特集 Fフォーラム講演会
去る5月22日(火)午後4時半から6時半まで第5回Fフォーラム講演会が開催された。雨模様の天気のなか、会場の24A教室には学生を中心に超満員の250名以上の聴衆がつめかけ、講演者の雪田弁護士の話に聞き入った。雪田弁護士は横山ノック事件の経緯、民事訴訟および刑事訴訟の概要、裁判のポイント、被害者のサポート、支援体制などについて両訴訟を中心に、担当弁護士ならではの話も交えながら約1時間講演した。講演後は、学生を中心に活発な質問が出され、雪田弁護士はその質問に丁寧に答えていた。
被害者の視点・人権と性犯罪、
そして加害者の人権
社会科学研究室 浅川 千尋
今回の講演会のテーマに関連して、少しだけコメントをさせていただこうと思う。性犯罪、セクシュアル・ハラスメントについて学生からよく出される質問がある。その一つに、女性による男性への性犯罪、またはセクシュアル・ハラスメントは犯罪にならないのかあるいは存在しないのかというものがある。これに対する回答は、当然男性が被害者になる性犯罪はあるし、いわゆる逆セクシュアル・ハラスメント(女性による男性へのセクシュアル・ハラスメント)も存在するということになる。たとえば、刑法第176条では強制わいせつ罪が規定されており、男女が被害者となる。そのなかには、女性による男性への強制わいせつも含まれているのである。ただし、性犯罪、セクシュアル・ハラスメントの圧倒的多くは男性による女性に対するものなのである。したがって、まずはこのような現状認識から出発することが重要である。
性犯罪(セクシュアル・ハラスメントも含めて)を考えるにあたって、被害者の視点・人権からその問題を考察していかねばならない。いまだに根強く主張される「被害者の落ち度」論、すなわち「被害者にも落ち度があったのではないか」「なぜ抵抗しなかったのか」などという主張が、被害者の実態を無視したいかに根拠がないものなのか。被害者の人格を無視した主張なのか。被害者の精神的ダメージ、心の傷の深さに、われわれは思いをはせねばならないであろう。セカンドレイプやセカンドセクシュアル・ハラスメントは、被害者の人格を著しく侵害する行為である。性犯罪においては、被害者の人格やプライバシーが何よりもまして保護されねばならない。つまり、「被害者の人権」がまずもって保障されねばならないのである。
近年、刑事司法制度においても「被害者の視点・人権」から法制度上の問題点が指摘され、徐々に制度の見直しがされ始めている。2000年5月に公布された「刑事訴訟法および検察審査会法の一部改正法および犯罪被害者等の保護に関する法律」では、たとえば性犯罪に関する告訴期間が無制限になった(これまでは犯人を知り得た日から6ヶ月以内)。従前は、性犯罪の被害者は告訴しようかどうか思い悩んでいるうちに(思い悩める状態にもなれない被害者も多いという)、告訴期間が過ぎてしまうというケースもあったであろう。 今回の法改正は、被害者の視点から問題を考えるうえでは1歩前進である。
性犯罪を含めて犯罪を論じるうえで、他方で「加害者の人権」も考えていくかねばならない。ここでいう加害者の人権の主な中身は、加害者が適正な手続きに基づき適正な処罰をされる権利、そしてプライバシーの保護である。大学などでセクシュアル・ハラスメント問題が起こる際に、よく大学の一部で「加害者の人権を守れ」という主張がされる。この場合にその趣旨は、加害者の身分を保障せよ、問題を大きくするな、処分をするな、という類である。このような主張は、正確な意味で「加害者の人権」という言葉を用いていないといえよう。「加害者の人権」とは、いくら犯罪を犯した者でも犯罪に関すること以外のことについて問題にされたり(たとえば家族の話題など)、報道されたりしない、ということである(プライバシーの保護)。また、加害者には適正な手続きに基づいて適正な処罰をされる権利(公正な裁判を受ける権利、弁護人選任権など)が保障されねばならないのである。
今後は、一方で「被害者の視点・人権」に重点を置き、他方で「加害者の人権」にも配慮して、両者のバランスをはかりながら性犯罪の問題解決にあたるという発想がより一層求められているのである。
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法学、教養講義4(ジェンダーと現代)、教養講義5(こころと家族)、行政法の受講者で講演会に参加した学生より感想文が多く寄せられています。掲載に同意したもののなかからいくつかを今号と次号で連載していく予定でいます。 内容上学部氏名などを伏せざるをえなかったものが1つあります。(浅川)
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4回生 女子
今回のセクシュアル・ハラスメントの講演に参加して、性犯罪被害者の叫びが聞こえてくるような気がする程のショックを受けた。 実際に、自分もある意味でのセクシュアル・ハラスメント行為を受けた経験がある。 自分の場合は、その現場である程度の抵抗をし、被害の度合いでいうと低い段階で被害を食い止めることができた。しかし、精神的な面で大きなダメージを受け、現在でも男性が怖く、男という生き物を信用できなくなった。精神的な面での被害だけでなく、男性の心ない悪い噂により、いまだに精神的に傷つけられることも少なくなく、ストレスや自信喪失による摂食障害を引き起こし急激な体重減少に悩まされている。
今回の講演を受講させていただき、過去に受けたセクシュアル・ハラスメントを完璧に抵抗できなかった弱い自分、その被害を訴えることのできなかった情けない自分を少しだけ許してあげられるようになった。「セクシュアル・ハラスメントは、精神的な死を招く性暴力である」というワンフレーズ(朝日新聞3月22日付けの記事のなかのフレーズ、講演会の資料から――編集委員会注)は、被害者の立場からしてみると全くその通りだと考える。精神的な死は、肉体的な死につながると、私は考える。精神的ストレスにより、自分のように摂食障害やうつ病、対人恐怖症、様々な精神病を引き起こす。 自分のように後々後悔する人が、少しでも減るように今回のような「性的犯罪」についての講演を行っていただきたいと思う。 一人で悩み続け、誰にもうち明けることのできなかった性犯罪被害者に希望をあたえることにつながる、今回のような素晴らしい講演を受講させていただけたことを嬉しく思った。
国際文化学部ドイツ学科4回生 松永 義勝
今回Fフォーラム講演会において、雪田弁護士からノック事件に関していろんな話を聞いて自分なりに思ったことや感じたことを書こうと思う。 横山ノックのセクシュアル・ハラスメントを訴えた大学生は、最初はノックのような人物が大阪府知事になってはだめだと思って、告訴したようだが、その後にマスコミにふりまわされたり、ノック陣営に中傷されたりと、本当に大変だったということが伝わった。セクシュアル・ハラスメントには、言葉によるものと、身体への接触などと二分されるようだが、要は相手の女の子が不快に思うのかどうかを、相手とのコミュニケーションをしっかりして理解してそれをわきまえた上で人間関係を保つことが男性には必要ではないであろうか?
これは勝手な意見かもしれないが、相手といろいろなことを腹を割ってしゃべれる関係でないのに、男女お互いに性的な話をされても、苦痛でしかたないだろう。おそらく、学校や会社で男性が女性に言葉によるセクシュアル・ハラスメントを行うときには、男性が「この女性とはこんな下ネタ話してもいいだろう。」とコミュニケーションの手段に使っているのではないだろうか? ただ女性は、会社や学校で縦のつながりの人(上下関係)などにそうされても言い返せないという葛藤のなかで苦しんでいるのかなと思う。男女とも信頼関係がありお互いにマナーをわきまえた上で言動をすべきであると感じた。
国際文化学部中国学科2回生 八木 素子
まず最初にお話を聞かせていただいて本当によかったと思いました。勉強になりました。 日常弁護士の先生のお話を聞かせていただく機会がありません。弁護士といったら高慢で人情などない人だと思ってました。しかし、雪田先生の人柄でしょうか、本当に被害者の気持ちを考えて弁護されていると思いました。
私は横山ノックの事件について詳しく知りませんでした。しかし、お話を聞いてこの人は本当に卑怯者だと思いました。権力を利用して大衆に無実だと思いこませ、裁判にも出廷しない。こんな人が大阪知事だったとは腹立たしいことです。被害者は、周りの人に「あんたもスキがあったんじゃないの」と言われたそうです。この人は何も悪くないのに友達が離れていくし、大学にも行きづらいし、精神的にも大きなダメージを受けました。その一方で加害者は、セクシュアル・ハラスメントがばれないように工作したり無実を訴えたり最低な人です。セクシュアル・ハラスメントは、権力がある人、目上の立場の人がするのだと初めて知りました。
横山ノックを訴えた被害者は、よく頑張ったと思います。 権力を鼻にかけている人は、大衆による裁きを受けるべきです。このことで少しはセクシュアル・ハラスメントを防止することができるのではないかと思います。男性と女性では感覚の違いもあります。ジェンダー的な考えを植え付けようとも、長年男尊女卑の国だったから難しいとは思います。しかし、あきらめてはなりません。
文学部国文学国語学科1回生 津田 賢一
今回のテーマは非常に興味があった。法学の授業である程度の概要は知ることができたが、やはり違った切り口から「セクシュアル・ハラスメント」というテーマに迫って見識を広げたかったからだ。また、テレビや雑誌でさまざまに報じられた事件の裏側を見ることができる絶好の機会でもあったからだ。
おおよその事は、ニュースなどで知っていたが、驚いたのは被害者の告訴する速さだ。地位的に不利な立場にありながら勇気を持ったこの行動は大変恐れ入った。普通ならばなかなかできるものではないと思う。また、被害者側の生の声を聞けたのも大きな収穫であったと思う。雪田先生が涙ながらに語ったのには心をふるわされた。
弁護団にとっても被害者にとっても前大阪知事を相手に闘うことは大変なことであったであろう。ある会社に勤務する私の友人も上司によるセクシュアル・ハラスメントで悩んでいる。訴訟を起こすまでには踏み切れないでいる。このような人々は現代社会では大勢いる。この状況を変えていくのにあの被害者のような勇気が大きく貢献していくと思う。
国際文化学部英米学科1回生 松久 智彦
雪田樹里弁護士のお話を聞くことができて本当に嬉しく思っております。そして、セクシュアル・ハラスメントが民事裁判としておもに訴えられるのであり、刑事裁判として告訴されるのはよほど重大でない限りないということにびっくりしました。セクシュアル・ハラスメントに重大も重大でないも関係ないと思いました。そして、2次被害というマスコミ、周囲の人達の疑念があり、女性作家達などが被害者を責める。例えば、被害者がなぜ抵抗しなかったのか、被害者が悪い、我慢しろ、などと言うことです。 犯罪そのものを責めるより被害者の行動を責めることです。
その一方で、被害者のプライバシーの保護、匿名希望、法廷で傍聴人や加害者から被害者を見えないようにする、カウンセラーが待機するなどが考慮されてきています。
女性の性的被害は、顔見知りによるものが7割ぐらいあって、被害者は別に挑発していないようです。被害者が声を出せないのも立派な抵抗であるということは考えられていないわけです。
人間学部人間関係学科社会福祉専攻1回生 種村 理太郎
現在の社会のセクシュアル・ハラスメントへの理解は、日進月歩であると思った。今回の話では、男性から女性へのセクシュアル・ハラスメントの件であったが、女性から男性へのセクシュアル・ハラスメントも存在するのであろうか。また、少しだけ接触しただけでセクシュアル・ハラスメントといわれた場合の男性の人権やセクシュアル・ハラスメントの線引きを明確にしていかなかれば、男性と女性の異性同士の関係がぎくしゃくしていくのではないだろうか。人の心という面、いわゆる精神的な面と、法律などといった制度的な面から考えていかねばならいのではないであろうか。
国際文化学部ブラジル学科3回生 須田 育恵
今回の話はとても興味がありました。なぜなら性犯罪にあった女性が逆に責められるということがあるというのを昔から聞いたことがあったからです。ひどい時には親にまで「あんたにスキがあったからレイプされたんだ。恥知らずが。」という話を開いたときには、どうしたらそんな考えができて、そんなことが言えるんだろうとひどく胸が痛みました。「自分の立場に置き換えたら・・・」そんなことすらその人たちにはできないのでしようか。配られたプリント内に「被害者を責める女性は、自分はそうはならないとたかをくくっている」とありました。本当にその通りだと思います。人間には強い人もいれば、弱い人もいます。自分の言いたいことをはっきり言える人もいれば、言えない人もいます。そして、もしレイプされそうになった時に声を上げて激しく抵抗できる人もいれば、あまりの恐さに体が動かなくなり、声も出なくなる人もいると思います。でも、「恐怖」という意味ではどちらも同じ「恐怖」だと思います。なぜ、抵抗できなかったことを責められなければならないのでしょうか?
最近になってやっと少しずつ被害者となった女性の立場や気持ちが考えられるようになってきていますが、まだまだ世の中の「性犯罪」への認識が甘いと思います。私が幼い頃から両親は「もし自分の娘がレイプされたら、犯人を殺す」と言っていました。私はその親の考えは「親として」正しいと思います。もし親や親戚まで被害者を責めたら、彼女は一生自分を責め続けます。想像を絶する恐怖の中で、激しい苦痛に耐え、自分の女性としての性がめちゃくちゃに壊され、生きることさえもつらくなった彼女たちが自分を責めるなんて、これ以上残酷なことはあるのでしょうか?
これからももっと性犯罪にあった女性の立場を最優先する法律や制度が改正・申請されることを強く願います。そして、一番問題のある世の中の性犯罪被害者への偏見を根絶することが最大の目標だと思います。