書庫*感想などは談話室にお願いします。書庫からも行けます。
「ためいき・・・」
ちらっと見る。
チラチラっとみて見る。
気づかれないように見てる。
ジーッと見てる。
相手にはわからないように。
目が合いそうになると顔をそらす。
たぶん、相手は気づいてない。
「はぁ..........」
ナミは甲板に出されている椅子に腰掛け、テーブルに肘をついて大きな溜息を吐く。
目の前には真っ青なスカイブルーの飲み物。サンジ特製ソーダ−水。
炭酸の泡が太陽の光に反射してとても綺麗だ。
ルフィはいつもの指定席に。
チョッパーはその下からルフィを見上げて何やら話し掛けている。
ウソップは船尾にいて、クダラナイものをつくっている。
ビビもカルーも船尾にいる。
ゾロはマストにもたれて安眠中。
サンジは蜜柑の樹に水やり中。
いつもと変わらない日常。
変わらない風景。
上を見て、下を見て、ナミはまた一つ溜息をつく.......。
晴天。
いやなほどに晴れてる。
蜜柑の樹に小さな虹が架かるほどに水をやって、サンジは溜息をつく。
あれから何もない。お互いの気持ちを確認したくても、サンジも何も聞かないし、ゾロもなにもいわない。
そのまま、毎日がつづいている。
サンジは蜜柑の樹にまだ水をやりながら下をちらっと見下ろした。
気になる相手は昼寝の真っ最中である。
「はぁ.......」
溜息とともに水やりを終わる。
次は夕飯の支度にとりかかる時間だ。
ここ最近の食卓はあまり会話が進まない。
料理の味が落ちたわけでも、品数が減ったわけでもない。
味も質も見た目も今までとなんら変わらない。
会話が進ほど料理に覇気がないというか、作ってる本人が溜息ばかりつくから料理もその影響をうけている。
皆、自分の前に盛られた分だけをセッセッとたいらげて、イソイソと食堂からでていく。
食べる事が好きなルフィでさえ、おかわりは3杯までになっていた。
それがここ数日の状況。
「サンジ君、いつもおいしいご飯アリガトね」
「えっ...あ、はい。」
ナミが声をかけてもあまり興味がなさそうだ。
溜息が二つ重なった。
食堂をでて行くナミのものと片づけをはじめたサンジのもの。
ドア越しにナミのひとりごと.....
「お互い、時間が必要なのもわかるけど......。いい加減にしてもらいたいわ」
ま、悪いのはサンジ君じゃないけどね、と空に浮かぶ満月を見上げてまた溜息をつく。
食堂に残ったのは片づけをするサンジとトロトロ食べてるゾロ。サンジは厨房からチラチラと見る。
皿を洗いながら、コップを濯ぎながら......。
ゾロが食べ終わった皿を重ねてもってきた。
サンジはそれを受け取って流しにおき、冷蔵庫に向かう。
そこから冷えた酒瓶とこれまた冷やしてあった小さなガラスのグラスをとりだした。前に立ち寄った港でサンジが綺麗だと言った彫の入ったグラス。
「.....ん..」
と小さく声を出してゾロに渡す。ゾロも無言で受け取って自分でお酌をはじめる。
カウンターの隅においてある丸い背の高い椅子はほぼゾロ専用である。
ちらっとみる。
残りの食器を洗いながら。
そっと見る。
明日の料理の仕込みをしながら。
ゾロは黙って酒を呑む。
ゾロの酒。ゾロのグラス。
ゾロの唇......。
何も言わない。
サンジは仕込みの手を止めて俯いてしまった。
カタン、と椅子がなってゾロが
「片付けといてくれ」
と一升瓶とグラスをカウンターにおいた。
その声を聞いて、ハッと顔をあげるとゾロと目があった。
けれどすぐに顔を反らして、酒とグラスを片付けはじめる。
ゾロがそんなサンジをみてる。
至極まじめな顔で....。
決してゾロと目をあわせないサンジを、ゾロは見てる。
グラスを洗う手元。
第一ボタンをはずしてる襟元。
キュッと閉じられた.....唇。
サンジはゾロを見ない。
ゾロは小さく舌打ちして、いきなりサンジの腕を掴んで引き寄せた。
サンジは流し越しに思いきり引っ張られた。
流し台の角に脇腹をしたたかに打ち付けたが、講議する間もなく唇がぶつかってきた。
「......ん」
ひどく無理な体勢で、何度もキスをされた。
息つぎをしようとおもって軽く口を開いたらゾロの舌が入り込んできた。
ゆるくしめてあるネクタイをほどかれて、ゾロの右手がシャツのボタンをはずしにかかった。
「......!」
そこまできて、サンジは思いきりゾロを突き飛ばした。
キスはいやじゃない。それ以上も多分....いやじゃない。
だけど、何もわからないのが嫌だった。
何も話さないゾロが嫌だった。
「....なんで....」
サンジは俯いて小さくいった。
「.......」
何の返事もない。サンジは俯いたまま拳を握りしめ足早に食堂をでて行く。ゾロはそんなサンジを見ていた。
何も言えず、何をいったらいいのかわからずに....。
外は以外と風が強かった。
ネクタイを取られて頼りなくなった襟元をあわせる。
仕掛けてきたのはゾロ。それを受けたのは自分。
イヤなら突き飛ばせばよかったものをそうしなかったのは自分。
ゾロに腕をとられ、月に見られて踊ったのを楽しいと思ったのも自分。
その時の口付けを避けなかったのも自分。
でも、ゾロは何も言わない。何も言わなかったのはゾロ.....。
自分は........。自分も.....なにも言ってない。
「...ははっ」
なにに苛立ってたのか。
理解できないゾロの行動は、きっとゾロも同じ。
ゾロもきっと自分の行動を理解できていなかったはず。
「....お互いさまか〜」
小さく呟いて、サンジは海を見つめた。
昔、海を眺めることは生きるか死ぬかの状態のことでとてもつらかったけど、今はそうじゃない。
海の向こうにはきっと何かがあるはず。
行った事のナイ土地。したことのない冒険。
船の皆で、行ければどんなにか楽しい旅になることだろう。
そう、そこにはゾロもいる。
「!」
背後に気配を感じて、振り返る。
そこにはゾロがいた。
右手には空のグラスを2個。左手には.....
「....てめぇっ。何もってきてんだよっ」
ゾロの左手には小さな樽があった。高価なものではないが、グランドラインまではいってくるには少々めずらしいもの。ここにくるときにゼフが持たせてくれたものだ。
ゾロはサンジの隣にドッカリと座った。
「ケチケチすんな」
といってまっさらな樽を惜し気もなく勝手にあける。
呆気にとられてみていると持ってきたグラスに並々とついでいく。
綺麗な翡翠色の液体。
少しハーブの香がする。
ゾロは一口のんで、
「やっぱ大吟嬢の方がうまいな」
などと勝手な事をいい、いいながらも2杯目をついでいた。
サンジは足下におかれた自分のグラスをみつめ、小さく溜息をついて、ゾロの横に座った。
「いつも寝てばっかりいるからこの良さがわかんねぇんだよ」
いっきに飲み干して空のグラスをゾロに渡す。
並々と翡翠色の液体が注がれる。
言葉をかわすこともなく、樽の水をどんどんあける。
飲みながらサンジはゾロをちらっとみる。
ほんの一瞬。ちらっとだけ。
「......てる」
ゾロが小さな声で幽かにいった。
「..なに?」
ハッキリと聞き取れずにサンジは聞きかえす。
ゾロらしくなく俯いて、グラスにはいった翡翠の液体をみながら
「おれは、おまえに.....ほれてる」
ゾロらしくない小さな声で、けれどはっきりと。
サンジはそれをきいて、
「.......おれも」
という。
顔をあげてはっきりゾロをみて。
「....そうか」
ゾロはまた小さくうなずいた。
サンジもうなずく。
翡翠の液体を飲み干す。
「.....なくなった....」
ゾロがぽつりといった。
「これ、全然強くないな。酔わねェじゃねぇか」
「......?あぁっ空っぽっ.....」
サンジがいる反対側のほうにある樽を覗き込む。
「そりゃそうだろうよ。それ品種は酒だけど、酒じゃねぇもん」
クソッと舌打ちしてサンジがその場に寝転がる。
「せっかくゼフがくれたってのに....」
「てめぇも、うまそうに飲んだじゃねぇか。」
「こっちじゃ滅多にみつかんねぇのによ。」
「てめぇのがいっぱい飲んでたじゃねーか」
「あぁ〜あ...せっかくゼフが....」
「.....」
あまりにもぼやくからゾロはサンジにキスをした。
「......てめ」
サンジの抗議を受け付けないように、深く深く口付けた。
言葉を躱すように。
互いを確かめるように。
深く優しく口付ける。
風はいつしか止んでいて、空には月が輝いていた。
「........」
気が付いたらまたルフィがいた。
ニッカと笑ってる。
その横にはまたもやナミが鬼のような形相で立っている。
「なんど言ったらわかるのよ!」
ナミの声を頭上から受けてのろりと起き上がる。
隣にはやはりサンジがいた。
頭が少しクラクラする。
「こんなトコで寝てたらサンジ君が風邪ひいちゃうじゃない!」
....おれはどうでもいいのかよ。とおもったが口にはださない。
起き上がってゾロは日当たりのイイ場所に移動する。
ナミは優しくサンジをお越しながら、マストにもたれるゾロに寝るなっと罵声を飛ばす。そんなナミを横目にゾロは寝る体勢にはいっていた。
サンジが飛び起きているのがわかる。
ナミに何度もあやまりながら、厨房に走って行くのがわかる。
太陽はもう真上に来ていた。
あたたかな陽射しに誘われてゾロは眠りにつく。
2度も寝起きを見られてはずかしがってるのはサンジ。
でも気分は全く悪くなかった。
必要なのは言葉だけじゃない。
最初におもったとおり、気持ちは同じだった。
それがわかって嬉しかった。
でも......。
せっかくゼフがくれたハーブ酒を飲まれた(ほとんど自分が飲んだ気もするが...)
ゾロがいったように酔う酒ではない。アルコール分はほとんどない。でも料理にまぜて使うとうまいのだ。
極上の肉にも魚にも、捨てるしかしようのないアラにも使えて。出汁もとれて。万能で。便利なものだったのに.....。なくなってしまった。
そう思うととてもくやしい。けれども滅多にはいらない厨房にはいってグラスと樽を探していたゾロを思うと顔が歪む。
怒ったり笑ったり。
楽しそうに鼻歌まじりに料理をするサンジを、ナミを始め皆が楽しそうにみていた。今日からは以前にもまして楽しい食事ができそうだ。
料理ができたころ太陽は少し傾いていた。
太陽と月が入れ替わるころ、風が少し強くなった。
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