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終章 私の居るべき場所

 

 天気のよい朝。

 夏の陽射しは今日も眩しい。

 そんな当たり前のことを、ごく自然に感じられるような日常。夏も本番となり、また1日、暑くなりそうだった。

 宗太郎さまとの花火の夜から、はや二週間が過ぎ去っていた。

 あの夜以来、私と宗太郎さまの関係も、かなり良好な方へかわりつつあった。私は栗林家でそのまま仕えることになったし、彼も魔法のことは秘密にしていてくれる。

 最終試験に合格し、正式な魔法使いになれたとはいっても、何かが大きくかわるわけでもなかった。

 それでも、心のゆとりだけは随分と増えたような気がする。現在は、宗太郎さまのお世話をする傍ら、魔法のことについても色々と考えているから。

 魔法は純粋な願いの力。それは単純であるがゆえに、奥の深いもの。きっと色々な出来事を経て、深く理解していくものだと思う。

 正式な魔法使いとなった今こそ、本当の魔法修行がはじまったのかもしれない。

 とはいえ、ずっと難しいことを考えているわけでもなく、今日は朝からお弁当作りに精を出していた。

 宗太郎さまの学校も夏休みに入り、今日は芳美ちゃんのお誘いで、ピクニックに行くらしい。私は、そんな彼のためのお弁当をつくっているのだ。

 一応、料理にはそこそこの自信はあった。何よりもつくるのが楽しいから。

 三角のおむすびを沢山つくり、ウィンナーもタコさん状態にし、卵焼きや唐揚げなどをお弁当箱に詰めこんでゆく。最後はデザートのリンゴをウサギさんにしていると、厨房の扉が開いて、宗太郎さまが入ってきた。

「あ、宗太郎さま。おはようございます」

「おはよう。鈴音」

「宗太郎さま。いま、とっても美味しいお弁当をつくっていますから、楽しみにしていてくださいね」

「ああ・・・・・・」

 なんとなく元気のない宗太郎さまの声。

「どうかしましたか? 元気がないようですが、どこか具合でも悪いのでしょうか」

「なあ、鈴音。おまえも一緒に来ないか? こういうのは人が多いほど、楽しいだろうしさ」

「そのことですか……。お誘いは嬉しいですけど、私もお屋敷の仕事がありますから」

 宗太郎さまの気持ちはありがたいけれど、芳美ちゃんの想いを考えれば、私が行って邪魔をするわけにもいかない。

「すみません。また、余裕のある時に連れていってもらいますね」

「・・・・・・そうか」

 少し申し訳ないけれど、仕方のないこと。

 けれど、しんみりとした時間は、あっけなく崩れ去った。

 またしても厨房の扉が開いて、騒がしくこの場に入ってくる人がいたから。

「宗太郎く〜ん。迎えに来たわよ」

 入ってきたのは水沢芳美ちゃんだった。彼女はいきなり、宗太郎さまの背中に抱きつく。

「わ。やめろ、水沢。なんでおまえがここにいるんだよ」

「玉枝さんって人が教えてくれたの。宗太郎くんがここにいるって♪」

「と、とにかく離れろ。鈴音も見てるだろ!」

「え? ・・・・・・何だ。あなたも居たの。貧乏暴力メイド」

 ジト目で睨んでくる芳美ちゃん。相変わらず、不本意な名前で呼んでくれる。

「すみません。妙なところに居合せてしまって」

「ホント、そう思うわ。あたしたちの愛の営みを邪魔するなんてサイテ〜よ」

 あの誘拐事件以来、芳美ちゃんもかなり大胆なことを言うようになった。もっともそれも、全て私をライバル視してのことだろうが、ヘンに卑屈になられるよりはいいと思う。

「水沢。悪い冗談は止めろ。そんなの平然と口にする台詞じゃないぞ」

「あはは〜。宗太郎くん、照れなくてもいいのに〜」

 宗太郎さまは本気で嫌がってそうだけど、芳美ちゃんはおかまいなしだ。

 このままでは可哀相なので、少しだけ助け船を出してあげる。丁度、お弁当もできたことだし。

「宗太郎さま。お弁当包みましたよ。はい、これをどうぞ」

 そう言って、彼にお弁当の包みを渡してあげる。

「たくさん作りましたから、芳美ちゃんもよければどうぞ」

「いらないわよ。あなたの作った、貧乏臭い弁当なんて!! それにあたしには、フランスの名門シェフがつくってくれた、ものすご〜〜〜くゴージャスなランチがあるんだからね。だから、宗太郎くんも一緒に食べよ?」

「・・・・・・俺は、鈴音のつくってくれたこの弁当でいい。せっかく作ってもらったんだしな」

「ええ〜! そんなののどこがいいのよ」

「色々だな」

 芳美ちゃんには睨まれてしまうけど、宗太郎さまの言葉はすごく嬉しかった。

「さ、とりあえずはもう出発したほうが良いですよ」

 あまりこの場でひき止めるのもなんだし、私は二人を促した。

 そして、玄関先まで来ると、私と玉枝さんとで見送りをしてあげた。今回のピクニックは、水沢家の使用人が保護者として同伴してくれるので、その方たちにもよろしくお願いしておく。

「それでは宗太郎さま、行ってらっしゃい」

 私は笑顔で手を振ってあげる。

「・・・・・・ああ。じゃあ、行ってくる。なるべく早く帰るな」

 宗太郎さまは、最後まで私を気にしていたようだったが、どうにか芳美ちゃんたちと出発した。

「・・・・・・宗太郎さま、少し寂しそうでしたね」

 彼らの姿が完全に見えなくなってから、玉枝さんが呟いた。

「ええ」

 私も横で、小さく頷く。

「やはり、鈴音さんについて来て欲しかったのでしょうね」

「玉枝さんは、そう思うんですか?」

「最近の宗太郎さまは、以前と比べて、かなり鈴音さんになついていますしね。見ていればよくわかります」

「・・・・・・・・・・・・」

「でも、宗太郎さまも、昔のような明るさが少し戻ってきましたわね。これもみんな、鈴音さんが頑張ったおかげかしら。さすがそのメイド服が似合うだけのことはありますわ」

 淡々とした声で、また突飛でもないことを言う玉枝さん。以前にも、メイド服が似合うどうのという話をされたが、何か意味でもあるのだろうか?

「あのう玉枝さん。私が頑張ることと、このメイド服が似合うことって、何か繋がりでもあるんですか?」

 結局、気になって訊ねてしまう。すると玉枝さんは。

「そのメイド服の以前の持ち主も、鈴音さんみたいな頑張り屋で、誰よりも宗太郎さまのことを愛しておられたのですよ」

「それって、ひょっとして・・・・・・」

「宗太郎さまのお母様ですわ。彼女も昔は、この栗林家に仕える、使用人の一人でしたから」

 私は驚くと同時に、妙に納得してしまった。

 以前の花火の夜、宗太郎さまが私に対して「母さんの匂いがする」と言ったのも、それらが原因なのしれない。

 でも、そうだとすれば、宗太郎さまの使った魔法は、こんな形ではあるが彼の願いを叶えたということにならないか。私という存在を通じて、お母さんに会えたのかもしれないのだから。

「私、宗太郎さまのお母様に助けられたのかもしれませんね。このメイド服に、彼のお母様の想いがこめられていたとするのならば」

「そうかもしれませんわね。・・・・・・さあ、それよりも仕事に戻りましょう。今から夕食の材料の買い物に行ってもらえるかしら?」

 仕事か。まあ、忙しいのは確かだし、しんみりとするのは自由な時間にでもできる。

 玉枝さんの指示に頷いた私は、買い物の準備をするべく一度部屋に戻った。

「ただいま。ティル、マコトくん」

「お、鈴音、ええところに戻ってきた!!」

 部屋に入るなり、いきなりマコトくんの声。

 見ればマコトくんは部屋の中でピョンピョン跳ね回って動いている。そして、そんな彼を避けるようにして、ティルも部屋中を飛びまわっていた。

「二人とも何をしているんですか?」

 あまりにも奇妙な光景に、思わずそう訊ねずにはいられなかった。

「とにかく、この妖精を止めるんや〜」

「え? ティルを??」

「妖精ゆうたら、そいつしかおらんやろが」

 今ひとつ、ティルを止めると言う意味がわからないが、私は彼女に呼びかけてみた。

「ティル。どうしたんですか?」

 私の言葉に反応してか、ティルはその動きを止めた。そして、私の方へ向き直ると、宙に浮かんだままジタバタと暴れ出す。

「鈴音ちゃん。聞いて欲しいんだぞぉ〜!!」

「一体、どうしました?」

「宗太郎ちゃんが嘘ついたんだぞぉ。ピクニックには、わたしたちも連れていくって言ってたのに、忘れていってしまったんだぞ〜」

「え? 宗太郎さま、そんなこと言ってました?」

「わたしには言ってたもん。なのに、さっき出発しちゃったんだぞぉ。わたしもお弁当食べたかったのに悔しいぞ〜」

 ・・・・・・うぅ。これって半分、私にも責任あるかも。何度となく遠まわしに誘われたけど、そのたびにやんわりと断ってきたから。

「まあ、あいつも丸なったとはいえ、クソガキには変わりないしのお。話半分に聞いとく方が無難やったんやで」

「ひどいぞぉ、宗太郎ちゃん。せっかく楽しみにしてたのに〜。帰って来たら許さないんだぞぉ」

「おのれの気持ちもわからんでもないけど、腹いせにそこらじゅう飛びまわるんは堪忍せえや。うっとうしゅうてたまらん」

 二人の話を聞いていると、完全に宗太郎さまが悪人みたいに思われてる。

 これはさすがに、私も謝った方がよさそうだ。

「あのう、二人とも。宗太郎さまの誘いを断ったのは、私なんですけど」

「ええ〜! 鈴音ちゃん、どうしてそんな勝手なことするの〜」

「芳美ちゃんと宗太郎さまの仲を邪魔するのもなんでしたし・・・・・・」

「あのクソガキ2号に遠慮したっちゅう訳かいな。そんな得にもならんことを」

「・・・・・・仕方ないですよ。でも、ごめんなさいね」

 とりあえずティルには頭を下げておく。

 彼女はがっくりとするが、とりあえず暴れるのはやめてくれた。

 何だか申し訳なかった。だから、こうも言っておいてあげる。

「よければ、また近いうちにピクニックに行きましょう。その時には私も休みを頂きますし。ね!」

「ホントに?」

「ええ。宗太郎さまだって夏休みですし、時間はたっぷりとありますよ。あとは私の休みさえ頂ければ、いつでも構わない訳ですし」

 そう。時間ならばたっぷりある。

 まだしばらくは、この屋敷でお世話になるのだから。

 それにピクニックだけじゃない。ここで暮らしていけば、まだまだ沢山の楽しい出来事だってあるだろう。

 ここには私がいて、みんなもいる。支えてくれる友達、慕ってくれる人、見守ってくれる方・・・・・・他にも色々。

 ここは私の望んだ居場所。そして、必要とされる場所。

 純粋な願いの形。これもひとつも魔法なのだろうか?

「さ、気を取り直して今日はお買い物にいきますよ。二人ともついてきてくれますか?」

 その答えは、聞くまでもなくわかっている。

 私が明るく訊ねれば・・・・・・。

 ・・・・・・ほらね、もう明るい返事がかえったきた。

 

 

〈了〉

 

 

あとがき

 ついに終わりました。「Magical Essence」。

 最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございました。このHPのメイン小説として、約半年にわたって書き綴ってきた訳ですが、ものすごく楽しかった感じがします。

 最初はもう少し違う小説を書く予定でしたが、このHPの色に合わせた明るい作品の方がいいかなってことで、こういうお話を考えてみました。

 この世界における「魔法とは何か」をテーマに、「人の思い」や「すれ違い」を、できる限り重くならずに書いてみたつもりです。あとはお約束の趣味爆発。何せ主人公の鈴音からして、メイドの魔法少女ですから(笑)

 キャラクター設定という意味では、お約束も踏まえて、結構ポンポンと完成したほうです。主人公が魔法少女ならホウキで空を飛ぶのもいいなってことでマコトくんができ、魔法少女にはヘンなオマケがついてなきゃって事でティルができ・・・・・・まあ、そんな具合です。ちなみに書いていて楽しかったのは、マコトくん。何を考えるまでもなく、キャラクターが喋ってくれますから。でも、喋りすぎて収拾がつなかくなることもしばしば(苦笑) 

 あとは芳美なんかも出番は少なかったけど書きやすかったです。芳美は第二部以降から、もう少し物語に食い込ませないとねえ。

 とまあ、第二部とか言ったから白状しますが、「Magical Essence」は続編の第二部を書きます。構想だけは頭の中にありますから。あと周りの皆様からの要望も結構ありましたしね。

 とはいえ第一部はこれで完結していますから、第二部への謎の持ち越しは殆どありません。どの作品からも独立して楽しんでもらえるよう書いていくつもりですので、期待してもらえると嬉しいです。

 しかし、今回一番ありがたかったのは、色々な方々にこの作品の感想を頂けたということ。身内の方は勿論、外から流れてこられた方々にも素敵な感想を多々頂きました。皆様、本当にありがとうございます。

 まだまだ未熟者ですが、どんどんと書きつづけることによって、もっと楽しんでもらえる作品をつくっていきたいです。

 これからもどうか、温かく見守って頂ければ幸いです。

 

2000年 12月28日

滝沢沙絵

 

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