第九夜    馬券生活者になる為には暗くて大きな川がある。


   競馬には色々な縦糸横糸が錯綜していて、これから手をつければ正解というものがない。まぁ、なんでもそうだがバランスということだろうか。勝つということと、いくら勝つかということは、似ているようで違う。縦糸横糸の関係のようにお互いが入り組んでるようだ。
   前夜は、勝ちということについて少々考えたのだが、それも大事だがいくら勝ちたいかということを真剣に考えている人が少ないんじゃないかとも思う。もちろん、勝てれば勝てるだけと言われればそれまでだが、やはり現実的な数字というものがあるんじゃないだろうか。

   師匠の日記にもあったが、小額の投資でドカンという訳にはなかなかいかない。5千円の資金で10万円勝とうと思えば、万馬券しかないのである。スイチで2千円の配当を5回連続的中する自信があれば別だが。小額で大きな配当を望むのは、まぁ、気持ちいいというのもあるだろうが、無意識のうちに賭金を少なくしてリスク回避をしているのだと思う。

   では現実的な数字とはどういうものだろう。
あらかじめ言わせてもらうと、いまからわたしが出す数字はこうだからこうというキチンとした根拠はありません。ただ、自分としては一番ベースとなる部分に設定しているということです。

   ということで、基本はやはり年間の回収率ではないでしょうか。わたしは120%は欲しいと思ってます。目標は135〜140%です。でもこれは難しいかもしれません。(わたしのレベルではという意味です)
   実際、競馬に復帰して1年余りですが、自分自信でも100%を上回れたということに驚いています。実は復帰までの10年間は競馬を一切やってませんでした。やめた理由はやはり片手間では勝てないと見切りをつけたからでした。
   あるとき、ひょんな事からスピード指数がPCで扱えるとしって、やれるんではないかと思い、また始めた訳です。ですから、この1年の数字は平均すると回収率120%強になりますが、月別にみれば大波小波です。大きくドカンと勝ったときの遺産で3ヶ月ほどマイナスが続いた分をカバーしたりというようなおそまつな内容です。しかし、結果としてプラス収支に終われた事はものすごい自信にはなりました。以前なら101%も不可能だと思いこんでましたので、実際わたしレベルのもんでもなんとかやれる時代なんだと思います。

   実際世の中の馬券で生活しておられる方々の年間回収率がどれくらいあるかは知りませんが、200%はないんじゃないかと思います。例えばイメージとしたら年間回収率は野球でいう打率みたいなもんで、100%アップが3割打者のような感じがします。つまり200%アップというのは4割打者、イチロークラスということではないでしょうか。
   まぁ、根拠はないので、俺は年間300%稼いでるという方も中にはおられるかもしれませんので、それはそれで尊敬しますし、ぜひあやかりたいもんですわ。

   ということで、1回こっきり10万勝ちたいというのであれば、たまたま5千円の元手で勝てることがあるかもしれないが、長い目でみれば無理だと思います。自身の回収率のアベレージが120%だとして、月に10万勝とうと思ったら、総投下資金は50万、1開催8回として、1日当たり62500円の原資がいるわけです。
   逆に考えれば、1日当たり5万円を用意すれば目標金額は1万円、1開催で8万円、1年12回で96万円これだと、実際2日連続坊主で10万円するということも考えられないので、まぁ、原資は20万円もあればなんとかやれるんじゃないでしょうか。

   以上は机の上の計算です。ここからが本題です。
ここに競馬歴10年、数々の必勝法を研究し、ようやく自分なりのスタイルを確立した尾馬 勝泰蔵さん30歳の場合。
   まぁ、なんとかかんとか、1日1万円のノルマをこなし、1開催8万円1年96万円の収支を上げたとしましょう。1年間通して回収率120%を計上したわけです。これはもう立派に競馬に勝ってるといえる状態だと思います。

   俺もようやく勝ち組に廻れたなとニンマリする尾馬さん。しかし、世の中には馬券で生活してる人もいてるしな。あの人たちは一体いくらくらい稼いでいるのだろう。尾馬さんは新たな自分の目標を見つけたかのように、考え込むのでした。
   (-_☆)キラリ「そうか、わかった。賭け金をアップしたらええねん!」尾馬さんは金の鉱脈を掘り当てたようにサラサラと紙の上で計算しました。「今までと同じようにいけたら、賭け金を10倍にしても100万ぐらい用意しといたらしのげるやろ。どっちみち一時的にへこんでも最後は回収できんねからな。えっへっへっ」

   普通の事業なら、利益を10倍にしょうと思えば設備も人も増やさなければできません。今日思いついて明日からというわけにはいきません。しかし、賭け事なら賭け金をアップするだけでいいのです。平場の未勝利戦の単勝に100万突っ込むといような話しなら別ですが、尾馬さんの場合は1レースあたりの賭け金を10万ほどにすればいいだけです。この程度なら、オッズも動かず、ちょっと羽振りの良い不動産屋ならいまでも買ってる金額です。

   尾馬さんはとりあえず50万用意し、その日厳選した5レースに振り分けました。結果は、1レース元返しで後の4レースは抜けてしまいました。こういう日もあるさと、40万追加して次の日曜に勝負を賭けました。結果は無残にも同じようなものでした。尾馬さんは1年かけてつかんだ利益を2日間で無くしてしまったのです。

   さて、1年間プラス計上した尾馬さんがなぜ勝てなかったのでしょう。
実は、「賭け事には身についた銭でしか勝てん」というのがあります。

   簡単に言いますと、本命、対抗で180円ガチガチの大本命です。普通の人だったら1万円くらいまではすっといけるでしょう。
では10万円はどうですか。「ガチガチいうても、こういうときに限ってどっちか1頭が抜けよんねんなぁ。」
というようなことが頭をよぎり、5万馬連、5万ワイドでというようなことになってませんか。1万円と10万円。レースも馬もオッズも何も変わっていません。変わったのは賭ける人間の気持ちだけです。

   つまり、尾馬さんには1レース10万円という金が身についてなかったわけです。
師匠もいわれてるとおり、複勝をバカにしてはいけません。120円30円の配当にアホらしくって賭けれないというのなら、10万、20万ぶち込んでからにしてみて下さい。

   おやすいくんの賭け方をみて、負けない競馬っていうのもあるんだなと思いました。あの賭け方で十分120%超は達成出来ると思いました。
   いくら勝ちたいかという問題には、的中率や回収率の問題とは別に、やはりメンタルな賭金を上げるということがからんできます。

馬券生活者になる為には暗くて大きな川がある。

   わたしたちが競馬をする場合、予算がありますよね。これがゼロになってしまえば負けです。しかし、馬券で生活するとなると全然話しは違ってきます。
   マイナスからのスタートになるわけです。生活費が月に40万いるなら、なにがなんでも40万勝たなければならないのです。
これは想像を絶するプレッシャーだと思います。
「賭け事は借りた金でするな」というのも同じ意味です。このプレッシャーをはねのけて買えるなら、借りた金であろうが、盗んだ金であろうが勝てるでしょう。
   おそらく、小遣いや、ちょっと無理したくらいの金で少々勝てても、すんなり馬券で食べれることはできないと思います。

   師匠ぐらいコンスタントに勝てれば、賭金さえアップすれば一億でも二億でも勝てると思うでしょう。
でもそうはいかないんですよね。やはり、師匠には師匠の身についた金というものがあると思います。
ただ、その金は暗くて大きな川を渡った人だけの重みを持っています。わたしらとは違います。
しんどい金で勝負しないと、この桁は上がっていかないと思います。
乾坤一擲の勝負に負けた時に、口から魂が抜けていくような溜息を吐いた人にしかわからないと思います。

暗くて大きな川の向こう岸で師匠が手招きしても決して渡ってはいけません。
なぜならあなたにとって三途の川になるかもしれないからです。

第十夜