単位の値段

自然科学研究室 曽山典子

 

単位を取得することは学生にとって常に気にかかることであるらしい。卒業年次ともなると切羽詰まってくるのか、受講生から「単位をください」とお願いされることがある。「単位」を「仕事」、「お金」、「愛」に替えると納得いくのだが、「単位をください」はどう考えても変な「お願い」である。なぜなら単位は受講生が自らの力で取得するものであって、担当教官が「プレゼント」するものではないからである。「何を今更当たり前のことを言うのだ」と憤慨する学生諸氏はれっきとした大学生であり、「わかっちゃいるけど欲しいのよ」と思う人は「単位」と「大学卒業資格」をお金で購入していることになる。では、「単位」に値段をつけるとするといくらになるのだろう。

授業料(年間70万円×4)を卒業に必要な単位数で割ると1単位 21,500円であり、4単位の科目は86,000円ということになる。1科目1年間の講義数を平均27回とすると1回の講義の値段は約3,200円也となる。巷にある英会話学校やパソコン教室の授業料と比較するとほぼ同じ価格であろうか。毎月月謝袋を持って大学の授業を受講するとしたら、一回たりとも無駄にできないと思うだろう。教える側からみてもあだやおろそかにできない金額である。

 

 

 

 卒業するために必要な単位は4年間で取得するにはそれほど困難な数ではない。資格取得のための単位も取るとして1年間40から50単位程度で、通年4単位の科目を取得するとして、週10から13科目を履修すればよい。しかし、大半の学生は1,2回生の間に全単位の7割から8割を取得することを目標にして履修登録をしているのか、できるだけ空き時間がないように授業を埋める。これでは予習復習はおろか、課題もままならないであろう。そこで選択科目に関しては予習復習の必要がなく、できるだけ容易に確実に単位が取れる科目を選択するということになるらしい。例外として「情報科学」や「コンピュータ入門」などは予習復習を必要とする選択科目であるが、履修希望者は多く受講生はまじめに授業を受けてくれる。多くの受講生に履修希望の理由を聞くと「就職に必要だから」、「すぐに役立ちそう」、「家にパソコンがあるのだが使い方がわからないから」など「実用的科目である」という理由が圧倒的に多い。

学生の大多数はこのように「卒業」と「単位」を気にしながら4年間を送ることになるのだが、社会に出ると「人」の評価はけっして「学士資格」や「取得単位の成績」ではなく、その人が持っている能力で判断される。この能力の中には教養知識、可否判断するために必要な情報を整理し分析する力、考察力、実行力、表現能力、コミュニケーション能力などがある。これらはノウハウを教えてもらって短期間で身につくようなものではない。大学には、1年間でこれらの能力がすぐに身につくような授業はないが、これらの能力を身につけるための基礎となる力を身につけることができる授業が用意されている。このような科目は一見難解そうで実用的でないように思えるかもしれないが、1年の講義に真剣に取り組むことによって身体に染み付くものがあり、これは職業訓練校やカルチャーセンターでは得られないものである。

入学したからには無事に卒業したい。しかし、卒業することばかり考えて履修科目を選択すると「単位の値段」は1単位あたり約21,500円也となる。では、大学で勉強する本来の目的を常に意識して履修すれば「単位の値段」はいかほどになるだろう。教える側としては「値がつけられません」と言ってほしいところだが、これは教える側の腕にかかっている。

 

 

教養部発行キャンパス情報誌Tulips 

200213月号(第8巻第5号、通巻62) 200236日発行

発行人  池田士郎(教養部長)

編集長  伊藤義之(社会)

編集委員 

浅川千尋(社会)

小林正佳(人文)

曽山典子(自然)

千原雅代(教職)

山中秀夫(図書)

 

 
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