『リーファー・マッドネス 麻薬中毒者の狂気』:1936、アメリカ

政府や警察が麻薬撲滅に本腰を入れる中、レイクサイド高校のアルフレッド・キャロル校長はPTA会議を開いた。彼は集まった保護者の面々に、団結して麻薬についての教育を徹底すべきだと訴えた。キャロルは義務教育プログラムの実現を目指して、全国キャンペーンを始めようと呼び掛ける。彼は特にマリファナが問題だと言い、当局から届いた手紙を読み上げた。その手紙には、マリファナに関する詳しい情報が記されていた。それからキャロルは、この街で起こった事件について詳しく語り始めた。
高校の近くにあるアパートで、メイ・コールマンと恋人のジャック・ペリーが同棲していた。3人の男女が来訪すると、ジャックはメイに「届け物がある」と告げて外出した。ラルフは大学の友人から、土曜日にプールのある家でパーティーをするので来ないかと誘われた。ジャックに声を掛けられたラルフは、向かいの通りを歩くメリーを見つけて「あれが前に話してた娘さ」と教えた。メリーは弟のジミー、恋人のビルと共に、車で出掛けようとしていた。
ラルフはメリーたちに声を掛け、ジャックを紹介した。ラルフが「ジョーの店に行くので一緒に来ないか」と誘うとメリーとビルは断るが、ジミーは同行した。ラルフたちが店に着くと、ジミーの恋人のアグネスが来ていた。ジミーはアグネスに誘われて一緒に踊った後、店のピアノを演奏した。ラルフとジャックは、店にいたブランシュと合流した。ジミーとアグネスはブランシュから友達の家でパーティーがあるから来ないかと誘われ、喜んで応じた。
ビルはメリーの家へ招かれ、楽しくお喋りした。2人は『ロミオとジュリエット』を即興で演じて、キスを交わした。そこへメリーの母が来るとビルは慌てて転倒し、服を濡らしてしまった。帰宅したビルは、弟に「ビルに恋人が出来た」と冷やかされた。ビルが街にいると、ジミーが車で来て「メリーから伝言で、先に帰ると。母さんの買い物に付き合わされるみたいです」と語った。ビルはジミーに誘われて、一緒にジョーの店へ赴いた。店にはブランシュとラルフがいて、ビルとジミーは挨拶した。
ジミーがメイのアパートへ行こうとビルを誘い、ブランシュも歓迎した。メイのアパートではダンスパーティーが開かれており、ビルたちが行くとアグネスも参加していた。ブランシュはメイに、ビルを紹介した。メイはジャックに、マリファナの買い足しを頼んだ。ジャックは車を修理に出しており、ジミーに送ってくれと頼んで一緒に外出した。メイは客にマリファナを配り、ビルもブランに促されて吸った。ジャックはボスを訪ねて金を渡し、マリファナを手に入れた。マリファナを吸って車を運転したジミーは信号を無視し、通行人の男性をひき逃げした。
キャロルは連邦捜査局へ赴き、麻薬組織の捜査に力を入れるよう求めた。捜査局長は彼に、教育現場での啓蒙活動ぐらいしか打てる手は無いと告げた。ビルはキャロルに呼び出され、好ましくない仲間と良くない趣味を始めたのではないかと問われて否定した。しかし本当はビルもジミーと同じくマリファナ中毒になっており、メイのアパートに通っていた。彼はマリファナで気持ち良くなり、寝室でブランシェと肉体関係を持った。
夜、メリーの家へ刑事がひき逃げ事件の捜査でやって来た。目撃者のナンバーが一致しないので、近いナンバーを探していると刑事は説明する。メリーは事件当日のアリバイがあり、車は誰にも貸していないと偽証した。被害者は死んだのかとメリーが尋ねると、「生きているが罪は変わらない」と刑事は答えた。メリーはジョーの店へ行き、ジミーは来ていないかと問い掛けた。ジョーはメイのアパートにいると言い、住所を教えた。メリーがメイのアパートを訪れるとラルフが応対し、「ジミーはアグネスを送って行った」と告げた。ラルフが煙草に見せ掛けてマリファナを勧めると、メリーは気付かずに吸った。ラルフが抱き締めてキスすると、彼女は激しく抵抗した。
寝室から出て来たビルは、ラルフを殴り付けた。台所から出て来たジャックは、銃底でジャックを殴ろうとして揉み合いになった。銃弾が発射されてメリーに命中し、ジャックはビルを殴って気絶させた。彼はブランシェとラルフに、ここで見たことは忘れろと指示して立ち去らせた。ジャックはビルに銃を握らせ、メリーを殺したと思い込ませた。彼はメイに偽証の内容を詳しく指示し、逃亡してから警察を呼ばせた。ジャックはバーでジミーと会い、「殺人課の刑事と話したが、ひき逃げした男は死んだらしい」と嘘を吹き込む。彼はジミーに、「お前が運転していたことはバレない。今後はメイのアパートに行ったことも口外するな」と指示した…。

監督はルイ・ガスニエ、原案はローレンス・ミード、脚本はアーサー・ホエール、追加台詞はポール・フランクリン、製作はジョージ・A・ハーリマン、製作協力はサム・ディージ、撮影はジャック・グリーンハル、美術はロバート・プリーストリー、編集はカール・ピアソン、音楽監督はエイブ・メイヤー。
出演はドロシー・ショート、ケネス・クレイグ、リリアン・マイルズ、デイヴ・オブライエン、セルマ・ホワイト、カールトン・ヤング、ウォーレン・マッカロム、パット・ロイヤル、ジョセフ・フォーテ、ハリー・ハーヴェイJr.他。


『ポーリンの危難』『キスメット』のルイ・ガスニエが監督を務めた作品。
マリファナ使用の危険性について教える教育的なプロパガンダ映画として、教会の出資によって製作された。そのため、当初は『Tell Your Children』というタイトルだった。
1930年代のアメリカでは、この手の教育的な映画が多く作られていたのだ。
しかし映画プロデューサーのドウェイン・エスパーはエクスプロイテーション映画として使えると考え、この作品を購入した。そして下品さを強調する新たな映像を追加し、1938年から各地で上映された。
その内に一部の地域ではタイトルが『Reefer Madness』となり、他にも様々なタイトルで上映された。

冒頭、「今からお見せする映画は、衝撃的かもしれません。しかし強烈な表現を用いる以外に、アメリカの若者を蝕む麻薬の恐ろしさを伝える方法は無いのです。マリファナは暴力的な麻薬であり、社会にとって一番の敵なのです」とテロップが出る。
前置きとしては充分なはずだが、まだ終わらない。
さらに「突然に訪れる暴力的で制御不能な笑い。そして危険な幻覚。空間は広がり、時間は遅くなる。そして恐ろしい浪費欲と不快感に見舞われ、理性は制御できなくなる。感情の奴隷となり、暴力行為や不治の狂気に苛まれる」と出る。
さすがに、もう前口上はお腹一杯なのだが、ここでも終了にならない。

その後、「この心を破壊する作用を正しく伝えるため、麻薬中毒に関する実際の調査に基づいて、この物語は製作されました。この社会の脅威を撲滅する必要性を感じられたら、この映画の目的は達成されたと言えるでしょう。なぜなら、麻薬の次なる被害者は、貴方の家族かもしれないのです」というテロップが入り、ようやく本編に入る。
映画が始まってから約3分ぐらいは、テロップによる説明だ。
ちなみに、「衝撃的かもしれません」という脅し文句が最初にあるけど、実際には全く衝撃的ではない。

ようやく本編に入るが、今度はキャロルの演説が5分ぐらい続く。
ここでは「保護者の協力が必要」と訴えるだけでなく、マリファナが市街地でも栽培されているとか、乾燥させて簡易ツールを使って販売されているとか、モルヒネやヘロインよりも摘発が困難だとか、隠し場所として宝石箱や女性の靴が使われるといった説明がある。
とにかく麻薬の脅威を説明したいことは、良く分かる。
でもハッキリ言うと、退屈な講釈が長々と続いて話が全く先に進まないってことだ。

その後、回想の形でメイのアパートに場面が切り替わると、ジャックが3人の客を招き入れて外出する。
このシーン、まるで意味が無い。そこの手順を丸ごと削除しても、何の問題も無い。
来客は「マリファナを求める客」ってことなんだけど、だったら客の相手をするまでの様子を描くべきだしね。
ただ単に「客が来てジャックが外出し、後はメイに任せる」というだけで片付けてしまうぐらいなら、全カットにしちゃった方が絶対にスッキリする。

ビルがメリーの家で話すシーンも、帰宅して家族と話すシーンも、これまた何の意味も無い。「こんな幸せもマリファナのせいで壊れる」みたいな変化を見せるためだとしても、あまりにも中身が無い。
そんなことより、最初にジミーとアグネスがメイのアパートに誘われた時点で確実にマリファナを吸っているはずなんだから、そこを描けよ。そういう大事なトコを省略してどうすんのよ。
だったら最初から、そんなシーンは無くてもいいよ。
あと、メイのアパートでマリファナを吸っているはずなんだから、その後のシーンで「ジミーの変化」を描いた方がいいはずだし。

ジャックがボスのオフィスを訪れるシーンでは、ピートという売人が現れて「あんな物を子供たちに売り付けて」「どっちにしても誰かが売るんだ」「一線を超えたくないんです」「嫌なら辞めても構わない。永遠に」「貴方に子供がいたら違ったかな」という会話がある。
これも含めて、全体を通して言えるのは「マリファナの売買」そのものを糾弾するというよりも「若者にマリファナはダメ、ゼッタイ」という主張だ。
まあ教育的な映画だし、「大人は自己責任だが、子供は守らないと」っていうメッセージになるのかもしれない。
だけど、なんかメッセージとしては少し歪んでいるようにも感じるぞ。

ジミーのひき逃げは重大な事故なのに、そこに物語が集中することは無い。ひき逃げのシーンは描かれるが、その直後にジミーやジャックが焦ったり、何かしらの行動を取ったりする様子も一切描かれない。
その後、メリーが母から「最近、ビルが来ないわね」と指摘されて会話しているとジミーが起きて来て、何か心配がありそうな様子を見せるが、ってことは翌朝になってんのね。そんな雑な展開でいいのか。
そんで連邦捜査局のシーンになるからひき逃げ事故の捜査に関する描写かと思いきや、まるで関係ないし。
すっかり忘れた頃になって、ようやくひき逃げで警察が動いている様子が描かれるし。

連邦捜査局のシーンでは、局長が「大麻は他のドラッグと違う。どこの州でも大麻は自生しているので、州をまたいだ取引は行われない。
連邦政府の手は届かない」などと説明する。
さらに局長は麻薬取締局が扱う大麻関連の資料が大量にあることを明かし、複数の事例を語る。
「16歳の少年が強盗罪で逮捕」と彼が言うと、キャロルは「覚えてますよ。麻薬の影響下で、斧で家族を皆殺しにした若者ですね」と告げる。さらに局長は、大麻を吸った17歳の少女が5人の男たちに弄ばれたミシガン州の事件にも触れる。
この辺りも、啓蒙のための説明ってことが強く感じられるシーンだ。

裁判のシーンでは、証人として呼ばれたキャロルが検事の「過去3ヶ月でビルに変化を感じたか」という質問に対し、「話をしても上の空になることがあった」「最近のテニス大会では見当違いの空振りをしていた。マリファナが原因ではないかと推測される」などと証言する。
「薬物のせいで精神的負担を感じているのではと心配するような変化はありましたか」と問われ、「数週間前の授業中、いきなり大声で笑い出し、制御不能になった」「半年前の彼は、どのような生徒でしたか」「素晴らしい青年でした。人の見本になるような文武両道の若者でした」と答える。
キャロルはビルの殺人罪に関して呼ばれた証人のはずだが、「いかにマリファナが若者をダメにするか」を説明するためのキャラクターになっている。

ビルは自分が殺したと思い込んでいるので、殺人罪で起訴されても無実を訴えない。
そして有罪となり、「マリファナを吸っていたら無実の罪で絞首刑になる恐れもあるんだよ」という警告に繋げる。
その後、ラルフは不安でマリファナを大量に摂取し、「ジャックが殺そうとしている」と思い込んで殺害する。
ラルフだけでなく、と一緒にいたメリーとブランシェも逮捕される。
ブランシェは警察で「メリーを殺したのはジャックだ。銃が暴発した」と証言し、窓から飛び降りて自殺する。

ビルは無罪になり、裁判長は「恐ろしい大麻の罠から救うための経験にしなくてはいけません」と説教する。
この台詞は、本作品を見た観客への説法にもなっている。
そして映画の最後は再びキャロルが登場し、「このような悲劇が起きるかどうかは貴方たち次第だ。正しい知識以外に子供を守る方法は無い。次の被害者は貴方の子供かもしれない」と演説し、画面に向かって指を差す。
ダメ押しの説教で映画は終幕を迎えるが、教育映画としては何の役にも立たずキワ物扱いされる羽目になるとは、スポンサーも痛恨の極みだろう。

(観賞日:2024年11月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会