第二章 騒がしくも優しい日常
とりあえず一夜が明けた。
昨夜は普通にスーディアさんをもてなしただけで、これといった騒動は起きていない。
もっとも、これから一緒に暮らしていく中で、何が起こるかはわかったものではないのだけど、今は深く悩んでも仕方ない。
日常のお仕事だってあるのだから。
今日も朝から食事の準備。玉枝さんがいないから、基本は私一人ですべてをやらなければならない。でも今は、ティルが手伝ってくれていたりするのだけど。
「鈴音ちゃ〜ん。卵とってきてあげたぞぉ」
ヨロヨロとよろけ飛びながら、卵を運んでくるティル。小さな妖精の彼女にとっては、卵ひとつ運ぶにしても一苦労のようだ。
「ありがとう、ティル。そんなに無理して手伝ってくれなくてもいいですよ」
卵を受け取りながら、私は言う。
「鈴音ちゃん一人に苦労はかけられないんだぞぉ。それにわたしも、こういうの一度してみたかったしねぇ」
にぱっと笑うティル。
彼女の好意は嬉しいんだけど、ヘンに失敗されようものなら後片付けが大変そう。かといって、そんなことを言えるほど、私も冷たくはなれない。
その時だ。厨房の扉が開き、スーディアさんが入ってきたのは。
「あ、おはようございます」
「おはよう。鈴音殿、ティル殿」
スーディアさんは礼儀正しく頭を下げる。
「起きるの早いのですね。もう少し寝ていてくださっても構わなかったのに」
「睡眠など七時間もとれば充分。それに、あまりだらけているのも性に合わぬからな」
「あはは。そうですか」
私は笑いつつも、彼女の厳格な性格に少し緊張してしまう。
スーディアさんがくるだけで、場の空気がかたくなるのは否めない。
「・・・・・・朝食の準備ですか?」
「ええ。もう少しだけかかりますが、お待ち願えますか」
スーディアさんは腕を組み、「ふむ」と唸った。そして、チラリと私を見つめてくる。
彼女には悪気はないのかもしれないが、その冷たい雰囲気の瞳は、見つめられるだけ怖い。
「・・・・・・あ、あの、何か?」
「料理を作るのに魔法は使わぬのですか」
「は?」
私は一瞬固まった。彼女はなおも言葉を続ける。
「鈴音殿は戦いよりも、日常の魔法の方が得意なのではありませぬか?」
うっ。これってひょっとして試されているのだろうか。
「・・・・・・でも普通、料理にまで魔法は使いませんよ」
「そうであろうか。わたくしはもっぱら魔法で料理を作るが」
「ほぇ〜。スーディアちゃん、器用だぞぉ」
ティルが感心する。
「食料作成の魔法を使えば、料理など一発で出てくるだろうに」
「そ、それって作っているというよりは、単に出しているだけでは」
「・・・・・・そうとも言うな。だが、食べられれば何でも同じことだろう」
「わたしはそういうの嫌だぞぉ。味気なさそうで。料理はちゃんと手作りであるべきだよ〜」
これに関しては私もティルと同意見だ。
スーディアさんは今ひとつ納得できていないようであるが。
「そこまで手間をかけて、何か良いことでもあるのか?」
「面倒な時もありますけど、料理はつくっていて楽しいものですよ」
「どう楽しいのだ?」
「・・・・・・例えば、食べてくれる人が喜ぶ姿を想像したりとか」
「ふむ。なるほど。わたくしは、そこまで考えたことはなかったな。なにぶん、食べてくれる相手もおらぬからな」
感心したようにスーディアさんが頷く。そして。
「鈴音殿。わたくしにも何か手伝わせてはくれぬか。何事も経験が大事。料理をつくることの楽しさ、わたくしも知ってみたいと思う」
意外な申し出に、私は目を丸くする。
「鈴音ちゃん。いいんじゃないかなあ。料理は皆で作ると楽しそうだぞぉ」
ティルは嬉しそうに言って来る。
「そうは言っても、スーディアさんはお客さまだし・・・・・・」
「客とはいえ、無理に押しかけて厄介になっている身。宗太郎殿の恩義に報いる意味でも、何かを手伝わねば気が済まぬ。何でも良い。なにか手伝わせてはいただけぬか?」
スーディアさんはそう言って頭を下げる。
彼女って冷徹で怖そうなイメージばかりに思えたけど、ただ単に生真面目なだけではないのだろうか。彼女の真剣な物言いを見ていると、少なくともそう感じずにはいられなかった。
「あ、頭を上げてください。・・・・・・えっと、それじゃあ、この沢庵を切ってもらえますか?」
私はとりあえず、手近にあった沢庵を渡す。するとスーディアさんは柔らかく笑った。
「かたじけない、鈴音殿。このスーディア。沢庵とやらを切ることを承知したぞ」
嬉しそうに胸をたたく彼女。その明るい様子は、先ほどまで感じていた空気のかたさを忘れさせる。
しかし次の瞬間、彼女の手に現れてものを見て、私もティルも言葉を失った。
それは彼女の従える知性の剣(インテリジェンスソード)のウィムドさんだったからだ。
「我、命ずる。ウィムドよ、この沢庵を寸断いたせっ!」
「承知した、主よ」
スーディアさんは沢庵を宙に投げつけた。そして、彼女の剣が閃く!!
「ぬひゃ〜。アブナイんだぞぉ〜〜〜!!」
ティルが私の後ろにピュ〜ッと隠れる。
その時には、ウィムドさんによって見事に寸断された沢庵が、ボトボトと床へ落ちた。
「・・・・・・・・・・・・あ」
床に落ちてしまった沢庵を見て、私はトホホな気分になる。
「どうだ。見事、切ってご覧にいれたぞ」
「普通そんなもので沢庵は切らないんだぞぉ〜」
ティルがぼやくと、スーディアさんは意外そうな顔をした。
「刃物で切るものではなかったのか?」
「刃物は刃物でも、こっちの包丁を使うものでして・・・・・・。あと、床にバラまいてしまってはいけないかと」
私は遠慮がちに言った。
「うぬぬ。これはとんだ失態を見せてしまったものだ。・・・・・・何か汚名返上の機会を与えてくださらぬか?」
スーディアさんがジリジリと迫って懇願してくる。私はそんな彼女に圧倒され・・・・・・。
「そ、それじゃあ、こっちの野菜を炒めてもらえませんか」
思わずフライパンの中の野菜を指さす。
「うむ。任せろ。いためればよいのだな。今度はわたくしの得意とする所だ」
不敵に笑うと、スーディアさんは両手で剣をふりかぶる。
「ちょ、ちょっと何をっ!!」
どうして野菜を炒めるのに剣を構える必要があるの?? 私の声は半分悲鳴に近かった。
「何をって、知れたこと。野菜をいためつけるのに決まっておるだろう」
「スーディアちゃん。ひょっとして、野菜を殴ってイタめつける気?」
ティルが呆れ半分に問うと、彼女は真顔で頷いた。
「他にどういういためつけかたがあると申す」
私はもう言葉も出なかった。この様子だとスーディアさんは、まったく料理なんてしてことがないのだろう。
結局この後は、彼女に色々と教えるところからはじまり、予定していた朝食はそれほど大したものが用意できなかった。
学校へ行かれる宗太郎さまには申し訳なかったが、事情を説明したら、納得してくれたのが救い。
何にせよ、朝から思いもかけぬ珍事であった。
§
時間はどうにか、昼過ぎを迎える。
昼食をとり終えた私は、半分以上グッタリとしていた。
朝から昼過ぎまでの時間。今日ほど長く感じたことはない。
宗太郎さまを学校に送り出し、いつものように屋敷の掃除や洗濯をしようとすれば、案の定スーディアさんから手伝いの申し出があった。
彼女の態度は真剣そのもの。
そんな気持ちを無視する訳にもいかず、色々と手伝わせてはみたのだが、結果はどれも失敗続き。
掃除を任せれば、集めたゴミの焼却とか言って、屋敷内で炎の魔法を使おうとするし、洗濯物を干すのを手伝わせれば、瞬間的に乾かしてやろとか言って、風や炎を呼ぶ。
おかげで洗濯物の一部には引火し、半分はボロボロに燃えてしまった・・・・・・。
更に庭掃除では、マコトくんとウィムドさんがお掃除対決。
結果はマコトくんの勝利なのだけど、それって当たり前なのかもしれない。だって、彼の形はホウキなのだから。
そう考えると、そんな当たり前の勝利で喜んでいるマコトくんの器なんて、たかだか知れているのかもしれない。
まあ、それはさておくとして。
こういう感じで朝から色々とありすぎた。
お昼ご飯も自分たちで準備していたら大騒ぎだろうから、結局は出前に頼っちゃったし・・・・・・。
情けない話だけど、朝の出来事で精魂尽き果てて、何もやる気がおきなかった。
けれど、こうやってグッタリとしていると、またスーディアさんがやって来た。
「鈴音殿。何か手伝うことはありませぬか?」
「・・・・・・朝から色々とやってもらいましたし、もう充分ですよ」
「しかし、自分で申すのも何だが、どうもわたくしが役にたっているとは思えぬ。鈴音殿を驚かせてばかりで、足をひっぱっているのではなかろうか・・・・・・」
彼女もそれは自覚しているようだった。
だからといって、そんなスーディアさんを責める気にはなれなかった。彼女は彼女なりに一生懸命なのだから。
「鈴音殿。迷惑をかけているのは承知で頼む。わたくしでも役に立てる仕事を与えてくださらぬか」
「そんなに無理なさらなくても」
「無理はしておらぬ。ただ、このまま甘えておったのでは義理がたたぬ。休むべき部屋も食事も与えられておるのだ。少しでも恩返しをしたいという我が心、できればお察し頂きたい」
少なくとも今の言葉で、スーディアさんが大真面目な人だというのはわかった気がする。
それにここまで言われた以上は、私としても何か考えてあげないといけない。
こうして私は少し悩んだ末に思いつく。
「今から夕食の材料などを買い出しにいくのですが、荷物持ちを手伝ってくれますか?」
普通に荷物を運ぶのなら、これといった騒ぎも起こらないだろう。そう思っての提案だ。
「それで恩義に報いることができるのなら、喜んで手伝おう」
そうなると話しは早かった。
私たちは早速に準備をして、スーパーへ買い物に向かう。
マコトくんとティルにはとりあえず留守番を任せ、外に出るのは自分とスーディアさんの二人だけだ。
今日の天気は晴れ時々曇り。
十二月なので、夕方頃からは少し冷えこんでくるが、今はまだ耐えられないほどの寒さでもない。
「・・・・・・やはりこちらの世界は、リートプレアと違うのだな」
屋敷を出て、しばらく歩いた後。スーディアさんは歩きながらポツリともらす。
「慣れませんか?」
「ここへ来て間もないゆえ、街の光景などには違和感を覚えるな」
確かにこの世界とリートプレアでは、景色ひとつにしても大きな違いがある。
建物にしても、その建築様式はまったく異なるのだから無理もない。
リートプレアの建築物は、奇抜で不思議なものが多数存在するが、街並みでいえばこっちの世界でいうヨーロッパに雰囲気が似ている。
ただ、こっちの世界であるような機械的な文明は皆無に等しい。自動車もなければ、電信柱もないのだから。
それだけに、スーディアさんからすれば、見るもの全てが新鮮なのだろう。
「こちらの世界では、魔法は一般的なものではないときく。・・・・・・となると魔法使いであるわたくしは、こっちの世界では異端だな」
「・・・・・・・・・・・・」
異端。
私もリートプレアに流れついた時、さんざんに言われてきた言葉。
「鈴音殿。これは評議会の意向とは別で、わたくし個人の意見なのだが・・・・・・正直、異端という言葉、好きではない」
スーディアさんの言葉に、私はどう答えてよいのかわからなかった。彼女はそのまま言葉を続ける。
「評議会は鈴音殿のことを異端と呼ぶが、我々がこちらの世界に介入することにしても、それは異端の行いなのだ。それなのに自分たちの行いだけを棚に上げ、評議会の意に添わぬものを口汚く異端と呼ぶのはどうも好かぬ」
「・・・・・・・・・・」
「評議会は何かとそなたに辛いことを言ったのかもしれぬが、それは評議会の総意でないことはご理解頂きたい。わたくしはその件に関してだけ、鈴音殿に謝りたいと思っておる」
「スーディアさんのそのお気持ち、とっても嬉しいです」
それだけいうのがやっとだった。彼女の言葉が優しく胸に響き、とても不思議な感じがする。
「むしろ、私の方こそスーディアさんに謝りたいです。本当は早く使命を果たし、リートプレアに戻りたいのでは?」
「・・・・・・それに関してはどうとも思ってはおらぬ。この世界は魔法のない世界。鈴音殿が普段から魔法を使わぬのにも、何やら特別な事情があるのやもしれぬしな。いずれ判別できるチャンスがあればそれでよい」
私は小さく唇を噛んだ。彼女が考えているような事情なんてないだけに、少し胸が苦しい。
「それにわたくしも、色々とこの世界で学んでみたいことが増えた。魔法に頼らず、物事を成すことの大事さなどをな」
「そうなんですか?」
「ああ。鈴音殿の手伝いをしていて、己の未熟さに気がついた。魔法ばかりに頼っておっては、どこの世界でもやっていけるとは言いきれぬ。そう思えば、こっちの世界でもリートプレアでも、それなりに生活をしていけた鈴音殿は立派というべきだろう。わたくしもそれができぬうちには、鈴音殿を試す資格はなかろう」
あくまでも生真面目なスーディアさん。
私は、そんな彼女に好感をおぼえる。
スーディアさんはホント一生懸命で、当初、私たちが思っていたような“よからぬ思惑”など持っているようには見えなかった。
だからこそ私も、そんな彼女の思いに応えられるような結果を出したいと思った。
「さ、鈴音殿。買い物に急ごう。このスーディア、荷持ちをこなして、多少は名誉の挽回といきたいものだからな」
「あは。そうですね」
私は小さく頷いた。
騒がしかった朝とは異なり、午後の買い物では優しい時間が流れて行くのであった。
§
「へぇ。スーディアちゃんって、思ったほど悪い人じゃなさそうなんだね〜」
水音をパシャリとはねさせながら、ティルが感心したように言う。
ここは栗林家のお風呂場。私はティルと一緒に入りながら、今日の買い物での出来事を語って聞かせていた。
「少なくとも、妙な思惑をもっているとは思えませんね」
私は、洗いたての長い髪をシャワーで流しながら答える。
ちなみのここのお風呂場は、一般の家庭にあるようなものとは訳が違う。
その大きさたるや、まるで温泉旅館の大浴場並みである。
お金持ちの道楽と言えばそれまでだが、ここの当主であられる龍太郎さまの趣味なんだそうな。
「でも、悪い人でないのなら、仲良くできるといいねぇ」
「そうですね。私もそうなったらいいなとは思います」
「こういうのも何だけど、今日のスーディアちゃんは見ていて面白かったんだぞぉ。やることなすこと、まるで冗談じみた失敗ばっかりしてくれるんだもん」
お湯にプカ〜っと浮かびながら、愉快そうに笑うティル。
確かにいま思い返せば笑い話ではあるが、一生懸命であった彼女の気持ちを思えば、あまり大声でも笑えない。
それに朝は、どっと疲れが出るほど、見ている私としては気が気でなかった。
そしてこれからも、こういう日常が何度かは続くのかと思うと、苦笑の方が先に出てくる。
そんな時だ。風呂場の戸が急に開いて、タオルを巻いたスーディアさんが入ってきた。
「鈴音殿。一緒に入ってもよろしいか?」
「あ・・・・・・どうぞ」
私は少しだけ驚くものの、とりあえず頷いた。
ティルに関しては単純に喜んでいる。
「噂をすれば、何とやらなんだぞぉ〜」
「噂?」
スーディアさんが小さく首を傾げる。
「あ、いえ。お昼の買い物の話をティルにしていたものですから」
「おお。なるほど。買い物の話か。とりあえず荷持ちは役に立てたようで、わたくしも安心しておる」
お湯につかりながら、スーディアさんも満足げに頷く。
「スーディアさんがいてくれたおかげで、色々と買いだめもできました。感謝していますよ」
「礼には及ばぬ。ここで世話になる以上、当然の手伝いをしたまでのこと。それにしても今夜の夕食は、また格別に美味しかったですな」
「・・・・・・あは。あれですか」
今夜の夕食は、宗太郎さまも大好きなカレーにした。今朝、たいした食事をつくってあげられなかったから、その埋め合わせのつもりで。
「わたくし、カレーなるものは初めて食べたが、やはりあの箱の可愛さこそ美味しさのヒミツなのであろうな。わたくしの目に狂いはなかった」
スーディアさんは一人で納得したように頷く。その横ではティルが、おかしそうにお腹をかかえる。
ちなみに私たちが食べたカレー。
それは、パッケージにアニメのキャラクターがプリントされた、お子様向けの超甘口カレーだった。
スーパーでカレーのルーを選別していた時、スーディアさんがイチオシでそれを推薦したのだ。
ただ単にパッケージのキャラクターが可愛いという理由だけで。
それを持ちかえった時は、さすがの宗太郎さまも絶句していたが、裏で事情を説明したら理解はしてくださった。
「鈴音殿たちも美味しそうに食べておったな?」
「ええ。まあ・・・・・・」
確かに不味い訳ではなかったけれど、この年齢にもなってお子様向けのカレーを食べるのは貴重な体験のような気もする。
「喜んでもらえて嬉しいぞ。それでこそ推薦した甲斐があるというもの」
「こちらもスーディアさんが喜んでくれたのなら幸いです」
私たちは自然と笑い合った。
「それにしても、鈴音殿は髪が長いな」
スーディアさんが感心したように私の髪を見る。
「ええ。リートプレアに行った時から、ずっとのばしていましたから」
今でこそ腰より下まであるが、昔はもっと短かった。別段、のばしていることに理由はないのだけど、これはこれで気に入っている。
「髪を洗うときは大変だろうに」
「そうですね。でも、もう慣れていますから」
「もし手伝うことがあれば何でも申されよ。あとで宗太郎殿とも一緒に背中を流してしんぜよう」
「え? 宗太郎さまですか??」
私が訊ね返したその時だった。再び風呂場の戸が開き、そこには・・・・・・。
「ふえ? 何で宗太郎ちゃんがここにいるんだぞぉ?」
ティルの言葉通りだった。
そこには素っ裸の宗太郎さまが立っており、呆然とする私と目があってしまう。
「・・・す、鈴音」
「そ、宗太郎・・・さま?」
お互いの動きが完全に硬直し、何が何だかわからなくなる。ただ宗太郎さまの視線は、私の身体に釘づけ・・・・・・。
つまりは・・・・・・見られている??
そこまで理解した時点で、私は悲鳴をあげ、大慌てで身体を隠した。
「どどどどどどど、ど〜〜〜〜して、宗太郎さまがここにいるんですかぁっ!!!!」
半泣き。大パニック。あまりの恥ずかしさに、ただ叫ぶしかできない。
「お、俺だって、ど、どうしてここに来たのか、わからないんだ。気がつけば身体が勝手にっ!」
宗太郎さまが大声で弁解する。そこへスーディアさんが、相槌をうつかのように呟く。
「彼は、わたくしが呼んだのだ。魔法の力を借りて」
「な、何だって、そんなことを!?」
「宗太郎殿にも色々と世話になっておりますし、ここは皆で背中の流し合いでもと思いまして」
しれっと大真面目に言ってのけるスーディアさん。
「ほ、ほら見ろ、俺は自分の意思で来たわけじゃないぞっ!」
「先ほど誘った時には断られましたものね。ですが、多少は気になる様子だったのでこうやってお誘いした」
「お、俺は、何も気になってなんかいない」
「今更、恥ずかしがることもありますまい。それに・・・・・・いかな魔法の力でお誘いしたとはいえ、全くその気がないのなら抵抗もできたはず。しかし、宗太郎殿は簡単に魔法にかかられた」
「じゃあ、宗太郎ちゃんも一緒に入りたかったってことだねぇ〜。わたしはまったく構わないぞぉ」
スーディアさんはおろか、ティルも来るもの拒まずという感じだ。
けれど、私は困ってしまいます・・・・・・。
「さ、鈴音殿も宗太郎殿も背中を流してしんぜよう。宗太郎殿、どうぞこちらへ」
スーディアさんがそう言った途端、宗太郎さまの慌て声が響く。
私はおそるおそる宗太郎さまの様子を覗き見、絶句した。何と宗太郎さまが私の方にヨロヨロと突っ込んでくる。
そして、しまいには・・・・・・。
案の定ぶつかり、私と宗太郎さまはお互いの身体が絡み合ったまま転がってしまう。
「・・・・・・うっわ〜、鈴音ちゃんたち、大丈夫ぅ〜?」
頭上から響くティルの声が、どこか遠くの出来事のように思える。
それくらい、もう頭の中は真っ白に近い。
あろうことか宗太郎さまと肌を重ね、更には私が押し倒されている形・・・・・・。
いくら相手が小学生の子供っていっても、男の子には違いない。
「・・・・・・鈴音」
耳元で宗太郎さまの声がした。
「は、はい・・・・・・」
思わず条件反射でこたえる私。
「・・・・・・・・・・・・すごく柔らかい」
その言葉が耳に入った途端、私は近くにあった風呂桶をとり、容赦無用で彼を殴ってしまった。
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