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SNOW WHITE

11月も末になると、街は冬支度を終えクリスマス一色に染まりはじめていた。
 街路樹をツリーに見立てて、色とりどりに飾る。歩道の両側にある店たちも、クリスマス色に染まって行く。12月に入ればサンタクロースも出回るだろう。
 少女はひとり、ポツンと公園のベンチに腰掛けている。
 誰かを待つように...... 
 消え入りそうな少女は、いつまでも座っていた。
 
 明日は、クリスマス前夜祭。
 吐く息は真っ白だが雪は降りそうにない。
 少女は今日も来ていた。
 朝からずっと、公園の入り口を見つめたまま、座っている。
 時間が過ぎ、陽がおちて、それでも少女は座っていた。誰かを待つように.......
 
 クリスマスイヴ。
 やはり少女は待っていた。少し哀しい目をして。
 少女は待ってたい。陽がおちて、大きな金色の満月が顔を出しても。
 月の輝きが増し、時計の針が重なる少し手前にきても、少女はそこに居た。
 12時10前。
 少女の身体は淡い<光>に包まれていた。時計の針が“12”に近付くにつれ<光>は増して行く。
 少女は諦めたように首を横に振り、ベンチを離れた。少女が目を閉じる。
 “・・・・・・・・・!”
 誰かに呼ばれた気がして、少女は顔をあげた。
 辺りを見渡すが、誰もいない。
 少女は再び目を閉じた。少し顔を空に向ける。少女の身体を包む<光>が増し、フワリと足が面から離れる。
 “・・・・・・・・・っ!”
 やはり少女の名を呼ぶ声が聞こえる。幻聴ではない。確かに呼んでいる。それは、少女の愛しい人の声によく似ていた。
 少女はもう1度、辺りを見回した。
 視線が公園の入り口で止まる。
 青年と呼ぶには些か年を取り過ぎた男がひとり、息をきらしてたっている。
 だが、その顔は少女がよく知る少年のそれと似ていた。
 男が少女に歩み寄り、名を呼ぶ。
 呼ばれた少女の目には涙が溢れて、止まりそうにもない。白い手を口元にあてるとそのままうつむいてしまった。
 少女の目の前に来た、彼は手を差し伸べる。少女の身体はもう、彼の身長より高いところにあった。
 少女が手をだすと、彼は優しく抱き寄せた。 
 少女の耳元でなにかしら、呟く。
 「・・・・・・・・・」
 うれしいのか恥ずかしいのか、少女は彼の肩口に顔をうめ、コクリと頷く。
 もう、2人とも<光>に包まれていた。
 2人はもう1度、しっかりと抱き合った。もう、お互い離れないように。強く、つよく.....
 一瞬。<光>が増幅し、2人をかき消した。
 刹那。夜空に輝く満月も、その黄金の色を増していた。 
 2人を包んだ、<光>は徐々に小さくなる。光がおさまった、そこにはもう、少女の姿も、男の姿もなかった。<光>は手のひらに乗るくらいの小さな球体になり、クルクルと回りはじめた。
 少しずつ、上昇していく。月に引き寄せられるように.......
 おおきな、大きな満月に向かって、登って行く。
 それを祝福するかのように、時計台の金が優しく。暖かく鳴り響きはじめた。
 時計の針がちょうど、“12”を差している。
 金色の満月が漆黒の空に映える。
 純白の雪が闇の中をだたよい、街に降り注いでいた。

-END-