『ブラックアダム』:2022、アメリカ
紀元前2600年、カーンダック。史上初の国民主権による文明大国は何世紀も栄えたが、アクトン王が軍隊の力で独裁者になった。彼の目的は、悪魔の力でサバックの王冠を造ることだった。6大悪魔の力を吹き込めば、無敵の大王になれるのだ。原料のエタニウムを集めるため、アクトン王は奴隷にした民衆に土を掘らせた。1人の男が原石を発見すると、皆が奪い合いを始めた。少年のフルートが止めに入り、「なぜ仲間同士で争う?真の敵は?」と大人たちを諭した。
発見者の男はフルートと共に監督官の元へ行き、エタニウムを渡した。褒美を貰えると思っていた男だが、監督官に殺害された。フルートは「団結すれば王を倒せる」と考えるが、父のテス・アダムから「夢など見るな」と諫められた。納得できないフルートは、奴隷たちに向かってエタニウムを掲げた。奴隷たちは反乱を起こすが、すぐに鎮圧された。フルートは捕まって処刑されそうになるが、魔術師評議会に選ばれた。フルートはシャザムの力を与えられ、勇者となって復活した。彼は王冠を手に入れたアクトン王を倒し、宮殿は崩壊した。王冠は魔術師によって隠され、勇者は二度と現れなかった。
現在のカーンダックは、インターギャングに占領されていた。指名手配されているアドリアナ・トマズは同行したがる息子のアモンを残し、仲間のイシュマエル、サミール、弟のカリームと共に町を脱出した。彼女は祖母の形見であるエタニウムの原石を持っており、文脈を解読して王冠が山中にあることを突き止めていた。彼女の目的は、王冠を見つけて隠すことだった。山に入った彼女は墓を発見し、「呼び起こすことなかれ。永遠にここに眠る。テス・アダム」という文字を確認した。
アドリアナはテスが勇者だと思っており、「伝説は本当だった」と興奮した。彼女は王冠を発見するが、インターギャングにサミールが殺されてイシュマエルとカリームが人質に取られた。王冠の引き渡しを要求されたアドリアナは承諾し、殺されそうになる。しかし彼女が呪文を唱えると、アダムが勇者として復活した。アダムは銃弾を浴びても全くダメージを受けず、激しく暴れ回った。イシュマエルは王冠を手に入れようとするが、インターギャングの落としたスーツケースを開けると空っぽだった。
イシュマエルは崩れた瓦礫の下敷きになり、アドリアナとカリームは遺跡から脱出した。アドリアナは王冠を取り戻しており、車に乗って逃亡しようとする。インターギャングは攻撃ヘリコプターや戦車まで用意していたが、アダムが次々に破壊した。アドリアナが車を停めると、アダムはゆっくりと歩み寄った。生き残っていた兵士が車に向かってミサイルを放つと、アダムが素手で受け止めた。ミサイルにはエタニウムが使われており、激しい爆発が起きた。
アダムは爆発で腹部に傷を負い、倒れ込んで放電した。生きていたイシュマエルは近くで瀕死になっていた兵士が指示通りに動かなかったことを批判し、冷淡に始末した。ラプター隊から無線が入ると、彼は「山にあったのは王冠だけじゃなかった」と知らせた。事件を知ったホークマンはアマンダ・ウォラーに連絡し、「市民が傷付く前に無法者を拘束すべきだ」と主張した。メンバーについて問われた彼は、風を自由に操る元プログラマーのサイクロン、初代の甥であるアトム・スマッシャー、一線を退いている魔術師のドクター・フェイトを呼び集めたことを伝えた。
ホークマンが率いるJSA(ジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ)の面々は、船でカーンダックへ向かった。アダムが目を覚ますと、アドリアナのアパートで介抱されていた。彼はアモンから5000年が経過していること、自分がアクトン王を倒した英雄として伝説になっていることを知らされた。アモンが「自由を取り戻すためにはスーパーヒーローが必要だ」と話すと、アダムは「俺じゃない」と口にした。アドリアナはアダムに「お前が俺を呼んだ」と言われ、「仕方なかった。殺される寸前だった」と釈明した。
アモンが「敵は他にも大勢いる」と告げると、アダムは「殺せ。敵と、敵の愛する者を全て倒せ。情けは無用だ」と助言した。アドリアナが「息子に暴力を教えないで。必要なのは勇者。力を貸して」と語ると、アダムは無視してアパートを出て行った。アモンは彼を追い掛け、インターギャングに捕まった。アドリアナが来て助けようとするが、指名手配中だと気付かれた。そこへアダムが戻り、一味を倒した。ホークマンとフェイトが来て降伏を要求するとアダムは拒否し、戦いが勃発した。
スマッシャーとサイクロンも加勢するが、アダムは強さを見せつけた。「我々の勇者」と民衆が声を上げる中で、アダムは飛び去った。アドリアナはJSAに包囲され、「軍隊に占領されて27年になるけど、JSAなんて初めて聞いた。国が侵略されても無視し、資源も夫の命も奪われた。ついにヒーローが現れたら、なぜか貴方たちも来た。でも間に合ってる」と嫌味っぽく言い放つ。さらに彼女は、王冠は持っていないと告げた。彼女はアモンに王冠を託し、その場から逃がしていた。
ホークマンはアドリアナに、「奴の真の正体を知らないからだ。古文書で確認した。奴の怒りで国は滅び掛けた。同じ悲劇を繰り返さないように、我々は来た」と語る。アドリアナはアダムの元へ行き、「JSAは貴方の戦いが正義のためじゃなく、復讐のためだったと言ってる。怒りは暴走し、魔術師評議会は力を奪った。あれは墓じゃなくて牢獄だった」と話した。アダムが「俺はヒーローでも何者でもない」と言うと、彼女は「それは昔の話。今ならヒーローになれる」と呼び掛けた。アダムはアドリアナに、「奴らの話を聞く。戦いを選ぶなら奴らは死ぬ」と述べた。
アモンがアパートに戻斗るイシュマエルが待ち受けており、銃を向けて王冠が入ったリュックの引き渡しを要求した。カリームは隙を見てイシュマエルにタックルを浴びせ、その間にアモンはリュックを取り戻して部屋を飛び出した。アダムはJSAから降伏を要求されて拒否し、戦いが始まりそうになる。アドリアナは身を隠したアモンからの電話を受け、「イシュマエルは悪党だ。狙いは王冠だ」と告げられた。アパートにはインターギャングが押し寄せ、アモンを捜索していた。
アドリアナはアダムに、「ヒーローじゃなくてもいい。息子を助けて」と頼む。アモンがインターギャングに見つかると、すぐにアダムが駆け付けた。アダムが一味と戦っている間に、イシュマエルがアモンをフライバイクで拉致した。アダムが後を追うと、ホークマンは犠牲が出るのを防ぐためにサポートした。フェイトはアパートへ行き、大怪我を負ったカリームを助けた。アダムはフライバイクに追い付くが、イシュマエルとアモンは乗っていなかった。アダムは捕まえたイシュマエルの手下を脅し、アモンが砂漠の鉱山に連行されたことを聞き出した。アパートの部屋には王冠が隠されており、アドリアナはアダムとJSAに協力して息子を救うよう訴えた。
一行は鉱山へ赴き、アドリアナはイシュマエルに王冠と息子の交換を要求した。王冠を受け取ったイシュマエルはアモンを解放せず、自分がアクトン王の末裔だと明かす。彼は王冠の魔力が消えてないことを知っており、後は引き出すだけだと語る。イシュマエルは「フルートが死んだ時、お前は泣き叫んだ。今回も泣き叫ぶか」とアダムを嘲笑し、アモンに向けて発砲した。アダムは飛び込んで銃弾を掴み取るが、イシュマエルは王冠を被って姿を消した。放電による大爆発が起きて、アモンは重傷を負った。責任を感じたアダムはホークマンに自身の過去を打ち明け、力を捨てると決めた…。監督はジャウム・コレット=セラ、キャラクター創作はビル・パーカー&C・C・ベック、脚本はアダム・スティキエル&ロリー・ヘインズ&ソーラブ・ノシルヴァーニ、製作はボー・フリン&ハイラム・ガルシア&ドウェイン・ジョンソン&ダニー・ガルシア、製作総指揮はトビー・エメリッヒ&リチャード・ブレナー&デイヴ・ノイスタッター&クリス・パン&ウォルター・ハマダ&アダム・シュラグマン&ジェフ・ジョンズ&エリック・マクラウド&スコット・シェルドン、共同製作はジェン・コンロイ&シェルビー・トーマス、製作協力はダリン・リード&ジャズミン・タンスキー&ニック・サトリアーノ、撮影はローレンス・シャー、美術はトム・メイヤー、編集はマイク・セイル&ジョン・リー、衣装はカート・アンド・バート、視覚効果監修はビル・ウエステンホファー、音楽はローン・バルフ、音楽監修はゲイブ・ヒルファー。
出演はドウェイン・ジョンソン、オルディス・ホッジ、ピアース・ブロスナン、ノア・センティネオ、サラ・シャヒ、マーワン・ケンザリ、クインテッサ・スウィンデル、ボディー・サボンギ、モハメド・アメル、ジェームズ・クサティー=モイヤー、ジャロン・クリスチャン、ベンジャミン・パターソン、オデリヤ・ハレヴィー、ウリ・ラトゥケフ、ジェニファー・ホランド、ヘンリー・ウィンクラー、チャイム・ジェラフィー、シャロン・ジー、ステファン・ジョーンズ、A・マニュエル・ミランダ、ジャイモン・フンスー、ラージ・カラ他。
「DCエクステンデッド・ユニバース」(DCEU)の第11作。
監督は『トレイン・ミッション』『ジャングル・クルーズ』のジャウム・コレット=セラ。
脚本は『ランペイジ 巨獣大乱闘』のアダム・スティキエル、『モーリタニアン 黒塗りの記録』のロリー・ヘインズ&ソーラブ・ノシルヴァーニによる共同。アダムをドウェイン・ジョンソン、ホークマンをオルディス・ホッジ、フェイトをピアース・ブロスナン、スマッシャーをノア・センティネオ、アドリアナをサラ・シャヒ、イシュマエルをマーワン・ケンザリ、サイクロンをクインテッサ・スウィンデル、アモンをボディー・サボンギが演じている。
他に、カリームをモハメド・アメル、サミールをジェームズ・クサティー=モイヤー、フルートをジャロン・クリスチャン、アルバートの叔父をヘンリー・ウィンクラー、魔術師評議会のシャザムをジャイモン・フンスーが演じている。
アンクレジットだが、スーパーマン役で『マン・オブ・スティール』『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』のヘンリー・カヴィル、アマンダ役で『スーサイド・スクワッド』 『スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』のヴィオラ・デイヴィスが出演している。エタニウムを巡って奴隷たちが奪い合いを始めると、フルートが仲裁に入る。だけど、ただのガキが「なぜ仲間同士で争う?真の敵は?」と言っただけで全員が簡単に争わなくなるってのは、どんだけ都合がいいのかと。
残忍な監督官が、フルートを殺さないどころか暴力さえ振るわずに済ませるのも都合が良すぎる。フルートがエタニウムを掲げた途端に奴隷たちが団結し、反乱を起こすのも同様。
何から何まで、都合が良すぎて萎えるわ。
それなら、いっそのこと全てを取っ払って、「ヒーロー志願者が選ばれてシャザムの力を貰い、王と戦う」というトコだけ描くぐらい大胆な省略でもいいわ。アドリアナが何者なのか、どこでどうやって王冠のことを知ったのか、なぜ今になって王冠を見つけようとしているのか、その辺りが何も分からないままで話が進んでいく。
彼女は「王冠を隠すのが目的」と言っているが、魔術師が隠したんだから、普通なら改めて隠す必要は無いはずだ。インターギャングが手に入れようと目論んでいるとか、隠し場所を突き止めたとか、そういう情報が提示されているわけでもないし。
むしろアドリアナが調べて隠し場所を突き止めたから、インターギャングにもバレたんじゃないかと。
あと冒頭のナレーションで「王冠は魔術師によって隠された」と説明しているけど、上空に浮かぶ形でモロに見えちゃってるんだよね。
なので、その場所まで辿り着けば、誰でも簡単に発見できちゃうのよ。それは「隠した」と呼んでいいのかどうか。早い段階でイシュマエルが死んでいないこと、インターギャングのリーダーであることを観客に明かしている。
それなら最初から、彼を敵として登場させても良かったんじゃないか。どうせアドリアナとの関係も大して描写できていないから、「仲間だと思っていたが違っていた」というサプライズ効果なんて皆無だし。
山にインターギャングが到着した後も、まだアドリアナの仲間を装う意味は薄いし。そこで瓦礫の下敷きになって死んだように思い込ませる必要性も全く感じないし。
他に色々と説明しなきゃいけない要素が幾つもあるんだから、そんな余計なトコで変に小細工する必要なんて無いのよね。とは言え、他のトコに関しても明らかに欲張り過ぎ、盛り込み過ぎになっており、まるで整理できていない。
特に厄介なのはJSAの存在で、ここが処理能力を大幅に超えちゃってるのよ。
かなり大きな役回りを担う組織なんだけど、そこを充分に描写するための時間が不足している。だから個人を掘り下げることなんて全く出来ていないし、JSAという組織からして説明が皆無に等しい。
本作品の前に第0章みたいなエピソードが公開されていたのかと思ってしまうぐらい、扱いの大きさとキャラの中身が合っていない。実はDCコミックの世界では、JSAは1940年に最初のヒーローチームとして登場している。だからアメコミのファンからするとお馴染みだし、ひょっとすると「ついにJSAが実写映画の世界で登場した」という興奮はあるのかもしれない。
だけど、実写シリーズでは全員が初めての登場なので、「お前らは誰だよ」という存在に過ぎない。
アトム・スマッシャーが初代の甥とか言われても、その初代も今回が初めての登場になるし。コミックだとアダムと因縁のある連中だけど、これも映画では今までに全く描かれていなかった要素だし。
「コミックのファンが楽しめる要素」を盛り込むのは別にいいが、コミックを読んでいることを必須条件にしたようなシナリオを用意するのは、決して上手いやり方とは言えないだろう。アドリアナが批判するように、ホークマンたちはカーンダックがインターギャングに占領されているのに、今までは何もしなかった。
それなのにアダムが復活した途端に駆け付けて降伏を要求するので、「何が正義だよ」と呆れ果てるばかりだ。
しかも、アダムは復活した時点で既にアドリアナたちを助けるための行動を取るなど、ちっとも「怒りの復讐鬼」の印象を抱かせなかった。
最初から「暴走の危険がある男」という匂いが皆無に等しいので、そいつをJSAが戦って降伏させようとする筋書きに乗りにくいのよ。全面的にJSAが間違っているようにしか感じられないのよ。
そこに「どちらが民衆にとって本当の勇者と言えるのか」といった問題提起でもあればともかく、そんなのは何も無いんだし。アダムがフライバイクで拉致されたアダムの救出に向かうと、「彼のせいで死人が出るのを防ぐため」という理由ではあるが、JSAは彼のサポートに回る。
なので、そこからは「いがみ合いながらも同じ目的のために共闘する」という展開に入るのかと思いきや、ホークマンが「ヒーローは人を殺さない」とアダムを批判して喧嘩を吹っ掛ける。「めんどくせえ奴だなあ」と呆れ果てるわ。
他人の部屋を壊しまくる幼稚な喧嘩シーンなのに、スローモーション映像で飾るのも「使うトコを間違ってるだろ」と言いたくなるし。サム・ペキンパー映画のパロディーじゃないんだからさ。
マジでスローを使って盛り上げるような場面では、絶対にないぞ。アドリアナが手を組んでアダムを救うよう説教すると、アダムとJSAは一緒に鉱山へ向かう。
ただ、アドリアナも「絶対に息子を救う」という思いが強いのは分かるけど、すんなりと王冠をイシュマエルに渡すのがアホすぎて、ちょっとイラッとするわ。
それで素直に要求を聞き入れてくれるようなタマじゃないことなんて、分かり切っているからね。案の定、イシュマエルはアモンを殺そうとするし。
たまたまアダムが体を張って助けたけど、下手すりゃアドリアナの軽率な行為が息子の死を招いていたかもしれないわけで。アモンが大怪我を負うとアダムは責任を感じ、力を捨てる。そのため、王冠の力を得たイシュマエルを倒して世界を救う任務は、JSAの手に委ねられる。
もちろん、アダムが眠りに就いたままで終わるはずもなく、ちゃんと復活して戦う展開は用意されている。
ただ、話の中身を見る限り、タイトルは『ブラックアダム』じゃなくて『ブラックアダム&JSA』の方が合ってるんじゃないか。
フェイトがホークマンの死を予知したり、自身が犠牲になって未来を変えたりという要素もあるし。これが『ブラックアダム』シリーズの続編なら、それも別にいいだろう。だけど1作目なんだから、まずはブラックアダムの物語に集中した方がいいんじゃないのかと。
かつてDCエクステンデッド・ユニバースは『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』や『スーサイド・スクワッド』で初顔のキャラを一気に出し過ぎて、大きな失敗をやらかしていた。『ワンダーウーマン』の成功で学習したのかと思ったら、また『ジャスティス・リーグ』でも同じ過ちを繰り返した。
そして今回も。また同じ失敗をやらかしている。
このシリーズの製作陣は、学習能力が全く無いのか。
それとも、学んだことを簡単に忘れてしまう連中ばかりなのか。(観賞日:2025年2月12日)