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<メレンゲ>2

かけっぱなしの蓄音機が、その場に今は合わない。
サンジは立てた膝に顔を埋めてウトウトしはじめていた。
そこへ...
「そんなに知りたいか?」
とゾロが目を閉じたまま聞いてきた。
寝言か??と思ったがどうやらおきているらしい。
「もひとつ付け加えると、祭りごとって云っても大半が祝いの場だぞ。それも....ま、これはどうでもいいか。それでも踊りたいのか?」
ゾロが再びきく。
「...あぁ、知ってんなら勿体ぶらずに教えろよ」
「...いや、別に勿体ぶってる訳じゃねぇが...」
いってのっそりと起き上がる。
「んじゃ、俺がリードするから適当に覚えろよ」
座ったままのサンジの手を引く。月明るい船首の方へ歩いて行く。
「ラテン系のヤツは要は、腰を使って情熱的に踊ればいい。形なんてあってないようなもんだ。気楽にな」
そう、説明付けて、ソロは左手でサンジの右手を少し持ち上げ、右手は腰に回した。
「お、おい。ちょ....」
これでは自分が女性パートではないか。俺は男性パートを覚えたいんだとサンジが喚く。それくらいのダンスの知識はあるようだ。
サンジにしてみれば男性パートを覚えなければナミとは踊れない。
「いいじゃねぇか。先にレディのパートを覚えるのも紳士としちゃ大事だぜ」
どこで覚えてきたのかそんな台詞を吐くゾロに呆気にとられてしまうサンジである。
それでも反論しようと思った時には時既に遅し。
曲のリズムにあわせてゾロが動きはじめていた。


       ***


ゾロは口数すくなく、ほとんど前後にのみ動く。それにリードされてサンジも動く、というよりは動かされる。ゾロのリードはとても踊りやすい。メレンゲのステップを知らないサンジが困らないように、足下がもつれないように、うまくリードしてくれる。
「こんなのどこで覚えたんだよ」
サンジが聞いてみるが返答はない。もう、これで3度目だろうか....。
踊りに精一杯でしゃべれないということは.....なさそうだ。
「昔しにな。酒場の女が教えてくれたんだ。」
「へー。じゃ、そのときゾロは女性パートを教わったのか?」
「バカかてめぇ。なんで男が女のを踊るんだ」
「.....?」
サンジはしたたかに酔っている。
「しゃべってると舌咬むぞ」
ゾロに器用に回転させられたり、左右にふられたりして、少しずつ、サンジはゾロと呼吸が合いはじめる。

ほんとうにどこで覚えたのか、ゾロは腰を器用にくねらせ、軽やかに踊る。
サンジはそれを精一杯に真似をする。
月の光の下、軽やかに艶やかに....。
本来は太陽の光を浴びて踊るメレンゲを今は月の光りだけで踊る。
ゾロの姿はどこか妖艶で....。
サンジの姿も月の光によく映えて.....。
踊りは少しずつ、少しずつ、速くなっていく。サンジがステップを覚えるのに合わせて速くなっていく。
同時に腰にあて立ても少し下に下がる。腰に手を当てるというよりは抱えるといったふうに。
右腕も少し上にあげられる。
またすこし、踊りやすくなっただろうか....。

それでも気づいた頃には、少し息があがっていた。
蓄音機から流れる曲のリズムは変わらないというのに、動きはますます激しくなる。
右の手を軽くささえられて、ターンする。
ゾロに強制的にさせられてるのでも自分からしてるのでもなく、何となく曲に合わせて身体を動かしていれば、そうゆう雰囲気になってくる。
はじめはステップを気にしながら、抱えられる腰が気になりながら踊っていたが、今はもう、気にならない。というか気にしていては踊っていられない。それほどにテンポがあがっていた。
ゾロは、サンジを2度ほど回転させて、挙げた腕をそのまま頭の後ろにもって行った。頭の後ろで軽く放してやると自然と曲に合わせてリズムをとる。ゾロはそれを確認して自分の腕はそのままサンジの背中をなで腰にあてがう。リズムに合わせて揺れる腰を軽く支える。
サンジは曲に酔いしれるように、ゾロの腕に沿って挙げた腕を降ろしていった。
自分の腰にあるゾロの手に自分のそれを重ねた。
それから二人して、もつれ合うようにして踊る。
ゾロは右手をサンジの腰から放して、彼の頬にあてた。
激しいリズムで踊ってはいるが、触れる指はとてもやさしい。
ゾロは、サンジの半開きの唇に吸い寄せられるようにして顔を近付け.....口付ける。
「...ちょっ..ゾロ?」
いきなりのことに驚いたサンジだがすこし抵抗しただけで流れに呑まれたようだ。ゾロの手に重なっていたサンジの手はいつの間にかゾロの首にまわっていた。
どちらからともなくキスをして、互いに舌をからめ、唇をむさぼる。
腰を左右にゆらして、リズムを取りながら.....
雰囲気に呑まれながら......情熱的にキスを躱す。
何度も角度をかえてキスをする。
夜はどんどん更けていき天上に昇りつめた月がすこし傾きはじめても二人はおどっていた。
キスを躱しながらもつれながら....
情熱的に、腰を揺らしながら....まるで恋人のように....。
お互いを求めて、時間も忘れて.......



気がついたら二人は甲板に寝転がってたい。
昨夜の踊り過ぎのせいか、頭がボーッとしていつまで踊っていたのか、いつ寝てしまったのかさえ、わからない。
ただ、記憶だけがはっきりしていて......。
サンジはとなりのゾロをみて、頬を赤らめながら「くそッ」っと小さく呟いた。
あれではまるで.....。
まるで恋人同士ではないか。
「.....!」
寝返りをうったゾロの腕がサンジの腰に巻き付いた。
昨夜の踊りを思い出し、恥ずかしさが込み上げる。ゾロの腕を剥がそうと引っ張ってみるが、ゾロがあまりにもしっかりと抱き着いてるので、うまくいかない。
あせれば焦るほど剥がせない。
「....クソッタレッ」
あきらめてサンジはそのまま寝転んだ。朝食の準備までにはまだ少し時間がある。それまではこのままでいよう。
なぜそう思うか、自分でも不思議だったが、回された腕は得に不快には感じなかった。
ゾロは....どうなんだろうか?
サンジは考える。
昨夜のことは曲と酒に酔いしれただけなんだろうか?
ゾロは自分のことをどうおもっているんだろう....?
自分はきっと......
.......。


      ***


ヒソヒソとなにかしら聞こえる......。
ゾロはあたたかな温もりに幸せを感じながらも、頭上のうるささに目を覚ました。
一番はじめに見えたのはルフィ。
ニッカっと笑って視界から消えた。
足下ではウソップの声がする。
2番目に見えたのは......ナミ。
腰に手をあてて、なにやら怒っているようだ。
「ったく!なに呑気に寝てんのよ!」
足下にいたウソップはビビに呼ばれて厨房にいったようだ。
「?」
朝食の当番は....ビビ?...当番なんてあったか?
寝ぼけた頭ではなにも考えられない。
「ちょっと!聞いてンの?ゾロ!!」
「るせぇ」
「なーにがうるさいよ!まったく。こんなところで寝てたら風邪引くでしょうがっ」
頭の上で騒がれて、もう起きるしかない。
「オレは風邪なんて引かねぇよ」
「あんたじゃない!」
いって拳骨で殴られた。
オレじゃなかったらいったい誰が???
そう思ったところで腕の中の暖かいものに気づいた。
「サンジ.....」
「そう!サンジ君よ。風邪引いたらどうすんのっ」
ゾロも昨夜のことを思い出した。
メレンゲの曲に合わせて踊り明かした。踊って、酒が回って......それから.....キスをした。
二人して、一晩中。
踊ってキスをした。
「ちょっと聞いてンの??ゾロッ」
ゾロはまったくナミの声は聞いていない。
キスをして、踊って......
サンジはどう思っただろうか....。
自分はきっと......。


ゾロと同様に、頭上のけたたましさに意識が浮上したサンジは、その場にビックリして飛び起きた。いつの間に熟睡していたのか。陽はすっかり昇っている。
ゾロはまだサンジの腰に腕を回したまま、ナミに叱られていた。
ルフィは楽しそうにその様子を船首の特等席でみていた。
「.......」
恥ずかしくて顔があげられないサンジに気づいたナミは優しく声をかけた。
「おはよう、サンジ君」
「あ、はい。おはようございます。な、ナミさん.....」
「昨日はよく眠れて?風邪は引いてない?」
「あ、はい。大丈夫です....」
「そう、よかった。朝食はビビがつくってるから、食べに行きましょう」
ナミはサンジに満面の笑みをみせる。
「すみません。ナミさん....コックの仕事をサボって..」
「いいのよ。きっと悪いのはコイツだから」
とゾロの脇腹を蹴りあげる。
痛みに苦悶した拍子にゾロのサンジの腰に回していた手が弛んだ。
「昨日はちゃんと教えてもらったの?」
「えっ。いえっ、あ、はい....」
「じゃ、また今度教えてね」
さ、食事に行きましょう。と座り込んでるサンジの手を引く。

食後、サンジは片づけもそこそこに、蓄音機にかける回転板の一枚を厨房の戸棚の奥にしまってしまった。
もうすぐ、腹を減らしたゾロがやってくる。
昨夜の情熱は、いまも、あるのだろうか.......。
自分達の思いはきっと.....。
きっと.....互いに同じものだろう。
なんとなく、そうゆう雰囲気で。
聞いて確認しなくても、きっと......。
そう、きっと互いに昨夜の情熱のままだろう。
もうすぐ、食堂のドアが開く。
いつもどおりで、いつもの日常がはじまる。
そう、いまはそれでいい。
そうゆう雰囲気で、それがいい....。
互いの思いは、きっと......
きっと、かわらないから。


グランドラインは今日も晴れ。
空にはおおきな太陽がいてゴーイングメリー号を眺めていた。


                                         end