『リズム・セクション』:2020、アメリカ&イギリス
タンジール。ステファニー・パトリックは元レスリング選手であるエリック・レーマンズの家に忍び込み、背中を向けて座っている相手に拳銃を向けた。8ヶ月前。かつてオックスフォード大学に通っていたステファニー・パトリックはリタという変名を使い、売春宿で働いていた。キース・プロクターという男が客として来訪し、「君の家族は3年前、イースイエスタン航空に乗り、大西洋に墜落した」と語った。それは事実で、ステファニーは父のアンドリュー、母のモニカ、弟のデヴィッド、妹のサラを航空機の墜落事故で亡くし、その悲しみを引きずったまま暮らしていた。
キースはジャーリナストで記事を書いていると言い、「墜落は事故じゃなくて爆弾のせいだ」と述べた。ステファニーは店員を呼び、彼を追いだしてもらった。部屋に残された名刺を目にしたステファニーは、連絡を取ってキースの家に招かれた。奥の部屋には、事故の資料と被害者の写真が壁一面に貼られていた。キースはステファニーに、爆弾を作ったのがモハメッド・レザという男であること、当局は逮捕せずに監視していることを教えた。
なぜ犯人が分かったのかとステファニーが訊くと、キースは「元MI6の情報提供があった。裏は取れてる」と答えた。「君の力になれる」とキースが告げると、ステファニーは食い物にする気ね。今のままで幸せよ」と拒絶した。質問を受けたキースは、ステファニーの代わりに飛行機に搭乗したのがマーティン・ダグラスという建築家であること、妻子がいることを教えた。ステファニーは勝手に資料を調べ、「Bに訊く?」と書かれたメモ、インヴァネス行きのチケット、「IV27 3VQ」という注意書きのあるスコットランドのフレイ湖の航空写真、そしてポートランド・ロイヤル・カレッジに通うレザの身分証を見つけた。
翌日、ステファニーが情報源について尋ねるとキースは教えず、彼女を部屋に残して外出した。ステファニーは部屋を出て拳銃を入手し、ポートランド・ロイヤル・カレッジへ向かった。食堂でレザを見つけた彼女は、テーブルの下で拳銃を構えた。ステファニーはレザを凝視するが、撃つことは出来なかった。彼女が気付くと、バッグが無くなっていた。ステファニーが戻ると部屋が荒らされており、キースが何者かに殺されていた。
ステファニーは部屋から逃走し、ネット地図で「IV27 3VQ」と打ち込んでフレイ湖の近くにある住所を特定した。彼女が座標の場所に赴くと、イアン・ボイドという男が暮らしていた。イアンはステファニーを捕まえて身体検査し、銃を見つけて没収した。レザを殺す手伝いをステファニーが頼むと、イアンは「プロを雇え」と突き放す。「お金が無い」とステファニーが言うと、彼は「だったら稼げ」と告げる。「アンタはプロクターの情報源でしょ。新聞社に駆け込もうか」とステファニーが脅しを掛けると、イアンは「お前のせいでプロクターは死んだも同然だ。お前は全てを台無しにした」と怒りをぶつけた。
ステファニーはイアンに、「私のせいで家族は死んだ」と話す。家族は彼女に合わせて、搭乗機を変更した。しかしステファニーは気分が乗らず、飛行機に乗らなかったのだ。イアンは彼女に、「レザは使い走りで、事件の黒幕は強権的な政府のイスラム原理主義者の指導者だ。指導者はU-17のコードネームを持つ正体不明の人物に金を渡し、飛行機を爆破させた」と説明した。標的は活動家のアブドゥル・カリフで、父のスルマンがキースを雇って事件の真相を探らせた。黒幕である指導者は、2年前のドローン攻撃で死亡していた。
イアンはステファニーを殺し屋として鍛え始め、ペトラ・ロイターという偽名を与えた。本物のペトラは殺し屋だったが、3人の男を殺害してイアンに始末されていた。数ヶ月の訓練を経て、イアンはステファニーに「お前を現場に出す」と告げた。彼は「レザがU-17のために爆弾を作っている情報が入った」と言い、マドリードへ飛んでマーク・セラと会うよう指示した。彼は「マークは元CIAで、今はフリーの情報ブローカーだ」と語り、マークを使ってU-17を見つけるよう告げた。
ステファニーはイアンから、自分がペトラだとマークに思わせるよう命じられた。経費が落ちないと聞いた彼女は、スポンサーになってもらうためにイングランドのサリーへ飛んでスルマンの家を訪ねた。ステファニーがキースの名を出すと、スルマンは「金だけ受け取って姿を消した」と非難する。ステファニーはキースが殺されたことを伝え、「ケリを付けてあげるから経費を出して」と求める。スルマンは彼女の話を信じずに追い出そうとするが、妻のアリアが協力を約束した。
マドリードに飛んだステファニーはイアンから電話を受け、銃&ドラッグ&ダイヤを扱うエリックの始末を命じられた。殺す理由を彼女が訊くと、イアンは「奴が俺にペトラの居場所を教えた。彼女なら復讐する」と答えた。さらにイアンは、エリックが飛行機に爆弾を乗せる算段をしたことも語った。ステファニーはペトラを詐称してマークに電話を掛け、エリックの情報提供を求めた。翌日にセラと会った彼女は、エリックがタンジールのアパートにいる情報を貰った。
ステファニーはエリックのアパートに乗り込み、銃を構えた。エリックに襲われた彼女は、格闘の末に殺害した。アパートを出た彼女は警護の連中に追われるが、車で逃亡した。ステファニーはマークから、レオ・ガイラーという男を始末する仕事を持ち掛けられた。レオはアメリカの投資家で当局に捜査されており、司法取引で裏切ることを恐れた顧客が懸念しているので始末してほしいのだと彼は説明した。ステファニーはイアンに電話を入れて、依頼の件を相談した。するとイアンは、仕事を受けるよう指示した。
イアンはステファニーに、レオがU-17の資金源であること、飛行機を爆破した連中にも金を出していることを教えた。さらに彼は、依頼を受けて高額の報酬を受け取るための方法も指南した。ステファニーは言われた通りの方法でマークと交渉し、仕事を引き受けた。彼女はニューヨークに飛び、イアンと合流した。イアンはレオの警備が厳重であること、コールガール専用のペントハウスがあることを彼女に教えた。ステファニーはコールガールに化けて潜入し、服に返り血が付くのを避けるために裸で止めを刺すよう指示された…。監督はリード・モラーノ、原作はマーク・バーネル、脚本はマーク・バーネル、製作はマイケル・G・ウィルソン&バーバラ・ブロッコリ、製作総指揮はマーク・バーネル&ロブ・フリードマン&ヴァイシャリ・ミストリー&ドナルド・タング&サイモン・ウィリアムズ&グレッグ・ウィルソン&スチュアート・フォード&グレッグ・シャピロ、共同製作はアンドリュー・ノークス&デヴィッド・ポープ&ジェイン=アン・テングレン&レドモンド・モリス、撮影はショーン・ボビット、美術はトム・コンロイ、編集はジョーン・ソーベル、衣装はイマー・ニー・ヴァルドウニグ、スコア・プロデュースはハンス・ジマー、音楽はスティーヴ・マッツァーロ。
出演はブレイク・ライヴリー、ジュード・ロウ、スターリング・K・ブラウン、マックス・カセラ、ラザ・ジャフリー、リチャード・ブレイク、タウフィーク・バルホーム、ナーセル・メマルジア、アミラ・ガザラ、マチルダ・ジーグラー、ビル・オコネル、エリー・カーティス、デヴィッド・ダガン、ロバート・マリンズ、イブラヒム・レノ、マセオ・オリヴァー、アルバート・クリスマス、イヴァナ・バシッチ、イルマ・マリ、ジェフ・ベル、ジャック・マカヴォイ、ピーター・ニューイントン他。
マーク・バーネルの小説『堕天使の報復』を基にした作品。脚本もマーク・バーネルが手掛けている。
監督は『ミッシング・サン』『孤独なふりした世界で』のリード・モラーノ。
ステファニーをブレイク・ライヴリー、イアンをジュード・ロウ、マークをスターリング・K・ブラウン、レオンをマックス・カセラ、キースをラザ・ジャフリー、エリックをリチャード・ブレイクが演じている。
他に、レザをタウフィーク・バルホーム、スルマンをナーセル・メマルジア、アリアをアミラ・ガザラが演じている。ステファニーが家族を亡くし、ずっと悲しみを抱えて生きているのは分かる。ただ、「ここまで辛気臭い雰囲気にしなくても」と思ってしまう。
なんか必要以上に湿っぽくなっているように感じて、そのせいで復讐の炎さえも充分に燃え上がらず、小さく燻っている印象を受ける。そんなんじゃあ、レザへの復讐なんて絶対に無理だろうと。
っていうか、ステファニーが銃を買って大学へ乗り込むのは、ただの浅はかな行動にしか見えんよ。
それでステファニーが撃てずに終わっても同情心が沸かず、「ほら見たことか」と呆れるだけだ。キースが3年前の航空機事故について調べているのなら、ステファニーは取材対象の1人に過ぎないはずだ。
それにしては、自分の家に招いて宿泊させるってのは、どう見ても特別扱いでしょ。そんなの、普通の取材で取るような行動とは到底思えない。
ステファニーを家に残して外出するのも、不自然にしか思えない。色んな資料が簡単に見られるような場所に置いてあるのに、そういうのをステファニーが勝手に探っても別にいいのか。
あと、キースが説明した内容が真実なのかという確証は何も無いし、そもそも彼が真っ当なジャーナリストかどうかも分からないのに、ステファニーが丸ごと信じて行動しているので、大丈夫なのかと言いたくなる。ステファニーはキースの家に入った時、奥の部屋を覗いた直後に失神する。彼女が目覚めると部屋にキースはおらず、勝手に壁の写真を見て回る。そこから暗転を挟んでシーンを切り替え、キースがレザについて説明する手順を描く。
ここ、無駄が多くないか。
ステファニーがイアンの小屋に行った時も、やはり無駄の多さや無意味な演出を色々と感じる。まず、しばらくイアンの顔を見せずに話を進める意味がサッパリ分からない。顔が映っても、せいぜい「演じているのはジュード・ロウでした」ってことにしかならんぞ。
それは「知ってたよ」という反応になっちゃうし。
事前に何の情報も知らずに見たとしても、そこの「ジュード・ロウでした」という演出は意味不明だぞ。昔のスター映画なら「真打ち登場」みたいな演出として使われていたけど、そういうのは2020年にジュード・ロウで採用するような方法じゃないだろ。イアンは小屋に来たステファニーを捕まえ、上着を脱がせてポケットの中身を全て出させて、その場は終わりにする。そして翌朝になってから、彼はステファニーを尋問する。
その後、ステファニーが小屋に閉じ込められて、過去を回想するシーンが入る。またイアンが戻って来て、ステファニーがレザを捜索する手伝いを頼む。
そこも、無駄に手順を分割していると感じる。
何度もシーンを切り替えて、改めて仕切り直すことで得られるメリットが何も見当たらないのよ。ただ話のテンポを悪くしているだけなのよ。ステファニーが「レザ捜しを手伝ってよ」と言うと、イアンは「お前が学食に行ったから奴は消えたんだ」と語る。ステファニーが「奴を殺す」と口にすると、イアンは「歩けもしない」と冷たく告げる。「じゃあ歩かせてよ」と要求すると、小屋を出たイアンは戻って来て靴を与える。イアンが小屋を出ると、ステファニーが後を追う。イアンが走り出すと、ステファニーが付いて行く。
この時点で既に「何だか良く分からねえなあ」と感じるが、さらに混迷や困惑の中へ観客を連れ込む展開が待っている。イアンはステファニーに「後で憎まれないようにハッキリ言っておくが、お前には無理だ。鍛えても、この仕事の素質が無い」と言うのだ。
いや、いつステファニーが「殺し屋として鍛えてくれ」と頼んだのよ。そんなこと、一言も言ってなかっただろ。
しかしステファニーはイアンに挑発される形で湖に入り、そこから戻ると鍛えてほしいと頼む。
もうさ、どういうことなのかサッパリだ。イアンは人を避けるために湖畔のポツンと一軒家で暮らしていたはずなのに、なぜキースには住所を教えていたのか。もしもキースが独自の調査で突き止めたとしたら、それはイアンがホンクラすぎるから違うだろうし。
イアンがステファニーを家に泊めているのも変だ。本気で厄介だと思うなら、さっさと小屋を引き払って別の場所に引っ越した方が得策だろう。
知っている情報をステファニーにベラベラ喋っているのも不可解だ。なんでイアンがド素人のステファニーを鍛えようとするのかも、まるで分からんし。「才能を感じた」ってことならともかく、そうじゃないし。
イアンにしろステファニーにしろ、思考回路がデタラメにしか見えんぞ。殺し屋の訓練が始まって2分ぐらいで、ステファニーはイアンに「もう数ヶ月も訓練してる。いつまで続くの」と文句を言う。
だけど素人が殺し屋として現場に立つのに、たった数ヶ月の訓練じゃ厳しいだろう。
でも、そんな風に思っていたら、「いつまで続くの」から5分ぐらいで「現場に出す」とイアンは言うんだよね。
最初の2分に関しては「何ヶ月もの訓練」を省略した結果だけど、後者の5分は違う。つまり数ヶ月の訓練で。イアンは現場に出すと決めたわけだ。それは拙速じゃないか。しかも、「最初は簡単な仕事」とか「まずは実地テスト」とかじゃなくて、いきなりマドリードへ単独で行かせるんだよね。どうやら失敗した時の保険を用意している気配も無いし。
もしもステファニーが失敗したら、もちろん本人が殺されるケースもあるけど、敵に捕まってイアンの情報を白状するリスクも充分に考えられる。
そういうことを考えると、イアンは判断が利口には思えない。
そりゃあ、クソ真面目に訓練シーンを全て描けとは言わないけど、もう少し作業が欲しいと感じるわ。っていうか、そもそもイアンは既に組織の一員じゃなくて、ステファニーの復讐を手伝っているだけなんでしょ。それなのに最初の仕事の標的がレザじゃないってのは、「なんでだよ」と言いたくなる。なぜかステファニーも、文句を言わないし。
一応は「爆弾を乗せる算段をした」と説明するけど、それは付け足しみたいな殺害理由にされちゃってるし。
レオにしても、復讐という目的から外れている。こちらも「U-17の資金源であること、飛行機を爆破した連中にも金を出している」という理由は用意しているけど、台詞で軽く説明するだけだ。
「復讐のための仕事」という図式が、クッキリとは見えて来ない。ステファニーがペトラを詐称する意味が、サッパリ分からない。
本物のペトラについては、イアンが「同僚を殺したので報復した。その際、CIAの注意命令を無視した。CIAはペトラを雇ってU-17を追わせていた。殺したのでCIAは激怒し、MI6は俺をクビにした」と説明している。
でも、こんなのは今回の話に全く絡まない設定なのよ。
「かつてイアンは復讐のために行動し、今回はステファニーが復讐に燃える」というのは、上手く結び付けてドラマを描けそうだが、実際には何も無いのよ。ステファニーはエリックを殺しに行った時、襲われてピンチに陥っている。でも、それは「初めての殺しに躊躇していたら襲われる」ということではない。シンプルに隙だらけだったから、襲われるだけだ。
結果として、ステファニーの最初の殺人は「自分が殺されるのを避けるための行動」という形にもなっている。しかしステファニーは初めての殺人に全く動揺せず、引きずることも無く、落ち着いたモノだ。
だったら「復讐のために感情を殺した」ってことで徹底するのかというと、そうではない。レオの時は「9歳の娘がいる」と命乞いされると、殺せずに去っている。
でも、最初の殺人で何の躊躇も動揺も見せなかったが、次の仕事では子供のことで命乞いされると動揺して殺せずに去るってのは、シナリオとして疑問を禁じ得ないのだが。レオは子供と車に乗った時、仕掛けられた爆弾で殺される。この時はイアンが予備の作戦を用意している都合の良さだ。で、それに怒ったステファニーはイアンから離れる。
この展開も、理屈は分かるけど性急だなあと感じる。
そんでステファニーは「自分の計画でやる」と言い出すのだが、まだ単独で復讐計画を成功させられるほどの経験も技術も無いでしょうに。
そんなステファニーが、なぜかマークと肉体関係を持つのも呆れるだけ。ステファニーはマークから「U-17の正体はレザだ」と言われ、レザを殺しに行く。そしてレザが爆死した後、マークを殺害する。
これは「マークの正体がU-17だと確信したから」ってことなのだが、そこに裏付けがあるわけではない。
「レザみたいな雑魚をU-17だと言うから気付いた」とステファニーは語るけど、それって推測に過ぎないんだよね。
まあ実際にその通りという設定ではあるんだけどさ、一応はマークがU-17だと認める発言をするぐらいの手順があった方がいいと思うぞ。映画の最後は、復讐を終えたステファニーの前に怒りのイアンが現れて激しく詰め寄る。
そして「二度と顔も見たくない」と彼が言うと、ステファニーは冷たい態度で「あっ、そう」と立ち去る。
そして歩いているステファニーを見せてエンドロールに突入するのだが、こんなラストシーンを用意している意味がサッパリ分からないのよ。
そこから何をどう読み取ればいいのか、どういう気持ちでエンディングを迎えればいいのかと。(観賞日:2025年2月9日)