万葉集 枕詞における用字研究「あかねさす」  2008年6月16日掲載  当サイト管理人 植芝 宏

「あかねさす」の用字

一字一音 安可祢佐須
一字一音と訓読みの組合せ 赤根佐須
訓読み 茜草指、茜刺、赤根刺、赤根指



「安可祢佐須」は akanetsatsu と発音

 岩波書店 日本文学大系『万葉集一』の解説 「奈良時代の音節及び万葉仮名一覧」から抜粋。
 ■・・・私の使用するパソコンでは漢字変換できない漢字。
音節 推古朝 古事記・万葉集 日本書紀
あ a 阿、安 阿、婀、鞅
訓仮名・・・足
か ka 加、架、迦、賀、嘉、可、哥、■、詞、甲、汗、香、箇、蚊、閑、何 加、伽、迦、煤A可、河、柯、歌、詞、舸、介、箇
訓仮名・・・蚊、鹿
ね ne 尼、泥、念、年、祢 尼、泥、■、涅、祢
訓仮名・・・根、宿、
さ tsa 佐、作、沙 左、佐、作、酢、沙、■、草、散、者、柴、積、 左、佐、作、沙、婆、舍、差、瑳、磋
訓仮名・・・狹
す tsu   須、周、州、洲、酒、珠、數、寸 須、周、主、酒、秀、素、蒭、■、殊
訓仮名・・・栖、渚、酢



枕詞「あかねさす」の語源はつる性多年生植物、アカネ(茜)の赤い根。そしてその草木染めの色である
 東の空にアカネ色に映える意から昇る太陽を連想し、日(ひ)、昼(ひる)、照る、紫にかかる。
「あかねさす」の「さす」は色や光が映える意。

 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』によると、
アカネ(茜 Rubia argyi)はアカネ科のつる性多年生植物。分布は中国、朝鮮半島、日本。
日本では本州、四国、九州に分布し、路傍や林の縁などでよく見かけることができる。
根は乾燥すると赤黄色から橙色となり、赤い根であることからアカネと名づけられたといわれる。シノニムR. akane。
利用方法
アカネの根を煮出した汁にはアカネ色素が含まれており、これを使った草木染めが古くから行われており、茜染と呼ぶ(黒い果実も染色に使える)。また、その色を茜色と呼ぶ。
また秋に掘り起こした根を天日で十分乾燥させたものは生薬の茜草根として知られている。

 訓読み枕詞「赤根刺、赤根指」は、アカネ科のつる性多年生植物、アカネ(茜 )の赤い根を語源とし、
訓読み枕詞「茜草指、茜刺」は茜を使った草木染めの色、茜色で、当時はその色も輝くように感じたらしい。



大体の色見本「茜色」 #a70036




枕詞「あかねさす」の分布

  合計 表記 作者
巻1 1首 訓読み 額田王
巻2 2首 訓読み 柿本人麻呂
巻3 なし    
巻4 1首 訓読み 賀茂女王
巻5 なし    
巻6 1首 訓読み 車持千年
巻7〜巻10 なし    
巻11〜巻13 4首 すべて訓読み 柿本人麿歌集、作者未詳
巻14 なし    
巻15・16 2首 一字一音 1首 中臣宅守
一字一音と訓読みの組合せ 1首 (佐為王近習婢)
巻17・18 なし    
巻19・20 2首 訓読み 1首 大伴家持
一字一音 1首 橘諸兄



枕詞「あかねさす」と「ぬばたまの」の対句
 枕詞「あかねさす」は13首に詠まれ、うち、「ぬばたまの」と対句になった歌が6首。

一番多い対句例は
 あかねさす ひるはしみらに ぬばたまの よるはすがらに
 赤根刺    晝者終尓     野干玉之  夜者須柄尓   (3270)
 赤根刺   日者之弥良尓    烏玉之   夜者酢辛二   (3297)
 赤根刺   晝波之賣良尓 ・・・ 夜干玉乃  夜者須我良尓  (4166)

 で、当時この対句が定型化し広く世の中に流布していたのであろう。

国歌大観番号 枕詞 掛かる詞 作者 原文と読み
2 169 茜刺 柿本人麻呂 茜刺 日者雖照有 烏玉之 夜渡月之 隠良久惜毛
あかねさす ひはてらせれど ぬばたまの よわたるつきの
かくらくをしも
或本以件歌為後皇子尊殯宮之時歌反也
13 3270(長歌) 赤根刺 晝(昼) 作者未詳 ・・・将宿君故 赤根刺 晝者終尓 野干玉之 夜者須柄尓・・・
ぬらむきみゆゑ あかねさす ひるはしみらに ぬばたまの
よるはすがらに
3297(長歌) 赤根刺 作者未詳 ・・妹西不會波 赤根刺 日者之弥良尓 烏玉之 夜者酢辛二・・
いもにしあはねば あかねさす ひるはしみらに ぬばたまの
よるはすがらに
15 3732 安可祢佐須 比流(昼) 中臣宅守 安可祢佐須 比流波毛能母比 奴婆多麻乃
あかねさす  ひるはものもひ  ぬばたまの
欲流波須我良尓 祢能未之奈加由
よるはすがらに   ねのみしなかゆ
19 4166(長歌) 赤根刺 晝(昼) 大伴家持 ・・・赤根刺 晝波之賣良尓 安之比奇乃 八丘飛超
あかねさす ひるはしめらに あしひきの やつをとびこえ
夜干玉乃 夜者須我良尓・・・
ぬばたまの よるはすがらに
20 4455 安可祢左須 比流(昼) 橘諸兄 天平元年班田之時使葛城王従山背國贈薩妙觀命婦等所歌一首
安可祢左須 比流波多〃婢弖 奴婆多麻乃
あかねさす  ひるはたたびて  ぬばたまの
欲流乃伊刀末仁 都賣流芹子許礼
よるのいとまに   つめるせりこれ



■抽出データ

国歌大観番号 枕詞 掛かる詞 作者 原文と読み
01 0020 茜草指 武良前
(紫)
額田王 天皇遊・蒲生野時額田王作歌
茜草指 武良前野逝 標野行 野守者不見哉 君之袖布流
あかねさす むらさきのゆき しめのゆき のもりはみずや
きみがそでふる
02 0169 茜刺 柿本人麻呂 茜刺 日者雖照有 烏玉之 夜渡月之 隠良久惜毛
あかねさす ひはてらせれど ぬばたまの よわたるつきの
かくらくをしも
或本以件歌為後皇子尊殯宮之時歌反也
0199(長歌) 赤根刺 柿本人麻呂 高市皇子尊城上殯宮之時柿本朝臣人麻呂作歌一首
・・・埴安乃 御門之原尓 赤根刺 日之盡 鹿自物・・・
はにやすの みかどのはらに あかねさす ひのことごと
ししじもの
04 0565 赤根指 照有月夜 賀茂女王 大伴乃 見津跡者不云 赤根指 照有月夜尓 直相在登聞
おほともの みつとはいはじ あかねさす てれるつくよに
ただにあへりとも
06 0916 茜刺 車持千年 茜刺 日不並二 吾戀 吉野之河乃 霧丹立乍
あかねさす ひならべなくに あがこひは よしののかはの
きりにたちつつ
右年月不審
但以歌類載於此次焉
或本云
養老七年五月幸于芳野離宮之時作
11 2353(旋頭歌) 赤根刺 所光月夜 柿本人麿歌集 長谷 弓槻下 吾隠在妻 赤根刺 所光月夜邇 人見點鴨
はつせの ゆつきがしたに わがかくせるつま あかねさす
てれるつくよに ひとみてむかも
一云
人見豆良牟可
ひとみつらむか
12 2901 赤根指 作者未詳 赤根指 日之暮去者 為便乎無三 千遍嘆而 戀乍曽居
あかねさす ひのくれゆけば すべをなみ ちたびなげきて
こひつつぞをる
13 3270(長歌) 赤根刺 晝(昼) 作者未詳 ・・・将宿君故 赤根刺 晝者終尓 野干玉之 夜者須柄尓・・・
ぬらむきみゆゑ あかねさす ひるはしみらに ぬばたまの
よるはすがらに
3297(長歌) 赤根刺 作者未詳 ・・妹西不會波 赤根刺 日者之弥良尓 烏玉之 夜者酢辛二・・
いもにしあはねば あかねさす ひるはしみらに ぬばたまの
よるはすがらに
15 3732 安可祢佐須 比流(昼) 中臣宅守 安可祢佐須 比流波毛能母比 奴婆多麻乃
あかねさす  ひるはものもひ  ぬばたまの
欲流波須我良尓 祢能未之奈加由
よるはすがらに   ねのみしなかゆ
16 3857(長歌) 赤根佐須 君之情 (佐為王近習婢) 飯喫騰 味母不在 雖行徃 安久毛不有
いひはめど うまくもあらず ゆきゆけど やすくもあらず
赤根佐須 君之情志 忘可祢津藻
あかねさす きみがこころし わすれかねつも
19 4166(長歌) 赤根刺 晝(昼) 大伴家持 ・・・赤根刺 晝波之賣良尓 安之比奇乃 八丘飛超
あかねさす ひるはしめらに あしひきの やつをとびこえ
夜干玉乃 夜者須我良尓・・・
ぬばたまの よるはすがらに
20 4455 安可祢左須 比流(昼) 橘諸兄 天平元年班田之時使葛城王従山背國贈薩妙觀命婦等所歌一首
安可祢左須 比流波多〃婢弖 奴婆多麻乃
あかねさす  ひるはたたびて  ぬばたまの
欲流乃伊刀末仁 都賣流芹子許礼
よるのいとまに   つめるせりこれ


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