H11年度論文式試験
憲法
一 受刑者Aは、刑務所内の処遇改善を訴えたいと考え、その旨の文書を作成して新聞社に投書しようとした。刑務所長は、Aの投書が新聞に掲載されることは刑務所内の秩序維持の上で不相当であると判断して、監獄法第四六条第二項に基づき、文書の発信を不許可とした。
右の事案に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。
二 X市は、住民の静穏な生活環境を良好に保持するために、次のような趣旨の条例を制定した。この条例の憲法上の問題点について論ぜよ。
1 X市の一定の区域内でパチンコ店を営業しようとする者は、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)の許可のほかに、あらかじめ市長の同意を得なければならない。
2 市長の不同意に不服がある者は、裁判所に訴えを提起する前に、X市の設置する、市長及び議会から独立して職権を行使する不服裁定機関の裁定を受けなければならない。
民法
一 Aは、工作機械メーカーのBとの間で、平成一〇年一月一〇日、「Bは、Aに対し、同年五月三一日までに、Aの工場専用の工作機械を製作してAの工場に設置して引き渡す」「代金(設置費用の実費二〇〇万円を含む。)は八〇〇万円とし、Aは、Bに対し、契約締結日に内金三〇〇万円の支払をし、工作機械の引渡しの日の翌月末日に残代金五〇〇万円の支払をする」との約定で契約を締結し、代金の内金三〇〇万円の支払をした。なお、工作機械を設置するには、Aが工場を事前に改造する必要がある。
Bは、同年四月三〇日に工作機械を完成したため、その旨を直ちにAに連絡して工場の改造を求め、その後も度々改造を求めたけれども、Aが一向に工場の改造に取り掛からないため、工作機械を設置することができないまま、同年五月三一日が経過した。なお、Bは、金融業者から工作機械の製作費用として三〇〇万円を借り、同年五月三一日までの利息として二〇万円の支払をした。
Bは、Aに対し、契約を解除する旨の意思表示をし、損害賠償として代金相当額八〇〇万円及び金融業者に対する利息金相当額二〇万円の合計八二〇万円の支払を請求した。これに対し、Aは、その解除及び損害賠償額を争っている。
まず、Bの契約解除が認められるかどうかについて論じた上で、仮に契約解除が認められるとした場合のAB間の法律関係について論ぜよ。
二 民法の規定によれば、(1)詐欺による意思表示は取り消すことができるとされている(第九六条第一項)のに対し、法律行為の要素に錯誤がある意思表示は無効とするとされており(第九五条本文)、(2)第三者が詐欺を行った場合においては相手方がその事実を知っていたときに限り意思表示を取り消すことができるとされている(第九六条第二項)のに対し、要素の錯誤による意思表示の無効の場合には同様の規定がないし、(3)詐欺による意思表示の取消しは善意の第三者に対抗することができないとされている(第九六条第三項)のに対し、要素の錯誤による意思表示の無効の場合には同様の規定がない。
「詐欺による意思表示」と「要素の錯誤のある意思表示」との右のような規定上の違いは、どのような考え方に基づいて生じたものと解することができるかを説明せよ。その上で、そのような考え方を採った場合に生じ得る解釈論上の問題点(例えば、動機の錯誤、二重効、主張者)について論ぜよ。
商法
一 株式会社の株主総会と有限会社の社員総会とではどのような違いがあるか、そのような違いはどのような理由によるものであるかを論ぜよ。
二 甲は、乙から購入した商品の売買代金の支払のために、乙に対して約束手形を振り出したが、この売買契約は、乙の詐欺によるものであった。丙は、その事情を知りながら、乙から手形の裏書譲渡を受けた。その後、甲は、乙の詐欺を理由に、満期前に、売買契約を取り消した。
1 丙が、満期に、甲に対して手形金の支払請求をした場合、この請求は、認められるか。
2 甲の取消前に、丙が事情を知らない丁に、この手形を裏書譲渡し、その後、取消前に、丙が丁から裏書譲渡を受けた場合において、丙が、満期に、甲に対して手形金の支払請求をした場合は、どうか。
刑法
一 甲と乙は、乙の発案により、路上で通行人を恐喝して金を取ることを計画し、ある夜、これを実行に移すことにした。予定の場所に先に来た甲は、約束の時間を過ぎても乙が現れないため、いらいらしていたが、そこに身なりの良いAが通り掛かったので、計画を実行することにし、Aに近づいて「金を出せ。」と脅した。Aが逃げようとしたため、気の短い甲は、いっそAを気絶させた方が手っ取り早いと考え、携帯していたナイフの柄の部分で背後からAの頭を力任せに殴った。そこに現れた乙は、それまでのすべての事情を了解し、甲と一緒に、意識を失いぐったりしたAの懐中から金品を奪った。乙が一足先に立ち去った後、甲は、Aの様子がおかしいことに気付き、息をしていないように見えたことから既に死亡しているものと誤信し、犯行の発覚を防ぐため、Aの身体を近くの山林まで運び、茂みの中にそのまま放置した。Aは、頭部に受けた傷害のため数時間後に死亡した。
甲及び乙の罪責を論ぜよ(特別法違反の点は除く。)。
二 甲は、食料品店主Aに対し、「指定した口座に四〇〇万円振り込まなければ、商品に毒を入れるぞ。」と電話で脅し、現金の振込先としてB銀行C支店の自己名義の普通預金口座を指定した。やむなくAが二回に分けて現金合計四〇〇万円の振込手続を行ったところ、二〇〇万円は指定された口座に振り込まれたが、二回目の二〇〇万円は、Aの手続ミスにより、同支店に開設され、預金残高が三七万円であった乙の普通預金口座に振り込まれてしまった。その直後、乙が三〇万円を通帳を使って窓口で引き出したところ、なお残高が二〇七万円となっていたので、誤振込みがあったことを知り、更に窓口で一〇〇万円を引き出した。乙は、家に戻りその間の事情を妻丙に話したところ、丙は、「私が残りも全部引き出してくる。」と言って同支店に出向き、乙名義の前記口座のキャッシュカードを用い、現金自動支払機で現金一〇七万円を引き出した。
甲、乙及び丙の罪責について、他説に言及しながら自説を論ぜよ。
民事訴訟法
一 債務不存在確認の訴えの特質について論ぜよ。
二 甲は、乙に対し、不法行為に基づく損害賠償の一部請求として、一、〇〇〇万円の支払を求める訴を提起した。審理の結果、乙に不法行為が成立すること及びこれによって甲が蒙った損害は一、五〇〇万円であることが認められるとともに、当該不法行為については甲にも過失があり、過失割合は、甲が四割、乙が六割であることも認められた。次の事情がある場合、裁判所はどのような判決をすべきか。
1 乙は、乙の行為と甲の損害との間に因果関係がないとの主張の中で、甲の行為が損害の発生につながったとの事実を主張していたが、過失相殺をすべきであるとの主張はしていなかった。
2 乙は、甲の過失に関するいかなる主張もしていなかった。
刑事訴訟法
一 窃盗罪の現行犯人として逮捕された甲について、現行犯逮捕の要件は欠いていたが、緊急逮捕の要件は備わっていたことが判明した。
1 右逮捕に引き続いて、甲を勾留することはできるか。
2 甲について、勾留請求をせずに釈放した後、同一の被疑事実で再逮捕し、勾留することはできるか。
二 単独で強盗をしたとして起訴された甲は、公判において、「兄貴分乙に命じられて、強盗をした。」と主張した。裁判所は、「甲と乙との共謀を強く推認させる事実が認められる一方、共謀の事実を否定する乙の供述も虚偽とは言い難い。」と判断した。
このような場合に、裁判所は、「甲は、単独又は乙と共謀の上、強盗をした。」と認定し、甲に対して有罪判決を言い渡すことができるか。
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