『地球最後の男オメガマン』:1971、アメリカ

ロバート・ネヴィルは廃墟と化したロサンゼルスを車で移動し、窓に人影が映るとマシンガンを乱射した。障害物を避けようとした彼は運転を誤り、タイヤがパンクしてしまった。彼は別の車を入手すると、映画館で『ウッドストック』を観賞した。そんな生活を、ロバートは3年前から続けていた。電話の音が鳴り響くと、彼は周囲を見回した。彼は「電話が鳴るはずなんか無い。電話は無い」と、自分に言い聞かせるように叫んだ。
空を見上げたロバートは、「日が暮れる。奴らが動き出す」と呟いた。彼が自宅にしているビルへ急いで戻ると、サングラスを着けた黒衣の男たちが待ち受けていた。襲撃を受けたロバートが3人を射殺すると、残る1人は逃走した。部屋に入った彼が窓から外を見ると、黒衣の集団が博物館の調度品を路上に集めて燃やしていた。リーダーのマサイアスは側近のザカリーから3人が殺されたことを聞くと、「光を当てられたんだな」と言う。ザカリーは「光は無い。火だけだった」と告げ、「暗くて見えないはずだ」という言葉に「我々は光が苦手だが、奴は暗くても見えるんです」と述べた。
マサイアスはザカリーに、「奴は1人で数百人を相手に戦ってる。奴には車という武器がある」と語る。ザカリーがニトロや武器庫の大砲を使おうと提案すると、彼は「使えば災いは我々に降り掛かる。武器は世界を滅ぼした」と告げた。かつて中ソ国境の紛争がエスカレートした時、細菌爆弾が使用された。全国の主要都市で多くの人々が病気に冒され、次々に死亡した。そのニュースを伝えていたのが、当時はニュースキャスターだったマサイアスだった。
細菌がアメリカ中に蔓延した当時、ロバートは科学者だった。彼はテスト中のワクチンを使おうと考え、ヘリコプターに乗った。しかし操縦士が感染して死亡し、ヘリコプターは墜落した。大怪我を負ったロバートは、自らにワクチンを注射して感染を逃れたのだった。現在、マサイアスは黒衣の集団を率いており、「全ての生物を火で清めるのが我々の仕事だ」と説いていた。彼は仲間に対し、「ネヴィルに審判を下すのだ」と告げた。
マサイアスは仲間に命じ、ロバートの家に火の付いた松明を投げ込ませた。ロバートは消火器で火を消し、マシンガンを手に取った。彼がマシンガンで狙い撃つと、集団は散り散りになって逃げ出した。翌朝、ロバートは集団の本拠地を見つけ出すため、ホテルを捜索した。中には黒衣の死体が1つあるだけで、他には何の手掛かりも無かった。ホテルを去ったロバートは服を着替えるため、ブティックに入った。彼はリサという黒人女性を発見するが、逃げられてしまった。
家に戻ったロバートは、侵入した黒衣の集団に捕まってスタジアムに連行された。彼が「なぜ治療法を見つけない?」と鋭く問い掛けると、マサイアスは「昔も無かったし、今も無い。だから我々は耐えることにした。目障りなのは君だ。君は死の天使だ」と言う。彼は仲間を呼ぶと「我々の印だ」と言ってサングラスを外し、全員の目が潰れていることをロバートに教えた。マサイアスはロバートに、「君たちがもたらした罪だ。我々は死者を埋め、危険な物を除去するために選ばれたのだ」と語った。
マサイアスは「文明人の築いた世界を消し去る。君が死ねば地獄の思い出が無くなる」と言い放ち、ロバートを処刑しようとする。そこへダッチという男が現れてロバートを救出し、リサの元へ連れて行く。リサは銃を向けて脅し、抵抗を試みるロバートを殴り付けた。ダッチは火炎瓶を投げて敵を蹴散らし、リサはロバートにバイクを運転させて隠れ家へ赴いた。すると8人の若者が現れ、全員に感染の症状は出ていなかった。リサはロバートに、殺し合いが続くので自衛手段として隠れているのだと説明した。
ダッチが隠れ家に戻り、戦争前は医学生だったのでロバートの論文を読んでいることを語った。リサの弟のリッチーだけは症状が二期まで悪化しており、リサとダッチはロバートに診察を求めた。ロバートは自分に免疫があることを明かし、血清を注射すれば病気は治ると話す。彼はリッチーを自宅へ連れ帰ってベッドで休ませ、リサが世話役として残ることになった。リサはロバートに、かつてマサイアスと一緒に行動していたことを明かした。しかしマサイアスが違いに気付いたので、弟と共に逃げ出したのだと彼女は語った。
ロバートは発電機に燃料を入れ忘れたため、電気が消えてしまった。マサイアスの集団が家を包囲する中、ロバートはリサに護身用の銃を渡してからガレージへ向かった。マサイアスの差し向けた刺客がロープを使い、壁を登ってリサのいる寝室へ向かう。ロバートはガレージで電気を復旧させ、リサの元へ舞い戻った。刺客が寝室に乗り込むが、ロバートは銃殺した。マサイアスたちは去り、ロバートはリサと情事に及んで翌朝を迎えた…。

監督はボリス・セイガル、原作はリチャード・マシスン、脚本はジョン・ウィリアム&ジョイス・H・コリントン、製作はウォルター・セルツァー、撮影はラッセル・メティー、美術はアーサー・ロール&ウォルター・M・シモンズ、編集はウィリアム・ジーグラー、衣装はマーゴ・バクスリー&バッキー・ラウス、音楽はロン・グレーナー。
主演はチャールトン・ヘストン、共演はアンソニー・ザーブ、ロザリンド・キャッシュ、ポール・コスロ、リンカーン・キルパトリック、エリック・ラヌーヴィル、ジル・ジラルディー、アンナ・アリーズ、デ・ヴェレン・ブックウォルター、ジョン・ディークス、モニカ・ヘンリード、リンダ・レッドファーン、フォレスト・ウッド、ブライアン・トチ。


リチャード・マシスンの小説『地球最後の男』を基にした作品。
監督は『空爆特攻隊』『二重スパイ・国際謀略作戦』のボリス・セイガル。
ロバートをチャールトン・ヘストン、マサイアスをアンソニー・ザーブ、リサをロザリンド・キャッシュ、ダッチをポール・コスロ、ザカリーをリンカーン・キルパトリック、リッチーをエリック・ラヌーヴィルが演じている。
『地球最後の男オメガマン』ってのは原題を無視したデタラメな邦題なのかと思いきや、原題が「I Am Legend」ではなく「The Omega Man」だった。

チャールトン・ヘストンは1950年代からハリウッドで活躍し、『十戒』や『エル・シド』など数々の作品で主演を務めた。1959年の『ベン・ハー』では、アカデミー主演男優賞を受賞している。
かつてのトップスターが落ち目になってB級SF映画やB級パニック映画に主演するってのは、ハリウッドでは良くあるケースだ。
しかしチャールトン・ヘストンは1970年に20世紀フォックスの『続・猿の惑星』、UAの『大洋のかなたに』に主演しているし、イギリス映画ではあるが『ジュリアス・シーザー』でも主演を務めている。
なので、「すっかり落ち目」というわけでもなかったはずだ。

ロバートが初めてマサイアスたちと戦うシーンを見た段階で、原作を読んでいれば簡単に気付くだろう。
原作を読んでいなくても、最初に映画化された1964年の『地球最後の男』を見ていれば、「こんな話だったかな」と思う人も少なくないだろう。
それもそのはず、1964年版とは違って、原作から内容を大幅に改変しているのだ。
本来は「ロバートが吸血鬼を撲滅するために行動している」という設定なのだが、今回の映画で吸血鬼のポジションをカルト教団に変更しているのだ。

原作のロバートは吸血鬼を倒そうとしているが、途中で「生き残りの感染者」と敵対関係が生じていたことが明らかになる。
そこの設定を大幅に改変したことで、原作における重要なポイントの1つである「価値観の逆転」も発生しない。
マサイアスたちは「光に弱い」という弱点だけを吸血鬼から引き継ぎ、それ以外は「細菌に冒された人間」でしかない。
原作と同様に感染していないグループも登場するが、ロバートは彼らの仲間を敵とみなして殺しているわけではない。そいつらがロバートを殺そうとするわけでもない。
なので、ストーりーが原作と全く違うのだ。

マサイアスたちは最初からロバートの住居を知っているので、当たり前だが何度も攻撃を仕掛けて来る。どれだけ警戒しようと、居場所が判明している以上、いずれ捕まることは確実だと言ってもいいだろう。
それなのにロバートが他の場所へ移動する気が皆無なのは、馬鹿にしか思えない。
「ずっと暮らしてた場所だから、絶対に動かない」と彼は言うけど、変な意地なんて張ってる場合じゃないだろ。
ホントに意地だけで同じ場所に暮らし続けているので、それで襲われて死んでも「落ち度が酷いわ」と呆れ果てるだけだ。

ダッチはリッチーを診察したロバートに、「俺は友達に殺されそうになった。突然、友達の顔と髪が白くなり、瞳が消えた」と語る。友達が急に変貌して襲い掛かって来たので、仕方なく殺したのだと彼は説明するわけだ。
だけど、それは変だろ。リッチーは少しずつ症状が悪化して寝た切りの状態になっているのに、なんでダッチの友達はマサイアスたちと同じ容貌に急変するんだよ。
あと、見た目が急変するだけでなく、狂暴化して襲って来るのも変だろ。
マサイアスたちは光の中で目が見えなくなるだけで、決して家族や親友を忘れて殺そうとするほど自我を忘れて狂暴化しているわけじゃないぞ。リーダーを信奉し、その教義に従って行動しているだけだぞ。

ロバートは家に侵入した刺客を殺した後、リサとのセックスを楽しむ。彼は簡単に血清を作り、注射を受けたリッチーはすぐに完治する。マサイアスたちが襲って来ることは無く、しばらくは穏やかな時間が続く。
どんどん緊迫感を高めたり、テンポを上げたりしてもいいものを、なぜか落ち着いてしまうのだ。
「ロバートは平穏に暮らしているが、マサイアスは新たな計画を練っている」みたいな、波乱の予兆を匂わせる描写が挿入されることも無い。
マサイアスたちは、ホントに何もしていないのだ。

ところが、せっかく病気が完治したリッチーが、「マサイアスのアジトへ赴いてロバートとの話し合いを申し入れる」という能天気な行動を取り、トラブルメーカーに成り下がる。
一方、買い物に出ていたリサは、なぜか呑気に服を選んだりして、日が暮れるまで家に戻らない。
そしてロバートの家へ向かうマサイアスたちを目撃すると、なぜか彼女の髪が白くなって瞳が消えている。
どういうことだよ。感染の様子なんて皆無だったのに、なんで急変するんだよ。

そしてリサはマサイアスの仲間になり、ロバートを騙して敵の集団を家に招き入れる。どういうことだよ。
最初からロバートを騙していたわけじゃないよね。それだと行動が矛盾するから、第三期に急変した途端にマサイアスの信奉者になったってことだよね。症状が悪化した人間はマサイアスの信者になるって、その理屈はサッパリ分からんよ。
あと、そんな行動で明らかにマサイアス側だと分かったのに、それでもロバートがリサを救おうとするのも「変な正義感とか要らんだろ」と呆れるわ。
最終的にロバートを死なせてキリストと重ねる演出も、恥ずかしくなっちゃうだけだわ。

(観賞日:2025年1月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会