Experimental Knowledge
Experimental Knowledge -- 実験的知識の見直し
観 察の理論負荷性の話と関連が深いのは、実験的知識の見直しという、最近の科学哲学の(一つの)新しい動向である。60年代から70年代に隆盛をきわめた 「新科学哲学」では、科学革命の概念的変革とか世界観の違いといった、「スケールの大きな」話が人気を集め、「科学においては理論の先導がほとんどすべて である」といった論調の議論が圧倒的に優勢であった。
しかし、1980年代に入って、科学における実験的知識の見直しをおこない、そこから科 学的知識の捉えなおしをしようという動きが、科学史家と科学哲学者の間で見られるようになってきた。代表的な論者は、Robert Ackerman, Ian Hacking, Nancy Cartwright, Ronald Giere, Allan Franklin, Peter Galisonといった人達である。彼らの仕事に共通する一つの認識は、「実験レベルの科学的知識は抽象的な理論レベルの展開や変化とはおおむね無関係 で、独自の領域を形成している」というものである(わたしのテキスト第5章の議論もこの認識を共有する)。さらに、これらの人達の仕事に続いて、実験的知 識の認識論をもっと体系的に展開しようというプログラムを提唱しているのがDeborah Mayo である。彼女のError and the Growth of Experimental Knowledge (1996)は、ネイマン−ピアーソンの統計的検定の理論から出発した「誤謬統計」の方法に照らして、科学の認識論を立て直そうという野心的な試みであ る。ある程度独自の領域を形成する実験的知識と、理論とのつながりがどのようにつけられるのか、という問題が、新たな視点から論じられる。この試みは、 「新科学哲学」(もう古い!)と「ベイズ主義の確証理論」の二つを主要な論敵と見なす。
実験レベルでの知識がどのようなものか、その知識がどのような基準で信頼できると見なさ れるのか。こういう話を抽象的にのみ論じる段階は終わった。科学の具体的な事例や方法(たとえば、統計的な検定法)に即して分析や議論をしなければ「科学 哲学」にはならない、というのが最近の認識である。
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References
Ackermann, R. (1985) Data, Instruments, and Theory, Princeton University Press
Cartwright, N. (1983) How the Laws of Physics lie, Oxford University Press
Franklin, A. (1990) Experiment, right or wrong, Cambridge University Press
Galison, P. (1987) How Experiments end, University of Chicago Press
Giere, R. (1988) Explaining Science, Univ ersity of Chicago Press
Gooding, D., Pinch, T., and Schaffer, S., eds., (1989) The Uses of Experiment, Cambridge University Press
Hacking, I. (1983) Representing and Intervening, Cambridge University Press
Last modified Jan. 26, 2018. (c) Soshichi Uchii