マリア様がみてる 競作短編 【紅薔薇編】

 

 

 それは、ある日の放課後のこと。

 いつものように山百合会での雑務も終え、下校しようとしたときのことだ。

 銀杏並木を抜けた先。二股の分かれ道にあるマリア様の像の前で、見知った顔と出会った。

「ごきげんよう」

 私は、その子に声をかけた。するとその子は驚いた顔でこちらに向き直る。

「わっ! ろ、紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)。ご、ごきげんよう」

 たった一声かけただけなのに、驚いたり、慌てて頭を下げたりと忙しい子。でも、そんなところが、この祐巳ちゃんの可愛らしいところなんだけど。

 この子、福沢祐巳ちゃんは、私の妹である祥子が最近妹にした一年生。

 私たちの通う、このリリアン女学園では姉妹(スール)という制度があり、先輩が姉となり後輩を妹として導くのだ。

「祐巳ちゃんってば、相変わらず百面相ね」

 クスクスと笑うと、祐巳ちゃんは気恥ずかしそうに肩を竦めた。

「それはそうと、こんなところでどうしたの? ぼ〜っと突っ立ていたように見えたけど、マリア様へのお祈りはもう済ましたのかしら」

「はい。お祈りはもう済ませました。今は祥子さまをお待ちしているんです。途中まで、一緒に帰ろうと仰られたので」

 なるほど。そういうことね。

 祐巳ちゃんは祥子の妹にして、大の祥子信奉者。ぼ〜っとしていたのも、祥子と一緒に帰れるのが嬉しくて、あれこれと想像にふけっていたからかもしれない。

「でも、その祥子はまだ来る様子がないわね」

 自分も歩いてきた銀杏並木を見返すが、彼女の姿はまだ見えなかった。

「何かご用事ができて遅れているのかもしれないですね」

「何分ほど待っているの?」

「え〜っと、そろそろ10分ほどですね」

 腕時計を確認しながら祐巳ちゃんが答える。靴を履き替えてこの場にくるにしては、随分と時間がかかりすぎだった。

「祥子にも困ったものね。今の季節は段々と寒くなるんだから、こんなところで祐巳ちゃんを待たせては風邪をひかせるかもしれないのに」

 季節は秋を終え、冬に入ろうとしている。それに伴って日が暮れるのも早いのだから、薄暗くなる外で待たせるのもどうかと思う。

「私なら大丈夫ですよ。身体だけは丈夫で……へっくしゅん!」

 言葉の途中で祐巳ちゃんが大きなくしゃみをした。そして寒そうにぶるっと身体を震わせる。

「ほらほら。言ってるそばから寒そうにして」

 私は祐巳ちゃんにそっと近づくと、彼女の手をとって包むように握りしめた。

「え、ちょ、ちょっと! 紅薔薇さま!?(ロサ・キネンシス)」

「少しは温かいでしょ」

「そ、そういう問題ではなくて」

 本当なら友人の白薔薇さま(ロサ・ギガンティア)こと…………佐藤 聖のように、祐巳ちゃんを抱きしめてあげようかとも思ったんだけど、さすがにそれは目立ちそうだった。

 だから今は手を握るだけで我慢する。

「紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)。こんなところ他の生徒や祥子さまに見られたら……」

「これくらい問題ないでしょ。第一、私はあなたの姉である祥子のお姉さまよ。紅薔薇の姉妹という点では、祐巳ちゃんとも繋がりがあるんだから、少しぐらい世話をやかせて頂戴」

「はあ……」

 とりあえず祐巳ちゃんは、複雑な表情をしながらも納得はしてくれた。それに伴い、私も彼女を解放してあげる。

「どう。最近、祥子とはうまくいってる?」

 一緒に帰るほどの仲に愚問かもしれないが、あえて訊ねてみたかった。

「そうですね。少しずつではありますが、祥子さまのペースにも慣れてきました」

「良かったわ。祥子もあなたという妹をもったとはいえ、まだまだ手のかかる子だから。祐巳ちゃんもあの子のこと、しっかり支えてあげてね」

「そんな! 私の方こそ手のかかる妹な訳で……」

「大丈夫よ。祐巳ちゃんは私に似て、しっかりしているもの」

「ご冗談を。私なんかが紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)に似ているなんて」

「本当のことよ。性格は違うかもしれないけれど、頼りない姉を支えるしっかりものの妹としては、どこか私と似ている気がするのよ。私のお姉さまも随分と世話をかけてくれる人だったから」

「紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)のお姉さま?」

 一瞬、ピンとこなかったのか、祐巳ちゃんがぽつりと呟く。

「そうよ。もう卒業してしまったけれど、私にだってお姉さまはいたのよ。先代の紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)として」

「そ、そうですよね。でも、先代の紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)は、そんなに頼りない方だったのですか? 私はてっきり、ものすごく完璧な方を想像していたのですが」

「頼りないっていうと語弊はあるかもね。正確には危なっかしいお姉さまと言ったほうが良いかも。私がいないと、死んじゃいそうな人だったから」

「危なっかしくて死んじゃうようなって……先代の紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)は、ヤクザの人とかに喧嘩でも吹っかけるような人だったんですか?」

 あまりにも突飛な祐巳ちゃんの発想に、思わず爆笑してしまう。こんなことを真顔で言う当たり、なかなかどうして侮れない子だ。

「そうじゃないわよ。そんなお姉さまだったら、私の命がいくつあっても足りないわ」

 笑いをこらえるのに苦労しながら、どうにか訂正はする。だが頭の中では、ヤクザに挑むリリアン女生徒の姿が生々しく想像できて、また吹き出してしまう。

 スカートのプリーツは乱れまくり、白いセーラーカラーも翻りまくり。ゆっくりと歩くどころか、大股で肩をいからせながら歩く女性徒。

 これではまるで漫画とかの世界。現実におこりえようものなら、先生たちも卒倒しかねない。

「とりあえず、私のお姉さまはというのはね…………」

 私はどうにか笑いを抑え、祐巳ちゃんにちょっとした昔話を始めた。

 

 

 

 

 それは私、水野蓉子が二年生になりたての春…………まだ紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)と呼ばれていた時の話。

 いつものように私とお姉さまは一緒に下校しようとしていた。

 お姉さまは一学年上の三年生な訳だが、授業などの時間をのぞいては、できるだけお姉さまといるのが習慣となっている。

 それは別に好きだからという理由だけではない。側にいないと危なっかしくてたまらないからだ。

「お姉さま。ちゃんと目をあけて歩いてください」

 マリア様の像へと続く銀杏並木。隣を歩くお姉さまに、私は注意の言葉をかけた。

「ふぇ? ああ、ごめんなさい。春の陽射しが気持ちよくて、ついうつらうつらしちゃったわ」

 こちらの心配などをよそに、お姉さまは呑気そうに「うふふ」と笑う。

「いくら気持ちよくても、歩いている時まで居眠りしないでください。危ないと思わないのですか?」

「大丈夫よ。蓉子ちゃんがついていてくれるんですもの」

「私がいつでもフォローできると思っているのですか?」

「してくれないの?」

「いえ……できる限りしますが」

「じゃあ安心ね。蓉子ちゃんがいる間は少しぐらい居眠りしても大丈夫っと」

 悪びれもせずに言うお姉さま。うっすらと微笑んだ表情は、あまりにも純真で無邪気なもの。

 私のお姉さまはいつもこんな調子。のんびり屋でのほほんとしていて、お人よし。

 おまけに当人がどこまで自覚しているかは知らないが、結構なドジ。何もないところで転びそうになることなど、日常茶飯事ともいえる。

 こんな感じだから、側で見守る方としては危なっかしく思えて仕方がない。交通事故に遭ったりしないだろうか? 悪い人に騙されたりしないだろうか? 心配すればキリがないほどだ。

 でも、そんなお姉さまでも成績は常に学園のトップ。更には学園の生徒会である山百合会を引っ張る紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)なのだから、世の中ってわからない。

 案外、私のいないところではしっかりしているのかもしれないが、すぐ隣にいるお姉さまをみていると、とてもそうは見えないところが不思議だ。

「とりあえずお姉さま。明後日の一年生歓迎式では絶対に居眠りしないでくださいね」

 明後日には自分たち山百合会主催で、新一年生の歓迎式をやることになっていた。お姉さまを含めた、紅白黄、山百合会の三人の薔薇さまは生徒達の憧れともいえる存在だけに、あまり恥ずかしい姿をさらすわけにもいかない。

「なるべく気をつけるわ」

「なるべくじゃなく、絶対に気をつけてください。お姉さまはもう紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)なのですから、そこらへんの自覚はちゃんと持つべきです」

「蓉子ちゃんが恥をかかない程度には頑張るわよ。それに今度の新一年生には、あなたの妹になる子がいるかもしれないものね。私も頼りないお姉さまのままだと、蓉子ちゃんだって安心して妹つくれないよね」

「それはまあ確かに…………」

「紅薔薇(ロサ・キネンシス)としては不似合いでも、蓉子ちゃんの姉という面ではしっかりするね」

 お姉さまはそこまで言い終えて、突然「あっ!」と叫びだす。

「どうしましたか。お姉さま?」

 思わず驚いて訊ね返してしまう。

「薔薇の館に忘れ物をしたのよ。私の大切な傘」

「傘、ですか」

「ほら。今朝、少し雨が降っていたでしょ。だから傘を持ってきたのよ」

「そういえばそうでしたね」

 確かに今日の朝は小雨がぱらついていた。私は小さな折り畳み傘をもってきていたが、どうもお姉さまは大きな傘を持ってきていたらしい。

「どうしよう。明日はちょっとした雨らしいから、取りに戻らないと」

「それじゃあお姉さまはここにいてください。私が取ってきてあげますから」

「そんな。悪いわよ」

「気にしないでください。すぐに行って戻ってきます。お姉さまはここにいてください」

 有無を言わさず、私は薔薇の館へ戻った。お姉さまに行かせては、どれほど時間がかかるのかわからないのだから。

 ちなみに急ぎはするが、勿論走ったりはしない。慌てて走るなど、はしたないこと。静かにゆっくり歩くのがここでのたしなみ。

 こうして私は、高等部校舎の中庭の隅に建っている建物にやってきた。この木造二階建ての建物こそ、生徒会である山百合会の本部、薔薇の館。

 今はさすがに山百合会メンバーもいない。既に下校しているようだった。

 とりあえず建物の中に入った私は、入り口側にある傘立ての中に、お姉さまの傘を見つける。

 あとはこれを持ってお姉さまの元に戻るだけ。

 私は傘を手にとり、外へ出て戸締りをした。

 その時である。

 薔薇の館の裏手側で、女生徒二人の話し声が聞こえた。普段ならそんな声に耳を傾けることはしないのだが、今日に限っては自然とその会話が耳に入ってくる。その理由のひとつは、その二人の声は私のクラスメイトのものだったから。もうひとつは、会話の内容が新一年生で誰を妹にするか?、といった話だから。

 確かに二年生に進学した私たちは、これから妹を決める時期でもあるだけに、こういう世間話は増えてきている。

 自分も興味がないかといえば嘘だ。

 だが、勝手に盗み聞きみたいになってしまった罰だろうか、クラスメイトの話の中で私のことが話題にのぼった。

「妹にするなら、同じクラスの蓉子さんみたいな人は嫌ね」

「そうね。ああいうタイプを妹にもとうものなら、姉としての立場もなくなるわよ」

「優秀すぎるのも考え物よね」

「ついでを言えば、あの人って世話焼きでしょう。助かるときもあるけれど、正直余計なお世話って時もあるし。そんなのが続いたら肩も凝ってしまうわ」

「よく、今の紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)は蓉子さんみたいな人を妹にしたものよね」

「そんなの決まってるじゃない。単に山百合会を引っ張ってもらうためだけに引き入れただけよ。利用するだけの関係ってやつ」

 話の内容がお姉さまのことに及んだとき、いてもたってもいられなくなる。

 私のことは何と言われても構わないが、お姉さまを侮辱されるのだけは許せない。

 だが、私は抗議に出ることはできなかった。そんなことをすれば、盗み聞きしたことがばれてしまうし、今後どんな噂をたてられるかわかったものではないから。

 紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)は盗み聞きを趣味にしているなんて言われては、最終的にはお姉さまの指導が悪かったとも言われかねない。

 でも、本当はわかっている。いま考えていることは、所詮は自分への言い訳。抗議することが怖いのだ。

 いつもの私のように毅然とした態度でのぞめばいいのに、今はそれができないでいる。

 クラスメイトにこんな風に思われていたんだというショックも大きいだけに。

 結局、私が動けないでいるうちに、クラスメイトはどこかへ離れていってしまった。見つからなかったのは幸いといえる。

 ひとり取り残された私は、傘を手にお姉さまの元へ戻った。

「おかえりなさい。蓉子ちゃん」

 マリア様の像の近く。お姉さまは優しい笑みを浮かべて、待っていてくださった。

「お姉さま、お待たせしました」

 さっきまで何事もなかったかのように傘を渡す。だが。

「蓉子ちゃん、何かあった?」

「え……」

「さっきと違って浮かない表情しているもの。ここへ戻る途中で何かあったんじゃないの?」

「…………そんなことは」

 こんなときに限って、お姉さまは鋭かった。

 自分では何事もないように振る舞ったつもりなのに、うまくいっていなかったようだ。

「嘘はいけないわよ。マリア様もみてらっしゃるわ。それに私、蓉子ちゃんのことならある程度のことはわかっているつもりよ。あなたは真面目な子だから、何かを隠そうとすればかえって不器用になってしまうもの」

 お姉さまの言葉に非難の響きはない。柔らかい布で優しく包んでくれるかのよう。

「どうしても言いたくなければ無理には聞かないわ。でも、言えることだったら何でも話して。蓉子ちゃんが浮かないままだと、私にはそれが心配で仕方ないわ」

「お姉さま…………」

 私はいつしか涙を流し、両手で顔を覆った。そして先程あったことを話す。

「そう。そんなことがあったのね」

 お姉さまは私に近づいて、そっと肩を抱いてくれる。

「でもね、他人がなんと言おうと、私は蓉子ちゃんといて肩が凝るなんてことはないわよ。そんな難しいこと考える方が苦手だもの」

「本当ですか?」

「勿論よ。私にはあなたがいるくらいがピッタリなのよ。あと逆を言えば、私だからこそ、あなたに与えられるものもあると思うの」

「それは一体なんですか?」

「あなたの居場所よ。私、頼りなくて甘えん坊だけど、蓉子ちゃんはそんな私の世話をしてくれる。大変だとは思うけど、世話好きの蓉子ちゃんには格別の特等席じゃない? それともこんな考え方、自惚れすぎかしら」

「そ、そんなことはありません」

 私は大きく首を横に振った。するとお姉さまも薄く微笑んでくれる。

「ならばもう気にしないことだわ。私たちはお互いを必要としているの。他の誰かにわかってもらう必要なんてないんだよ。私たち姉妹(スール)には、私たちにしかわからないことだってあるんだから」

 そこまで言って、お姉さまはハンカチを差し出してくれる。

「さあ、涙を拭いて。蓉子ちゃんが泣いたままだと、私まで泣きそうになるでしょ」

 冗談っぽく聞こえるが、本当にもらい泣きしかねないところが私のお姉さまだ。

「すみません。お借りします」

 自分のハンカチを使ってもよかったのだが、せっかく差し出してもらったハンカチだけに、お姉さまの厚意を受ける。

 そして涙を拭いてみるのだが、なかなか涙は止まってくれなかった。

 あれ? どうしてなんだろう。さっきより涙が溢れてくる。私は涙を拭いている筈なのに。

 でも、ひとつだけわかる。いま泣いているのは悲しいからじゃない。

 胸の中に温かいものがこみあげてくる。それはまるで幼い日の頃、転んで足を擦り剥いて泣いている私に、お母さんが大好きなぬいぐるみを差し出して慰めてくれたときのような優しさ。

 その時も涙が止まらなかった。痛いから泣いているのではなく、嬉しくて泣いていた。

 ハンカチから漂うお姉さまの匂いは、懐かしいものを思い出させてくれる。

「今日は私が蓉子ちゃんを支えてあげるわ」

 耳に響く優しい声。それは春の陽気のように穏やか。いまの季節と一体化して溶け込むように。

 でも、お姉さまの今の言葉は少しだけ訂正したい。

 お姉さまはいつだって、私を支えてくれているではありませんか、と。

 居場所を与えてくれているのならば、それが私の支えになっているのだから。

 でも、今はそれも言わない。心地よいこの瞬間に甘えてしまう。

 頼りない面もあるお姉さまだけど、やはり自分よりは年上なんだと思う。紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)としての貫禄はなくとも、普通とは違った魅力があるから。

 お姉さまの不思議な魅力は周囲を和ませる。それは不器用な私にとって、自然と肩の力が抜けるものでもある。

 私もいつかなれるだろうか? 

 お姉さまのような、周りを和ませることができるような紅薔薇(ロサ・キネンシス)に。

 

 

 

 

「…………とまあ、昔話はこれでおしまい」

 私は祐巳ちゃんに、にっこりと微笑んだ。

「人を和ませることができるって、素敵なお姉さまだったのですね」

「でしょう」

「それに危なっかしいといっても、大事なところではちゃんと芯も通っている感じだし」

「そういうところは祐巳ちゃんと一緒ね」

「私は危なっかしいだけで、芯が通っているかは…………」

「うふふ。でも、これだけは確かよ。祐巳ちゃんに人を和ませる魅力があるのだけは」

 そう言われて彼女は、照れくさそうでかつ困ったような顔をする。

 私はそんな祐巳ちゃんを見るのが可笑しかった。

 そう。この瞬間が良いのだ。私は今もこうして笑っていられる。

 お姉さまがいたときは、お姉さまが和やかな空気をつくってくれた。そしてお姉さまが卒業した今は、祐巳ちゃんが和やかさを醸し出してくれる。

 私や祥子だけで、果たしてこの和やかさを出せただろうか? 多分、無理だと思う。

 でも、私は私。無理をすることはないのだ。

 大事なのは無理をして和やかさを出すことじゃない。和やかな雰囲気に自分も溶け込める気持ちを持つこと。そうすれば私だって、おのずと親しみやすい空気を出せるのではないかと思う。

 そんなことを考えているうちに、ようやく祥子がやってきた。

「あ、祥子さま!」

 祐巳ちゃんもそれに気づいて、嬉しそうな声をあげる。

「お待ちどう、祐巳。お姉さまもご一緒だったのですね」

「そうよ。だって祐巳ちゃんってば、あなたに待たされて寒そうにしていたもの。放っておけるものですか」

「あ、別に私はそんな!」

 少しムスッとする祥子。慌てて取り繕う祐巳ちゃん。

 まったくもう。なんて素直に感情を出す妹たちなんだろう。でも、そこが可愛らしかったりもするのだけど。

 結局、最後には祥子も祐巳ちゃんに一言謝った。

「ごめんなさいね、祐巳。帰る間際、先生たちとすれ違って、少し話し込んでいたものだから」

「構いません。私はこの通り平気ですから」

 あらあら。祐巳ちゃんってば、顔を紅潮させちゃって。この分だと、本当に寒さなんて忘れているんだろうな。

「さ、とりあえず紅薔薇ファミリー勢ぞろいした訳だし、一緒に帰りましょう。まさか私だけ、つまはじきにはしないわよね?」

「勿論ですわ。お姉さまもご一緒に」

 祥子と共に祐巳ちゃんも頷く。

 こうして最後に、マリア様の像への祈りを捧げた後、私はそっと祥子に耳打ちした。

「良い妹を持ったわね。姉としては嬉しい限りよ」

「…………ありがとうございます。お姉さま」

 祥子は一瞬面食らったようだが、最後には微笑して頷いた。

 でも、私は本心からそう思う。

 お姉さまが卒業したあとも、祥子がいて、祐巳ちゃんがいて、私のリリアンでの三年間はとてつもなく幸せであったから。

 いつか私が卒業しても、紅薔薇を継ぐものたちには、ずっとお互いを支えあえるような関係でいてほしい。それだけで学園生活は、きっと悔いの残らないものになるだろうから。

 こうして私たち三人は、校門への道を揃って歩く。

 寒さが段々と増す季節。けれど可愛い妹たちがいれば、そんなことも気にならない。

 だって妹たちは、まだまだ手のかかる反面、側にいて飽きない子たちなのだから。

 

 

〈了〉

 

 

 

【紅薔薇担当のあとがき】

 ごきげんよう。「マリア様がみてる」競作短編、紅薔薇担当の滝沢沙絵です。

 とりあえず最初にお断りしておけば、私の書いた水野蓉子さまのお姉さまはオフィシャルとは何ら関係ありません。私の勝手な創作であり妄想です。

 蓉子さまにお姉さまがいたとするならば、ああいう人がいいな〜っていうのが私の理想なのです。

 そんな訳で私の書いたこのお話は、ある意味で一番掟破りなのかもしれません。

 でも、二次創作としてはこういうのも面白いのではないかというのが、私なりの答えでもあります。

 何より原作では完璧な蓉子さまの、初々しい妹時代というのも楽しそうではありませんか。

 少なくとも私自身は楽しんで書けたので幸せではあります。

 あと、この短編を書いた際、某サイトのおまけの中の人(笑)と化しているアノ絵描きさまに蓉子さまの絵も描いてもらえたし。

 ありがとう。おまけの中の人(←当人に名前はそうするように言われてるのよ(笑)) 突然のリクエストを快く了承してくださったことに感謝をすると共に、またあなたの絵を自分の小説に飾れることを嬉しく思います。

 そんな訳で初々しい蓉子さまの絵も頂いたのでココをご覧ください。