マリア様がみてる 競作短編 【白薔薇編】

 

 

 

 1224日。クリスマス・イブ。

 世間ではイブ(前夜)であるにもかかわらず、何かとパーティーが行われる日である。

 前夜だからこそ明日に思いを馳せて騒ぎ立てるのだろうか。何かの理由で騒ぐ日がずれてしまったのか。それともイエズス様の生誕を記念して騒がれるのだろうか。

 それはさておき。普段は物静かな薔薇の館も今日は無礼講らしく、普段はあまり聞こえないような楽しげな声が聞こえていた。

 普段はあまり飾り気の無い館も、今日だけは華やかな衣を纏っているようだ(と言っても、外からではあまり変わりは無いが・・・)。その衣の中では主でもある乙女たちが楽しく話し合っていた。

 

 ある事情から、白薔薇様(ロサ・ギガンティア)と一旦別れて、お姉さまと薔薇の館へ戻ってすぐパーティーが始まった。白薔薇様を待たないのですかと聞いたら、「始まる時間にいないのが悪い」と黄薔薇様(ロサ・フェティダ)。白薔薇様がどこに行ってるかはさほど問題ではないようだ。

「それじゃ、ちゃっちゃと始めましょうか」

 紅薔薇様(ロサ・キネンシス)がそう言うと、志摩子さんと由乃さんがみんなにカップを配って歩く。いつもお茶を飲んでるカップにはおそらくシャンパンであろう炭酸水が入っていた。本来は私も配るべきなかもしれないが、そう思ったころには配り終わっていた。

「はい、祐巳さん」

「ありがとう、由乃さん」

「そういえば、白薔薇様(ロサ・ギガンティア)は?」

「え〜と、道案内かな。春日さんが学校に来てたの」

「ええっ、春日さんが! どうして!?」

「カオリさんに会いに来たんだって」

「カオリがこの学校にいるの?」

「うん。それがね、実は・・・・」

「ほ〜ら、そこ。おしゃべりは後にして。始めるわよ」

「あ・・すみません。紅薔薇様(ロサ・キネンシス)」

 どうやら紅薔薇様(ロサ・キネンシス)はこのパーティを楽しみにしているようだった。

「それじゃ、メリークリス!」

『メリークリスマス!』

 シャンパンを一口飲んで、テーブルのケーキに手をつける。

「メリークリスマス、祐巳」

(わ、お姉さま。)

 突然の挨拶に食べていたケーキを詰まらせそうになる。慌ててシャンパンを飲み干すが、炭酸なのでさらにむせてしまう。

「ゲホッゲホッ・・・」

「バカね。ちょっとは落ち着きなさい」

「申し訳ありません、お姉さま・・・」

 パシャッ。

 思わず振り向くと、蔦子さんがしてやったりと言った顔でカメラを向けていた。

「なかなか面白い絵が取れたわ。祐巳さん」

「蔦子さん・・・」

(こんな姿を写真にとってどうするつもりだろう・・・)

 蔦子さんは謎の笑みを浮かべている。まさか誰かに売りつけるつもりではないだろうか・・・。

 そんな中、階段を上がってくる音が聞こえた。

(白薔薇様(ロサ・ギガンティア)が戻ってきたのかな?)

 ガチャッ。

 扉を開けて入ってきたのは・・・

「メリークリスマ〜ス」

 なんとサンタさんだった。

 

 

 一瞬場が固まる。サンタさんがなんでこんなところに? しかもまだ昼間なのに。隣を見ると蔦子さんも固まっている。状況を把握しきれてないのは私だけではないようだ。お姉さまも驚いたような顔をしている。由乃さんと令様もどうやら固まっているようだ。紅薔薇様(ロサ・キネンシス)と黄薔薇様(ロサ・フェティダ)は笑っているようだった。

「何やってるのよ、聖」

 紅薔薇様(ロサ・キネンシス)がサンタさんに声をかける。って、聖ってことはまさか・・・。

「白薔薇様(ロサ・ギガンティア)!?」

「ふっふっふ、私は聖ではない。サンタさんなのだ〜。」

 その声を聞いて白薔薇様(ロサ・ギガンティア)と確信した。それにしても見事なサンタっぷりだ。服と帽子はもちろんのこと、ひげまできちんとついている。しかも袋なんて持っているものだから、本物のサンタさんと見間違えてしまった。いったいどこからそんなものを持ってきたんだろう・・・。

「面白いのを見つけてきたじゃない」

「まあね。演劇部からちょっと借りてきたんだ」

 そういって私のほうにやってきて

「ほ〜ら祐巳ちゃん、サンタさんだぞ〜」

「は、離して下さい。白薔薇様〜」

 いつもの親父モード炸裂。でもサンタの服のもこもこが気持ちいいかも。

「サンタさんへのプレゼント〜」

「プレゼントはサンタさんから貰うものなんです。それじゃ逆じゃないですか」

 支離滅裂なことを言う白薔薇様(ロサ・ギガンティア)。でも、満足したらしくやっと開放してくれた。

「ふっふっふ、それではみんなにプレゼントを差し上げよう」

「プレゼント?」

「本当に?」

「うん。まず祐巳ちゃんと祥子にはこれ」

 袋の中から服のようなものを取り出し、私とお姉さまに手渡した。

「これは・・・」

「白薔薇様(ロサ・ギガンティア)・・・」

 手渡されたのは、なんとメイド服。これって演劇部からの借り物ではないだろうか。

「これをどうしろと?」

 半ば呆れ顔で質問するお姉さま。なんとなく答えがわかっているような・・・。

「もちろん、着てもらうんだよ」

 やっぱり・・・。今日の白薔薇様(ロサ・ギガンティア)は親父モード全開のようだ。

「みんなも見たくない? 祐巳ちゃんと祥子のメイド服姿」

「賛成ね」

「面白いじゃない」

 薔薇様たちは面白がって賛成している。蔦子さんも目がギラギラ光っている。由乃さんも面白がって賛成していた。人事だと思って〜。

「それじゃ、早速着替えてもらおうかな〜♪」

「しかたないわね。祐巳、着替えましょうか」

「え、よろしいんですか? お姉さま」

「リクエストには答えないとね。それに、やらなかったら何をされるかわからなくてよ」

「はぁ・・・。わかりました」

 そう言って更衣室へ向かう。私もすぐ後を追った。

「楽しみですなぁ。蓉子殿」

「そうねぇ。祥子のほうは渋るかと思ったけど、案外興味があるのかもしれないわね」

「どんな風になるか、楽しみね♪」

 

 更衣室に入って着替えを始める。それにしても、メイド服って普通に着るだけでいいのかな?

 なんとか着替えて、お姉さまのほうを見ると、

(わ、綺麗)

 思わず魅入ってしまいそうなくらいに似合っている。雰囲気もメイドさんそのものだ。この人は何を着てもおそらく似合ってしまうのだろう。

「祐巳、何をしているの。早く着替えなさい」

「あ、はい! すみません。」

 急いで着替える。案外普通に着れるものなのかもしれない。

「あら、似合ってるじゃない。可愛いわ」

「そんな、お姉さまもかっこいいですよ」

「そうかしら。あら、祐巳、リボンが曲がっていてよ」

 そう言ってお姉さまは、タイを直してくれたときのようにやさしくリボンを直してくれた。お姉さまの顔が近づくと、やはりドキドキしてしまう。あのときから多少変わったと思ってはいるが、実は全く変わってないのかもしれない。

「これでいいわ。それじゃ、行きましょう」

「ありがとうございます、お姉さま」

 そう言って更衣室の扉を開ける。

「あら、出てきたわね」

「祐巳ちゃん可愛い・・・」

「結構似合ってるじゃない、祐巳さん」

 これは令さまと由乃さん。令さまはなんだか見とれている感じだ。そんなにいいのかな・・・。

 ふと辺りを見回すが、白薔薇様(ロサ・ギガンティア)が見当たらない。どこに行ったんだろう? 志摩子さんを見ると、なんだか苦笑いを浮かべている。

「祐巳ちゃん捕まえた♪」

「ぎゃう!」

 後ろから声がしたと思ったらいきなり抱き付かれてしまった。こんなことをするのはただ一人・・・。

「白薔薇様(ロサ・ギガンティア)!」

「だめだよ、祐巳ちゃん。せめて悲鳴は『きゃっ』くらいにしないと」

 そんなことを言いながら、腕はがっちり私を捉えて離さない。じたばたともがくと余計に抜けれなくなっていった。

「祐巳ちゃん可愛い。このままお持ち帰りしたいな〜」

「だ、だめですよ〜。離してください白薔薇様(ロサ・ギガンティア)〜」

「やだ〜。持って帰る〜。観念しなさい! 祐巳ちゃん!」

 連れ去られるならせめてお姉さまに連れ去られたい。この人に連れ去られたら何をされるかわかったものではない。

「また始まったわね・・・。聖の悪い癖」

「いいじゃない。面白いんだし」

「それもそうね」

「お姉さま・・・」

 薔薇様方のつぶやきに、さすがのお姉さまも呆れ気味だ。お姉さま〜、助けてください〜・・・。

 

 

 あの後、白薔薇様(ロサ・ギガンティア)は5分ほどたっぷり私を可愛がってくれた。おかげで私はもうへろへろ。なんだかいつもよりすごかったなぁ・・・。

「それじゃ次は令ちゃんと由乃ちゃんかな」

「え! 私たちにもあるんですか?」

 引きつったような顔をする令さま。由乃さんは対照的に目を輝かせている。

「紅薔薇だけってわけにもいかないでしょ。これね」

「なんだろな〜♪」

 袋を開けると、中に入っていたのはなにやらどこかの制服のようなもの。

「あ、これM駅まえにある人気のファミレスの制服だ」

 今リリアンで人気の某ファミレスの制服だった。そしてなぜか片方は男物。

「・・・これはウエイターの制服では・・・」

「細かいことは気にしないの。さあ、着替えた着替えた」

 強引に話を進めてしまった。でもあんなもの、どこから調達してきたんだろう。演劇部のものと言うのも正直怪しいと思う。

「ねえ、祐巳」

「なんですか? お姉さま」

「あれは何の服なの?」

「え、えっと・・・」

 あの制服のことを知らないとはさすがお姉さま。知らないと言うよりも知る必要が無いのかもしれない。

 お姉さまに制服の説明をしてると着替えを終えた令さまと由乃さんが出てきた。令さまはさすがミスターリリアンと言われるだけあって、見た目は男の人と変わりない。由乃さんも胸のリボンとフリルのスカートが可愛らしい。

「いらっしゃいませ〜。御注文はなににいたしましょか?」

「お、いいねぇ。それじゃ、お茶の御代わりを貰おうかな」

「はい。かしこまりました〜」

 由乃さんはもうノリノリで注文なんか取っている。お茶のカップを受け取って台所に行ってしまった。こうしてみると本当のウエイトレスさんみたいだ。ふと気づいて私も手伝いに台所へ行く。

「由乃さん、ノリノリだね」

「どっちかと言うと令ちゃんがこの服を着たかったみたいなんだけど、私が男物着ても似合わないでしょ。まあ、成り行きってやつね」

 ウエイターの由乃さんとウエイトレスの令さまを思い浮かべてみる・・・。

(なんだかミスマッチだなぁ・・・)

「祐巳さん、今私と令ちゃん入れ替えたでしょ。そしてすごい結果になった」

「あう・・・そのとおりです」

「私も多分その通りになったわ・・・」

 二人で溜め息。

 

 お茶を入れ終わって持っていくと、志摩子さんと蔦子さんがいなかった。

「志摩子さんは?」

「あ・そ・こ♪」

 そういって白薔薇様が指したのは更衣室。あなたは実の妹も手にかけるのですか・・・。

「しかし、こうしてみるとここがどこだかわからなくなるねぇ」

 そう言われて周りを見ると、メイドさん、ウエイターさん、ウエイトレスさん。本当にここがどこだかわからなくなる。

「ま、楽しいからいいか」

 その一言で終わらされてしまってはどうしようもないのだが・・・。服を着ているこっちの身にもなってくれ。

 ガチャ。

 志摩子さんたちは赤い袴と白い胴着を纏っていた。神社にいる巫女さんだ。志摩子さんのその姿に不思議と違和感を感じない。むしろ普段着ている気さえする。蔦子さんはわりと合っているものの、どうしてもカメラに違和感がある。

「志〜摩〜子〜」

「きゃっ、お姉さま」

 私のときと同じように後ろから抱きつく白薔薇様(ロサ・ギガンティア)。志摩子さんの叫び声は私とは違ってきちんとお嬢様の叫び声だった。

「可愛いよ。志摩子〜」

「お姉さま・・・」

 意外とまんざらでもなさそうな志摩子さん。普段姉妹としてのスキンシップが無い分こういうのが嬉しいのだろう。

「メイドの紅薔薇、ウエイトレス黄薔薇、巫女白薔薇か。ふっふっふ、素晴らしすぎだわ」

 蔦子さんが怪しげな笑みを浮かべている。そういえば撮った写真はどうするつもりだろう。

「蔦子さん、今撮った写真は・・・」

「大丈夫、一般には公表しないで私個人で楽しむことにするわ」

 個人で楽しむと言うのが一番怖かったりする。どうやって楽しむつもりだろう・・・。

「祐巳ちゃん、由乃ちゃん、こっちおいで」

 つぼみの妹が呼び寄せられる。なんだろう・・・また抱き付かれるのは勘弁ですよ。

「最後にこれを付けて完成かな」

 そういうと私たち三人にそれぞれヘアバンドのようなものをかぶせた。

「これは・・・?」

 由乃さんを見ると、頭に猫耳が生えている。志摩子さんにもうさ耳が出来ていた。それじゃ私は何の耳が・・・? 頭を触ってみるとちょっとへこたれたような耳がついているのがわかった。

「祐巳さんは犬耳ね」

 猫とうさぎときて犬ですか・・・。確かに祥子さまにくっついている様子は犬とも取れなくは無い。って自分で納得するなよ、私・・・。

「由乃〜」

 猫耳由乃さんの誘惑に耐え切れず令さまが由乃さんを抱きしめた。

「令ちゃん、ちょっとやめてよ!」

「ちょっとだけだからさ、いいでしょ」

 お姉さまはどうなんだろうと見てみると、特に興味もなさげに私を見ていた。お姉さまも抱きつくくらいしてくれてもいいのに。私喜んで抱かれますわ。

「祥子がやらないなら私がとっちゃうぞ〜」

「ぎゃう!」

「きゃっ!」

 白薔薇様(ロサ・ギガンティア)がそれぞれの腕で志摩子さんと私を抱いていた。

「両手に花とはこのことだね〜」

 上機嫌の白薔薇様(ロサ・ギガンティア)。半ば暴走しかけている気がするのは気のせいでしょうか・・。

「白薔薇様(ロサ・ギガンティア)! 一人じめはおやめください!」

 その様子を見かねてか、祥子様が声を荒げた。

「おや、妬いてるの? 祥子」

「白薔薇様(ロサ・ギガンティア)は志摩子だけで十分です。祐巳は私のものです! 祐巳、こっちへいらっしゃい。」

 そこまで言ってくれるとは感激です! お姉さま!!

「そっちこそ一人いじめは良くないぞ〜。」

 ご主人様の元へ駆けつけたいのに、このサンタさんが全く離してくれそうに無い。助けて!ご主人様!

「人の妹に手を出しておいて、自分の妹に逃げられても知りませんわよ!」

「こっちはそういう薄っぺらい関係じゃないからね。うらやましいでしょ」

「うらやましいとかそういう問題ではありません!」

 子犬を差し置いて、親犬の喧嘩が始まってしまった。こうなったらもう見守るしかないのかな。

(がんばって!お姉さま!)

 

 

「全く愉快な妹たちね。」

「せっかくのパーティなんだし。これくらいがちょうどいいわよ。」

「それはそうかもしれないけどね。でもこの収集は誰がつけるのかしら?」

「ほっとけばすぐ収まるわよ。それまで楽しませてもらいましょうか。」

 祥子が聖から祐巳ちゃんを強引に引き剥がした。大事そうに祐巳ちゃんを抱きかかえている。

(それにしてもあの娘、よくメイド服なんかOKしたわね)

 普段のあの娘なら断じて着るはずがないだろうに。

(丸くなった・・・ってことかしら。祐巳ちゃんのおかげ・・・かな)

 祐巳ちゃん。この娘の存在は山百合会のイメージを大きく変えていくかもしれない。そんなことを思いながら、紅薔薇様(ロサ・キネンシス)はその光景を眺めていた。

 薔薇の館のバカ騒ぎはまだ終わる気配を見せない。外は、もう日が暮れる時刻であった。

 

 

〈了〉

 

 

【白薔薇担当あとがき】

 

 まずはとにかく謝っておきます。ごめんなさいm(_ _)m

 競作短編の三番手、白薔薇担当の隻眼の道化師であります。白薔薇と言うよりはよろずになってる気がしますが、その辺はあまり突っ込まないでください。

 煩悩&妄想&脳内変換爆発で、ほとんどノリと思いつきだけで書いていたような気がします。まあ、久しぶりの執筆なんで多めに見て・・・もらえないか。

 自分の未熟さを痛感する限りであります。納期のほう遅れてしまって申し訳ありません。

 〆切を押してまで書いたにしては、かなり中途半端な作品に仕上がっていると思います・・ってか中途半端です。話の流れも強引です。己の未熟さを・・・(略

 ちなみに時期的にはいばらの森の終わった直後みたいな感じです。

 始めは某ネットゲーで巫女テイストのキャラがいたことから、「巫女いいなぁ」なんて思いつつ「まりみてキャラに着せたらどうなるだろう」と言うことで書いてみました。

 そして巫女だけじゃ飽き足らず、メイドやウエイトレスなども付け足す始末。極めつけは動物耳・・・。

 本当は蓉子様にチャイナ服でも着せるかと思ったんですが、そうすると江利子様に何を着せるか悩むので、薔薇様方は無しの方向になってしまいました。

 ちなみに私は本編のほうは「チェリーブロッサム」まで読みました。それなら乃梨子も出せだかもしれませんが、白薔薇といえばまず真っ先に聖様を思い浮かべる私なので、今回乃梨子はキャンセルさせていただきました。

 

 最後に、こんな作品を読んでいただきありがとうございます。またどこかでちらりと何かを書いているかもしれません。その時はよろしくお願いできると嬉しいです。

 あと、白薔薇短編の応援として柊 真さまにイラストを描いて頂きました。巫女服の志摩子と今回は登場させられなかった乃梨子のツーショットです。こちらよりご覧ください。