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第一章 いきなりの対決

 

「問答無用。いざ、参るっ!」

 突如現れた、魔法評議会の特務監察官スーディアさん。彼女は評議会の使命を帯び、私が本当に正式な魔法使いとして相応しいかどうかを試しにきたという。

 そして、戸惑う私に、有無をいわさずこの事態。

 スーディアさんは、栗林邸二階のバルコニーから、私めがけて飛びかかってくる。普通、そのようなところから飛び降りれば大怪我どころの騒ぎではないが、彼女は臆することなく跳躍した。

 おそらく何らかの魔法が作用しているのは容易に想像がつく。更には。

 彼女の手に、何かが握られているのが見えた。

 その何かが太陽の光を反射して輝いたとき、私は恐怖のあまり目を伏せた。

 ビュンッ!

 目を伏せてどうなったのかはわからないが、私の目の前で小さな風圧が起こる。

 そして。

「なぜ、よけぬ?」

 スーディアさんの冷めた声が響いた。

 おそるおそる目を開けると、そこには銀色に輝く剣の切っ尖きが向けられていた。これが先程、太陽の光に反射したものであるが、これにはさすがに息をのむ。

 マコトくんですら絶句しているのが伝わってくる。

「わたくしが本気で切りつけていたら、ただの怪我では済まぬところだぞ」

「・・・・・・そういわれましても」

 怪訝な顔のスーディアさん対し、私はそれだけを言うのがやっとだった。頭の中が真っ白になって、ちゃんとした言葉が浮かばない。

「もしかして、怪我でもしたかったのか?」

「ち、ちがいます。それだけは絶対に違います!」

 慌てて否定する。

「ならば、どうしてよけないのだ?」

「よけるっていっても、そんなもので急に切りつけられたら、恐怖で動けなくなってしまいます」

 今度はどうにかそれなりのことを言えた。

 だが、スーディアさんは、スッと目を細めて指摘する。

「正式なる魔法使いが、これしきのことで取り乱そうとは笑止。いついかなる場合でも、冷静にことを踏まえ対処する。それが魔法使いというものではありませんかな?」

「えっ、ま、まあ。そうかもしれませんが」

 悔しいけれど返す言葉が見つからなかった。けれど、怖いものは怖いのだ。

「鈴音殿は、魔法使いにとって最も必要とされる冷静さに欠いているように見えるが、いかがなものかな? それにわたくしが、魔法で玉枝殿の姿をしていても気づかぬほどだ。評議会があなたのことを懸念に思うのも頷ける話だな」

 完全に痛い部分を指摘され、私はうなだれるしかなかった。

 だが、その時になって、私の手の中にあったマコトくんが動いた。

「人のことゴチャゴチャぬかしとるんやない。足元すくわれんど〜っ!」

 ホウキの柄でスーディアさんの足を払う!・・・・・・と思いきや、途中でその動きは止まった。

 スーディアさんが止めた訳ではない。マコトくんが自分で動きを止めたのだ。

 そして、その後、聞き覚えのない重い声が響いた。

「・・・・・・懸命だな。ホウキに宿りし精霊よ。そのまま突きこんでいれば、汝は余によって両断されておったぞ」

「けっ、やっぱり知性の剣(インテリジェンスソード)かい。妙な気配を感じたんや」

 マコトくんの言葉で私も理解する。今の重い声は、スーディアさんの持つ剣から発せられたことに。

 彼女の持つ剣は、知性を兼ね備えた魔法の剣ということだ。

「とりあえず紹介しておいたほうがよろしいでしょうね。この剣はわたくしの相棒で“ウィムド”。そのホウキが指摘した通り、知性の剣(インテリジェンスソード)です」

 スーディアさんは剣に目を向けて、教えてくれた。

「んなもん持ち出してきよるなんて、姉ちゃん、卑怯やど」

 マコトくんが吠えるが、スーディアさんは表情も変えずに返した。

「鈴音殿には貴殿というホウキがある。お互い相棒を従えたまでのこと。卑怯と言われる筋合いはない」

「ぬぉ〜。この姉ちゃん、いけすかんでぇっ!!」

「落ちついてください。マコトくん」

 私は、暴れようとするマコトくんをどうにか抑えつけた。

「そない言うけどな、この姉ちゃん、鈴音をバカにしとるんやど。悔しいとか思わんのかいな。もっと怒るべきやで」

「怒る怒らないは別として、本気は出してもらわぬと困る。でなければ、ここまでが鈴音殿の実力と解釈するしかなくなるが」

 スーディアさんの冷たい視線が何ともいえない。

 そう言われても、自分にはどう答えてよいのかわからない・・・・・・。

 だから私は、困ったような目でに彼女を見る。

「あのう、スーディアさん。もう腕を試すとか止めませんか? 評議会の方々が懸念に思うのも無理はありませんが、私は正式な魔法使いになって間もないし、実力的にもまだまだ未熟なんです。だから、とてもではありませんがスーディアさんのような方にかなうとは思えません」

「わたくし、これでも手加減しているのですが」

「手加減で魔法の剣つかわれてたまるかいっ!」

 マコトくんがはき捨てるように言うと、知性の剣であるウィムドさんが答えた。

「確かにスーディアが手加減しようと、余は別だからな」

「おいコラ、魔法の剣。その言葉はワシらに対する宣戦布告かい?」

「どう受け取ろうが勝手だ。汝がいくらほざいたところで、余にはかなわぬことだけ知っておけ」

「上等やないけっ! 男一匹マコトさん、見た目はホウキでも魂は灼熱の塊なんや。甘くみとったら、おのれなんぞドロドロに溶かしたるど」

 見えない火花が、マコトくんとウィムドさんの間で飛び交っている。

 このまま放っておけば、ますます事態は悪化していきそうだった。そこへ、私が何かを言う前にスーディアさんが口を開いた。

「とりあえず今回は、わたくしと鈴音殿の問題。ウィムドはしまっておきましょう。これでよろしいか、マコト殿?」

「エエもなにも、宣戦布告されたんやぞ。これはワシにとっても問題や!」

「マコトくん。気持ちはわかりますが、これ以上、話をややこしくしないでください」

 私は、息巻くマコトくんを必死になってなだめた。自分でも知らないうちに、もう半泣きになっている。

 その様子に、彼もさすがに押し黙り、そして・・・・・・。

「鈴音がそこまで言うんやったら、今回は我慢しといたる。せやから泣くんやないぞ」

「ありがとう、マコトくん」

 私は彼に感謝し、スーディアさんに向き直った。

「心の決心はつきましたか?」

「決心も何も、こんなこともう止めてください。私がスーディアさんにかなわないのは、さっきも言った通りです」

「しかしそれでは、評議会にどう報告すればよいものか」

 困った表情で腕を組まれる。

「・・・・・・どうしてもスーディアさんを倒すしかないのですか?」

「完全に負かせとは言わぬ。鈴音殿の力をある程度判断できれば、それで結構」

「ならば、こんなやり方で試すことないじゃありませんか」

 私の言葉に、スーディアさんは怪訝そうな顔をする。

「他にどういうやり方があると申す?」

 訊ね返された。

「魔法は戦いだけの力ではありません。だから、戦う以外のやり方で判断願えませんか」

 仮に戦い以外のやり方になっても、うまく納得させられるかは保証の限りでない。

 でも、このまま戦いでぶつかりあうよりは、望みはあるはずだ。

 スーディアさんは、ふむと唸り、少し考えこむ。

「・・・・・・確かに鈴音殿の言葉は一理あるな」

「ならば、別の方法で試してもらえますか?」

 私は期待を込めて訊ねる。しかし、スーディアさんは無情にも首を横に振った。

「一理あるのは認めますが、面倒なので却下します」

 ウソ。

 ・・・・・・面倒なので却下って、そんなのありですか?

 絶句する私をよそ目に、スーディアさんは腕を正面にかざす。

「鈴音殿。本気を出さねば、本当に怪我をするぞ。いい加減に観念なされよ」

 そう言う彼女の手の平から、シュボッと炎の塊が現れる。

「おい鈴音。あの姉ちゃんに何を言うてもムダやで。ああいう、アブナイやつは力でねじ伏せたるしか道はあらへん」

「そんなこと急に言われても無理です」

 マコトくんと問答している間にも、スーディアさんの炎は段々と大きな塊になってゆく。

 あれは一種の火球の魔法。そんなものを食らえば、この場にはちょっとした爆発が起き、私はおろか、この庭だってただではすまないだろう。

 私はあれこれと頭で考えた。観念して防護結界を張るか、あるいは彼女の魔法を解除してしまうか。とはいえ、どの魔法に関しても、技術的には高等な魔法ものばかりで、自分のような未熟者が瞬時に扱えるものではない。

 その時だ。

 私と彼女の間に、割って入る影があった。

「おい、なにをしているんだっ!」

「宗太郎さま!?」

 私たちの間に割って入ったのは、この栗林家の孫息子である宗太郎さまだった。

「学校から帰るなり何の騒ぎだ。鈴音。これは一体、どういうことだよ?」

「ええと。どういうことかと申しますかというと・・・・・・」

 戸惑っているせいか、うまく言葉が出てこない。そんな私にかわって、スーディアさんの方が口を開いた。

「鈴音殿が正式に魔法使いとして相応しいかどうか、腕試しに参ったのです」

「おまえは誰だよ?」

 宗太郎さまはスーディアさんに怪訝な目を向ける。すると彼女は薄く微笑み、丁寧に頭を下げた。

「わたくし、リートプレアの魔法評議会より遣わされた特務監察官のスーディアと申す。貴殿はここ、栗林家の人間で、宗太郎殿ですね」

「リートプレアって、例の魔法世界の・・・・・・。俺のことも知ってるのか」

「詳しいことまでは知りませぬが、先程、鈴音殿が貴殿のことを宗太郎さまとお呼びしましたので」

 スーディアさんはそれだけ言うと、また私に目をむけた。

「鈴音殿。真に正しき魔法使いは、今のわたくしくらいの冷静さが必要ですぞ」

「・・・・・・はあ、申し訳ありません」

 何故だか条件反射で謝ってしまう自分が悲しい。

「とりあえず、鈴音殿の腕試しの途中です。宗太郎殿はどこかへ避難なされよ」

「少し待ってくれ」

 宗太郎さまはそう言ってスーディアさんを制すと、ちらりと私に向き直った。

「鈴音はこの腕試しを納得で受けているのか?」

「・・・・・・唐突に言われて、正直、戸惑っています。私ではかなわないって説明はしているのですが」

「そうか」

 宗太郎さまは頷いた。そして。

「スーディアさんって言ったな。鈴音はあんたと腕試しをする気はないようだぞ」

「鈴音殿にその気がなくとも、受けてもらわねば、わたくしの使命が達成できませぬ」

「やる気のないやつを相手にして、腕試しもなにもないだろう」

「・・・・・・宗太郎殿の言葉はごもっとも。故に鈴音殿が本気を出せるように仕掛けます」

「それは認められないな。鈴音が万が一、怪我でもすれば俺が困る。鈴音は俺の・・・・・・いや、この屋敷の大切なメイドなんだからな」

 私は彼の言葉に感動をおぼえた。

 出会った時は、かなり邪険にされていたのに、今では私を庇い、あまつさえ大切なメイドとも言ってくれている。

「怪我をさせても、別段、死なせるわけでもありませぬ。それに怪我なら治癒の魔法でいくらでも治してしんぜる」

 スーディアさんの淡々とした物言いに、マコトくんの方が怒鳴る。

「そないな問題やあらへんっ! 第一、鈴音は荒事には向かんのや。戦い以外の方法で実力を試したるのが正しいやり方っちゅうもんやろが」

「俺もそれがいいと思う。あんたが鈴音の実力を正しく判断する気なら、少しばかり時間を与えてじっくり見てやることだ。そうすればきっとわかる筈だからな」

 マコトくんと宗太郎さまの言葉に、スーディアさんは無表情のまま黙った。

 この沈黙がどうにも怖い。

 また、却下とか言われるのではないだろうか・・・・・・。

 しばらくして。

 スーディアさんはスッと目を伏せて、頷いた。

「よろしいでしょう。性急に事を運びすぎて、あやまった判断を下すのは、わたくしとて望むところではない」

「それじゃあ、この荒っぽい腕試しはなしにしてもらえるな?」

「ええ。ですが、ひとつだけお願いがあります。鈴音殿の実力をじっくり拝見するためにも、わたしくをこの栗林家に置いてもらえませぬか?」

「ええ〜っ!?」

 私は思わず叫んでしまったが、宗太郎さまは首を縦に振った。

「こっちが言い出したことだ。そうしないと申し訳はないだろうな。部屋は用意させる。客人として滞在すればいい」

「では、宗太郎殿のご配慮に感謝し、しばらくご厄介になりまする」

 こうして、あれよあれよと言う間に、スーディアさんは栗林家に滞在することになったのだった。

 

§

 

「ぷっはぁ〜、苦しかったんだぞぉ。鈴音ちゃん」

「ごめんなさい、ティル。あの時はああするしかなかったもので」

 懐に収めていたティルをようやく解放し、私は今までの事情を説明すると共に謝った。

 今、私たちは宗太郎さまのお部屋にいる。スーディアさんを応接室に残し、今後の相談をするためだ。

「しかしまあ、あの姉ちゃんをこの屋敷に住まわせてエエんかいな。また妙なことにでもなりよったら、クソガキの責任やからな」

 マコトくんがそう言いながら宗太郎さまを睨む。すると彼も、むっつりとした顔をした。

「仕方ないだろ。ああいう方法しか思いつかなかったんだ」

「なんじゃいそれ。なんも考えんと、いきあたりばったりやったんかい? これやからクソガキは」

 呆れるようにマコトくんはぼやく。

 それ以前に、マコトくんの言う、クソガキという呼び方が気になって仕方ない。いつのまにか定着している呼び名だけど、宗太郎さまは私の雇い主でもある。礼を失さないためにも早く直してもらわないと困るかも・・・・・・。

「いきあたりばったりだったのは認める。けれど向こうの出方を見る意味では、自分たちの手のうちに置いておくのも悪くはないと思うぞ」

「ま、そういうことにしといたるわ。それであの姉ちゃんの弱点でもわかれば儲けもんやしな」

「・・・・・・弱点ってそんな、戦うわけではないのですから」

 私は眉をひそめる。

「そうは言うけど、相手は魔法評議会の特務監察官でしょ。このまま只事で済むとは思えないんだぞぉ」

「せやな。こら一種の嫌がらせやで。あの連中、鈴音のことを快く思っとらんしな」

 ティルの言葉にマコトくんも深く同意する。

「なあ、リートプレアの魔法評議会って、一体どういう組織なんだ?」

 宗太郎さまが疑問を口にした。彼はリートプレアのことを殆ど知らないのだから当然の質問だろう。

「一言でいえば、リートプレア全体の魔法バランスを管理する組織だと思ってもらえればいいです。リートプレアでは多くの物事が魔法によって成されていますが、それらに危険性がないかなどを考慮し、適性なる管理で世界の法則を維持するんです」

 とりあえず説明はするが、私もそれほど詳しいわけでもない。

「でも、そんな組織がどうして鈴音を目の仇にするんだよ」

「それは私が・・・・・・あの人たちから見れば、危険な存在に見えるからですよ」

「危険って鈴音がか? 冗談だろ。こっちのマコトならいざ知らず」

「こらクソガキ。そらどないな意味やねんっ!」

 マコトくんが宗太郎さまに食ってかかるが、彼はそれを無視、心配そうに私を見つめた。

「宗太郎さま。私がリートプレアに行った経緯は以前にお話しましたよね」

「ああ。覚えている。鈴音は幼い頃、あっちの世界へ繋がる門を偶然に開いてしまったんだろ。亡くなった母親を魔法で救いたい一心で」

 小さく頷いた。まさに宗太郎さまの言葉通り。

 三年前におかあさんを亡くした私は、ひとりになった寂しさから非現実ともいえる力を望んだ。そうすれば、亡くなったおかあさんも生きかえるかもしれないと思ったから。

 その時、私の願いが通じたのかどうかはわからないが、魔法が存在する世界への門が開かれた。

「私はリートプレアの人からすれば、異世界から来た人間になります。それも魔法が存在しない世界から来た人間です。ただでさえ、異世界の人間という事で異端視されるのに、私は世界と世界を繋げる門を偶然とはいえ開いてしまった存在。評議会にとって、私という人間は得体が知れなかったことでしょう。下手をすれば世界のバランスを崩しかねないほど危険な存在にも思われたでしょうし」

「・・・・・・だが、鈴音にはそんな力なんてなかったんだろ?」

「私自身はそう思っていますよ。けれど私がどう思ったところで、門を開いたことは事実だし、評議会はそのことを重くみているようなんです。熟練の魔法使いでも、異世界への門は早々開けるものではないらしくて」

「なるほど。つまりは、知らず知らずのうちに凄い事をやってのけた鈴音を、評議会は警戒してるってことか」

 宗太郎さまは腕を組んで唸る。

「鈴音ちゃんの魔力の高さは折り紙つきだからね。わたしも初めてあった時は、ビンビンとそれを感じたぞぉ」

「妖精の言うとおりや。鈴音は魔法使いとしての技術はともかく、魔力的な高さは目をみはるもんがある」

 ティルもマコトくんも口々に言う。

「それにしても、こうやって事情を知ると厄介に思えてきたな。連中が鈴音を敵視している以上、ただ実力を見せて済むとは思えない。あのスーディアって人を屋敷に置いたのは間違いだったかな・・・・・・」

「宗太郎さま。そんなに悩まなくていいですよ。あの場合は仕方のないことですし」

「でも、俺があんなことを言い出したせいで、鈴音にもしものことがあったら・・・・・・」

「心配してくださってありがとうございます。けれど、宗太郎さまの言葉があって、今は少し穏便に進もうとしているのです。私はそれに感謝しますよ」

 優しく微笑んであげると、宗太郎さまは少し赤くなった。何だかそんな彼が少し可愛い。

「とはいえ、このままあの姉ちゃんを信じるのもなんやで。なんぞ、よからぬ思惑をもっとるんやもしれんしなぁ」

 今度はマコトくんが不安を口にする。

「仮にそうであったとしても、確証がない以上は疑ったら悪いですよ」

「けどな、やっぱ心配でならんのや。鈴音かて評議会にはあまりエエ印象ないやろ?」

 確かにリートプレアにいた頃は、何度となく評議会に敵視された。

 最初は何故、自分がそのような目で見られなければいけないのか疑問でならなかった。

 でも、魔法学院のステラ学長に保護され、正式に魔法の勉強をはじめてからは色々とわかったつもりだ。

 自分が危険視される理由も含め、それ以外にも沢山の前向きな考え方を教わり、はじめてわかった。

 私を危険視する人間にもそれなりの正当な理由があり、それを逆恨みするのはお門違いだということを。

「とりあえず、むこうがどういう態度に出ても、私は前向きに対処します。ですから、しばらくは信じて、何かあった時だけ手助けしてください」

 私はそう言って、皆に頭を下げた。

 ただでさえ自分のことで迷惑をかけているのかもしれないのだ。今はそうでも言って、この場をまとめるしかない。

 その結果、皆もとりあえずのところは納得してくれた。

「それではスーディアさんのお部屋の準備などもありますので、一旦失礼しますね」

 私はメイドとしての本来の仕事を果たすべく、宗太郎さまの部屋をあとにした。

 そして、廊下に出てから、小さく息をつく。

 なんだかんだと言っても、やはり不安は大きい。

「私、今度はどうなっていくのでしょうね」

 小さくつぶやくが、誰も答えてくれるわけがない。

 今の私では、この先の展開など何も想像できなかった・・・・・・。

 

 

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