初めての北海道旅行(1997年11月号)

                         国際文化学部日本学科3年 呉瑾(ゴ・キン)

 

 この夏、決心して初めて旅行することにした。安くて長く出来る旅をしたいと、夏休みに入る前から計画を立て、雑誌や新聞を調べたが、ああ高ーい!どれも私が出せる値段じゃない。また旅行は夢のように消えるのだろうか。そうはいかん。毎日、新聞を読むのがとても大事な仕事となった。

 そしてある日、半分諦めかけて夕刊を読むと「新どんとこい北海道 3泊4日」というやつが目に入ってきた。タイトルじゃなくて、値段が。値段がなんと予算に合ってるのだ。早速内容に目を通したら、たくさんのところが回れそう。しかも温泉ホテルに三大かに食べ放題。食べることが大好きな私には、もちろんこれが魅力がある。

 すぐに電話で予約をした。夢の北海道、本当に行けるんだよ。あとは待つだけ。気分が良くて、何日か寝られなかった。

 

【9月16日】

 

 やっと行く日がやってきた。ウキウキ、ドキドキ、荷物をまとめて空港に向かった。ちょうど台風19号が九州に来ているときだった。大阪に来たらどうしよう?旅行会社から、台風が大阪に来たら中止するかもしれないという電話もあった。15日から目がテレビから離せなくて、台風情報を見ていた。照る照る坊主でも作ろうかな、でも台風に効くかな?神様が行くなって言ってるのかもしれない。神様、神様、どうか今度の旅行に行けるようにお願いします。とりあえず、神も、大仏も、教祖様も何でも、全部お願いするんだ。祈りが効いたのか、台風は16日にまだまだ四国のところでうろうろしている。大阪はきれいな青空が見えている。飛行機が飛んでいる。いつも帰国の時行く関西空港も遠くから見えて、静かに海の上に浮いている。今度は帰国じゃなくて、北海道旅行だよ。

 手続きを済ませ、空港の中をゆっくり回った。いよいよ飛ぶ時間がやって来た。わたし、飛行機に酔うのに薬を持っていない。かわいい制服を着ているスチュワーデスさんにもらうことにした。このとき、もうすでに飛行機は飛んでいる。スチュワーデスが薬と説明書を一緒に持ってきたが、もう説明書を読む勇気がない。効くか効かないかは別にして、飲んだだけでも気分が違う。窓から上の青空が澄んでいる。下は、綿みたいな雲が流れ、流氷を逆にしたようだ。天を作った神、あなたは空が寂しいから雲を作ったの?それとも空が疲れたら、雲の上で休めるようにしたの?でも、雲もストレスたまるよね、だから雨が降るんだ。思いのままにしているとだんだん眠くなった。薬が効いたなあ。

北海道に到着

 2時間が経ち、千歳空港に到着。空港を出たとたん、いきなりくしゃみが出てきた。寒いー!外は薄く暮れてきている。寒い!千歳はなんと15度だ。半袖しか着ていない私はどうしようもなく震えていた。バスはもう自動的に暖房が入ってる。さすがに北国であって、9月半ばといっても暖房がいるんだ。それから、長い長いバスのコースが始まった。空港行きのリムジンバスと違って、古い観光バスだった。居眠りしているうちに、外はもう真っ暗になっていた。時計を見ると、まだ6時半。ガイドさんが北海道は夜暗くなるのが早い、朝明るくなるのも早いと説明してくれた。ようやくホテルに着き、即着替えて温泉だ。初日は三大名湯の一つ、層雲峡温泉だった。しっかり疲れていたからその日はぐっすりと寝られた。

 

【9月17日】

 

 今日は二日目。雨が降っている!寒い!昨日見た雲と全然違って、低く、ネズミ色の雲が人を圧迫している。あついジャンバを着ていても寒さには勝てない。しかも台風の影響で雨が降ってる。こんな天気だったら写真も撮れないし、景色も余り見られないだろう。ああ、旅行の日に雨じゃちょっと・・・それでも、流星の滝というところに着いたとき、天から流れてきたのじゃないかというくらい高い、細い滝に驚いた。曇っている空の下に、星のように輝いている。転々と赤くなっている紅葉で飾られた森の隙間に宝石のように光る。自然が美しい!雨が降ったからこんなにきれいになったのだろう。朝の不快感が美しさに負けて消えてしまった。

 

 

 

 

キタキツネ

 映画でよく知られた動物。イメージは大体ズルいとか賢いとか、悪いのも良いのもある。しかし、キタキツネ村の狐たちを見て、急に奈良の鹿を思い出した。餌を持っていればついてくる。餌がなければ全然無視。まったく。映画の狐と違って、怖さもなく人間の飼い犬みたいにおとなしく餌を待っている。雨にも関係なく外を歩いている。雨に濡れて、濡れネズミじゃなくて、濡れキツネだ。人を怖がらないキツネ、野性がなくなっているキツネ、人間が猪を飼い、豚になった。キツネは何になるんだろう?考えられない!

摩周湖

 よっぽどいい天気じゃないと顔を見せてくれない神秘の湖。透明度が高いことで世界的にも数えられるほど有名な湖。雅子様がここにいらっしゃったとき、摩周湖はとても美しい顔を見せ、雅子様が「今日は美しい摩周湖が見られ、とても嬉しく思います」と喜んだそうだ。湖まで人を見て機嫌を取るのか。なんで私が来る日に雨が降るの?霧に囲まれ、透明感どころか、湖がどこにあるかも分からない。たぶん私もどこかの王子様と出会って、王妃になったらきれいな摩周湖が見られるのだろう。でも私、遠い中国から来たのに、ちょっとだけでも見せてくれたら、一生の思い出になるのに。

 北海道は海に囲まれ、北の海と言ったら鴎。私は生まれも育ちも海のないところで、鴎はテレビでしか見たことがない。本物の鴎を見ていきなり海の方へ向かって走っていた。鴎はさすがにキツネと違う。人が来るとさっと飛んでいく。靴が濡れ、スカートもびしょびしょ。昔、読んだ小説の中で、鴎は嵐の中で頑張って飛んでいるという勇気づけの話があったけど、今日は嵐じゃなく、私から逃げようとして、一所懸命遠く遠く飛んでしまった。孤独な私をほっといて、なんと冷酷なやつ。しかも私、服が濡れるまで仲良くしようとしたのに、嗚呼!世間って冷たい〜。

 まあ鴎は仲良くしてくれなくてもおいしいカニが待っているからもう鴎は忘れよう。かなりカニの量が多くて、大きくて、食べて食べて、今年の分全部を食べたという感じ。とりあえず、もうカニいらんわ。

雨の露天風呂

 また日が暮れて、ホテルに着いたときにはもう手を出しても五本の指が見えないくらいに暗くなっていた。阿寒湖ビューホテル。阿寒湖温泉のくつろぎの一時、人生って幸せ。日本人は贅沢だわ。温泉があちこちにあって、空を見つめながらのんびりとお風呂に入り、晴れた日は星を数え、最高だよね。残念!今日は雨が降っている。しかし、雨に降られて温泉に入るのも別の風情がある。小雨が静かに落ちる。髪の毛や睫毛が濡れる。そして、電気の反射で、雨が銀色の糸のようにちらちらと光る。夢の世界だ。

 ところが雨のロマンは観光を妨げる。阿寒湖散策は中止となってしまったのだ。明日は晴れたらいいなあ。いい夢を見られるようにお休みなさい。

 

【9月18日】

 

 朝、カーテンを開けると、朝日が明るい笑顔でわたしを照らしている。感激!やっと晴れた。帰る日が段々近づいてきているので、時間を大切にしなくちゃ。出発の時間まであと10分あるから、ホテルを出て、散歩でもしよう。昨日の晩は暗くてなにも見えなかったが、ホテルの前になんと小さな公園がある。公園というより大きい庭といった方がいいかもしれない。新発見!馬がいる!しかも親子だ。お母さんに会いたくなる場面が目に入ってしまった。旅に出ている旅人の心境は何気なく寂しいものだ。急に気分が落ち込んでしまった。

 でも、せっかくの旅行だから、落ち込んでいても話にならないし、今更後悔してもどうにもならない。思いきり楽しんだほうがよい。今日は最後の日に近いし、晴れているし、もったいないわ。早速バスに乗り、新しい一日が始まった。

五色の湖へ

 ホテルから出て、ちょっと走ったら原生林が青々とした姿を見せてくれた。昨日、雨が降ったからかもしれないが、林の色がとてもみずみずしい。この林の間から、遠くぼんやりと湖が見えてきた。ガイドさんが心配そうに「昨日雨が降ったから、今日の湖は濁っているかもしれない」と言った。ああ、この雨は本当に参った。ところが、そう思い込んでいるうちに目の前に、虹色の湖が現われた。五色の湖と言われている魔法の湖。湖辺の紅葉が点々と赤く、湖に映っている。写真みたいにきれい。私もしっかりと写真の人間になった。湖の水が澄んでいて底がはっきりと見える。こんなきれいな水を初めて見た。遠いところの山や森林が全部そのまま映され、湖面は鏡のようだ。ちょっとした風が吹いてくると湖面が少し揺れて、投影が万華鏡のように散り砕ける。北海道はどこにでも景色があるって、今になってやっと信じられた。

 湖が話題になってバスの車内は一時すごく賑やかだった。でも、だんだんみんな、やはり疲れに負けて、寝る人が多くなってきた。北海道はめったに来られないから、寝てしまうといい景色を逃してしまう。私は絶対に寝ないと自分に言い聞かせながら、窓から外をずっと眺めていた。道がまっすぐに延びている。両方は際の見えない広い畑。このような景色は小さい頃中国の田舎でしか見たことがない。大平原だ!

富良野にて

 瞼がいつのまにか重たくなって、勝手に閉じてしまった。「おはようございます」と急に耳にガイドさんの声が聞こえ、目を開けてみるともうバスが止まっていた。富良野。映画でよく聞く名前だ。ラベンダーが有名だが、今は季節ではない。それにしても花が美しい。大きなお花畑があって、いろんな種類の花が咲いている。私は花が好きだけど、花の名前は全然分からない。ここは本当に華やか。言葉では表現できないほど花が多い。その上、トウモロコシがおいしそう。そして、さすがにラベンダーの産地だけあって、ラベンダーの商品が圧倒的に多い。ハンカチからチョコレートまで、すべてのものがラベンダーで飾られていそう。ラベンダーの季節になるとあちこち青いラベンダーの花が咲き(青というより紫と言った方がいいかもしれない)、北海道特有の風景であるらしい。季節が過ぎてしまったから残念だわ。だからこの旅行の料金が安いんだ。季節はずれだ。まあ、仕方がないけど、十全十美のことはどこでもない。満足しよう。

定山渓温泉

富良野と別れて、札幌に向かって走っていた。今晩の宿泊は定山渓温泉、最後の温泉だ。今年出来たばかりの新しいホテルが用意されていて、お風呂は何と8階にある空中展望風呂だ。露天風呂は木の塀で隠され、外から見えないように工夫している。しっかり日が暮れているから、外は真っ暗で、なにも見えない。街のネオンがしゃかしゃか光る。寝間着のままで、ちょっと外を歩いてみようと思って、ホテルを出た。もうほとんど冬に近い北海道の夜は清い。お月様がうさぎちゃんを連れて、悠々たる姿で大地を照らす。少し湯冷めして、肌が寒く感じて来た。早速帰ろう。うー、おやすみ。

 

【9月19日】

 

 いよいよ最後の日となった。時間の過ぎるのが早すぎる。まだなにも見ていないじゃないの。もう帰らなくちゃ。人生て悲しいものね。いつになったら自由になれるのだろう。なにをしても何かに縛られ、自由自在で生きる人間がこの世の中にいるのだろうか、と考えさせられる。

 何やかんやと考えるより、とりあえず今日を過ごさないと話にはならない。予定では、午前中小樽に行って、昼前には千歳空港に着き、午後一時くらいの飛行機に乗り、午後三時に大阪に着く。それで三泊四日が徹底的に終了する。

小樽

 小樽は北海道屈指の工業都市として知られている。しかし、私は工業に全く興味がない。小樽ではガラスの記念館や、何とかという人の記念館や色々あるらしいけれど、私はどうしてももう一回北海道の海が見たい。タクシーを呼んで、小樽の一つ有名なところへ連れて行ってもらうことにした。ここはなんと地球が丸いということがわかる場所なのだ。海辺に一つの孤独な山があって、山の上には展望台が設けられている。遠くを見ると、この山を中心として、海と天とが連結している線が丸く円を描いている。地球は丸いんだ。この前、トンネルが崩れたところも遠くに見える。いまだに修復していないらしい。ここに立っていると、地球の大きさを感じる。永遠に際がない。人間って小さいものだね、無限の中の一粒の砂だ。

山の秘密

 この山はもう一つの秘密を持っている。展望台の真ん中に大きな石碑がある。タクシーの運転手さんが物語を語ってくれた。ある伝説では、この石碑より先は女が行ってはいけないところだそうだ。この伝説によると、船人が出航するときにどうしても自分の妻と離れたくなくて、秘密に連れて行った。女はこの石碑の場所を越え、船に乗ってしまったが、海に行ってから急に嵐が襲ってきて、船が沈んでしまったのだ。その後も何回も同じことが繰り返して発生し、船人はこれが女のせいだと決め、大きな石碑を立て、女が越えてはいけないところとなった。だから、ここは男と女の別れる場所でもある。

 しかし、現在では、ここがまさに男女差別の証拠になる。誰も伝説に追及しないが、実はこの石碑は昔、船人を安心させようとした手段だったのだ。妻を連れて行くとやはりどうしても仕事に集中できなくなるので、船人にとって本当に命がけの大事な問題だ。しかし、どちらにしても女性を拒否したことは事実であった。

 昔はどうでもいい。今現在の私の問題を解消しないと、誰も助けてくれない。早く帰らないと飛行機が飛んでしまう。運転手さんが私は留学生で、大阪から来たということが分かると、大変感心したようで、大サービスしてくれた。ラッキー!バスの集合時間になって、他の人は近くのガラスしか見られなかったが、私だけが思いもしなかった風景を見られて、大喜びだった。

 飛行機に乗り、無事に大阪へ戻った。三泊四日は短かったが、私にはとてもいい思い出になった。人生の中で何回も行けないだろう北海道、しっかりと記憶に残している。この喜びをもっと多くの人に伝えようと思って、Tulipsに載せていただくことにした。皆さん、ご満足頂けたでしょうか。