大切なもの。大切な人
愛おしいもの。愛おしい時間
時にはあたりまえすぎて、
その価値を忘れてしまうけれど
かけがえのないものは
いつだってそこにあると思います…………
◆
小話その3 彼女の幸せの在り方
◆
ある夏の昼下がり。
まりあは、駅前の書店から帰路につく最中にあった。
紅茶館“さくら”は一週間のお盆休み。義理の姉のさやは自宅にいるが、しおりは家族旅行、ふみかは故郷の実家に戻っているという。
何の予定もなかったまりあは、ひとり駅前の書店にまで足を運び、何冊かの参考書を購入した。来年には高校を卒業するだけに、大学受験のことも考えなければならないからだ。
しかし、正直なところ、大学に行くべきかは迷っていた。この時期だというのに行きたい大学は決まっていないし、何かを目指して勉強するという目的もなかったから。
むしろ高校卒業後は、今以上に紅茶館“さくら”で、さやの手伝いをしたいという気持ちもあった。
学費だって馬鹿にはならないのだから、無目的な人間が行くのもどうかと思われる。
けれど、さやにそれを話すと「大学には通うべきだよ」と言われた。大学は高校以上に楽しく刺激のある場所だから、通って損はないという理由で。
さや自身は、今は亡きまりあの兄、直人との結婚を優先して自ら大学を中退した過去を持つのだが、まりあには大学で素敵な体験をして欲しいという思いがあるようだ。
そういうこともあり、まりあも大学受験の準備だけはしておこうと考えた。
この先どうなるかはわからないにしても、勉強しておくという行為自体は悪いものではない筈だから。
それに今は、それ以上のことを考えないようにする。
暑い日差しの中で悩み事をしていても、息苦しさが増すだけだから。
立秋も過ぎ、暦の上では秋とはいえ、残暑厳しいこの時期はどう考えても夏というイメージだ。
とりわけまりあは、この時期にふとした物悲しさを覚えてしまう。特に繁華街を離れた道を歩いている時などに。
暑さのせいで、外を歩く人々の姿もまばら。日も高いというのに誰の姿もみえない街は、それだけで独特の寂しさを漂わせているようにも思える。
耳に聞こえる蝉の鳴き声。アスファルトから揺らめく影。
まるで夢現の別世界に、ひとり迷い込んでしまったかのような錯覚を覚える。
もっとも夏だけに限らず、それぞれの季節に物悲しくなる瞬間は存在するが、まりあはこの時期のこの感覚が一番嫌いであった。
彼女にとって“ひとりである”ということと、“誰もいない”ということは、心の奥底にある不安を思い出してしまうからだ。
そんな時である。
近づいてきた車に軽くクラクションを鳴らされたのは。
「…………?」
まりあは足を止めて車の方を向く。その車に見覚えは無かった。車種まではわからないが、随分と立派な白い車で、お金持ちが乗っていそうな印象を受ける。
車はまりあの側まで来ると停車し、後部座席の窓が開いた。
「ごきげんよう。綾瀬さん」
窓から顔をみせたのは、化粧の濃い熟年の女性だった。
「…………白河さん」
まりあは言葉を硬くしてその名を呟いた。
白河菊枝。それが目の前の女性のフルネーム。さやの母親にあたる人物だ。もっとも実の母親ではなく、継母だということだが。
「おひさしぶりね。さやは一緒じゃなくて?」
何気ない世間話のようにも見えるが、言葉の響きは限りなく冷たい。
「今日は私ひとりです。さやさんは家にいますから」
「ふうん。相変わらずお店“ごっこ”を続けているということね、あの子は」
明らかに険のある言い方を菊枝はした。
彼女は駆け落ち同然に結婚した直人とさやに対し、猛反発をしてきた人物だった。特にさやが家を出たのは直人のせいだと決め込み、事あるごとにまりあら綾瀬家の人間に対して辛くあたってきた。
そして、直人が事故で亡くなった後も、さやを強引に実家へ連れ戻そうとした経緯がある。未亡人になったのだから、もはや綾瀬の家に縛られる理由もないだろうという理由で。
しかし、その時のさやは、断固たる意思でそれを拒んだ。
直人が亡くなろうとも、自分は綾瀬家に残ると言いきったのである。そこには他界した直人への想いもさることながら、幼い頃に両親を亡くし、そのうえ最後の肉親であった直人を失ったまりあへの同情もあっただろう。
そういう経緯から、まりあとさやは一緒に暮らしているのだが、目の前の菊枝は未だにそれを快くは思っていないようだった。
「ねぇ、綾瀬さん。いい加減、あなたからさやを解放してあげてくれないかしら?」
「解放ってそんな言い方……。さやさんは望んで私といてくれているんですよ」
「馬鹿ね。あの子は単に義理立てでそう言っているだけよ」
「私は義理だけじゃないと思います」
まりあは可能な限りの気丈さをもって言い返した。
「ふん。可愛げの無い子ね」
菊枝は露骨に不快な表情をする。
「でもね、仮に義理だけじゃないにせよ、あなたはこのままでいいと思っているの? さやはまだ若いのよ。まだやり直しも効く年齢だというのに、綾瀬の家に縛られているなんて。あなたはあの子の人生をめちゃくちゃにする気?」
「それは…………」
まりあは表情を曇らせた。それが痛い指摘であったから。
菊枝の言わんとすることは、まりあだって考えなかった訳ではない。さやはまだ二十二歳。このまま直人や自分への義理を貫き通すには若すぎる年齢だ。
「あなただってそのうち結婚でもして綾瀬の家を出るのでしょう? それまであの子にあなたの面倒をみさせる気? 自分だけ幸せになって、あの子の事はどうでもいいとでも思っているの?」
「そんな訳ありません!」
追い詰めるかのような菊枝の問いに、まりあは首をかぶり振って叫んだ。
「ならあなたも早く自立しなさいな。来年には高校卒業でしたっけ? 働こうと思えば立派に働けるわよ。もう大人として見られても良い年齢なんだし、それくらいできるでしょ?」
菊枝がそう言った直後。柔らかくも憂いをおびた声が、近くより響いた。
「おかあさま。こんな道の往来で車を止めて、何て会話をしているのですか……?」
見るとそこには、日傘を差したさやが立っていた。
「あなた、いつからそこに」
まずい現場を見られたとばかりに、菊枝が表情を歪める。
「つい今しがたです。でも、聞こえてきた会話の内容から大体のことは想像できますが」
さやはまりあの側まで近づくと「大丈夫だった?」と心配げに視線を向けてくる。まりあは微笑で頷いてそれに応えた。
菊枝の方は軽く咳払いをした。
「会話内容から想像がつくならあなたにも念を押しておくわ。早く実家に戻ってらっしゃい。あなたは白河家の人間として、幸せになる権利がある筈よ」
「お言葉ですがおかあさま。わたしはもう綾瀬の家で生きていくと決意しています。そのことは以前にも伝え、おとうさまだってそれを理解してくれています」
「馬鹿をいうものじゃないわ。あなたのおとうさまは本心では悲しんでおられるのよ。それが理解できなくて? それは親不孝というものじゃない?」
「確かに親不孝であると言われれば否定はしません。でも、わたしも大人ですし、自分で選んだ道に対する責任があります。それに選んだ道を後悔しているつもりもありませんから。もし、まだ話があるというのでしたら、今度はおとうさまも交えてもう一度お話しましょう」
さやは菊枝の目を見て、きっぱり告げた。
「あなたのおとうさまは忙しい方なのよ。そのような時間、簡単に持てるわけがないでしょう!
「おかあさま。これを親子にとっての重要問題と考えられるなら、“そのような”で片付けるのはどうかと思いますが」
「…………屁理屈ばかり一人前になって。いいわ。今日のところは退いておいてあげる」
菊枝は不愉快そうな表情を隠すことなく言い捨てると、運転手に命じてこの場から車を立ち去らせた。
残った二人は静かにそれを見送る。そして、車が完全に見えなくなった所でさやがほっと肩をおろす。
「まりあちゃん、本当に大丈夫だった?」
「あ……はい。つかまっていたとはいえ、数分程度のことでしたから。それより、さやさんこそ大丈夫ですか」
緊張が解けたこともあり、心底ほっとした表情をしている。先程までの気丈な態度も、彼女にしては頑張った方だ。本来温厚であるさやは、あのようなやりとりを得意とはしないのだから。
「少し心臓がドキドキいってるけど、心配しなくてもいいわ。それよりもごめんなさいね。困ったおかあさまで。まりあちゃんに不快な思いさせちゃったわね…………」
「さやさんが謝るようなことではないですよ」
「でも、わたしがもっとしっかりしていれば、おかあさまだってもう少しはわかってくれるかもしれないって考えるとね」
さやはそう言うが、それがいかに難しいことであるかは嫌というほど承知している。それでもあえて、自分にも非があるかもしれないと考えるところは、さやの優しさのあらわれだった。
「あ。ごめんなさい。今はそのような事を言ってる場合でもないわね。さあ、こんな所に立っていても暑いだけだし、帰りましょうか。まりあちゃんも家に帰るところだったのでしょう?」
「はい。用件は済みましたから」
「なら帰って、お家で涼みましょう」
こうして二人は歩き出す。途中、さやが日傘にいれてくれようとしたが、まりあの方が少し背丈が上なので持ちにくそうだった。
「持つのかわりますよ」
「あ。ごめんね」
「いえ。かまいませんから」
まりあはさやから日傘を受け取った。
女性同士。日傘の相合傘というのも珍しいが、それはそれで仲の良さを実感できるみたいで、まりあは少し嬉しかった。
大好きな人が側にいるという安心感も大きいのかもしれない。
でも、手放しで喜んでいるかと言えばそうでもなかった。まりあの心の中には、先程までの菊枝とのやりとりが残っている。
さやの事は大好きでたまらないが、このまま彼女に甘えるという事は、まだ若い彼女の人生を縛り付けていることになっているのではないか?
それだけはどうしても気になった。「まりあちゃんはどこに行ってきたの?」
さやがそんなことを訊ねてくる。先ほどの菊枝とのことを聞かれないだけ、気を遣ってもらっているのかもしれない。
「あ……ええと。駅前の書店です。参考書を何冊か見つけてきました」
「大学受験のこと考えてくれているのかしら?」
「まだ受験するかは決めかねていますが、それも視野に入れて勉強だけはしておこうかと」
「そっかあ。頑張ってね」
さやは優しく微笑んだ。それがあまりにも可愛らしすぎるものだから、まりあはドキドキしてしまう。女性である自分がそうなのだから、兄の直人なんかはそれ以上にあの微笑みにノックアウトされたのではないかと思う。
「さやさんはお散歩だったのですか?」
まりあが出かける前はまだ家に居た筈だ。
「うん。家でのんびりばかりしていても身体が鈍ってしまうでしょう。だからお散歩も兼ねてちょっとお買い物」
「何か買われたのですか?」
さやは大きな手提げ鞄を持っているが、それ以上の荷物は見当たらない。
「楽しくなるもの買ってきちゃった」
そう言うとさやは、鞄の中身を見せてくれる。中には大きな花火セットが四つも入っていた。
まりあは感心すると同時に苦笑した。
「確かに楽しそうですね。でも、こんな大きな花火セットが四つというのは多すぎませんか?」
「一晩中遊べちゃうかもだね」
「それくらいのボリュームはありますね」
「しおりちゃんやふみかちゃんはそれぞれ楽しくやっているだろうし、わたしたちも楽しく遊びましょうね。勉強はそれからでも良いと思うし」
楽しく遊ぶという発想で、花火を買ってくるあたりが何ともさやらしい。
まりあは彼女のそういう所も好きだった。純粋でとても微笑ましく思えるから。きっとさやなら、子供に慕われる良い母親になれるだろう。
しかし。そう思った時点で、再びまりあの心の中に重いものがのしかかる。
今のままでは、さやが母親になれない事実に気づいたからだ。子供を得る前にして夫を失った彼女は、もはや再婚でもしない限り、自身の子供を産む機会も無くなる。
でも、さや自身はまだ若い。菊枝の言いようではないが、やり直そうと思えば人生をやり直せる年齢。それこそ、まりあという足枷さえなければ、彼女は自由になれるかもしれないのだ。
「…………さやさん。子供は好きですか?」
思わずまりあは、そんなことを口に出してしまった。
当然ながらさやにはキョトンとした顔をされる。
「どうしたのいきなり。そりゃあ子供は大好きよ。可愛らしいもの。もしかしてご近所の子供たちも呼んで、一緒に花火をしようとかいう提案?」
「あ、いや、その……そういう訳じゃなくて。ただなんとなく」
「うふふ。変なまりあちゃん」
さやはそれ以上の詮索はせず、笑って流してくれた。
我ながら愚かな質問をしたものだと、まりあは後悔する。さやは普段から近所の子供に人気があり、慕われているからだ。そして、それは裏を返して見れば、さやだって子供が好きであることを意味する。
そんな彼女が自分の子供を産めないなんて、あんまりだと思う。
まりあは心の中で深い溜め息をついた。
さやには幸せになってもらいたいが、ずっと側にいて欲しいという願望もある。でも、それはあまりにも都合の良い考えのように思えてならない。
重苦しい気分は、そのまま沈黙という形をもってあらわれる。
せめて今この場の沈黙が、暑さによって口数が減っているという風に勘違いされることを祈りたかった。少なくとも、今の自分の気持ちを悟られたくはなかった。
§
「美味しいアイスティーでも淹れてあげましょうか?」
自宅に帰り着くなり、さやがそんなことを言った。
「いいんですか?」
「暑い中を歩いてきて、喉もカラカラでしょう」
確かにさやの言うとおりではあった。
重苦しいことを考えていても、喉は自然と渇いていた。炎天下の中を歩いてきたのだから無理もないが。
「良ければお店の方にいきましょうか。あっちの方が道具も揃っているし」
さやがそう提案し、まりあも頷いてそれに従った。
普段の居住スペースから喫茶店のフロアへ入ると、がらんとした印象を受ける。見慣れた場所であるにもかかわらず、そこに広がる空間にちょっとした違和感をおぼえた。
午後の四時半。普段ならこの時間は、紅茶館“さくら”の営業時間帯。
客はまばらでも、人々の息遣いは感じられる。そんな時間。
けれど今は、まりあとさやの二人以外に誰もいない。夕陽の差し込む店内は、美しくも物悲しい雰囲気で満ちていた。
「そのへんの席にでも座っていて」
「はい」
まりあはカウンターの席に腰を下ろすと、その奥で作業を始めるさやの姿を見つめる。
紅茶を淹れるのは普段からさやの仕事であるが、流れるようなその動作はいつみても見事なものだった。
まりあも少しは紅茶に詳しくなってきたとはいえ、まだまだ彼女の足元に及ばない。知識として頭にあることでも、実際にやってみると、微妙にうまくいっていないように思えるからだ。
少なくともさやの淹れる紅茶の味と比較すると、その違いはハッキリわかる。
「特に手の込んだものじゃなくて、普通のアイスティーでいいかしら?」
「構いませんよ」
「了解。茶葉は……そうね、キャンディにしようかしら」
さやは棚からキャンディの缶を取り出す。
まりあは静かに見守ることにした。ここは詳しい彼女に任せておく方が無難だからだ。間違ってもヘンなものは出てこないと思う。
さやは紅茶にこだわりと愛情をもっているだけに、本当に楽しそうに作業を進めていく。その姿は、ただ眺めているまりあですら微笑ましくなるほどだ。
「そういえばまりあちゃんは、アイスティーのちゃんとした作り方って知ってる?」
「えっと……単純に紅茶を冷やすとかではないのですか?」
まりあは思わずそう答えたが、たぶんそれは不正解のように思えた。わざわざ“ちゃんとした作り方”と訊ねてくるくらいだから、そんな簡単な答えではないだろう。
さやはクスクスっと笑った。
「まあ、アイスっていうくらいだから冷やすのは確かだけど、ちゃんとした作り方を知っていないと大失敗しちゃうものなのよ」
「そんなに難しいものなんですか」
「知るべきことを知っていないとね。よければコツを教えてあげましょうか?」
これは珍しい申し出に思えた。さやは普段から紅茶の知識を披露してくれるが、それはあくまで会話の流れの中で出てくるものであって、このように改まって教えましょうか?などとは言ってこない。
「…………そうですね。私もさやさんの役に立ちたいですから、教えてもらえると嬉しいです」
「うふふ。まあ、そんなに肩の張るような内容でもないから気楽にね」
さやはそう言って、真面目なまりあの緊張をほぐす。
「さて、ここで簡単な質問。冷やす前の紅茶、まりあちゃんならどう作る?」
「まずは普通に温かい紅茶から作る……とかでしょうか?」
簡単な質問とも言っていたし、ひねりもなく考えるのならこれくらいしか思いつかない。
「正解。沸騰したお湯を使って普通に紅茶を作るの。茶葉の成分を抽出する意味でも重要なことね」
「なるほど」
「でもね。この最初の段階でもひとつだけ注意点があるのよ。茶葉は多めに、二倍の濃さで淹れるのがポイントなの」
「どうしてですか?」
「冷やす時に氷をたっぷり使うからよ。あらかじめ濃く入れておけば、氷が溶けても丁度良い味になるの」
少し考えればわかりそうなことでも、ちゃんと理由を知っておくことで、それはしっかりとした知識となる。
さやは自らの言葉通り、いつもより多めの茶葉をポットに加え、そこに沸騰したてのお湯を注いだ。
「ここで注ぐお湯も心持ち少なめにするといいわ。二倍の濃さで淹れるとはいったけれど、茶葉を二倍にするんじゃなくてお湯を少なめにするのがポイントともいえるわ」
「なるほど」
ポットにお湯を注いだあとは、紅茶の味を引き出す上で、もっとも大事な蒸らし時間に入る。
それから三分ほど待って紅茶が出来上がると、今度は茶漉しを使って別の透明の容器に移す。そして、その時にグラニュー糖を混ぜ、甘みを付け加えていった。
「さあ、そろそろ仕上げよ。ここからがアイスティーの美味しさをいかに引き出せるかの分かれ目」
さやはグラスを用意し、そこにたっぷりの氷を加えた。そして、そのグラスへと一気に紅茶を注ぐ。
「…………うん。良い感じに出来たわ」
香りを確かめる訳でもなく、グラスの中にある飴色の液体を見つめ、さやが満足気に頷いた。
「出来の良し悪しはどう判別するんですか?」
「色で判別するのよ」
「色……ですか?」
まりあは、まじまじとグラスの中を見つめた。氷で冷やされているとはいえ特に変哲のない紅茶にみえる。
「ちゃんと透き通った飴色をしているでしょう?」
「ええ」
「そういう状態になっていることがアイスティーにとって大事なことなの。アイスティーは一気に紅茶を注いで冷まさないと、濁ってしまうのよ。これは茶葉に含まれる、カテキン類やカフェインが冷やされて結晶化する現象で、クリームダウンって呼ばれているわ」
「そのクリームダウンが起こると、味も悪くなるんですか?」
「勿論。そもそも紅茶って、冷めていくに従って香りが失われてしまうものなの。でも、わたしがやったみたいに一気に紅茶を注いで急冷すると、風味を閉じ込めて、濁りを抑えたアイスティーになるのよ」
「すごい。やっぱり紅茶って奥深いですね」
作業こそは簡単に見えても、こういった知識をもっているのといないのとでは、結果として出来てくるものは全然違う。まりあは素直に感心した
「ちなみにアイスティー向きの茶葉はタンニンが少ないものがいいわね。主にセイロン系なんか。クリームダウンが起こりにくいのよ」
「ということはディンブラやラプサンスーチョンなんかでもいいのでしょうか? 確かタンニンが少なめとか、ずっと以前に聞いたような気がします」
「そうね。悪くないと思うわよ。あと、今回はオンザロック方式でいれちゃったけど、他にもアイスティーの淹れ方はあるわよ。クリームダウンさえ防ぐことができれば、どういう方法で淹れても構わないと思うし。自分に合ったやり方をみつけるのが一番ね」
美味しい紅茶を淹れるためには最低限のルールこそあるが、その部分さえ守ればあとは経験とカンのみ。厳密なレシピなど存在しない自由さがある。
まりあも美味しい紅茶は幾度となく飲んだことがあるが、その中でもやっぱりさやの淹れる紅茶が一番だと思う。ただ美味しいだけでなく、飲む人間に合わせた創意工夫をしてくれることも多いからだ。
豊富な知識の裏づけが、彼女の淹れる紅茶の個性にも繋がっているといえる。
「さあ、蘊蓄はここまで。はいどうぞ。冷たいうちに飲んじゃってね」
出来上がったアイスティーが目の前に差し出される。まりあはストローをさすと、グラスの中の氷を軽く混ぜた。
溶けた氷がカラカラっと音をたて、涼しげな見た目と音を、少し楽しむ。
「…………このまま放置すると、やっぱり濁ったりするんですか?」
「そうね。うまく仕上がったものでも、氷が溶けて時間が立てばクリームダウンするわね。それが嫌なら氷を取り出して常温のままにするのもありだけど」
それも好み次第ということらしい。
「もし、のんびりと楽しみたいのなら、もう一杯は別の方法で淹れてあげるけど」
「あ、いえ。別にそういうつもりで聞いた訳じゃないので」
まりあは慌てて言った。そして、氷で遊ぶのをやめて紅茶を口にする。
渇いていた喉が潤されていくのがわかり、ほっと一息ついた気分。程よい甘みが上品だった。
さやは、まりあが満足そうにしているのを見て微笑んだ。
「どう? この透き通る紅茶のように、少しは気分も晴れたかしら?」
「…………え」
「まりあちゃん、家に帰り着くまで静かだったもの。暑さのせいだけじゃなく、わたしのおかあさまに言われた事をずっと気にしてたんじゃないかなって」
まりあは少し驚いた。今頃、さやからこの話題を振ってくるなんて思わなかったから。
「バレちゃってましたか」
「うん。バレバレですよ〜」
笑顔で言うさや。こんな風に言われたら毒気も抜かれてしまうというものだ。もっとも毒を吐くつもりも、さらさらないが。
それに一息ついて、先ほどよりは気分が落ち着いたのも事実。
「本当は黙って見守ろうとも考えたのだけど、まりあちゃんだけに悩ませて良い問題とも思えないし。だから、言いたいことや相談があるなら、遠慮せずに話して頂戴ね」
「すみません。気を遣ってもらったみたいで」
「もう。そんな他人行儀な言い方しないの」
さやはまりあの額を、軽く指で小突いた。
「わたしたちは家族でしょう? まりあちゃんはそういう風に思われるの嫌?」
「…………そんなことは」
そう。そんなことは断じてない。まりあにとってもさやは大事な家族であり、その関係がずっと続けばいいなとも思う。
しかし。
「でも、さやさんは私みたいなのが家族で、幸せになれますか?」
まりあは思わずそのようなことを口にしてしまった。まさかこんな直球で自分の言葉が出るとは思わなかったが、言ってしまったことに対する後悔はない。
「どうしてそんなことを?」
さやも安易には頷かず、慎重に訊ね返す。
「さやさんはまだ若いんだし、再婚とかやりなおしも効くと思います。でも、私がいることによって、さやさんのこれからの人生の足枷になるんじゃないかと…………」
自分でそう言いながらも、まりあは少し複雑な心境であった。さやが自ら望んで、まりあの側に居てくれているのは知っているつもりだし、そこには何らかの絆もあるのだと信じている。
けれど、今が良くても、後の未来のことまではわからない。
やりなおしたいと思ったときに、既に手遅れとかいう状況にはなって欲しくないのだ。
まりあはそういった胸の内も含めて全てを話した。
「……色々と考えていてくれたのね」
聞き終えたさやは、静かに目を閉じて頷く。心の中まではわからないが、表面上は穏やかに見えた。
「すみません。重い話で」
「謝るようなことじゃないわ。それを悩みとして持っている以上は、どこかで向き合う必要もあったでしょうし」
それから、少しの沈黙が訪れる。
まりあからは何も言わなかった。自分の気持ちは語り終えたと思うから。あとはそれに対し、さやがどんな答えを返してくれるかだ。
そして、店内の時計が五時の音を告げた。
「ねぇ、まりあちゃん」
時計の音が鳴り終わると同時に、さやが言葉を切り出した。
「わたしはもう自分の答えを見つけていて、それに満足しているわ。だから、まりあちゃんも人の心配なんてせずに、あなた自身の答えをみつけて。もし、わたしが自分の生き方を変えるのだとしたら、それはまりあちゃんの出した答えの先にあると思うから」
「……………」
まりあは目を伏せた。答えを委ねたつもりが、逆に委ね返されようとは。
「でも、私の出した答えが、さやさんの幸せを奪うようなものだったら嫌です」
「そんなことは気にしないでいいのよ」
「私は気になるんです」
わがままな事を言っているなと、まりあは自分で思う。要するに甘えているのだろう。
それでもさやは、嫌そうな顔もしないし、怒りもしない。むしろ真面目に返事を考えてくれているようだった。
「…………それじゃあ、まりあちゃんには、わたしの幸せが何であるのかをもっと知ってもらおうかしらね」
クスリと微笑むさや。
「そういえば、さやさんの幸せって何なのですか?」
今更、間の抜けた質問だと思うが、まりあは訊ねた。
「ひとつはこのお店の事ね」
さやは優しくカウンターテーブルを撫でて言った。
「はじめておかあさまがわたしを連れ戻そうとした時、わたしはそれを拒んでここに残ることを決めたでしょう? まりあちゃんの事が心配だったのもあるけれど、同時にこのお店を守りたいって気持ちも大きかったわ。だって、ここはわたしにとっての夢の形。幸せそのものだから」
「そういえば、確かにそんなこと言ってましたね」
まりあも深く頷いた。そのことを忘れていた訳ではないと思うが、あまりにも当たり前のことすぎて、普段から意識にとめていなかったのはある。
「もうひとつの幸せは、このお店以外でのことね」
「なんですか?」
それはまだ聞いた事がないと思う。だからまりあは、どんな答えが返るのかと期待した。
けれど。
さやは少し考えるような仕草をしてから、申し訳なさそうに苦笑した。
「その答えはもう少し後で言ってもいいかしら。今より、もっと良いタイミングで言いたいの」
「…………うっ。肩透かしですか」
「ごめんね。でも、今日のうちには絶対に教えてあげるから」
「約束してくれますか?」
「うん。約束するわ」
さやがそこまで言う以上は嘘じゃないだろう。答えを決めかねていて、先送りにしたようにもみえない。
だからまりあも納得することにした。
§
時間は流れて夜の九時。まりあたちは夕飯を終え、その後の片付けも済ませた。
さやからはまだ、先送りにされた答えは教えられていない。てっきり夕飯時に教えてもらえるものだと思っていたまりあは、また肩透かしをくらった気分であった。
もっともそれは自分の勝手な期待ではあったから、怒るつもりもないが。
食事の後片付け後はお風呂に入った。まりあは先にいれてもらえたので、今はさやが入浴中。
さやが出てくるまでの時間、まりあはぼんやりとすごした。彼女との話がまだある以上、自室に戻るのもどうかと思われたから。
近くではテレビもつけているが、まともに観ていないせいもあってか内容は頭に入ってこない。
今日という日も、あと数時間で終わり。さやはどういうタイミングで話を切り出してくるのだろう? 勿体ぶられているだけに、それが気になって仕方ない。
それから数分ほどして、人の足音が廊下の方から聞こえた。そして。
「あ、まりあちゃん。ここにいてくれたの」
さやの声がした。お風呂からあがってきたのだろう。
振り返って彼女の姿を見たまりあは、「え?」と目を丸くした。なんと浴衣を着ているのだ。
「…………さやさん。どうして浴衣なんか?」
「夏の夜を楽しむ為よ。お祭りは浴衣姿が一番だもの」
答えになっていなかった。そして戸惑うまりあをよそに、さやは手に抱えていたものをみせる。
「さあ、まりあちゃんも浴衣に着替えてね」
そう言って、もう一着あった浴衣をすすめられた。
「えっと……でも、今日って祭りなんてやってましたか? それにこんな時間だし」
「今夜は二人だけでお祭りするの。花火も沢山買ってあったでしょ」
なるほど。そういうことか。まりあも少し納得した。でも、わざわざ浴衣を着て、お祭りとまで称する必要なんてあるのだろうか?
「ささ。まりあちゃんも着替えて、着替えて。慣れないことがあれば手伝うから」
「そうですね。その時はお願いします」
苦笑しながらもまりあは従い、浴衣に袖を通す。着慣れていない訳でもないから、それなりに見栄えはした。
さやは藍色。まりあは淡いピンクの浴衣。お互いに似合ってはいる。
「それじゃあ今夜は、綾瀬家の夏祭り花火大会第一弾を開催しま〜す」
「第一弾?」
「今度、ふみかちゃんやしおりちゃんも戻ってきたら、第二弾、第三弾もやりたいじゃない」
「あはは」
もはやまりあは笑うしかなかった。先程までのもやもやした気持ちなど吹き飛んでしまうくらい、また彼女のペースに流されているのだから。
でも、それは決して嫌じゃない。突拍子はなくとも、さやの提案はどれも可愛らしくて、そこに癒されている自分がいる。
「まりあちゃんは先に裏庭の方に出ていて。わたしもすぐ行くから」
「わかりました」
まりあは頷くと、先に花火セットだけ持って、自宅裏の庭に出た。外はお世辞にも涼しいとは言えないが、昼間よりは過ごし易くなっている。
その後、さやもやってきた。
「お待たせ〜。またアイスティーを作ってきちゃった」
手にもっているお盆の上には、透明のポットとグラスふたつがのせられている。
「今度はクリームダウンしにくい二度取り方式で淹れてきたから、ゆっくり何杯でも楽しんでね」
のんびり時間を過ごす上での細やかな配慮が感じられた。
「あ、それとうちわもね」
微笑んで手渡してくるさや。まりあも笑顔でそれを受け取った。
「それじゃあ花火も開けていきましょうか」
「そうですね」
「あと、夕方から先送りにしていた返事もちゃんと教えてあげるから安心はしてね」
さやがサラリと言った。ちゃんと気にはしていてくれたことに、まりあもホッとする。なので今はこれ以上うながさず、その時が来るまで花火を楽しもうと心に決めた。
二人は花火セットの袋をあけ、ロウソクに火をともした。
「どれから遊ぼうかしらね」
花火はバリエーション豊富でどれから手をつけるかは確かに悩めた。その中でまりあはひとつのものを手に取る。
「やはり最初は景気よくコレなんてどうでしょう?」
手に取ったものは大きな打ち上げ花火の筒だった。
「いいわね。それにしましょう。…………えっと、点火はまりあちゃんがしてくれる?」
「私もちょっと怖いですし、ジャンケンで決めませんか」
「そうね。それが公平かしら」
「では、ジャンケ〜ン」
「ポンッ!」
結果、まりあの方がパーで勝利をおさめた。
「うぅぅ。わたしってジャンケン弱いかも」
握ったグーを力なく垂らしながら、さやがつぶやく。
「そんなに怖いんでしたら、私がやっぱりやりましょうか?」
「だ、大丈夫よ。一応、まりあちゃんよりは年上なんだし、お姉さんらしいところちゃんと見せてあげるんだから」
そういうとさやは、ライターに火をつけて、おっかなびっくりその花火を点火する。
するとポンッと大きな音がして、頭より上の方で火花が爆ぜた。大きな祭りの花火大会と比べればささやかなものではあるが、それでも「わあ」っと歓声があがる。
そして、火花が散った後、ふわりとパラシュートが降ってきた。
「ん。下に何かついているわね」
地面に落ちたパラシュートをさやが拾う。
「あっ、猫のぬいぐるみよ」
「本当だ。最近の打ち上げ花火ってそういうのもあるんですね」
「すごいよね。楽しい演出だと思うわ。もっとぬいぐるみとか出てくる花火はないかしら?」
「今あけた花火セットにはそれだけのようですね」
まだ開封していない花火セットの中に、それっぽいものがもうひとつだけあったが、次々と開けてしまうのもどうかという理由で後の楽しみに残すことにした。
その後もまりあたちはひとつひとつの花火を楽しんだ。打ち上げも手持ちも、夏の夜の景色を鮮やかに彩ってくれる。
「まだまだ花火はあるんだし、好きなだけ楽しみましょうね」
大きな花火セットはまだ3セットも残っている。二人だけで楽しむには本当に多い。
「なんだか不思議ですね。こんなに花火が残っているかと思うと、あまり寂しい気分になりません。花火って消耗品だから、セットがなくなるにつれて、もう楽しい時間も終わりかなって思うときがあるんですが、今夜みたいに沢山あると、完全になくなる前に自分たちの方が遊び疲れてしまいますよね。そこには儚い寂しさってないような気がします」
「そうだよね」
さやもクスリと笑った。そして。
「ねえ、まりあちゃんは今この瞬間を楽しく感じてる?」
いきなり訊ねられる。
「え? ああ、はい、楽しんでると思います」
さやの質問の意図はわからなかったが、まりあは自分の感じたままに答える。
「良かった。わたしもね、今すごく楽しいわ。幸せであると言っても良いくらい」
目を閉じて微笑する彼女。そして続けて告げた。
「わたしの幸せはね、一緒に楽しんでくれるまりあちゃんと家族で居られる事なんだよ」
「…………さやさん」
それがさやの先送りにしていた答えだった。
「こんな答えでは納得してくれないかしら?」
「いえ……そんなことは」
これがさやの心からの気持ちであるのなら、それほど嬉しいことはない。でも、まりあはどう返事をすればいいのかわからなかった。
嬉しすぎて言葉にならないのか、それともまだ何か気になるものがあるのか。それすらも自分でわからない状態なのだ。
そんなまりあの様子を察してなのか、さやの言葉は続いていく。
「まりあちゃんはわたしの未来のことを考えて、あれこれと悩んではくれていたようだけど、わたしはそれはいらないと思うの。少なくとも今のわたしはこの状態に心から満足していて、先のことなんて考えもつかないの。でも、それは決して未来を見据えていない訳じゃないの。わたしはね、今あるこの幸せを守っていくことで、これからの未来を後悔しないって決めているのよ」
「……………………」
「それがわたしの答えだから、まりあちゃんにはこれ以上、不必要に苦しんだり悩んだりしてほしくないわ。あとは夕方にも言ったことだけど、最後にはまりあちゃん、あなた自身の答えをみつけて頂戴。それでもし、未来のわたしたちが離れ離れになることがあっても、それで家族の縁がきれるとは思わないわ。だってわたしたちは、お互いを慕いあっているんですから」
優しい声でしっかり述べられた考え。まりあの瞳には知らぬ間に涙が溢れていた。
そんなまりあを、さやは戸惑うことなく抱きしめてくれる。感情の波が一気に高まった。
「さやさんっ」
まりあは泣いた。大声で泣いた。
さやは優しく背中を撫でてくれる。心地の良い暖かさが、胸の中いっぱいに広がった。
誰かが側にいてくれることが本当に嬉しかった。それが心から大好きな人だから、余計に嬉しい。
幼い頃に両親を失ったせいもあり、年齢の割にしっかりした考えを持って生きてきたまりあだが、そこには若干の強がりもあったと思う。でも、本当は誰かに甘えたい気持ちもある。そしてそんな気持ちを素直に出せて、素直に受け止めてくれるさやは、まりあにとって最高の姉といえた。
ひとしきり泣いた後、まりあは少し恥ずかしくなった。こんなに大声で泣いたのは何年ぶりだろうか。兄が亡くなった時でさえ、ここまで感情的には泣かなかったと思う。
「…………すみません、さやさん。お見苦しい姿をみせてしまって」
「気にしないで。甘えたい時は甘えてくれていいんだから。だって、わたしは普段からまりあちゃんに甘えっぱなしだもん。釣り合いがとれないでしょ」
さやの言葉にまりあは苦笑する。まあ確かに、普段はまりあの方が彼女を助けている面もあるにはあるが、そこは適材適所というだけのこと。
でも、さやがそういう風に思ってくれているのなら、まりあも気持ちは楽というものだ。甘えっぱなしは性に合わないだけに。
「いまさらこんな当たり前のことを言うのもどうかと思いますが、これからも支えあって頑張っていけばいいんですよね?」
涙を完全に拭き、まりあはさやにそう訊ねた。
単純な答え、結論であっても、それが一番の真理であると思うから。
「うん。わたしたちは家族なんですから」
家族。それは決して軽い響きの言葉ではない。
肉親のすべてを失ったまりあにとって、いま本当に家族と呼んで頼れるのはさやだけ。
けれど、逆にさやからしても、いま気心のおける家族という存在はまりあだけなのだ。
二人は笑顔で頷き合ってから、再び花火を楽しむことにした。それこそ飽きるまで続くことだろう。
この沢山の花火も、今という幸せな時間が納得いくまで続くようにとの、さやなりの気持ちの表れなのかもしれない。まりあはそう感じた。
先々の不安に目を奪われすぎて、今を大事に生きられないのでは意味が無い。今という幸せを守って生きていくというのも、未来に繋がる堅実な生き方。
そして堅実に生きていれば、新しい未来の選択をする際にも、不安だけではなく前向きに考えることだってできるのかもしれない。
と、そこまで思って、まりあは花火にもっと集中することにした。
だって今は楽しむべき時なのだから。難しい考え事は、そのあとにしても遅くはない。
〈了〉