そもそものきっかけは、海外からのメールでした。
スーパースワンを作りたいとか。
ドライバー入手の問題とか、(中略)いろいろあっての成果がこちら。結局、音は気に入ったものの、奇異な外観が奥様のお気に召さないとかで直方体の箱に挑戦されました。
良くある話です。作者のJacques氏はMJK氏のTLSモデルを改良して、オリジナルのアイディアで設計。FE83Eを使って60Hzまでフラットなf特を実現してしまいました。
このとき私は、シミュレーションモデルの検証と自分自身の興味のために同型の実験箱を作成し、測定。シミュレーションモデルは適切な折り返し部分の補正を加えることにより、驚くほどの高精度で予測可能なものとなりました。
箱の分類としてはQWT。外形約170×300×400mmと8cmフルレンジとしては大きめの箱ながら見事に60Hzまでフラット。試聴でも、FE-83Eを使った場合には特性は良いのに低域で力不足が感じられますが、FE-87Eとの組み合わせでは実に良いバランスで好印象を受けました。
そこで今回、次期デスクトップ用として小型化に挑戦しました。
先の実験箱は幅が170mmと目の前に置くには威圧感があり、どうしても細くしたい。できれば、現用のデスクトップバックロード並みに。そこで、特性に無理が出るのは承知の上で内寸100mm外寸幅130mmと決定。
さらに、間近で聴くのでソフトな味付けも試してみようと考え、本来は後ろか横に配置するスピーカーマトリックス用の信号を同じ箱にマウントすることにしました。
ぶっつけ本番では怖いので、まずはデスクトップバックロードで実験。マトリックス(L-R,R-L)用のドライバーを裸のまま(後や横ではなく)箱の上に載せて実験してみると、そこそこの効果が得られることがわかったので、どうせなら一つの箱にマウントしてしまおうと欲を出しました。
欲を出したことでTLSの音道はますます短小化しましたが、中低域の1〜2dBの凸凹を我慢すれば70Hzまでフラットにできることがシミュレーションでわかりました。シミュレーションは実測と非常によく一致する手法であることは確認済みでしたが、手元のソフトがないので、Jacques氏にお願いしました。
特徴としては、現有のバックロードが100Hz以下ステップ状に10dB近くレベルが落ちるものの50Hzまで実用的に再生するのに比べて、今回の設計は70Hzまで中域と同レベルを確保する代わりに、その下は早い目に落ちる特性となります。
分相応、ですね。
内部構造、寸法は以下のとおり。今回はシナベニヤを使いました。板取はこちら。
外寸は、現有のバックロードよりも小型化されましたが、これは、仕上げのために集成材を張り重ねるのではなく、ツキ板を利用したことが寄与しています。奥行きと高さが2枚重ねがない分1.5cm〜2cm小さくなりました。
差信号をマウントする部分はTLS動作の邪魔をしないように密閉(0.75liter)としますが、差信号には低域は少ないので窮屈な密閉に入れる弊害はあまり考えなくても良いと判断しました。
サラウンドを狙わないなら、さらに高さを低くできます。
この型式での吸音材は非常に良く効きます。
突き詰めるなら細かいチューニングが必要ですが、「もともとサラウンド効果とかの味付け前提」という考えの下、出る音は全部出してしまえと吸音材は最小限。ドライバマウント用の穴から入る範囲にとどめました。
バックロードに比べると簡単な構造、大きさも小さく楽勝かと思われたのですが、微妙に板が反っていて、しかも今回のカットは精度もいまいち。ハタガネで抑えつけたくらいでは隙間ができそうな部分が続出。最後に貼り付ける側板を隙間なく音道を整えるのに苦労しました。
この手の箱は、後から修正が利かないので後悔しないように、内部塗装も施します。
仕上げはワンパターンの油性クリアニスの予定ですが、塗料が余ってるんだから仕方ありません。~/.~;;
写真は内部の様子。
実験機でも経験していることですが、バックロードとは対照的な鳴り方です。例えば、現有バックロードなら83Eの方がはるかに力強く、音圧不足を感じさせない低音を聴かせ、87Eだとマイルドで頼りなく聴こえます。
一方、今回の箱の場合、83Eでは音圧は出ているのに何か不足感があり、87Eだと非力なはずなのに豊かに聴かせます。
ホーンやポートからのアウトプットが逆相近くになっても理想的に打ち消されるわけではないので、耳にはホーンからの音圧がかなりの部分聴こえているのではないかと思えてしまいます。
単体では83E+バックロードが好みですが、さほど強力ではないアンプでドライブして至近距離で聴くには87EとTLSの組合せの方が心地よいです。
さて、問題のサラウンド効果。
センターの音が打ち消された差信号を左右から出すわけなので、センターの音は付け加えられず、相対的に音が両端に寄ります。効果はそこそこあって、スピーカーから音が離れてスピーカーの存在を感じさせず広がりがある一方、ボーカルは奥へ引っ込みます
オンマイクでボーカルが手前に張り出しすぎのソースでは、ちょうど良いくらいになることもありますが、総じてやりすぎの感あり。このまま使うのはちょっと‥‥。差信号にアッテネーターを入れて調整する必要がありそうです。
工夫した低域も、普通の低域は驚くほど出ているのですが、50Hzくらいの重量感を出す部分はほとんどでないので、物足りなさも残ります。
現用のデスクトップバックロードは、このあたりにも音の存在が感じられる特性なので、好みに近いです。え?ということは何?失敗かというとそんなことはないです。
自分で作ったのがかわいくて言うわけではなく、一般的には非常に良くできた箱だと思います。
ただ、サラウンドは余計で、ドライバ単発で更に小型化したバージョンに作り直してみたいです。
最近は、部屋の影響を避けるために、ドライバーの鼻先3cmくらいのところで測定してます。
赤い線がドライバー近接、青い線がポート近接の出力です。
測定条件
- 元信号:サイン波スイープ5sec/oct
- 窓関数:ハニング
- サンプルデータ:32768点
部屋の影響込みの参考として、2チャンネル同時で約60cmの距離での測定結果。
50Hzくらいまでが何とか音になっている範囲に見えますが、聴感では60Hzが精一杯という感じ。
その下は急降下。後ろの壁までは約20cmなので、この距離でも変わりそうです。机の上のことなので、セッティングに工夫する余地はありません。
トータルとして、まずまずの出来ではないでしょうか?