ソルトレークシティーオリンピック見聞記 3
壁紙:リンク。観光話はいらないという方はこちらまで。


2月12日(水) MAT got mad!!(男子ショート)
目が覚めるまで寝たおかげで起きたのは9時を回っていた。kさんはとっくに起きていたのだが、私が起きるまで朝ご飯を食べずに待っていたらしい。すみません(^^;)

シリアル、シリアル♪青と白のチェックのテーブルクロスと茶色い家具の取り合わせがかわいい絵に描いたようなダイニング。飲み物や食べ物が一通り出してあって、自分で用意して食べるようになっている。B&Bには初めて泊まるのだが、どこもこうなのだろうか?あまり料理をしていなさそうな所もアメリカン。
チーズ、ハム、パン、シリアルとそれぞれ種類がいっぱいある。普段シリアルを食べないのでこんな形は初めて見た♪ベーグルを輪切りにする道具まである。しかし使い方がわからずに二人して悪戦苦闘。

家族の写真が壁いっぱいに飾っているリビングでご主人と少し話をした。ソルトレークシティーは雪質がよく、このB&Bはスキー場から10分程度の所なのだそう。子供が5人いて全員結婚していて、孫も10人以上いるらしい。奥さんはお孫さんを連れて日々オリンピック観戦で、今日はクロスカントリー。
インターネットをさせていただいたが、へなCHOCOに書き込もうにもエルビス関連の情報が何もないことに気がつく。普通の試合と違って公開練習が見られないのは痛い。最寄りのTRAX(路面電車)の駅まで車で送ってもらえることになった。

ダウンタウンまでは1ドル25セント。しかし切符の販売機に貼ってある紙を見ると、当日のオリンピックチケットを持っている人はその日一日いくら乗っても無料らしい。ラッキー!ソルトレークシティー、太っ腹。TRAXを待っている乗客の中に首からパスを下げた人がいて、中心地を少し歩けばパスを持っている人を見かけていた状態だった長野の街を思い出す。
TRAXに乗って席につくなり向かい合わせに座った兄ちゃんが話しかけたそうな表情になった。二駅ぐらい過ぎた所で「どこから来たの?」。アメリカ人には珍しく内気そうな兄ちゃんで大した話はしなかったが、外国人旅行者と話ができて嬉しい地元民の気持ちはよくわかる。オリンピックが地元にもたらすものをまた一つ思い出した。
途中の駅で「Have  a  good  day!」とお別れしたのだが、相手の行き先は仕事。言ってよかったのかな(^^;)。

終点で降りるとピンバッジを売っている店とダフ屋のおじさんが立っている。That’s Olympic! そうよそうよ、オリンピックの街といえばこれがなくっちゃね〜〜♪長野で見つけていたものを次々に思い出し、エンジンがかかってきた。


ソルトレークシティーといえばモルモン教の総本山、一番の観光名所がその象徴的な場所になっているTemple's Square。特別に警備が入っているというニュースを聞いて近づきにくいものを感じていたが、入ってみると結局軽い荷物チェック程度だった。しかも無料。

Temple's Square内には複数の建物があり、表示もないので何の建物なのかわからないまま記念写真を撮る。ビジターセンターに入ると開拓当時のソルトレークシティーの歴史を描いた展示があるので拾い読みしていたら、日本に住んだことがあるという家族連れの方に声をかけられた。kさんとしゃべっているのを聞いてピンと来たらしい。
この建物のあちらこちらに花が生けてあるのだが、アクセントに笹の葉を使ったり門松みたいなものがあったりと妙に日本的なアレンジになっている。つい見入ってしまい、係員に声をかけられたのでその話題を振ってみると「30分ぐらいの無料ツアーがあるんです。お望みの言語でスクウェアを案内してあげますよ。」とのこと。げっ、薮蛇。
まあアメリカ在住でないから勧誘の心配をしなくていいし、せっかく総本山に来たのだからモルモン教の知識を仕入れておくのも悪くないか。

待ち合わせに指定された場所へ行ってみると、胸に各国の国旗をつけたおそろいのフードつきの黒い服の女性があちこち歩いている。なるほど各国語で説明できるように世界各国からシスターが集まっているというわけか。オリンピックに対応して一時的に集まっているのだろうか。通りすがりに韓国人のシスターにあいさつされて、条件反射で「あにょんはせよ〜」。韓国人と思われたかな。まっいいか、というか発音でわかるか。
シスターは20代前半の女性二人。6週間前からソルトレークシティーに滞在しているそうだ。

英語の正式名称忘れました(^^;) Temple's Square内の建物を一つ一つ回り、その由来を説明していただく。それ以外のモルモン教に関することも。
モルモン教の歴史はソルトレークシティーの開拓と共に始まったこと。イエス・キリストの言葉を伝える伝道者的な存在がいること。モルモン教徒しか入ることができない「殿堂」と呼ばれる石作りの建物を40年かけて建設したこと。開拓中天災に苦しんだ信者を救った奇跡を語ったモルモン教における神話のような話など。
これらのことを説明しながら「私達は神を信じ、愛しています」と何度も言い切るシスターはすごい。40年もかけて一つの建物を建てたことといいこのシスター達といい、宗教に帰依している人達がその対象に注ぐ想いの強さと費やせるものの多さにはつくづくおそれいった。


……しかし一人の選手にハマッた挙句日本からわざわざここまで試合を見に来ている私達はあまり人のことは言えないかもしれない。「あの人達が宗教を心の拠り所としているように私達はスケートを心の拠り所にしている」とはkさんの名言。スケートが宗教?それは嫌〜(泣笑)
確かに給料何ヶ月分をスケート観戦に使ったのだろうとは思ったが、宗教とは違って直接本人に貢いでいるわけじゃないもんね!貢いだ相手はISUと飛行機会社と現地のホテル。金は天下の回り物、経済の活性化に貢献しているのさっ。ということにさせてくれ。


Temple's Squareを出て昼ごはんを食べる所を探していると、同行グループの二人とばったり遭遇した。なんでも地元紙に街頭インタビューされたらしい。その手のインタビューって本当にやっているのね。質問内容は「ペアフリーのジャッジングは妥当か?」

いきなりそう来たか。
普通この手の質問って、「どっちの組がよかったと思うか」じゃないの?
あきれ果てるのと同時にもし自分がそのインタビューをされていたら…と考えてぞっとした。

「どっちの組がよかったと思うか?」と訊かれたらサレー組がよかったと答える。
だが「このジャッジングは正しかったか?」と訊かれればそれは別の話である。
こういうインタビューが求める回答はYesかNo、その根拠の考えなど関係ない。「ベレズナヤ組の方がよかった」と断言しない限り都合のいい方向に変換されるに決まっている。もし私が訊ねられていたら結果的にそれに荷担することになっていただろう。その新聞記者に出会わなくてよかった。

デパートの地下で中華料理の一人前をシェアしてお昼ごはん。どんぶりやうどん系の日本料理や中華料理は北米ではもう外食として定着しているんだなあ。ひたすら話し込んでいたような気がするが、kさんのヤグディン話と私のエルビス話、どっちが多かったのやら(笑)


バーゲン会場状態の売店でチケットホルダー、ぬいぐるみ、トレーナーなどもろもろお土産と記念品を買った。国旗も売っていたのはいい誤算、アメリカ、カナダ、ロシア、フランス、そして日本。読んでるな〜(笑)。

しかし考えれば考えるほど見事な滑走順。エルビスが最終滑走ということで「神様ありがとう!」とご機嫌の私なのだが、それ以外の点でも本当に見事。つかみにワイス、それからもメジャーな選手がうまくバラバラに入っていて、途中でチャンネルを変えられないようになっているのだ。最終グループには北米のベテラン二人が入っていて、アメリカの放送局的には完璧!あ、エルビス、自国でないのにトリ取っちゃってすみません(^^;)
ゴールデンタイムに第3グループが流れた長野オリンピックの男子ショートといい、本当に抽選をしているのだろうか(笑)?


ワイスのショートはマラゲーニャ。おなじみの出だしと始めの振付でスイッチが入った。シャープでセクシーな彼にピッタリ、彼にはこういうのをやってほしかったのだ。うわ、4+3きめたよ!他のジャンプもきめていく。いい、いいじゃないこのショート!GPシリーズも国内戦もいまいちだった今シーズンのワイス、ここで来たか!!
しかし点数を見て目が点になった。いくら第一滑走でもノーミスのワイスにテクニカル(正確にはrequired elements)5.2はひどすぎる、かわいそうだ!と一人でいきり立っていたのだが、プレゼンがそれなりに出ていたので減点箇所があったということか。フリーレッグが怪しいという気はしていたのだが、気のせいではなかったらしい。

スピードがあって元気いっぱいだったダビドフ(ベラルーシ)、変形かつ速いというとんでもないスピンで場内を沸かせたランビエール(スイス)。初っ端から特色があっておもしろい選手がノーミスで続いて一気に気分が乗った。そういえばオリンピックの参加人数は世界選手権のフリー進出より少し多い程度なのだ。予選や国内選考をくぐってきただけあって、さすがにオリンピックはレベルが高い。

キュヒュン君はウィーンカップ(オリンピック予選試合)に出ていたのはチェックしていたのだが、かなり下の方の順位だったのでスターティングオーダーを見るまで出るとは思っていなかった。相当の連盟が辞退したのだろう。
曲がミッション・インポッシブルのサントラなのだが、身のこなしや決めポーズがダンサー系というかジャニーズ系に見えてあいかわらず。こうでないと彼という気がしない。長野に続いて青いメッシュを入れているのは何かこだわりがあるのだろうか(笑)。
しかしジャンプがトウとフリップ、しかも2ミス。以前はこんな組み合わせではなかったはず。ケガ以外の理由でしばらくスケートから離れていたのでは…と思わせる滑りだった。
そろそろ彼は兵役の年齢では……。

バンクーバーでのショートがおもしろかったチーファー(ルーマニア)は今回もサーキュラーステップが面白いのだが、完全に顔がジャッジ向きになっていた。写真撮りたいよ〜こっち向いて〜〜(^^;)


第2グループはサンデュー君がいるからメープルリーフ出さないとね。しかしカナダと中国で滑るグループが重なっていなくて助かった…と思いながら手元の荷物をごそごそやっていると、「エマがいない!」の声。そんなばかな。しかしリンクを見ると確かにあの流麗な姿勢のスケーターが見当たらない。なんてこと、四大陸のケガがそんなにひどかったなんて。
来年以降のカナダ男子どうなるのよ……!

アンソニー・リウのショートはパールハーバーのサントラから。この時勢に…と複雑な気分になるが、彼は中国生まれなのでまあ大丈夫だろう。スタイルに合っていて演技もしっかりノーミス、よしゃ!
今までの彼はGPシリーズはよくなくて世界選手権で成績を残すというスロースターターだったのだが、今シーズンはグッドウィルゲーム、スケートカナダとシーズンを通して調子がいい。練習環境のいいアメリカで練習しているのが効いているのだろうか。
期待していたのだがワイスには届かなかった。力がついて評価もじわじわ上がっていると思うのだが、まだ1ミスの上位に勝てないね…。


会場の盛り上がりから察するにアメリカ人にとっては第3グループの目玉はヤグディンだけのようである。しかしなにも日本二人と中国二人が一緒のグループになることないじゃんか(笑)
そしてウォームアップではこのアジア勢の跳びっぷりがすごい。誰が何を跳んだかまでは把握していないが、あっちこっちで跳ぶわ跳ぶわ。成江、運飛、竹内君が跳ぶのは予想していたが、本田君が跳びまくっているのが意外だった。ウォームアップでこんなに跳ぶタイプだったっけ?
本田君の滑走順についてkさんはヤグディンの続きになったことを、私はジャンプ大好き中国勢と同じグループになったことをそれぞれ心配していたのだが、どうなることやら。
アジア勢にこれだけ跳ばれるとほとんど跳ばずにただ滑っているヤグディンが目立つ。さて体調がよくないのか、それともセーブして集中することに努めているのか……。


竹内君のショートは全日本で見た時には度肝を抜かれた。始めの振付がおかしいやら気持ち悪いやらで笑ってしまうのは私だけだろうか。さすが禿山の一夜、悪魔を演じているだけのことはある。ウォームアップと違って始めから動きが硬いような気はしていたらジャンプを二つミス。ちょこちょこ動く表現が持ち味なのに、途中でスタミナが切れたかのようだった。
しかしプレゼンは割に高く、5点台が並んでいる。そりゃあれだけ密度が高いプログラムなのだもの。

成江のカンフープログラムは三年ぶりに見ると彼がいい感じで成長しているのがしみじみ感じられた。何か表現に余裕が出てきたというか。衣装も豪華になっていることもあって、三年前が「修練中」なら今回は「舞台での剣舞」という印象。今回の成江はミスをしそうにない方の成江、クワドがソロジャンプなのがつくづく惜しい。理由はわかっているが。
中国人にカンフーやられたらエルビスの立場ないじゃんか(笑)!憎たらしいがうれしい。

ヤグディンはウォームアップの雰囲気そのまま、超がつくほど安全運転の演技。「〜♪」と雪を放り投げるやんちゃ坊主の部分とうっとり王子様の部分とガンガン飛ばすロック兄ちゃんの部分がどうもつながらなくて、散漫な印象が残った。
しかしどの部分もヤグディンらしいと思えるのが不思議なところ。回数を重ねて見たら印象も違ってくるのだろう。

本田君。
4+3、おお!アクセル、おおお!!ちょっと、これって!?
中盤のワルツに入った所で初めて気がついたのだが、気合いがすごい。ポーズをとる手先からでさえ「ふん!」というのが吹き出しているよう。後半にテンポが上がる密度が濃いこのプログラム。これまではジャンプをミスして気落ちしたまま後半に入って「まだ続くんだよな(^^;)、スタミナもってくれ〜」とハラハラしながら見ていたのだが、この本田君は心配無用。はいルッツ、ノーミス!またテンポが上がる。笑ってる、ノッてるノッてる走る走る!行け―、武史―!!
以前本田君のことを「波に乗ると手がつけられない」と書いたことがあったが、この手のつけられなさは予想以上。ミスがないとこれだけすごい選手だったのね!
……ひょっとして私、生観戦で本田君のノーミスのショートを見たのは初めてかもしれない…………(^^;)

あ、映っちゃった…って遅いぞカメラマン、バナーが映っていないだろうが!
座るつもりで下げかけていたのだ。バナーを映さなくてどうする、チェックが甘ーい!

ドミトレンコ、久々に彼らしいというかいかにもヨーロッパ勢というか、逆方向に極めたというか……。ただでさえ神経が細かそうなのに明らかに会場も本人も集中できていないこの状態ではどうしようもない。このグループで異彩を放つ力もあるのだが…。

中国男子がこのタイプのひらひらのついた衣装を着てくるとは思わなかったが、運飛なら許す。中国連盟、男子にも力を入れているのね(例年に比べれば入れているのだ)。ロシアカップを直前に棄権し、国内選手権にも出ていなかった運飛。ケガで十分に動けない状態かと思いきや、クワドのコンビネーションにトライして、動きもそんなに悪くない。終わってから会心の演技のようにえらく派手なガッツポーズ。運飛運飛(笑)、ノーミスじゃないんだけど。
学年に一人はいるんだよねえ、こういうキャラって。


全てのスケーターがいい演技内容で終わることができる試合はまずない。
どんなに会場の雰囲気がよくていい演技が目白押しの試合でも、落とし穴というかエア・ポケットというか、何かにはまって観客のテンションが沈みこむような結果になってしまう選手が必ず一人はいる。今の所ずっと陽性の空気が続いているが…あと2グループ。誰がはまる?
カメラの電池切れかけのサインが出てパニックになっていたので、第4グループのウォームアップはちゃんと見ていない。強いて挙げれば張民がアクセルで苦労していたことぐらいだろうか。彼もクワドよりアクセルが苦手なタイプ?


ファイナルのプルシェンコを見てオリンピックでも状態はよくないだろうと思ってはいたが、ここまできれいに転ぶとは。夢を見ているような気がしたが、間違いなく現実、セカンドジャンプもない。現実だから音楽だって続く。
しかしここから先はいつもの彼、小気味いい踊りっぷりは期待通り。ちょこまかという質感の独特の速いステップ、私にとってプルシェンコといえばこれで、これが彼の好きな所なのだ。久しぶりに見られてうれしい。腰振りさえなければこのプログラムわりと好きである。いやマイケル・ジャクソンで腰を振らなければ話にならないのだが。

張民、その衣装…(^^;)曲といい、中国国旗を振る人間としては日本在住のフィリッパーの方々に菓子折り持ってお詫び巡礼をしなければいけないような気分になる。ウォームアップとは逆にアクセルはセーフでクワドをミス。1ミスと思っていたら、ルッツ〜!まさかの2ミス、下から数えた方が早い順位。
彼はミスをすると本当に容赦なく点数が引かれてがくっと順位が落ちる…。でもひいき目で書かせてもらうとレイバックスピンがきれいだった。

ゲイブルはいつも通りきっちりノーミスで来たように見えたのだが、終わった後の彼はいつになく喜んでいて泣きまで入っている。彼のこんな笑顔を見るのは99年名古屋NHK杯以来、大人っぽくなってもやっぱりかわいい。かわいいんだからこういうシリアス路線はやめようよ…。
3位の表示に会場に動揺が走ったが、(ブーイングはなかった)この一角だけ盛り上がっていたのは言うまでもない。ノーミスの本田君がノーミスのゲイブルに勝つとは思わなかった。


アメリカとカナダは一心同体、一蓮托生というイメージがある。この会場だとエルビスは下手したら四人目のアメリカ代表になるのでは…と心配していたのだが、最終グループのウォームアップでエルビスがコールされた時に起こった会場の歓声はアメリカ勢に対するそれと違う。やはりエルビスはカナダ人で、カナダとアメリカは違う国。
メープルリーフを振っていると後の席から「あらー多国籍ね〜」の声。わはは、私の本命実はこの人なんです(笑)

エルドリッジが衣装に赤を使っているなんて珍しい。そしてエルビスの衣装が新しくなっている。やっぱり赤、似合うわ。ふちの色と形が変わった以外に胸に何か文字が書かれているようだが、それはどうでもいい。もっと重要なことがある。
インターネットの記事では調子がいいように書かれていたが、エルビスには1月のカナダ選手権で負ったケガを2月14日のフリー演技終了直後までメディアに隠し通した実績がある。4年前見事にだまされたこっちとしては、生で見ないことにはすっきりしないものがあったのだ。
ソロのダブルアクセルとなぜか2アクセル+3トウ。タイミングを取るような3トウ+3トウ、ルッツを何度もやっているのは珍しい。それに助走が長い。クワドルッツがそれだけ完成に近づいているということなのだろうか。しかしこのルッツと3トウの高さだとノーミスはないだろう。
まあこの時期に調子が悪いという報道を流すわけはないか。両足ぐらいですんでくれれば…。

1分前のコールがかかった後にセカンドジャンプが乱れた4+2。終了のコールを待たずに真っ先に出入り口へ向かっていった。


アプトは去年と同じ衣装だが、去年に比べてジャンプに安定感があるような気がする。ジャンプはしっかりノーミスなのだが、それ以外はただ滑っているような気がして物足りない。アプト君ともあろうお人が…とがっかりしかけの所に音楽のテンポが変わってストレートラインステップ、そうこなくっちゃ!それでこそアプトというもの。

エルドリッジのカルミナ・ブラーナ。オープニングの曲調に驚いたのだが、滑り出してからはやはり彼。さあ始めのジャンプ…が、クワド!プラス、ダブル!!忘れていた、エルドリッジのクワドは他の選手と違ってロングサイドの中央の壁際で跳ぶのだった!ショートではクワドを避けるようなことを読んでいたのでこの展開は驚きを通り越して唖然。ただ私の席からは足元が見えないので両方のジャンプのランディングが乱れたことしかわからない。
悲鳴があがる会場。大丈夫この減点は大きくないはず、まだこれから。しかしこのショックを引きずったようにアクセルが!嘘でしょう!?
曲が変わってストレートラインステップ、流れるようなステップとスピンはいつものエルドリッジ…のはずなのだが、それで魅了するにはあまりにもジャンプミスの衝撃が大きすぎた。

フリーでもほとんどきめていないクワドをショートに……。


エルビスがリンクに出てきた直後に衣装の文字が読み取れた。
「ライーヨー」???
脱力。

尺八の音の独特なかすれがエルビスの創り出す空間と共鳴している。クワド、おしい!しかしあっさりトリプル。ウォームアップより動きがいい?
だが今シーズン、エルビスの一番のネックはアクセル(一試合に一つはミスするかダブルになっている)、バンクーバーの記憶もあるのでクワドより怖い。これが終わるまでは…と思っていたら、高い!いいんじゃない…と思ったらスピンがいつもより少し切れがないような気がする。(注:いつもよりないだけで悪いのではない)ルッツはやっぱり変わっている。でもこの助走は減点食らっても文句は言えない。少しぐらついたような気もするし(^^;)どうも心が定まらなくて集中できない。

銅鑼の音で静から動、余韻を楽しむような手の動きと間。やっぱり音感いいなあ…と思うと同時にある種のゆとりというか遊び心が見えたような気がして、頭のスイッチが少し動く。
ここからが本番。ジャンプが全部すんでおなじみのパートということもあって、競技から離れた状態になった。

サーペンタインステップ中
振付に対するエルビスの考えを読んでからこのプログラムを見ると、何を言いたいのかが自分の中で形作られてくる気がする。エルビスについて考えていたことの形がはっきりしてくる。ここで書き表せることではないが。
振付が振付でなく、無音が無音でなくなる。和太鼓と掛け声というシンプルな音のはずが、オーケストラの演奏のように複雑な音を奏でているような気がする。
ステップに入る前の待ちポーズの間が絶妙。伊達に自分で振付しているわけではない、何が自分に合っていてどうすれば魅せることができるかを知り尽くしているようだ。なるほど「一つ一つの振付が自分自身のmind、heart、soulを反映している」と写真集に書くわけだ…とすっかり鑑賞モードの私。
さあステップ、来るぞ〜って、え???


……長野が音速なら今回は光速。感動する間もない。



まとめられてホッとした…というのが正直な感想。
エルビスがピストルで頭を撃つジェスチャーをしたように見えたのは気のせいだろうか。動きがよかっただけにクワドが惜しい。スピンが少しさえなかった気がするが……点数に影響するほどではないだろう。ステップで取り返したし、ステップアウトでトリプルがついているから、悪く…ないんじゃない?とは……思うが………。
キス&クライで待っている間にエルビスコールが起こる。ひゃ〜アメリカでまで。やっぱりこの人が最終滑走でよかったよ(^^;)

笑顔が悲しかった…


点数、そして順位が出る。
これがオリンピックなのだ。

今シーズン「Lion」と「Dragon」を滑ると知った時点でこの展開はわかりきっていた。シーズン中にオンラインで表明するわけにはいかない見解だったが……。


嫌な読みほど当たってしまう……。



同行グループの方々と合流するが、kさんはお気に入りのヤグディンと本田君が1位、2位ということで足が地についていない(笑)。異なる選手のファンが混じっているので明暗がどんな形で分かれるかと思いきや、この時の話題。
「エルビスのあの文字、なに?」

……曲名が「Lion」ということを知っている人は限られるのね……。
で、説明する。「じゃあなんで『ライーヨー』?」

とりあえず推測。
(1)エルビスのショートの曲、「ライオン」の綴り間違え
(2)エルビスはブルース・リーのファンなのでそれにちなんで「ライオン」の中国語読みを書いた
説明しているうちに事を認識してブチ切れた。どう考えたって(1)しかないだろうが!あんのっ、バカ!!!
(この時の怒りをここに書くとくどくなるのでウィンドウを別にします。気分が悪くなることを覚悟の上で
ここからお読みください。特にエルビス好きな方は覚悟して。)





…大体こんな内容の愚痴をイタリアンレストランで晩ごはんを食べながら聞いていただいたのだと思う。もっと支離滅裂だったのは言うまでもない。
中央のチケットと比較。大きい物だと日本のケーキの2倍!その後は「誰があのスペルを教えたのか?」という話でもりあがるもりあがる。「エルビスの聞き間違えを本田君がそのまま書いた」「本田君の字がきたなくて間違えた」「本田君が送ったFAXに線が入っていた」あー楽しかった。本田君、話の肴にしてごめんね。でもお願い、チャンスがあるならエルビスに指摘して〜!(おもしろがって放っておかれるんだろうなあ…。)
赤ワイン+パスタ+ピザはどれもおいしかったし、隣のテーブルの人が頼んでいるケーキを見てデザートにまで手を出してしまう。でかい!でもおいしい。
そんなこんなで夜12時過ぎまでそのレストランで大いに盛り上がった。のはいいのだが。

ここはどこ?


連れていってもらった上に怒りながら歩いていたので、この店がどこにあるか正確に把握していなかったのだ。店員のお姉さんに地図上の現在位置を教えてもらい、店を出てバス停へ向かったのはいいのだが、地図にあるはずのそれがない。
ソルトレークシティーの通りの名前は東西方向に「S(South)+数字」、南北方向に「W(West)+数字」で示されている。バス停の表字は「S○○、W○○」。街全体が座標になっていて、South:X軸、West(East):Y軸とその数値になっているようだ。とするとバスの停留所の名前は位置をそのまま表しているのだからこの通りとこの通りの交差点にバス停があるはずなのだが、それがないのだ。S200とS300を行ったり来たりさまよう。バス停はどこ〜?

体感気温は0℃以上とはいえ庭に融け残りの雪があるソルトレークシティー。夜12時過ぎに外を歩き回るとさすがに寒い…ってそういう問題じゃない!海外の夜中に女二人でこの状態なんて不用心もいい所だってば!人通りがちらほらあるので内心かなりビビッていた。
幸い怪しそうな人はいないし、ホテルの前ではガードマンが立っている。ボランティアの夜警だろうか、街を巡回しているような人もいる。とりあえず治安については心配しなくていいか。そういう人達を捕まえてバスの停留所のバスを訊いてみると、みんな親切に教えてくれる。教えてはくれるのだが!その場所に行ってもない。

結局見つけた停留所はオリンピック中は場所移動しているとのこと。表示が日本のローカルバスより小さく、うっかりすると見過ごすほどだった。なんとか1:30の最終バスに間に合い、かなりホッとした。こんな時間まで出歩いたことないぞ。
しかもB&Bはダウンタウンから離れているので停留所を降りると余裕で2時を過ぎている。こうなると気分は朝帰り(やったことはない^^;)。なんとか鍵を開けてこっそり中に入ったつもりが、見計らったように寝間着姿の奥さんが出てきた。鍵をガチャガチャやっているうちにチャイムを押していたらしい。きゃー、心配かけてごめんなさーい!夜遊びが過ぎて朝帰り、お母さんに怒られる娘が二人。
しかしソルトレークシティーが治安のいい所で助かった。アメリカでこれは奇跡的なことではないのだろうか。


シャワーを浴びて気がつくと誰もいない居間でkさんがテレビを見ている。しまったもっと早く気づいていれば。ヤグディンがインタビューされていたが、ハイテンションかつマシンガントークでさっぱり聴き取れない。うう、さすがアメリカ在住。
エルドリッジの特集の後に最終グループ、改めて今日のおさらい。


つくづく謎のカナダ人である。
日系どころか東洋の血は一滴もない。両親はスロベニアとハンガリーの出身なので、極端な話コサックダンスの方がまだ自分のルーツに近い。なのにこの音楽がハマるのだ。恐ろしいほどに。

漢字の入ったジャンパーを着たエルビスの私服姿の写真を以前見たことがある。北米では日本語や漢字を使ったファッションがはやっているらしい。以前より日本との距離が縮まって日常の世界に入ってくるようになった、とどのつまりタイ文字の入ったTシャツを着る東南アジア雑貨好きの日本人と似たようなノリなのだろう。
衣装の形自体は前より着物を意識したものになっているのだ。あの文字だって「カナダ人のにーちゃん」なりに日本を意識した相当のバージョンアップなのかもしれない。いや、そうだと思う。オリンピックなのだから。そう考えると顔も緩むが…。

むかむかむかむか、やっぱりだめだ。だからこそこのミスは腹が立つのだ。
他のスケーターなら「東洋ネタ間違えてるで」と笑ってツッコミを入れるだけだが、これだけ音を使いこなしたエルビスだからこそすませられない。求めすぎなのは承知だが、禅にも手を出して「滑る哲学者」と表現されている人がこのポカってどういうことよ!?

まあこれは日本ネタだからまだよしとしよう(←できていない)。ブルース・リーに心酔し、空手からカンフーに転向したエルビスにとってアジア物といえば中国物が本命だろう。となると問題はフリーの衣装だ。これもバージョンアップをしてくるのだろうが、ブルース・リーネタでこの手のポカをしようものなら……(指を鳴らすジェスチャー)。確かブルース・リーの中国名は李小龍よね………。


エルビスの点数が出た後にバックステージにいるエルドリッジが映る。
カーテンを少し開けてのぞき込んでから、そばにいるキャラハンコーチと視線を合わせて。
この時の彼は泣きそうな顔をしていた。

続く

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追記:
・気がついた時からずっとやりたかったんですよね〜MATとmadのネタ(笑)。
ふっ…「狂気と紙一重の女」ってか。

・地元新聞のインタビュー、後日掲載記事を見せていただきました。結構大きなスペースを取っていて、Yes、No以外の個人的な考えも細かく書かれていました。まあ、まあ…そこまで神経質にならなくてよかったかと。