わたしの意見での最上の解決、エレガントな解決  (1) (1997年10月号

 

                        国際文化学部インドネシア学科4年 荒川明子

 

 私は就職活動をする気なんて「さらさら」なかった。できることなら除籍されるまで大学で居残ってたいなんて思っていた。大学は自由だ。お金にならないことにも熱中していられるし、学費をきちんと納め、人に迷惑さえかけていなければ、バイトをさぼって登録していない講義にモグってたって、登録した講義をさぼってバイトをしてたっていいのだ。

  な〜んて大きいこと書いてるけど、私はかなりの小心者。まわりの学生と同じようにしてなきゃコワイ、コワイ。で、結局世間の大学生とともに今年の4月から7月にかけて「資料請求ハガキ112枚、資料請求Eメール33件、会社訪問25件、書類選考に郵送参加しツルッとすべる8件」という標準型に近い就職活動をした。で、7月中旬に中堅のコンピューターソフト開発会社に内定。晴れて来春シンテムエンジニアの卵になる予定。9月の内定者連絡会では気の合う友達もできた。おいしい昼食もごちそうになった。ぶ厚いプログラミングのテキストももらった。連絡会の交通費もちょっと多めにもらったし、浮いたお金で帰り阿倍野セレナ「アフターヌーンティー」の紅茶を飲んだ。サザビーで新作のカバン買ったし、アニエスで試着したし、クラランスでサンプルの化粧品もらって、シュウウエムラでクレンジングオイルN、MIOのソニプラでジバンシィグランサンボンのサイバーピンクLマネキュアも買った。だのに、憂鬱。出るのは、ためいき。必死になってやるくせに一応クリアしたら、こんなもんかな?後の人生、私、結婚する気もないし、38年間働いて退職か・・・・。って、内定もらった会社、若い女の子しかいなかったなぁ。このあいだNHKで海外にて用兵していたちょっと村上龍に似てる男性が「日本の若者は老後のことばかり考える。老後買う縁台のお金を気にするから、将来したいことがないなんて言うのだ」っておっしゃってた。そうだ!私は快楽主義でいくぞ!ファーストプライオリティーを持ち、世間で生き抜く手段を持って・・・・。って、寝る前に誓い、起きたらすっかり忘れて、これからの多分で確実、平坦な人生を憂鬱に思う。

 阿部和重の『アメリカの夜』に「あなたは『右』ですか。私は一貫して『右』ですよ」という文があって、とある大学で学長をされてる映画評論家が絶賛してたけど、私なら「あなたは『卑怯』ですか。私は一貫して『卑怯』ですよ」なんてなるだろうな。だって、老後に縁台ですわるだけの寿命が私にある保証はないし、なにかと遠い将来の不安で現実を満たす私は、ヒロミックスの写真より卑怯かも。

  でもそんなことばっかり書いてられない。次回は就職活動の体験を書いてみたいと思います。来年就職活動をする方も、数年後退職される方もぜひご一読下さいませ。

 


わたしの意見での最上の解決、エレガントな解決  (2)(1997年11月号

 大半の就職活動は「会社説明会」*(1)に足を運ぶことから始まる。名のとおり「会社」の「説明」をするのだが、第一次選考を兼ねている場合が多い。
 「え〜、本日はお忙しい就職活動のなか、え〜、当社の説明会に参加していただきまして誠にありがとうございます」なんて心にもない前置きがあって、「え〜、先程お配りしましたパンフレット、あっお手元にパンフレットのない方おられますか?(辺りを見渡す)はい、それではしばらくの間、当社の経営理念・業務内容・福利厚生等、説明しますのでよろしくお願いいたします。ご質問のある方は、後でお受けいたしますので、はい、え〜、よろしくお願いいたします」てな具合で「説明」は始まり、「え〜、時間の都合もございまして、このあたりで説明は終わらせていただきます。それでは、何か御質問、ございませんか?」で終わる。「説明」は、短くて15分、長くて2時間半のものがあった。
 この間、学生は何をしているか?真面目な就職活動家は、人事担当者の気を引く「質問」を必死に考えている。「就職活動」の重要なキーワードに自己PRがある。この「質問」タイムで気のきいた質問(=自己PR)をすれば、後々有利になる場合がある。説明会に行く=自分を売り込みに行くなのだ。「○○大学の××と申します。よろしくお願いいたします。オンシャ(御社)*(2)の☆☆☆に対してお聞きしたいことがあります。先ほどの・・ 」てな具合である。大きくハキハキとした声で、迷いのない志の高い好青年を気取り、人事担当者のノドボトケあたりを優しくみつめながら、端的かつセンスのいい質問をする。
 え?そんなこと書かれたってセンスのいい質問って何なのよ!大丈夫、数回説明会に行けばわかりマス。で、資料請求で自前に入手したパンフレットをじっくり読み「質問」持参で説明会に挑んだら、そういうときに限って「質問」タイムが割愛されており、半ば強制的に第一次選考に参加するはめになんてのも、アリである。
 「え〜、これで説明会は終わります。それでは引き続き第一次選考に移らせていただきます」てなわけで、一般教養やSPI*(3)の試験用紙、作文用紙などが配られ、帰るに帰れない状況になることがある。私が4月に受けた製薬会社で、90分程の説明のあと、一通りのSPI、集団面接、作文をしたところがあった。私の知る限りこれが一番丁寧な第一次選考である。
「え〜、本日はどうもお疲れさまでした。試験(面接)をもとに選考させてもらいます。一次選考に通られた方には○月×日までに郵送にて連絡します。で、え〜、○月×日までに連絡のない方は、ご縁がなかったということで、ご了承くださいませ。これからも就職活動がんばってください!」*(4)てな感じのしめの言葉で、会社説明会は幕を閉じる。
 熱心な就職活動家は、午前に1コ、午後に1、2コの説明会をこなす。4月のはなしだが、そんな彼らのスケジュール帳をみせてもらうと4月、5月の欄は説明会でびっしりつまっていた。
「あの〜、ゼミとか、どうしてます?」オズオズときく私。
「は?そんなの大丈夫、大丈夫!後期になったら顔出すから」
出すほどの顔じゃないと思うが、とにかく学生は学生で必死なのだ。年配者のなかには若かりし頃、学生運動で燃えた方がいらっしゃるかもしれないが、それと同じく我々の世代は就職活動に燃えている。ただどんなにがんばったとしても我々はバリケードは張らない。アンチではなく人並みなことに順応しようとリクルートスーツを着て戦うのだ。とにかくゼミと就職活動、どちらを優先するかは学生の(苦しい)選択だ。それとゼミの先生の方針もある。が、卒論のテーマ等は、説明会エントリーカードに書くときがあったし、面接で聞かれることもよくあった。だいいち、内定もらっても卒論がだめなら、卒業できない。

*(1)会社説明会  まず、資料請求ハガキ・メールを出したり、合同説明会に行
         ったり進路課の求人票・新卒者募集のチラシ、就職情報誌を
         読み、説明会の情報報をゲットする。予約が必要なものは早
         めに連絡する(「エントリーする」という)。ちなみに、説明
         会のとき印鑑を持参するよう指示があったら交通費が支給さ
         れる。ときどき、口座に振り込んでくれることもある。
本年度は4月〜7月上旬に多く、会社の会議室、ホテルで行
         われることが多かった。もちろん今も数は少ないが行われて
         いる(秋季採用・通年採用)。
*(2)オンシャ(御社)
         一ヶ月も就職活動をしていればすんなり出てくる言葉。大半
         の学生が使う(cf.ワタクシ)。本音のところ、あまり心の
         こもったコトバでもないので、「会社さん」や「○×(会社
         名)さん」を使うひともいる。
*(3)SPI(Synthetic Personality Inventory)   
         総合適正検査の名称。能力検査(言語能力・非言語能力を測
         るもの)と性格適正検査からなる。マークテスト。足切りと
         して用いられることが多いらしい。SPIの問題集は一般教
         養の本と並んで本屋においてある。
*(4)(文章の中で書いた人事担当者のセリフ)
         だいたい、あんまりかしこまって言う説明会の方が「カタチ」
         だけのものだったり(はじめから採用する気がない)、とん
         でもない競争率だったりする。落ちても気を悪くしない配慮
         だと思う。学生といえども、結局お客様の業界に多い。一度、
         資料請求の電話をして「お忙しいところ、申し訳ありません
         が」と言ったら、「いえいえ、何をおっしゃいます。何なり
         とおっしゃって下さいませ」と返されたことがあった。学生
         の方も影響されて口先だけだんだんうまくなっていく人もい
         る。もちろん、説教半分で話される人事の方もいる。