Back to Index

SPACETIME 2004~

Introduction to the Philosophy of Space and Time


日本科学哲学会、2005年度大会は東京大学駒場キャンパスで行われた。シンポジウム(12/3)は「相対性理論100年」というタイトルで、わたしの話は「重力理論と宇宙論」というもの。以下にレジメを載せておく。アインシュタインの二つの相対性理論については、Einstein Seminarを参照されたい。


重力理論と宇宙論──アインシュタインとド・ジッターの論争から膨張宇宙論へ
京都大学、内井惣七

アインシュタインの重力理論(一般相対性理論)によって動的な宇宙論が可能になったことはよく知られている。相対論百年を迎えた現時点で、宇宙論の現在までの流れを簡単に振り返り、節目となる出来事、科学的および概念的な幾つかのブレイクスルーを確認しておくことは、科学哲学をやる者にとっても有益な作業である。

1916年から17年にかけて、アインシュタインとド・ジッターは相対論的宇宙論の異なるモデルをそれぞれ提唱した。アインシュタインの「静的な球形宇宙」と「ド・ジッター宇宙」をめぐる論争は、一般相対性の本質に触れる論点を含んでおり、いわゆるビッグバン宇宙論だけでなく、少なくとも1980年代のインフレーション宇宙論にまで至る射程を潜在的に持っていた。簡単に言えば、重力場方程式は(宇宙項Λなしでも)「重力が斥力として働きうる」可能性を含意していたのだが、アインシュタインによる宇宙項Λの導入と、その後の宇宙論の展開により、この可能性の含んでいた驚くべき側面がいくつも明らかになってきた、と解釈することができるのである。ハッブル、エディントン、ルメートル、フリードマン、ロバートソン&ウォーカー、ガモフ、グース等のサワリにふれながら、以上のようなシナリオにある程度の肉付けをしてみたい。

図1 アインシュタインの球形宇宙、別名シリンダー宇宙

図2 ド・ジッター宇宙 (最初は静的宇宙だと考えられていたが、エディントンやロバートソンらによる考察の結果、宇宙の半径が増大していく膨張宇宙だということが明らかになった。アラン・グースのインフレーション宇宙論でも再現するが、この場合は膨張のエネルギーは宇宙定数ではなく、ヒッグス場のニセ真空が持つ負の圧力からくる斥力としての重力による。)

グースのインフレーション宇宙論のサワリについても触れる予定だったのだが、時間切れのため省略した。図2の解説で触れた負の圧力と斥力との関係は、宇宙の半径をR(Rの膨張の速度はドット一つ、加速度はドット二つで表される)、エネルギー密度をρ、圧力をpとすれば、重力場方程式から次のような形で出てくる。

この式で、pとρのオーダーはほぼ同じなので、pが負であれば右辺は正の値をとる(つまり加速膨張)。そして、この加速が指数関数的(インフレーション)となることは、次のように変形した式からわかる。eは自然対数の定数、χは上式の変形から得られた正の値で、tは時間である。

すなわち、宇宙の半径の時間的変化は指数関数的膨張となる。これがド・ジッター宇宙のメトリック(ロバートソンによる)と同じ形になっているのである。


Last modified Jan. 11, 2006. (c) S. Uchii

webmaster