@ 選定理由 |
海な原(うなはら)の「はら(Fara)」の語源を探る。 |
A 探る原因 |
海な原(うなはら)の海は「生み」が語源とすれば、原(はら)の語源は単純に考えれば「腹(はら)」でしょう。 |
しかし「コトバンク」で検索してみると https://kotobank.jp/word/%E5%8E%9F-116491 |
『原(読み)はら |
精選版 日本国語大辞典「原」の解説 |
はら【原】 |
[1] 〔〔名〕〕 |
@ 平らで広いところ。特に、耕作してない平地。平原。 |
※十巻本和名抄(934頃)一「原 毛詩云高平曰原〈音源 和名波良〉」 |
A 林(はやし)。 |
※書紀(720)天武七年一〇月(寛文版訓)「風の随(まま)にて松林(ハラ)及び葦に飄(ひひ)る」 |
[2] 静岡県沼津市の地名。江戸時代は東海道五十三次の沼津と吉原の間にあった宿駅。 |
[語誌]上代において、単独での使用例は少なく、多く「萩はら」「杉はら」「天のはら」「高天のはら」「浄見はら」「耳はら」など、複合した形で現われる。 |
したがって、「はら」は地形・地勢をいう語ではなく、日常普通の生活からは遠い場所、即ち古代的な神と関連づけられるような地や、呪的信仰的世界を指す語であったと考えられる。 |
この点、「の(野)」が日常生活に近い場所をいうのと対照的である。』(「コトバンク」から抜粋) |
とあって、私の考えとは全く違っていた。 |
|
B 現状の把握 |
古事記上卷并序に |
通し番号 |
巻 |
原文 |
ひらかな文 |
訓読文 |
175 |
古事記上卷并序 |
以和銅四年九月十八日 |
わどうのよとせのながづきのとをあまりやかをもちて |
和銅の四年の九月の十八日を以ちて |
176 |
古事記上卷并序 |
詔臣安萬侶 |
やつこやすまろにのりたまひて |
臣安万侶に詔ひて |
177 |
古事記上卷并序 |
撰■1稗田阿礼所誦之■171語舊辞以 |
ひえだのあれがよめるみことのりのふることをえらびしるして |
稗田の阿礼が誦める勅語の旧辞を撰び録して |
178 |
古事記上卷并序 |
■113上■2 |
たてまつれ |
献上れとのりたまへり |
179 |
古事記上卷并序 |
■3隨詔■215 |
つつしみてみことのりのまにまに |
謹みて詔旨の随に |
180 |
古事記上卷并序 |
子細採■381 |
こまやかにとりひろひぬ |
子細に採り拾ひぬ |
181 |
古事記上卷并序 |
然 |
しかれども |
然れども |
182 |
古事記上卷并序 |
上古之時 |
いにしへのときは |
上古の時は |
183 |
古事記上卷并序 |
言意並朴 |
ことばもこころもみなすなほなるに |
言も意も並朴なるに |
184 |
古事記上卷并序 |
敷文搆句 |
ふみをかきくだりをたつること |
文を敷き句を構ること |
185 |
古事記上卷并序 |
於字■4■5 |
もじにおきてはすなはちかたし |
字に於ては即ち難し |
■113…顧の戸の筆順1〜3を”禾の木を由に換えて由の筆順1を削った漢字”に換え、さらに顧の隹を用に頁を犬に換える。…獻(国立)。■215…毎の毋を日に換える。
■381…蹠の足をてへんに換え、さらに廿を”共のハ無し”に換える。■1…録の旧字体。■2…者の旧字体。■3…謹の旧字体。■4…即の旧字体。■5…難の旧字体。 |
|
とあり、稗田の阿礼から聞き取りを行い文字にしたとある。であれば、漢字という色メガネを外し、ひらがな文から「はら(Fara)」という単語を採り拾いて、 |
「はら(Fara)」という発音を子細に探れば、漢字が伝来する以前、上古の時に発音「はら(Fara)」は何を意味していたのか解るかもしれない。 |
古事記のひらがな文から発音「はら(Fara)」を含む単語を抽出 それぞれ一例を示す。 |
意味 |
はらを含む |
字数 |
通し番号 |
巻 |
見出し |
見出し |
原文 |
ひらがな文 |
訓読文 |
原 |
はら |
34 |
230 |
古事記上卷 |
別天~五柱 |
|
於天原成~名 |
たかまのはらになれる
かみのなは |
高天の原に成れる
神の名は |
原 |
はらの |
23 |
755 |
古事記上卷 |
伊邪那岐命と
伊邪那美命 |
黄泉国 |
於葦原中國所有 |
あしはらのなかつくににあらゆる |
葦原の中つ国に有らゆる |
原 |
はらに |
5 |
812 |
古事記上卷 |
伊邪那岐命と
伊邪那美命 |
禊祓と神々の化生 |
原而 |
はらにいたりまして |
原に到り坐して |
原 |
はらを |
4 |
941 |
古事記上卷 |
伊邪那岐命と
伊邪那美命 |
三貴子の分治 |
所知海原矣 |
うなはらをしらせ |
海な原を知らせ |
原 |
はらと |
2 |
3716 |
古事記中卷 |
神武天皇 |
東征 |
其地謂宇■1之血原也 |
そこをうだのちはらといふ |
其地を宇陀の血原と謂ふ |
計 |
68 |
|
妊 |
はらませ |
1 |
4957 |
古事記中卷 |
垂仁天皇 |
沙本毘古王の反逆 |
其所妊之御子■2■3 |
そのはらませるみこ
すでにあれましつ |
其の妊ませる御子
既に産れましつ |
妊 |
はらみし |
1 |
3044 |
古事記上卷 |
迩迩芸命 |
木花之佐久夜毘売 |
吾妊之子 |
あがはらみしこ |
「吾が妊みし子 |
妊 |
はらめる |
1 |
3039 |
古事記上卷 |
迩迩芸命 |
木花之佐久夜毘売 |
一宿哉妊 |
ひとよにやはらめる |
一宿にや妊める |
妊身 |
はらませり |
1 |
4949 |
古事記中卷 |
垂仁天皇 |
沙本毘古王の反逆 |
其后妊身 |
そのきさきはらませり |
其の后妊身ませり |
妊身 |
はらみて |
1 |
6971 |
古事記中卷 |
応神天皇 |
天之日矛 |
妊身 |
はらみて |
妊身みて |
妊身 |
はらめるを |
2 |
3032 |
古事記上卷 |
迩迩芸命 |
木花之佐久夜毘売 |
妾妊身 |
あははらめるを |
妾は妊身めるを |
姙 |
はらみぬ |
1 |
4600 |
古事記中卷 |
崇神天皇 |
三輪山伝説 |
汝■4自姙 |
なはおのづからはらみぬ |
汝は自ら妊みぬ |
姙身 |
はらみし |
1 |
4598 |
古事記中卷 |
崇神天皇 |
三輪山伝説 |
恠其姙身之■388 |
そのはらみしことをあやしみて |
其の妊身みし事を恠しみて |
姙身 |
はらみぬ |
1 |
4595 |
古事記中卷 |
崇神天皇 |
三輪山伝説 |
其美人姙身 |
そのをとめはらみぬ |
其の美人妊身みぬ |
姙身 |
はらめる |
1 |
4601 |
古事記中卷 |
崇神天皇 |
三輪山伝説 |
无夫何由姙身乎 |
をなきにいかにかはらめる |
夫无きに何由か妊身める |
孕 |
はらみ |
1 |
27 |
古事記上卷
并序 |
|
|
識孕土■3嶋之時 |
くにをはらみ
しまをうみたまひしときをしり |
土を孕み
嶋を産みたまひし時を識り |
懷妊 |
はらませること |
1 |
4952 |
古事記中卷 |
垂仁天皇 |
沙本毘古王の反逆 |
不忍其后懷妊
及愛重至于三年 |
そのきさきのはらませること
まためでおもみしたまふこと
みとせになりぬに
しのびたまはざりき |
其の后の懐妊ませること
また愛で重みしたまふこと
三年に至りぬに
忍びたまはざりき |
懷妊 |
はらみたまふが |
1 |
6220 |
古事記中卷 |
仲哀天皇 |
忍熊王の反逆 |
其懷妊臨■3 |
そのはらみたまふが
あれまさむとしき |
其の懐妊みたまふが
臨産れまさむとしき |
懷妊 |
はらみぬ |
1 |
4607 |
古事記中卷 |
崇神天皇 |
三輪山伝説 |
自然懷妊 |
おのづからはらみぬ |
自然ら懐妊みぬ |
腹 |
はら |
4 |
645 |
古事記上卷 |
伊邪那岐命と
伊邪那美命 |
火神被殺 |
次於腹所成~名 |
つぎにはらになれるかみのなは |
次に腹に成れる神の名は |
腹 |
はらに |
3 |
6060 |
古事記中卷 |
仲哀天皇 |
后妃皇子女 |
知?腹中國也 |
はらにましてくにに
あたりたまひしをしりぬ |
腹に坐して国に
中りたまひしを知りぬ |
腹 |
はらの |
2 |
6449 |
古事記中卷 |
応神天皇 |
后妃皇子女 |
三腹カ女 |
みはらのいらつめ |
三腹の郎女 |
腹 |
はらを |
2 |
1421 |
古事記上卷 |
天照大神と
須佐之男命 |
須佐之男命の
大蛇退治 |
見其腹■4 |
そのはらをみれば |
其の腹を見れば |
匍匐 |
はらばひ |
2 |
594 |
古事記上卷 |
伊邪那岐命と
伊邪那美命 |
火神被殺 |
乃匍匐御枕方 |
すなはちみまくらへにはらばひ |
乃ち御枕方に匍匐ひ |
兄弟 |
はらから |
2 |
2982 |
古事記上卷 |
迩迩芸命 |
木花之佐久夜毘売 |
又問有汝之兄弟乎 |
またいましのはらからありやと
とひたまへば |
又「汝の兄弟有りや」と
問ひたまへば |
兄弟 |
はらからに |
1 |
8414 |
古事記下卷 |
安康天皇 |
目弱王の乱 |
一爲兄弟 |
ひとつにははらからにますを |
一つには兄弟に為すを |
甕 |
はら |
1 |
7107 |
古事記中卷 |
応神天皇 |
秋山之下氷壮夫と
春山之霞壮夫 |
釀甕酒 |
はらざけをかみ |
甕酒を釀み |
計 |
32 |
|
撥 |
はらひ |
5 |
1866 |
古事記上卷 |
大国主~ |
根国訪問 |
亦追撥河之P而 |
またかはのせにおひはらひて |
亦河の瀬に追ひ撥ひて |
■475 |
はらへを |
1 |
6134 |
古事記中卷 |
仲哀天皇 |
神功皇后の新羅征討 |
爲國之大■475而 |
くにのおほはらへをして |
国の大祓へを為て |
■475禊 |
はらへを |
1 |
7989 |
古事記下卷 |
履中天皇 |
水歯別命と曽婆加理 |
爲■475禊而 |
はらへをして |
祓禊へを為て |
撥 |
はらひたまへ |
1 |
1780 |
古事記上卷 |
大国主~ |
根国訪問 |
三擧打撥 |
みたびふりてうちはらひたまへ |
三たび挙り打ち撥ひたまへ |
攘 |
はらひたまひ |
1 |
53 |
古事記上卷
并序 |
|
|
列■5攘賊 |
まひをつらねて
あたをはらひたまひ |
■5ひを列ねて
賊を攘ひたまひ |
祓 |
はらひたまひき |
1 |
813 |
古事記上卷 |
伊邪那岐命と
伊邪那美命 |
禊祓と神々の化生 |
禊祓也 |
みそぎはらひたまひき |
禊ぎ祓ひたまひき |
散 |
はららかし |
1 |
1019 |
古事記上卷 |
天照大神と
須佐之男命 |
須佐之男命の昇天 |
如沫雪蹶散而 |
あわゆきなすくweはららかして |
沫雪如す蹶散かして |
計 |
11 |
|
■388…争の筆順1・2を古に換える。 ■162…早の日を己に換える。 ■475…窒フ口を禾に換え、さらに窒鰍フ木を友に換える。
■1…施の方をこざとへんに換える。 ■2…既の旧字体。 ■3…産の旧字体。 ■4…者の旧字体。 ■5…休の木を舞に換える。 |
|
C 抽出結果から解った事 |
古事記では「はら(Fara)」という発音には、「はら(Fara(原))」、「はらむ(Faramu(妊む))と「はら(Fara(腹))」、「はらふ(FaraFu(祓ふ))」の三種類の意味しかなかった。 |
「はらふ(FaraFu(祓ふ))」についても |
古事記上卷 禊祓と神々の化生 |
原文 |
ひらがな文 |
訓読文 |
伊耶那伎大~詔 |
いざなきのおほかみのりたまひしく |
伊邪那伎の大神詔りたまひしく |
吾■1到於伊那志許米「上」志許米岐 |
あはいなしこめしこめき |
「吾は嫌な醜目醜目き |
此九字以音 |
このくじはおんをもちwiよ |
此の九字は音を以wiよ |
穢國而在祁理 |
きたなきくににいたりてありけり |
穢き国に到りて在りけり |
此二字以音 |
このにじはおんをもちwiよ |
此の二字は音を以wiよ |
故 |
かれ |
故 |
吾■1爲御身之禊而 |
あはみみのみそぎせむ |
吾は御身の禊為む」とのりたまひて |
到■2竺紫日向之橘小門之阿波岐 |
つくしのひむかのたちばなのをどのあはき |
竺紫の日向の橘の小門の阿波岐 |
此三字以音 |
このさんじはおんをもちwiよ |
此の三字は音を以wiよ |
原而 |
はらにいたりまして |
原に到り坐して |
禊祓也 |
みそぎはらひたまひき |
禊ぎ祓ひたまひき |
・・・略・・・
|
於是 |
ここに |
是に |
洗左御目時 |
ひだりのみめをあらひたまふときに |
左の御目を洗ひたまふ時に |
所成~名 |
なれるかみのなは |
成れる神の名は |
天照大御~ |
あまてらすおほみかみ |
天照大御神 |
次洗右御目時 |
つぎにみぎのみめをあらひたまふときに |
次に右の御目を洗ひたまふ時に |
所成~名 |
なれるかみのなは |
成れる神の名は |
月讀命 |
つくよみのみこと |
月読の命 |
次洗御鼻時 |
つぎにみはなをあらひたまふときに |
次に御鼻を洗ひたまふ時に |
所成~名 |
なれるかみのなは |
成れる神の名は |
建速■3佐之男命 |
たけはやすさのをのみこと |
建速須佐の男の命 |
■3佐二字以音 |
すさのにじはおんをもちwiよ |
須佐の二字は音を以wiよ |
右件八十■4津日~以下 |
みぎのくだりのやそまがつひのかみよりしも |
右の件の八十禍津日の神以下 |
速■3佐之男命以前 |
はやすさのをのみことまで |
速須佐の男の命以前 |
十四柱~■1 |
とをまりよはしらのかみは |
十四柱の神は |
■5滌御身所生■1也 |
みみをすすぐるによりてなれるかみなり |
御身を滌ぐるに因りて生れる者なり |
■1…者の旧字体。 ■2…坐の左の人を口に換える。史的文字データベース連携検索システム https://mojiportal.nabunken.go.jp/ja/ で「坐」を検索。
https://mokkanko.nabunken.go.jp/ja/6AACVS15000108 の木簡の「坐」に同じ。 ■3…汀の丁を頁に換える。 ■4…禍の旧字体。
■5…漢字辞典オンライン https://kanji.jitenon.jp/ で「因」を検索。 https://kanji.jitenon.jp/kanjiy/13601.html の漢字に同じ。 |
|
上記の禊祓(みそぎはらひ)、御身を滌(すす)ぐるに因りて天照大御神・月読の命・建速須佐の男の命の三柱を含む十四柱の神々が生れたという記述から、 |
「みそぎはらふ」という言葉には身削ぎ腹ふ(出産する)という意も含まれているのではないか。 |
上古では海な原の「海(う)」は動詞「生む」の語幹であった。 |
その事から海な原(うなはら)のはら(Fara)という発音は「妊む(はらむ)」の語幹「はら(Fara)」か、そのもの腹(はら)という意味ではなかろうか。 |
うなはら(unaFara(海な原))・かはら(kaFaFara→kaFara(川原))・のはら(noFara(野原))の発音「はら(Fara)」に共通するのは、”
命が生まれる所 ” という事である。 |
漢字が伝来するより遥か昔、日本語の始まりの頃、はら(Fara)という発音は「妊む(はらむ)」の語幹「はら(Fara)」・腹(はら)という意味であったことを上記により傍証することができる。 |
|