緩やかなる時間



TONO



















穏やかな時間が、

白いシーツの上にいる二人の間を通り過ぎる。




二人は満ち足りた気持ちの中で互いを感じる。

全てが終った今、

二人は改めてお互いを見る。

何もしなかった自分。

何もできなかった自分。

だが、今は必要としている。

お互いの想いが絡み合い

視線が絡み合う。


「シンジは、どこを見ているの?」

「アスカは、どこを見ているの?」


言葉が絡み合う。


「シンジの顔を見てた」

「アスカの顔を見てたよ」


また、視線が絡み合う。

その次には、微笑み。

そしてその次には気の遠くなるような口づけ。



静かな夜は、お互いの想いをとても心地良くさせる。



閉ざしていた心がゆっくりと解放されていく。

決して人には見せまいとしていた心。

決して悟られてはいけないと思っていた心。



隣にいる人ならば

分かってくれる気がした。

隣にいる人ならば

見てくれるような気がした。



「シンジは、どこを見たいの?」

「アスカは、どこを見たいの?」



どこだろう。

互いの体だろうか。

互いの目だろうか。

それとも…










時はまだ緩やかに流れていた。











互いを見ていると、

なんとなく感じる親近感。

だが、それを言葉に表す事ができない。

今まで誰かと感じていた親近感が、

今は元々他人だった隣にいる人間と感じている。

止められない気持ち。

止まらない想い。


だから二人は言う。


「シンジは、どこを見たいの?」

「アスカは、どこを見たいの?」


暗闇の中の呟き。

互いにしか聞えない呟き。

お互いを支える腕。

素肌に当る心地良い夜の風。

気を抜けば、すぐに眠りの誘いを受け入れてしまいそうな気だるさ。


その中で二人は一つの答を出す。


「アタシは…シンジの心を見たい」

「僕も…アスカの心を見たい」


互いの言葉が重なる。


「アタシの…心?」

「僕の…心?」


それは、偽りのない気持ち。

本当に知りたいもの。

本当に理解したいもの。


今まで知る術も、理解する余裕もなかった二人。

だが、今は知りたい。

そして理解したい。










時はまだ穏やかに流れていた。











「アタシの心を知りたい?シンジ」

「うん。すごく知りたい」

「アタシもシンジの心が知りたい」

「…僕はアスカが好きだ。それが僕の心」

「アタシだって。アタシだって…シンジの事が好きよ」

「それが…アスカの心?」

「そうかも知れないし、それだけじゃないかも知れない」

「それだけじゃない?それは…どういうこと?」

「いろんなものがアタシの心の中にあるのよ。だけど…一番大きな気持ちは…シンジが好きだという気持ち」

「いろんなもの…そうだね。僕達の心の中には本当にいろんなものがある。お互いが好きだという気持ちも、楽しい気持ちも、辛く悲しい 気持ちも」

「そうよ。でも…アタシがシンジを想う気持ちは…何にも負けない」

「…そんな事言われたの生まれて初めてだよ。ありがとう…アスカ」

「アタシ達はこれからいろんな事を見ていくわ。楽しいものも、辛く悲しいものも、醜いものも。だけど、シンジとなら…くぐり抜けて いけそうな気がする。あれほど苦しんで傷ついた者同士だから。それに…」

「それに?」

「アタシの…大切な人だから」

「ありがとうアスカ。これからも二人で頑張ろう」

「うん…お互いにね」










時はまだ緩やかに流れていた。










二人は沈黙している。

静かな呼吸だけがその空間を満たしていた。

眠っているわけではない。

ただお互いを見つめ、その想いに身を任せている。

先刻まで体に帯びていた熱はすっかり冷めていた。

しかし、互いを求める情熱はいつまでも冷める事はなかった。


「シンジは、どこを見ているの?」

「アスカは、どこを見ているの?」


再び口が開かれる。



互いはゆっくりと笑った。

とても幸せな笑顔。

「シンジは、どこを見たいの?」

「アスカは、どこを見たいの?」

言葉が空気に舞う。

気持ちが宙へと舞う。

情熱が心を舞う。

互いの口から出る、たった一つの呟き。


「シンジの心」

「アスカの心」


二人はただそう呟くと深く抱きしめ合う。


舞い上がった様々な感情が二人を包む。


そして…


時は互いの気持ちを察するかのように穏やかに流れていた。


今までの二人を癒すように。

今までの二人を包み込むように。


そして、


これからの二人を見守るように。

これからの二人を優しく導くように。


ただ、緩やかに流れていこうとしていた。















Fin






TONOです。
読んで頂き、本当にありがとうございます。
今回も再掲載という事で、いろいろ直したい部分を直してみました。

読まれてお分かりの通り、この愚作には内容ってモノがあんまりないんです。
ですが私自身、かなり気に入っている駄文でもあります。
単なる心の思いを書いてみようと試みたモノですので、状況表現などの不必要な文章はあえて取り払ってます。
あくまでも抽象的に、こういう状況で二人は何を話すんだろうと妄想しながら書いてみました。
まあ、言えば自己陶酔とも言えなくはないんですけどね(汗)

では、また。

TONO