万葉集巻第十八、番号4116の原文「也末古衣野由支(山越え野行き)」の「衣」について
移(い( i ))の発音は y i か?
万葉散歩フォトギャラリー管理人 植芝 宏  メール uehiro08@kcn.ne.jp

@ 選定理由
題詞
国の掾久米朝臣廣繩(ひろのり)、天平二十年に、朝集使に附きて京に入り、其の事畢りて、天平感寶元年(749年)閏五月二十七日に本任に還り到る。
仍りて長官の舘に詩酒の宴を設けて樂飮す。
時に主人守大伴宿祢家持の作る歌一首短哥を并せたり
通し番号 作者 巻_類_番号 句番 原文 ひらがな文 訓読文
34633 万葉集巻第十八 大伴家持 18_長歌_4116 _10/45 也末古衣野由支 やまこえのゆき 山越え野行き
 山越えの「え」はや行のyeを使い、あ行の「衣(え(e))」は使わない。
よって違例となるが、その違例となる根拠を確認する。

 奈良時代の発音の体系は、現代語と違っていて、
キ・ヒ・ミ・ケ・ヘ・メ・コ・ソ・ト・ノ・ヨ・ロとその濁音ギ・ビ・ゲ・ベ・ゴ・ゾ・ド及びエの発音に、二種類の区別があった。
 岩波書店日本古典文学大系『万葉集四』の校注の覚え書四によれば、
「 この発音上の区別は、奈良時代末頃から混乱しはじめ、平安時代になるとその二つが合併して一つになってゆき、
平安時代の極初期にはコの甲類乙類の区別と、ア行の e とヤ行の ye との区別を残すだけになった。 」とある。
しかし大伴家持のこの歌からして、すでにア行の e とヤ行の ye との区別はすでに曖昧となり混乱しはじめていたのではなかろうか。

A 原因
 違例の原因はア行の e とヤ行の ye との区別がすでに曖昧となり、混乱しはじめていたからではなかろうか。

B 現状の把握
 それぞれ一例を示す。

 A、衣の読み

古事記・・・衣(え)なし。
漢字 読み 例数 見出し 見出し 原文 ひらがな文 訓読文
きぬ 7 古事記中卷 応神天皇 大山守命の反逆 服布衣褌 ぬののきぬはかまをけして 布の衣褌を服して
けし 6 古事記上卷 伊邪那岐命と
伊邪那美命
禊祓と神々の化生 次於投棄御衣所成~名 つぎになげうつるみけしに
なれるかみのなは
次に投げ棄つる御衣に成れる神の名は
ころも 4 古事記中卷 応神天皇 大山守命の反逆 衣中服鎧 ころものなかによろひをきて 衣の中に鎧を服て
8 古事記下卷 安康天皇 市辺之忍歯王の難 ■1衣中 すなはちみそのなかに 即ちみ衣の中に
衣服 きもの 6 古事記中卷 応神天皇 秋山之下氷壮夫と
春山之霞壮夫
其衣服及弓矢 そのきものまたゆみや 其の衣服及弓矢
■135…首の自を者の旧字体に換える。 ■1…即の旧字体。

日本書紀・・・三衣(さむえ)1例のみ。

漢字 読み 例数 見出し 原文 ひらかな文 訓読文
1 日本書紀巻第二十 敏達天皇十四年三月(丁巳朔)丙戌 便奪尼等三衣 たちまちにあまらのさむえをうばひて 便ちに尼等の三衣を奪ひて
1 日本書紀巻第三十 持統天皇六年二月丁酉朔丁未 £m此意備ゥ衣物 このこころをしりて
もろもろのきものをそなふべし
此の意を知りて
諸の衣物を備ふべし
きたる 1 日本書紀巻第十六 武烈天皇八年春三月 衣以綾■2■3衆 あやしらきぬをきたるものおほし 綾?を衣たる者衆し
きぬ 22 日本書紀巻第二十九 天武天皇九年冬十月壬寅朔乙巳 沙彌及白衣 しやみおよびしろきぬには 沙弥及び白衣には
衣服 1 日本書紀巻第三 神武天皇即位前紀
戊午年九月甲子朔戊辰
■4弊衣服及簔笠 いやしききぬおよびみのかさをきせて 弊しき衣服
及び蓑笠を著せて
きもの 8 日本書紀巻第十九 欽明天皇五年十一月 給衣粮 きものかてをたまはむ 衣粮を給はむ
衣裳 9 日本書紀巻第十七 継体天皇九年夏四月 逼脱衣裳 きものをせめはぎて 衣裳を逼め脱ぎて
衣服 3 日本書紀巻第十 応神天皇十三年秋九月中 爲衣服耳 きものとせらくのみ 衣服とせらくのみ
衣衿 1 日本書紀巻第二十五 大化二年三月(癸亥朔)甲申 衣衿足以朽完而已 きものはもてししをくたすに
たるばかり
衣衿は以て完を朽すに
足るばかり
ころも 10 日本書紀巻第二 神代下第九段本文 則攀牽衣帶 すなはちころもひもによぢかかり 則ち衣帯に攀ぢ牽り
衣服 1 日本書紀巻第二十九 天武天皇十三年閏四月壬午朔丙戌 並衣服■3 ならびにころもは 並に衣服は
しき 1 日本書紀巻第七 景行天皇四十年秋七月癸未朔戊戌 衣毛飮血 けをしきちをのみて 毛を衣き血を飲みて
26 日本書紀巻第七 景行天皇四十年 徒葬衣冠 ただにみそかがふりををさめまつる 徒にみ衣冠を葬めまつる
衣服 1 日本書紀巻第二十五 白雉元年二月庚午朔戊寅 宴食衣服 とよのあかりおほみそ 宴食おほみ衣服
明衣 1 日本書紀巻第七 景行天皇四十年 明衣空留而
屍骨無之
みそのみむなしくとどまりて
みかばねはなし
み明衣のみ空しく留りて
み屍骨は無し
衣■234 したひも 1 日本書紀巻第五 崇神天皇十年九月(丙戌朔)壬子 其長大如衣■234 そのながさふとさしたひものごとし 其の長さ大さ衣紐の如し
衣裳 けし 1 日本書紀巻第二十二 推古天皇二十一年十二月庚午朔 即脱衣裳 すなはちみけしをぬきたまひて 即ちみ衣裳を脱きたまひて
衣服 1 日本書紀巻第二十二 推古天皇二十一年
十二月(庚午朔)辛未
唯衣服疊置棺上 ただみけしをのみたたみて
ひつぎのうへにおけり
唯み衣服のみ畳みて
棺の上に置けり
明衣 1 日本書紀巻第二十二 推古天皇二十年二月辛亥朔庚午 明■5明衣之■6 みけものみけしのたぐひ 明器・明衣の類
衣冠 よそひ 1 日本書紀巻第二十六 斉明天皇六年秋七月庚子朔乙卯 捨俗衣冠 くにわざのよそひをすてて 俗の衣冠を捨てて
裝束衣帶 1 日本書紀巻第二十 敏達天皇元年六月 裝束衣帶 よそひして 装束衣帯して
雨衣 あまよそひ 1 日本書紀巻第二十 敏達天皇十四年三月(丁巳朔)丙戌 被雨衣 あまよそひせり 雨衣被り
縫衣工 きぬぬひ 1 日本書紀巻第十 応神天皇十四年春二月 貢縫衣工女 きぬぬひをみなをたてまつる 衣縫ひ工女を貢る
■2…紀の己を丸に換える。 ■234…仭のイを糸に換える。 ■3…者の旧字体。 ■4…著の旧字体。 ■5…器の旧字体。 ■6…類の旧字体。

萬葉集・・・衣(え)9例
漢字 読み 例数 通し番号 作者 巻_類_番号 句番 原文 ひらがな文 訓読文
9 1553 万葉集巻第二 藤原鎌足 2_短歌/◎_95 _5/5 安見兒衣多利 やすみこえたり 安見児得たり
22 4310 万葉集巻第三 山部赤人 3_短歌/◎_318 _3/5 眞白衣 ましろにそ 真白にそ
2 13760 万葉集巻第七 作者未詳 7_短歌_1361 _5/5 將衣日不知毛 きむひしらずも 衣む日知らずも
きぬ 42 18676 万葉集巻第十 作者未詳 10_短歌_1961 _1/5 吾衣 わがきぬを 吾が衣を
衣服 きぬ 1 13318 万葉集巻第七 柿本人麿歌集 7_旋頭歌/○_1281 _3/6 織在衣服叙 おりたるきぬぞ 織りたる衣服ぞ
けし 1 19223 万葉集巻第十 作者未詳 10_短歌_2065 _4/5 公之御衣尓 きみがみけしに 君が御衣に
ころも 104 18430 万葉集巻第十 作者未詳 10_短歌/◎_1917 _2/5 衣甚 ころもはいたく 衣は甚く
衣服 1 13411 万葉集巻第七 柿本人麿歌集 7_短歌_1296 _2/5 斑衣服 まだらのころも 斑の衣
ごろも 18 2818 万葉集巻第二 柿本人麿 2_長歌_199 _106/149 麻衣■4 あさごろもき 麻衣着
■4…著の旧字体。

萬葉集・・・衣(え)9例の内訳
得(動詞)・・・6例
通し番号 作者 巻_類_番号 句番 原文 ひらがな文 訓読文
1553 万葉集巻第二 藤原鎌足 2_短歌/◎_95 _5/5 安見兒衣多利 やすみこえたり 安見児得たり
28593 万葉集巻第十四 作者未詳 14_短歌_3573 _4/5 衣我多伎可氣乎 えがたきかげを 得がたき蘿を
29387 万葉集巻第十五 作者未詳 15_短歌_3676 _3/5 衣弖之可母 えてしかも 得てしかも
29792 万葉集巻第十五 中臣宅守 15_短歌_3735 _2/5 麻許等安里衣牟也 まことありえむや 実有り得むや
34184 万葉集巻第十八 大伴家持 18_長歌_4094 _17/107 可蘇倍衣受 かそへえず 数へ得ず
34905 万葉集巻第十八 大伴池主 18_短歌_4133 _4/5 伊麻波衣天之可 いまはえてしか 今は得てしか
え(副詞)・・・2例
通し番号 作者 巻_類_番号 句番 原文 ひらがな文 訓読文
11215 万葉集巻第六   6_左注_983   月別名曰佐散良衣壯士也 つきのまたのなをささらえをとこといふ 月の別の名を細らえ壮士と曰ふ
34026 万葉集巻第十八 大伴家持 18_短歌_4078 _2/5 衣毛名豆氣多理 えもなづけたり えも(よくも)名づけたり
越え・・・動詞越ゆの語尾
通し番号 作者 巻_類_番号 句番 原文 ひらがな文 訓読文
34633 万葉集巻第十八 大伴家持 18_長歌_4116 _10/45 也末古衣野由支 やまこえのゆき 山越え野行き

 B、越ye

古事記・・・一字一音の該当なし。

日本書紀・・・1例

通し番号 見出し 西暦 歌謡番号 原文 ひらかな文 訓読文
30713 日本書紀巻第二十六 斉明天皇四年冬十月庚戌朔甲子 658年10月15日 N119 耶麻古曳底 やまこyeて 山越yeて

萬葉集・・・24例
古要(越ye)・・・8例
通し番号 作者 巻_類_番号 句番 原文 ひらがな文 訓読文
27904 万葉集巻第十四 作者未詳 14_短歌_3442 _3/5 古要我祢弖 こyeがねて 越yeがねて
28084 万葉集巻第十四 作者未詳 14_短歌_3477 _3/5 古要弖伊奈婆 こyeていなば 越yeて去なば
32671 万葉集巻第十七 大伴家持 17_長歌_3978 _14/65 夜麻古要奴由伎 やまこyeぬゆき 山越ye野行き
33146 万葉集巻第十七 大伴家持 17_長歌_4006 _42/53 古要敞奈利奈婆 こyeへなりなば 越ye隔りなば
33292 万葉集巻第十七 大伴家持 17_長歌_4011 _58/105 山登妣古要■ やまとびこyeて 山飛び越yeて
33457 万葉集巻第十七 大伴家持 17_短歌_4025 _2/5 多太古要久礼婆 ただこyeくれば 直越ye来れば
33792 万葉集巻第十八 田辺福麿 18_短歌_4052 _3/5 安須古要牟 あすこyeむ 明日越yeむ
37929 万葉集巻第二十 大伴家持 20_短歌_4395 _2/5 見キキ古要許之 みつつこyeこし 見つつ越ye来し
■…低のイ無し。
故要(越ye)・・・7例
通し番号 作者 巻_類_番号 句番 原文 ひらがな文 訓読文
28327 万葉集巻第十四 作者未詳 14_短歌_3523 _1/5 佐可故要弖 さかこyeて 坂越yeて
29785 万葉集巻第十五 中臣宅守 15_短歌_3734 _2/5 世伎毛故要伎奴 せきもこyeきぬ 関も越ye来ぬ
29908 万葉集巻第十五 中臣宅守 15_短歌_3757 _2/5 世伎夜麻故要弖 せきやまこyeて 関山越yeて
29936 万葉集巻第十五 中臣宅守 15_短歌_3762 _3/5 故要弖伎弖 こyeてきて 越yeて来て
37980 万葉集巻第二十 大伴家持 20_長歌_4398 _28/45 山乎故要須疑 やまをこyeすぎ 山を越ye過ぎ
38379 万葉集巻第二十 上総国郡司妻 20_短歌_4440 _2/5 夜敞也麻故要弖 やへやまこyeて 八重山越yeて
38773 万葉集巻第二十 藤原執弓 20_短歌_4482 _1/5 保里延故要 ほりyeこye 堀江越ye
古延(越ye)・・・5例
通し番号 作者 巻_類_番号 句番 原文 ひらがな文 訓読文
28755 万葉集巻第十五 秦間満 15_短歌/◎_3589 _4/5 古延弖曾安我久流 こyeてそあがくる 越yeてそあが来る
29725 万葉集巻第十五 狭野弟上娘子 15_短歌/◎_3723 _2/5 夜麻治古延牟等 やまぢこyeむと 山路越yeむと
31824 万葉集巻第十七 山部赤人 17_短歌/◎_3915 _2/5 山谷古延■ やまたにこyeて 山谷越yeて
32253 万葉集巻第十七 大伴家持 17_長歌_3962 _6/57 山坂古延弖 やまさかこyeて 山坂越yeて
38060 万葉集巻第二十 他田部子磐前 20_短歌/◎_4407 _3/5 古延志太尓 こyeしだに 越yeしだに
■…低のイ無し。
故延(越ye)・・・2例
通し番号 作者 巻_類_番号 句番 原文 ひらがな文 訓読文
28763 万葉集巻第十五 作者未詳 15_短歌/◎_3590 _5/5 故延弖曾安我久流 こyeてそあがくる 越yeてそあが来る
29721 万葉集巻第十五 作者未詳 15_短歌_3722 _5/5 伊キ可故延伊加武 いつかこyeいかむ 何時か越ye行かむ
久江(越ye)・・・2例
天平勝宝七歳乙未二月相替遣筑紫諸国防人等歌
通し番号 作者 巻_類_番号 句番 原文 ひらがな文 訓読文
37744 万葉集巻第二十 倭文部可良麿 20_長歌_4372 _4/15 阿例波久江由久 あれはくyeゆく あれは越ye行く
37748 万葉集巻第二十 倭文部可良麿 20_長歌_4372 _8/15 久江弖和波由久 くyeてわはゆく 越yeてわは行く
右一首倭文部可良麿/二月十四日常陸国部領防人使大目正七位上息長眞人国嶋進歌数十七首但拙劣歌者不取載之

D 結果
訓読 ひらがな 原文 例数
越え こえ 古衣 1
訓読 ひらがな 原文 例数
越ye こye 古要 8
故要 7
古延 5
故延 2
くye 久江 2
24
 上表により
通し番号 作者 巻_類_番号 句番 原文 ひらがな文 訓読文
34633 万葉集巻第十八 大伴家持 18_長歌_4116 _10/45 也末古衣野由支 やまこえのゆき 山越え野行き
の「古衣(越え)」は違例とした。

E 現代語の「越える」と日本書紀・萬葉集の「越ゆ」の活用比較
まず先にや行の比較
  発音
現代語 ya yu yo
古事記
日本書紀
萬葉集
ya yi(?) yu ye yo
  未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形
現代語 越える 越え 越え 越える 越える 越えれ 越えろ
  未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
日本書紀
萬葉集
越ゆ 越ye 越ye 越ゆ 越ゆる 越ゆれ 越よ

越ye・・・上記の日本書紀1例 ・萬葉集24例参照

越ゆ・・・萬葉集1例
通し番号 作者 巻_類_番号 句番 原文 ひらがな文 訓読文
37185 万葉集巻第二十 大伴家持 20_短歌/◎_4305 _4/5 奈伎弖故由奈理 なきてこゆなり 鳴きて越ゆなり

越ゆる・・・萬葉集3例
通し番号 作者 巻_類_番号 句番 原文 ひらがな文 訓読文
27669 万葉集巻第十四 作者未詳 14_短歌_3402 _3/5 古由流日波 こゆるひは 越ゆる日は
29448 万葉集巻第十五 作者未詳 15_短歌_3687 _2/5 山等妣古由留 やまとびこゆる 山飛び越ゆる
29893 万葉集巻第十五 中臣宅守 15_短歌_3754 _2/5 世伎等婢古由流 せきとびこゆる 関飛び越ゆる

越ゆれ・・・日本書紀1例
通し番号 見出し 西暦 歌謡番号 校異 原文 ひらかな文 訓読文
13021 日本書紀巻第十一 仁徳天皇四十年春二月 壬子352年2月 N61 ■…磨(釋紀)。 赴駄利古喩例■ ふたりこゆれば 二人越ゆれば
■…磨の石を”公の筆順2無し”に換える。

越よ・・・萬葉集1例
天平勝宝七歳乙未二月相替遣筑紫諸国防人等歌
通し番号 作者 巻_類_番号 句番 原文 ひらがな文 訓読文
38029 万葉集巻第二十 小長谷部笠麿 20_短歌_4403 _5/5 古与弖伎怒加牟 こよてきぬかむ 越よて来ぬかむ
右一首小長谷部笠麿/二月廿二日信濃国防人部領使上道得病不来進歌数十二首但拙劣歌者不取載之

F 移(い( i ))の発音は y i か?

日本書紀・萬葉集に「移」は「や(ya)」と発音している。
通し番号 見出し 西暦 原文 ひらかな文 訓読文
10781 日本書紀巻第九 神功皇后摂政四十六年
春三月乙亥朔
丙寅246年3月1日 如此乃還 かくいひてすなはちかへりぬ 如此いひて乃ち還りぬ」といふ
10782 爰斯摩宿禰 ここにしまのすくね 爰に斯摩の宿祢
10783 即以{人爾波移
與卓淳人過古二人
すなはちしたがへるひとにはや
とくじゆんのひとわことふたりをもて
即ち{へる人尓波移と
卓淳の人過古と二人を以て
10784 遣于百濟國 くだらのくににつかはして 百済の国に遣はして
10785 慰勞其王 そのこきしをねぎらへしむ 其の王を慰労へしむ
通し番号 見出し 西暦 原文 ひらかな文 訓読文
18804 日本書紀巻第十七 継体天皇七年夏六月 癸巳513年6月 七年 ななとせの 七年の
18805 夏六月 なつみなづきに 夏六月に
18806 百濟 くだら 百済
18807 遣姐彌文貴將軍
洲利即爾將軍
さみもむくwiしやうぐん
つりそにしやうぐんをまだして
姐弥文貴将軍・
洲利即尓将軍を遣して
18808 副穗積臣押山 ほづみのおみおしやまにそへて 穂積の臣押山に副へて
18809 百濟本記云 くだらほんきにいはく 百済本記に云はく
18810 意斯移麻岐彌 wiおしやまきみ 委意斯移麻岐弥といふ
18811 貢五經博士段楊爾 ごきやうはかせだんやうにをたてまつる 五経博士段楊尓を貢る
通し番号 見出し 西暦 原文 ひらかな文 訓読文
21696 日本書紀巻第十九 欽明天皇十四年
八月辛卯朔丁酉
553年8月7日 百濟 くだら 百済
21697 遣上部奈率科野新羅
下部固コ■休帶山等
しやうほうなそちしなのしらき
かほうことくもんきうたいせんらをまだして
上部奈率科野新羅・
下部固徳?休帯山等を遣して
21698 上表曰 ふみたてまつりてまうさく 表上りて曰さく
21699 去年臣等同議 いにしとしやつこらはかりことをひとつにして 「去にし年臣等議りことを同つにして
21700 遣内臣コ率次酒
任那大夫等
うちのおみとくそちししゆ
みまなのまへつきみらをまだして
内の臣徳率次酒・
任那の大夫等を遣して
21701 奏海表ゥ彌移居之事 わたのほかのもろもろのみやけのことをまうさしむ 海の表の諸の屯倉の事を奏さしむ
21702 伏待恩詔 ふしてうつくしびのみことのりをまつこと 伏して恩の詔を待つこと
21703 如春草之仰甘雨也 はるくさのあまきあめをあふぐがごとし 春草の甘き雨を仰ぐが如し
■…汁の十を文に換える。
萬葉集
雑謌/跪承芳音嘉懽交深乃知龍門之恩復厚蓬身之上恋望殊念常心百倍謹和白雲之什以奏野鄙之謌房前謹状
通し番号 作者 巻_類_番号 句番 原文 ひらがな文 訓読文
8768 万葉集巻第五 藤原房前 5_書簡_短歌_812 _5/5 キ地尓意加米移母 つちにおかめやも 地に置かめやも
謹通尊門記室/十一月八日附還使大監

又、萬葉集に「移」を「い(i)」と発音し
通し番号 作者 巻_類_番号 句番 原文 ひらがな文 訓読文
27373 万葉集巻第十四 作者未詳 14_短歌_3353 _5/5 移乎佐伎太多尼 いをさきだたね 眠を先立たね
33755 万葉集巻第十八 遊行女婦土師 18_短歌_4047 _5/5 移比キ支尓勢牟 いひつぎにせむ 言ひ継ぎにせむ
34457 万葉集巻第十八 大伴家持 18_長歌_4106 _32/51 奈介可須移母我 なげかすいもが 嘆かす妹が
34469 万葉集巻第十八 大伴家持 18_長歌_4106 _44/51 移キ我利安比弖 いつがりあひて いつがり合ひて
34566 万葉集巻第十八 大伴家持 18_短歌_4112 _4/5 移夜時自久尓 いやときじくに いや時じくに
34584 万葉集巻第十八 大伴家持 18_長歌_4113 _13/29 移夫勢美等 いぶせみと いぶせみと
34591 万葉集巻第十八 大伴家持 18_長歌_4113 _20/29 移弖見流其等尓 いでみるごとに い出見る毎に

亦、日本書紀 欽明天皇二年秋七月の条は「移」を「ye」と発音している。
阿賢移那斯 = 延那斯
通し番号 見出し 西暦 原文 ひらかな文 訓読文
20386 日本書紀巻第十九 欽明天皇二年秋七月 541年7月 使于安羅 あらにつかひして 安羅に使して
20387 召到新羅任那執事 しらきにいたれるみまなのつかさをめして 新羅に到れる任那の執事を召して
20388 謨建任那 みまなをたてむことをはからしむ 任那を建てむことを謨らしむ
20389 別以安羅日本府
河内直通計新羅
ことにあらのやまとのみこともちの
かふちのあたひのはかりことを
しらきにかよはすをもて
別に安羅の日本の府の
河内の直の計りことを
新羅に通すを以て
20390 深責罵之 ふかくせめのる 深く責め罵る
20391 百濟本記云 くだらほんきにいはく 百済本記に云はく
20392 加不至費直 かふちのあたひ 加不至の費の直
20393 阿賢移那斯 あけyeなし 阿賢移那斯
20394 佐魯麻キ等 さろまつら 佐魯麻都等といふ
20395 未詳也 いまだつばひらかならず 未だ詳らかならず
通し番号 見出し 西暦 原文 ひらかな文 訓読文
21433 日本書紀巻第十九 欽明天皇十年
夏六月乙酉朔辛卯
549年6月7日 十年 ととせの 十年の
21434 夏六月 なつみなづきの 夏六月の
21435 乙酉朔辛卯 きのとのとりのついたちかのとのうのひに 乙の酉の朔辛の卯のひに
21436 將コ久貴 しやうとくこんくwi 将徳久貴
21437 固コ馬次文等 ことくましもむら 固徳馬次文等
21438 請罷歸 まかりかへらむとまうす 罷り帰らむと請す
21439 因詔曰 よりてみことのりしてのたまはく 因りて詔して曰はく
21440 延那斯 yeなし 「延那斯
21441 麻キ まつ 麻都
21442 陰私遣使高麗? ひそかにつかひをこまにつかはせるは 陰私かに使を高麗に遣はせるは
21443 朕當遣問?實 われまさにいつはりまことをとひにつかはすべし 朕当に虚実を問ひに遣はすべし
通し番号 見出し 西暦 原文 ひらかな文 訓読文
21487 日本書紀巻第十九 欽明天皇十一年夏四月庚辰朔 550年4月1日 百濟王聖明 くだらのこきしせいめい 百済の王聖明
21488 謂王人曰 みつかひにかたりていはく 王人に謂りて曰はく
21489 任那之事 みまなのことは 「任那の事は
21490 奉■堅守 みことのりをうけたまはりてかたくまもる 勅を奉りて堅く守る
21491 延那斯 yeなし 延那斯
21492 麻キ之事 まつがことは 麻都が事は
21493 問與不問 とひたまはむともとひたまはじとも 問ひたまはむとも問ひたまはじとも
21494 唯從■之 ただみことのりのままならむ 唯勅の従ならむ」といふ
■…勅の旧字体。
 上表の 移(ya) → 移( i ) → 移(ye) は、下表
  発音
現代語 ya yu yo
古事記
日本書紀
萬葉集
ya yi(?) yu ye yo
により、萬葉集の 「移( i )」は「移( yi )」かもしれない。