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ショコラ

甘い匂いに誘われてルフィは先程から食堂入り口のドアに張りついている。
サンジから、厳重に立ち入り禁止を言い渡されていてこうして張りついているしかない。
サンジの言い付けを破れば3日間のオヤツ抜き。それは大変困るのでこうして表で鍵穴から中を覗き込んでまっている。
厨房からのびる煙突からは甘ったるい煙りが見える。
「あ〜。暇だぁ〜。早くサンジ、でてこないかな〜」
ルフィは食堂のドアの向い側に座り込み空を見上げる。
煙突から出た煙りは船の進路とは反対方向に進んで行く。
「な、なんの匂い??」
鼻の効くチョッパーが、甘ったるい匂いにいかにも耐えられないといった風に鼻を押さえながらヒョコヒョコとルフィの側へきた。
「ん〜〜〜。なんだろな〜?ふふふ」
なんだろうと言いつつも何かを知ってるようなルフィ。
「ふふふ....知りたい?」
早く聞いてくれとルフィの顔がいっている。
「な、なに?」
「ふふふ....チョコだぁ!」
ルフィは得意げに言い切った。
そう、食堂から匂っているのはいかにもチョコレートの匂い。
昨日、市場で大きな焦茶色のチョコの塊と真っ白なチョコの塊と生クリームとピンクの粉をサンジが買っていた。
それをみてルフィは直感する、今日のオヤツはチョコだと。
この匂いが何よりの証拠。
きっと、この船より大きな大きな船の形をしたチョコレートだ。
とてつもない豪華客船で船の一番前にはルフィ専用の船長室があって..........
ルフィの妄想はどんどん膨らんでいく。
サンジがいかに腕のイイコックであろうとも、乗ってる船より大きなものはいや、食堂の調理場よりも大きなものはつくれない。
なのにルフィの頭ンなかはもうすでに巨大な豪華客船が浮かんでいた。
「ねぇねぇ」
先ほどからチョッパーが呼び掛けてるのさえ聞こえないほどに...
「ねぇってば。ルフィい。チョコってなに?」
「.......ほえ?」
チョッパーの少し大きな声に我にかえる。
-----チョコッテナニ?
チョッパーはそう聞いてきた。
「知らないのか?」
「うん」
そんなチョッパーにルフィはニッカとわらって答える
「めちゃくちゃ甘くて、すんげぇうめぇぞ!」
「甘くてうめぇのか....」
チョッパーもチョコを想像しながら空を見上げた。
煙突からはまだ煙りがあがっていた。

  *

食堂のテーブルにはいっぱいにひろげられたチョコ。
一口サイズの小振りなシェル型。ココアチョコにホワイトチョコそれとストロベリーチョコ。あとはそれをマーブルにしたもの。ココアチョコにはナミさんの蜜柑で作った蜜柑ソースがはいっている。全部で100個ほどつくりその中から1番色艶の綺麗なものを選びだした。それを小さなガラスの箱にいれる。ラッピングも欠かさない。出来映えに満足して、食堂のドアをあけると目の前にルフィとチョッパーが座り込んでいた。
ルフィの目は期待に光り輝いていた。よくも長時間待てたものだと感心しながら
「おぅ、おめぇら。テーブルの上のやつ食っていいぞ。ウソップもよんでやれよ」
しかしルフィはサンジが声をかける前にもうテーブルの上のチョコにかじり付いていた。あれじゃ、ウソップが来るころには何もねぇな....と空を見上げて思う。
鍵つき冷蔵庫にこれからのオヤツ用にと残り物をいくつかいれてあるからそれをあげようと煙草をふかしながら考えた。
煙草をくわえなおし愛しのレディの元へと向かう。最高傑作のチョコを渡しに.....。

蜜柑の樹の下でひなたぼっこをしていたナミはチョコのプレゼントをたいそうよろこんでくれた。
「では、ナミさん。夕飯の支度をしてきます」
とサンジはその場をあとにした。

***


チョコを作っていた食堂は甘ったるい匂いを残したままで、サンジは夕飯のあと片づけに追われていた。
食堂のドアがあき、人の気配がする。
「酒か〜ゾロ」
振り向きもせずに聞かれは本人は少しビックリして
「....あぁ」
とだけ答える。
「これ片付けるの待ってくれたらあとで外にもってってやるよ」
食器を洗う手を休めずにサンジが言う。その時のサンジは少し緊張していたがゾロからはサンジの顔が見えなかった。
「あぁ...頼む」
少し拍子抜けした感じでゾロはそっとドアをしめ甲板に向かった。
それを気配で感じ取っていたサンジは肩の力を抜いて食器を洗うスピードを速めた。
早く片付けて、早くアレをもっていかなければ.....

  *

「わりぃ。遅くなったなぁ」
一升瓶と小さな包み袋を右手に、左手には綺麗なグリーンのカクテルののったお盆をもって甲板に出た。
マストにもたれているゾロの元へと向かう。
「....おい?」
声をかけても微動だにしないゾロを覗き込むと待ちくたびれたのか眠りにはいっている。
食器の片付けと明日の仕込みに時間がかかり待たせ過ぎた自覚はあり、しかたねぇなぁとサンジはおもう。
熟睡はしていないだろうからもう少し大きな声で肩でもゆすればすぐに起きるだろうが、寝ている彼をもう少し見ていたい気もする。
船の上はまだまだ安全なのか無防備に寝ている彼を可愛いと思うのは変だろうか....
サンジはそんなゾロの隣に腰を降ろす。
手にしていた一升瓶は先日チョコレートの材料を仕入れた時に買ったもの。甘いチョコにもあうような味の酒。
栓の抜いてないものをあけるのもどうかとおもい、盆の上のカクテルに手をのばす。これは綺麗なグリーンの液体でミントリキュールベースのもの。バラティエにいたときに唯一ゼフから教わったものだ。
せっかく作ったのに.....と思い、隣で寝息をたて初めたゾロを起こすかどうか悩んでやはりそのままでいることにした。
カクテルはまた今度つくってやればいい。酒もこんど栓を抜けばいい。
空を見上げると月が真上にきてる。
風もなく波も穏やかで。このまま朝になっても風は引かないだろう。
もってきたカクテルを2杯とも飲み干して、サンジはゾロの側にそっと小さな包み袋だけをおいて立ち上がる。
朝になったらビックリするだろうか??
うまいといってくれるだろうか??
きっとゾロの好みにあうとおもうけれど....
ウイスキーは好きだろうか??
いろんなことが頭をよぎり、なかなかその場を離れられないでいる。
このまま横になったら.....下敷きにしてはしまわないか??
朝までルフィに見つからないか??
.....朝までゾロは熟睡か??
「...ん」
同じ体勢でいたのがつらくなったのかゾロがちょっと身じろぎした。
サンジはいろいろ考えた自分が少し恥ずかしくなってしまう。
きっと下敷きにもされないし、ルフィも起きてこない。
ゾロを起こさないと決めたんだからこのまま寝室へ行こう。
一升瓶と空のカクテルグラスがのった盆を持ち直してその場を去ろうと向きをかえ、けれど、またゾロに向き直った。
ちょっと身体をかがめ、膝をおり、ゾロに近づく。
目をとじて寝ているかれをやはり可愛いとおもいつつ、そっと、その唇に自分のそれを軽く合わせた。
あまりに深くなり過ぎるとゾロが起きてしまう。
なごりを惜しんで、サンジはその場をあとにした。

***


朝食の支度をするために誰よりも早くサンジは起きる。
そっと甲板をみやると.......やはりゾロはまだ寝ていた。
「ったく。早く起きネェとルフィに食われちまうぞ」
小さくつぶやいて、厨房に消える。
「.....?」
食堂のドアをあけて、すぐにテーブルの上に小さな小さな紙の包みを1つ見つけた。あけてみると.....銀の包み紙に包まれたホワイトチョコ。しかもハート型。
「.....」
昨夜キレイに片付けたテーブルの上。サンジが作ったものではない。誰がおいたのかもサンジにはわかってしまった。
......はずかしいヤツ。
紙切れは四つに折り畳んでスーツの胸ポケットへこっそりしまう。
それから、少し頬を赤らめ、チョコを口に放り込んだ。
甘い、甘い、ふんわりとしたチョコだった。

  *

まだ寝ているはずのゾロの傍らにある小さな包み袋の中身はすでにカラッポだった。

甘い甘いキスが落とされた時、既に目覚めてしまい、どうしようか悩んでいたらそっと唇が離れてしまった。
サンジがその場を離れて少ししてからゾロは身体を起こした。傍らにおかれている袋にも気がついて、あけるとチョコがはいっていた。銀の包みをあけて口に入れてみると、甘くほろ苦く。そして、濃いめのアルコールがはいっていた。
以前、サンジに甘いのが苦手だといった覚えがある。それを覚えていたのだろうか?
アルコールの入ったチョコは甘過ぎず、かといってアルコール臭くもなく、実によくできていた。
すべて食べ終わってからふと、思い出し、食堂へ足をむける。
まっすぐにテーブルに向かってそこへ小さな紙に包んだものを置く。
朝になったらサンジは気づくだろうか?
ちゃんと中までみるだろうか?
誰が置いたかわかるだろうか?
それよりも、食べるだろうか?
......。
考えても仕方がない。
朝一番に起きるのはサンジだし、ここに入るのも彼が一番早い。昨夜、綺麗に片付けた上になにやら乗っていたら気づいて、手にとって、あけて、みて......食べるだろう。
ゾロはそう確信して、また甲板へ向かう。
今夜は月も綺麗で、外のほうが気持ちがいい。このまま寝ていても大丈夫だろう。
寝るまえにもう一度だけ紙袋を覗きこむ。
.....やはり何度見ても食べたものは、もう、ない。
袋に入っていた極上のウィスキーボンボンは、甘くて苦くて。それはとてもいまのゾロの気持ちにとても似ていて....。
見上げると、そこにはふわふわの真っ白な雲が浮かんでいた......。

 

 

end(2002.02.14)