5 男子フリー、アイスダンスフリー 2月18日(金) 
どういうわけだかこの会場の観客は製氷時間になるとぞろぞろ帰り、ほとんどが入れ替わってしまう。おかげでトイレに行っても日本のように行列ができるということがほとんどない。会場が暖かいこともあるが。
男子フリーの後にトイレに行くと、常に一番前の席でマイクを持ってしゃべっている金髪の女性がいた。外国人が珍しいのか3、4歳ぐらいの女の子が周りをちょろちょろしていて、"Cute girl!"と視線が合う。
そのうち若い女性が女の子に何か言い置いて、トイレに入っていった。他に誰もいなかったので(金髪の彼女は出て行っていた)、女の子に注意していることにする。
彼女が出てきてから私に何か言うが、何を言っているかは当然わからない。そのうちこちらが韓国人でないことに気がついたようで、「Thank you very much.」
別れ際に女の子に「アンニョンヒ〜(じゃあね〜)」と声をかけると、恥ずかしがってお母さんにしがみつく。「ほら、『アンニョンヒ』って言ってるでしょ!(注:推測)」とお母さん。この辺は万国共通。


一番前の席で下位の選手の演技からずっとマイクを持ってしゃべっていた金髪の彼女。通路で暇そうに立っていたので、ちょっと声をかける。
アメリカかカナダの放送局のコメンテーターかと思っていたら韓国の放送局、KBSに勤めているそうだ。長野世界選手権の時には日本の放送局に勤めていたという不思議な存在。2007年東京世界選手権ではまた日本の放送局で勤めたいとのこと。
杉田さんが今回の女子シングルで最後のレフェリーになると聞いてびっくり。そのうちISU製作のビデオ(海外観戦経験者にはおなじみ)が流れるが、このビデオの編集者が彼女の個人的な知り合いらしく、トロントに住んでいるという。まあぁ、トロント!(←バックに花を背負っている)
「トロントって言ったらエルビスが育って武史がトレーニングしていて―――」
「Shin Amanoが住んでいる所なのよね。」

……そうなんですか(^^;)

WFSでプロスケーターとしてのインタビューが載っていた天野 真さん。韓国の女子選手の振り付けをしている関係からか会場にいることはmさんに教えてもらっていたが、コーチもしているそう。
長野オリンピックでペア選手として出場した姿しか知らないが、有香さんのように華々しくはなくても、日本のファンの知らないところでスケート界の中で存在を確立していっているようだ。



アイスダンスが始まる頃には今日日本を出発した日本人のスケートファンの方々が次々に到着してきた。そして地元の観客がぞろぞろ入ってきて、初日のペアショートに近い満員状態になる。私達の前の席にも若いお母さんと子供二人が座り、そのうちの男の子が「オッパ○%#*〜(父さん○%#*〜)」と言いながら一つ空席をキープしている。


第一滑走のDuenas組(ウズベキスタン)はリナートさん(都築さんの前パートナー)がコーチをしているそうなのだが、プリンス・オブ・エジプトの男性の衣装はおそらくリナートさんのお下がりだろう。
衣装のお下がりはよくあることだが、振付まで都築さんと滑っていたプリンス・オブ・エジプトのものとよく似ている。もちろん改編はしているのだが、タラソワさんとの著作権問題大丈夫なのか!?と、そればかりが気になってしまった。

韓国のKim組、第一グループだったのね…。歓声の中、小柄な若手の必須科目と化した感のあるピエロっぽい衣装で登場。コミカルな演技でちょこまかよく動き、密度もあるのだが、危なっかしい!男の子が小さいせいでリフトが見ていて本当にはらはらした。
育てようという周囲の意思がうかがえる組。うまく育ってぜひNHK杯に来てほしい。


どんどん人が入ってくる会場。前の列の空席にも男の人が座る。この人がお父さん?えらく年の離れた夫婦だなあ。
このおじさんは中級機クラスの一眼レフのカメラ持参でコンパクトカメラさえ持っている人がほとんどいないこの会場では珍しい存在。(実は北京の方がカメラ所持率が高い)いかにも「もともと写真を撮るのが趣味で、いい機会だからちょっとスケート撮ってみます」というカメラおじさんの風貌。
しかしこのおじさんといい私達日本人スケートファンといい、一眼レフを持った10人近くの人間が席の一角を占めている。目立つのだろう、係員が何か言いたげにやって来た。ちょっと、今さら撮影禁止なんて言わないでよ?この試合でカメラについてのアナウンスはされていない。
しかしこのカメラおじさんが「フラッシュ○%#*〜」と説明して無事解決。そうそう、フラッシュたいてなかったら選手には問題ないんだよ〜。しかしこのことをわかっているあたり、できるな。まあ一眼レフ持参者はほとんどフラッシュをたかないものなのだが。(国内外問わず試合会場で見たことがない)
助かりました、ありがとう。

フリーダンスを楽しみにしていたメキシコのカップルは中国服もどきの男性と「エキゾチック」な女性の組み合わせ、東洋チックな衣装。ペア競技、特にアイスダンスで東洋ネタはすっかり定着した感がある。
滑りが完全に第二グループでは浮いている。そして最後のリフトがすごかった。ここは絶対来シーズンGPSに出すべき、というかこれだけの力があるなら出るでしょう。

中国の若手2ペアはどっちも同系統の外見なので区別がつかない。ついでに点数も近い。トリノ以降の成長に期待しよう。
とりあえずリフトのテクニックは日本勢に分けてほしいかも…。同じアジア勢なのに、何なんでしょうこの違い。

オーストラリアのBourne組はパッションが感じられる、本当に競技者の滑りになった。それもそのはず、コーチがデュボワコーチ。全く新しい環境の元で練習しているのだろう。
しかし曲編集をなんとかしてくれ……。


くせのある日本語でいきなり声をかけられ、ギョッとして相手の顔を見ると初日の高速バスで席が隣になった「彼」だった。私が来ているかと思って昨日から試合を見に来ていたそう。Pさんの横の席があいていたので一緒に見る事にする。
ちなみに前列のカメラおじさんはいつの間にか姿を消していて、若い男の人が座っていて、男の子がじゃれついている。この人がオッパだったのね。なら納得。


デニス達のフリーダンスは映画「ムーラン・ルージュ」から。ODに続いてまたもやデニスが弾けていて、いやらしいスキャット入りの「ロクサーヌのタンゴ」とうまくマッチしている。Patenaudeが余命短い娼婦というキャラではないが、これはこれでいい感じ。本当にいい人を見つけてきたものと思う。最後に崩れたのが惜しかった。
OD、フリーと同系統でそろえてきた分、来シーズンにどう来るかが気になる。今シーズンは色物で度肝を抜いた感があるので、このカップルの評価が定まるのは来シーズン以降の事だろう。

都築さんは髪をお団子にして、いつもの都築さん。降ろしていた方が合うのに…まあバサバサ乱れてしまうかもしれないからこっちの方がいいか。ただ都築さんの髪型と同様、公開練習の時より大人しい印象のダンスになった感がある。
確かに素敵な雰囲気があるのだが、その雰囲気が今一つ長続きしない。一つのポジションから別のポジションに変わる時に間が見える。どう説明したらいいのか…手を取り合う時の二人の手の位置がかみ合いきれず、一瞬調整をしてからつなぎ直しているように見えるのだ。他のカップルでは見られなかっただけに、やけにその間が目についた。
二人の先は長そうだ。

楊芳ちゃん達は前半はテクノっぽいサウンドの曲。いい感じで進んでいくと思いきや、テンポが変わっていきなりトゥーランドット、「誰も寝てはならぬ」のクライマックス部分。

……はい!?!?!?

いくら雪ちゃん達のトゥーランドットが名作だからって、中国だから使えばいいというもんじゃないぞ!何考えているんだスタッフは。
タラソワコーチが作ったプログラムの雪ちゃん達の文字入り衣装といい、「中国=東洋ネタを入れる」という安直な発想が働いているような気がしてならない。このつなぎの何をもって芸術と言うのか。
この曲の流れで完全に気分が萎えた。彼女達には申し分けないが、このシーズンはなかったことにしたい気分である。上達ぶりを見るのを楽しみにしていたのに……。


第四グループが終わった時点でメキシコの組が楊芳ちゃん達を抜いていたのには驚いた。フリーだけなら都築さん達にまで勝っている。


ベルビン組の衣装は生で見るとかなり豪華なのがわかる。赤を基調としたところに青紫と黄色の挿し色がハッとするほど効いているし、シャリン、シャリンという音には実は衣装についている飾りの音も混じっている。ジプシーダンスがテーマとはいえ、北米勢でこれだけ色鮮やかな衣装を見るのは新鮮な印象。
公開練習のアゴストを見て呆然としたが、この試合でのベルビン組はすごすぎて話にならない。内心心配していたが、ベルビンもついていっている。もはやこの時間は試合でなくてエキシビション。たまには外国で観客つきの通し練習をするのも、刺激があっていいんじゃないだろうか。(←いや違うから)
来てくれて本当にありがとう。場が締まりました。

木戸さん達はたたみかけるようなステップの連続。見ていてハラハラするリフトも無難にクリアし、後半のパワーダウンも最小限だったと思う。それだけにあの曲のつなぎを堂々と演じている姿が気の毒になってくる。安っぽい蛍光色の衣装といい、二人の格を落とすだけのような気がしてならない。だんだん腹がたってきた。
子供の頃から蛍光色は好きではなかったが、ここ最近の衣装の流行っぷりですっかり嫌いになったのだ。中国勢の衣装に代表される薄墨を使ったようなグラデーションの衣装はさんざんネタにされてきた(してきた)が、蛍光色多用の衣装も悪趣味度合いはいい勝負だと思う。

グレゴリー組も貫禄がついたと思う。いかにもモロゾフさんがデザインしたという感じの衣装だが、女性の袖の先のたなびき加減が好きだったりする。
しかしこのかかとを使ったエッジワーク、ワイスのようにワンポイントならいいのだが、ここまで乱発されるとどうも好きになれない。まあこの靴をはいていれば誰にでもできるテクニックではないのだろうが……。
ここもレベルが明らかに抜けていて、二位は決定項。来てくれた事にお礼を言うべきだろう。


実はその。
感想を書かなかった北米の組は、滑りがきれいという事以外は全く印象に残っていないのだ。本当にアイスダンスの見る目がない。
シンプルな衣装、流れのいい音楽に乗ったきれいなスケーティング。北米アイスダンスのテンプレートのオンパレードを見たようなもので、衣装と外見をそろえた状態で滑られると区別できる自信はない。そこは国内戦中位の選手達、ここから先独自の色をつけられるかどうかで将来の順位が変わってくるということだろうか。
なので、何をどう評価されてこの順位になったのかが全くわからない。
順位に納得がいかないのではなく、「ジャッジはそう評価したのか」という受け身の態勢でしか見られない、主体的な目で見られないことがおもしろくないのだ。
アイスダンスは本当にわからない。


表彰台はアメリカ勢が独占。せっかく四大陸選手権で韓国に来たのに、アメリカ国内戦を見てもねえ…。まあ2年前、北京四大陸の女子の表彰台を見ながら日本以外の国の人もそう思っていたのだろう。
ボクシングの防衛戦の場合、判定で同程度ならチャンピオンの勝ちになるという。今回の結果もそうだったのだろう。
差はもうないのだ。なら来年は勝てる。
もう少し。


「彼」は夜も遅かったせいか、「それじゃ」の一言であっさり帰っていった。
実はバスの中でもお勧め所をあれこれ教えてくれたり宿までとってくれた好意はありがたかったのだが、「どうして観光しないの!?」とばかりの勢いに内心へきえきしていたのだ。
地元の人にとっては来るだけ来てスケートだけを見て帰るというのはおもしろくない事だろう。その土地や人々に対して礼儀を失する行為だという認識はある。
だが、スケートを見に来た私達にどうして足を伸ばして観光する余裕があるだろう?
海外観戦をしたことのある方ならわかってくれるだろう。何を教えてくれても、その好意には応えられない。
海外観戦の回数を重ねるにつれ視線のきめを細かくし、その地での生活の中からできるだけ拾い上げることで自己解決していたのだが、今回の「彼」とのやりとりで久々にその矛盾をダイレクトに突きつけられる展開になった。おかげで心がぐさぐさしていたのだ。
女の子だったらごはん一緒に誘った所なんだけどね……。


昨日mさんの宿泊先の近くに24時間営業のファミリーレストランみたいな店があったのをチェックしていたので、Pさんと3人でそこへ向かう。
今日は疲れているので辛いものは避けたい気分。焼肉がメインの店らしく、すぐに読み取れる定番メニューがなくて少し苦闘。写真と比べながらあれこれ見ると、サムギョプサルという分厚い豚の三枚肉の焼肉があったのでそれを注文する。
たれがかかっている肉にコチュジャンをつけて食べるプルコギとは違い、肉を味付けせずに焼いて、ゴマ油と塩をつけて葉っぱで巻いて食べるスタイル。つけ出しの水キムチ以外に白菜を縦割りに8等分したようなキムチが出てきた。こんなに大きいキムチをくるむのは無理があるぞ…と思っていたら、店員さんがやってきてキムチを焼き始め、程よい所で肉とキムチとをハサミで切ってくれた。焼いたキムチは辛さが和らいでうまみが増している。へえ、こんな食べ方もあったんだ!今度家でやろうっと。
ごはんを頼むとサービスでテンジャンチゲ(辛くない味噌汁)がついてきた。ラッキー!

軽く話をしたつもりが、気がつけば夜の12時を過ぎている。試合自体終わるのが遅かったからなあ(^^;)
mさんはそのまま歩いて帰り、Pさんといっしょにタクシーで宿へ帰る。
ホテルではフロントのおじさんがやさしい顔で見送ってくれた。

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続く