「安く早く」をモットーにしていた。他の会社との差別化を図りながら多くの儲けを生み出すため、エログロ路線を主軸に据えた。
この映画を原作の『お唐さん』ではなく『女奴隷船』と付けたのも、煽情的なタイトルで男心をくすぐろうという戦略が見て取れる。
しかし、タイトルから想像する中身に比べると遥かに刺激が少ないってのも、新東宝という会社の特徴と言えるだろう。
それは「1960年代だから今の感覚だと刺激が少ない」ってことだけじゃなく、時代に関わらずだ。

女奴隷役で大勢の女性が出演しているが、ダントツでセクシーな役回りを担当するのは三原葉子。海賊の宴のシーンで、露出度の高い格好になって艶っぽいダンスを披露する。
それ以外の女性たちは、海賊に捕まった時でも、抱き寄せられて強引に酒を飲まされる程度で済んでいる。
もちろん当時はオッパイやお尻をモロに露出させることなんて無理だけど、「手籠めにされる」ってことを示す描写さえ全く無い。
三ツ矢歌子に至っては、最後まで肌の露出はゼロで清純なイメージのままだ。
ただし彼女の扱いに関しては、新東宝の意向ではなく監督の指示だろう。何しろ、この映画の後、小野田監督は三ツ矢歌子と結婚するわけだから。

お唐さん船の水夫は銃も所持しているはずなのに、須川が瑠美子を助けに来た時は素手か棒だけで戦う。
クイーンが「およし」と言うと、もう須川は戦わない。そして「おいで」と言われると、瑠美子は船倉に戻されたのに助けようとせず、素直に船長室へ付いて行く。
船長室には船長と側近、クイーンの3人しかいないので、その気になれば須川は船長を人質に取って優位に立つことも出来そうだ。
しかし彼は船長に女たちの解放を要求することもなく、素直に船倉に入ることを受け入れる。

海賊の首領は水夫を容赦なく殺害させるのに、須川だけは生かすよう命じる。なぜか彼は須川を手下にしたがるが、もちろん断られる。
その後も須川は海賊に逆らうのだが、それでも須川は彼を殺さないどころか、ちょっと殴る程度で済ませている。
海賊船に戻った首領が働くよう命じても須川は拒否し、「俺に逆らったらどうなるか教えてやろうか」と言うのだが、手下3人と順番にタイマンさせるだけ。
全員が倒されると、「お前をきっと手下にしてやるからな」と言うだけ。瓜が須川を撃とうとすると、それを阻止する始末。

一方、なぜか須川も首領を殺そうとはしない。そこは首領を捕まえて人質に出来るチャンスなのに、おとなしく付いて行く。
宴になっても、女たちが海賊の相手を嫌がる中で傍観を決め込んでいる。
瑠美子が首領の相手を嫌がると、ようやく「やめろ」と立ち上がる。ここでも手下たちが須川に襲い掛かろうとすると、首領は「お前たちの敵う相手じゃねえ」と止めて、それ以上は何もしない。
一方、首領が気絶した瑠美子を船室へ連れて行く時は、須川は無理してでも止めようとしていない。

身体検査されたり写真のことで暴行を受けたりする時には、なぜか須川は全く反撃を試みない。彼が抵抗する時と一方的にやられる時の判断基準は、ずっとデタラメだ。
須川は何度も反抗したり逃亡を図ったりするのだが、首領は馬鹿なので、手足を縛って自由を奪ったりはしない。なので須川は牢から簡単に逃亡できてしまう。
まだ一発目に関しては、油断があったかもしれないし、分からんでもないよ。
でも、牢から逃げたのを連れ戻して、また同じ対応で済ませるのは、さすがにバカか過ぎるだろ。

須川がお唐さん船に救われるので、そこから女たちを逃がす話になっていくのかと思いきや、海賊の襲撃を受けて簡単に水夫たちが全滅する。
そして今度は海賊に捕まるので、「しばらくは我慢しながら反撃と脱出のチャンスを窺う」という時間が続くのかと思いきや、須川は簡単に銃を奪って海賊を制圧してしまう。
ところが、その2分後ぐらいで、あっさりと元の木阿弥になってしまう。
そんなにマヌケな羽目になるぐらいなら、そんな木っ端短い逆転劇なんて要らんよ。

須川たちは密林を通って入り江に向かうが、浜辺と飛び出すと海賊が現れ、女たちが次々に捕まる。
須川は瑠美子と一緒に茂みに隠れるが、こっちからは完全に姿が見えている。それなのに、なぜか海賊は全く気付かないバカバカしさ。
瑠美子は須川を逃がすため、わざと飛び出して海賊に捕まる。しかし須川が自分だけ逃げることは絶対に無いと分かり切っているので、余計な行動になっている。
須川は海蛇に見つかるが、協力すると言われる。前回、協力を持ち掛けたのに裏切られて立場が危うくなったのに、また海蛇は協力を申し出るのだ。
それどころか、急に敬語で喋り始め、脱走兵なので罪滅ぼしとして手伝うと言い出す。

首領は女たちが反抗的な態度を取ると、その場で立て続けに射殺する。それまでの態度からすると、容赦の無い残酷さを見せるキャラに変貌している。
で、それぐらいキャラが変わったのに、瑠美子だけは反抗しても射殺せず殴るだけで済ませる。
その瑠美子は、自分たちを裏切った女王を庇う。そして女王は、なし崩し的に須川たちの仲間になって一緒に戦う。いや、こいつのせいで女たちは捕まって2人が殺されたのに、その甘さはダメだろ。せめて須川や瑠美子を守って命を落とすぐらいの片付け方にすべきだろ。
で、須川と海蛇はともかく、女たちは戦闘のド素人だ。にも関わらず、海賊と真正面から戦って勝利する。そこは何か策を講じて戦うべきだろうに。

(観賞日:2025年2月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会