〜宿り木の双子〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちはひとりきりじゃない

 

 

 

 

 

 

 

第4話 支えあう形

 

忘れていませんか?

日々の暮らしであまり意識していなくても

私たちは何かに支えられて生きているのだという事を

でも、安心して

大切な感謝の気持ちは

いつだって胸の奥に

あるはずだから

 

 

 

1

 

[柊 彩音]

 

「お願い、彩音。しばらくの間でいいの。あたしを泊めてくれないかな?」

 友人の藤原美冬ちゃんが、私たちの暮らす家に押しかけてきて突然そんな事を言ったのは、学校の冬休みが終わる前日の夜のことだった。

「しばらくの間って……」

 唐突なお願いだったので、返事に戸惑ってしまう。

「そんなに長くはならないと思う。姉貴が急な海外出張でさ、家はあたしだけになっちゃうのよ。でも、ひとりだけで何日も夜を過ごすのって心細いじゃん。だからこうやってお願いしているの」

 美冬ちゃんは幼い頃に両親を無くしており、今はお姉さんと二人暮し。早くに両親を無くしているという境遇で言えば、私と一緒である。だから、それがきっかけで学校でも話すきっかけが生まれた。

 それはさておいて。

「本当にお願い。頼れるのは彩音だけなのよ。泊めてくれるならこのお店の手伝いだってなんだってするから」

 美冬ちゃんは手を合わせて懇願する。ちなみに店の手伝いというのは、私の暮らす場所のことだ。

 私の住んでいる家は、普段“宿り木”という名の喫茶店を営んでおり、いまは入院中の祖父にかわって、私と双子の妹の若葉ちゃんとで学校が終わってからきりもりしている。

「でも、私の一存だけでは決められないよ」

 困った私は、近くで一部始終をみている妹の若葉ちゃんに目を向けた。それに気づいた彼女はすかさず言葉をかけてくれる。

「わたしは構わないよ。せっかく頼ってきてくれたんだし泊めてあげたら。こんな時間に追い返すのも悪いじゃない」

 時間は既に二十三時を過ぎていた。確かにこんな時間に女の子ひとりを帰すのは気がひける。

「さっすが彩音の妹さん♪ 物分りのいい立派な子だわ」

 美冬ちゃんは手をポンっと合わせ、ちょっとオーバーに喜びをあらわにする。それに対して若葉ちゃんは苦笑しつつも、

「ただ、お店の手伝いとかはしなくても結構です。こちらも色々教えているほどの余裕はないだろうし」

 とだけは言った。

「わかった。要約すれば邪魔するなってことね」

「そういうことです」

 美冬ちゃんも若葉ちゃんもストレートだった。一歩間違えれば気まずくなるんじゃないかな?と思えるほど、見守る私の方がどきどきする。

「さ、妹さんはルールさえ守れば泊めてくれるって感じだけど、彩音はどう?」

「若葉ちゃんがいいって言うんだったら、私も断る理由はないよ」

「サンキュっ! やっぱ、持つべきものは親友よね〜」

 嬉しそうに私の手を握りながら言う美冬ちゃん。

 こうして少しの間、彼女は私たちのもとで生活することになった。

 けれど、これがとんだ騒動のはじまりになろうとは、いまの私たちは予想もしなかった。

 

 

 

 美冬ちゃんが我が家に来てから一夜があけた。

 昨夜は彼女が来た時間も遅かったから、お泊まり用のお布団とかだけ用意して、早々に就寝。

 そして今は早朝。

 私と若葉ちゃんの二人は、午後から営業するお店のために色々と仕込みの準備だけしておく。これがいつもの日課だ。あとはそれが終われば、朝食の用意へと移っていく。

 ちなみに今日からは学校も三学期がはじまる。だから、遅刻しないようにもしないと。

「姉さん。あの人の朝食もトーストとサラダでいいんだよね?」

 冷蔵庫からマーガリンを取り出しながら、若葉ちゃんがそんなことを訊ねてくる。勿論、あの人というのは美冬ちゃんのことだ。

「うん。それでいいと思うよ。朝は和食じゃないとダメだなんて聞いてないし」

「わかった。ま、和食がいいとかいうわがままを言われた日には、にっこり笑顔で追い返してやるけど」

「もう〜、一応はお客様なんだからそんなこと言わないの」

「でも、いきなり押しかけてきたんだし、謙虚さは心得るべきよ」

 若葉ちゃんの言葉は中々手厳しい。

「もしかして、泊める事には反対だった?」

「別にそれはないけどね。ただ、あの人って姉さんの友達にしては珍しいタイプのように思えるわ」

「そう?」

「うん。あの人ってなんだか強引じゃない。姉さんはああいうタイプの人って苦手なような気もするんだけど」

 う〜ん。さすがは若葉ちゃん。私の性格をよく把握している。

 確かに美冬ちゃんは少し強引な所のある子だ。しかも、こちらの事情構わずそれを押し通そうとする面があるから、おとなしい性格の私ではたまについていけない時がある。でも…………

「私とはタイプが違うけれど、大切なお友達にはかわりないよ。一緒にいると楽しい事の方が多いしね」

 それが私の偽らざる気持ちだった。美冬ちゃんは強引だけど、そのぶん行動力もある。だから率先して色々とやってもくれるし、その中で楽しいイベントとかもどんどん企画しちゃえる。

 少なくとも美冬ちゃんのそういう明るさがクラス全体を明るくしているのはあるんだよね。

「姉さんがそこまで言うなら大丈夫みたいね。わたし、気の弱い姉さんが無理やり言う事を聞かされてるんじゃないかとだけは心配してたから」

「それはないよ。だから安心して」

「わかったわ。あ、それよりも姉さん。そろそろあの人も起こしてあげたら。今日から学校だけど、あの人って制服とかこっちに持ってきてなかったんじゃない?」

 言われてみれば美冬ちゃんが持ち込んできた手荷物って殆ど無かったように思う。

「そっか。ならば早く朝食を終えて、制服を取りに戻ってもらわないとね。私、起こしに行って来るよ」

 それだけ言うと、私は自室に戻った。彼女には私と同じ部屋に泊まってもらっているから。

 部屋に入ると、美冬ちゃんはまだ眠ったままだった。ベッドの横に敷かれたお布団で気持ちよさそうに寝息をたてている。

「美冬ちゃん。朝ご飯できてるよ〜。今日から学校もあるんだし、そろそろ起きないと遅刻しちゃうよ」

 枕元で膝をついて、やんわりと呼びかけるる。すると美冬ちゃんはうっすらとだけ目をあけた。

「ふわぁああ〜。おはよう、彩音」

「うん。おはよう。そろそろ起きないとダメだよ」

「今、何時?」

「もうすぐ七時だよ」

「まだ早いじゃない。もっと寝かせてよ」

 頭から布団をかぶる彼女。どうも寝起きはよくないようだ。

 だからといって放っておくわけにもいかないのだけど。

「もう冬休みも終わって、今日から三学期だよ。制服、こっちには持ってきてないんでしょ?」

「うん。持ってきてない」

「ならば早く朝食を摂って、取りに戻らないと」

「別にそんな面倒な事しなくてもいいよ」

「どうして?」

「だってあたし学校休むから」

 さらりとそう言われる。

「…………え? え? どうして? 体調でも悪いの?」

 私はちょっと戸惑う。

「別にそうじゃないけど……まあ、何ていうか……色々とね」

 布団をかぶったままゴニョゴニョと呟く美冬ちゃん。どうにも歯切れが悪い。

「本当にどうしちゃったの? ちゃんと理由を話してくれないと困るよ」

「仕方ないなぁ。ま、どうせバレるのも時間も問題だし正直に言うわ。あたし家出してきたのよ。だから病気じゃないの。心配はご無用」

 これまたさらりと言ってくる。なるほど、家出なのか。病気でないなら安心かな。

 ………………………………………

 …………………って、ちょっと待った! そんなわけないっ!

「い、家出ぇ?!

 私は素っ頓狂な声をあげた。正直、予想もしなかった一言に面食らう。

「いきなり変な声あげないでよ」

「あげたくもなるよ〜! 驚いたんだから」

「そりゃわるかったわね。でも、とりあえずそういう訳だから、これ以上先のことは親友として察して頂戴。んじゃ、おやすみ〜」

「無茶言わないで〜〜〜!」

 半ば悲鳴に近い声で美冬ちゃんに訴える。そもそも親友だからって、何をどう察しろというのだろう。

 それから何度も呼びかけてはみるものの、美冬ちゃんは布団に潜ったまま頑として出てこようとはしない。

 困り果てた私は、妹である若葉ちゃんの助けを求めてキッチンに戻る。そして大慌てでこの事情を説明した。

「はぁ? ちょっと何よ、その家出って!」

 妹も当然のように驚いた。

「まだ、どういう事情かまではわからないんだけど、美冬ちゃんは家出してきたって言っているのよ。そして学校を休むとも。若葉ちゃん、どうしよう…………」

「とりあえず落ち着いて。わたしも姉さんの部屋に行って、藤原さんを説得してあげるから」

「お願い。私だけではどうしていいのか」

 我ながら情けない姉だと思うけれど、今は誰かに助けを求めるしかなかった。

 こうして私は若葉ちゃんを連れ、美冬ちゃんの寝ている部屋へ戻ろうとする。でも、そこへ至る廊下の途中で、私の学校の制服と鞄が無造作に置かれていた。

「何で制服と鞄がここに?」

 そんな疑問がよぎるものの、気にせず自室のドアを開けようとして「あれっ?」となる。

「…………内側から鍵がかけられてるよ〜!」

 私は再び悲鳴のような声をあげ、若葉ちゃんと目を合わせた。

「立て籠もる気なのね!」

 若葉ちゃんはそう言うなり、締め切られたドアを少し乱暴にノックする。

「藤原さん、ここのドアを開けなさい。そして今すぐ自分の家に帰って」

「嫌よ。あたし家出してるんだし」

 部屋の中から即答でかえってくる。

「ふざけないで。わたしたちはあなたを信じて好意で泊めてあげたのよ。それを裏切るような真似して、許されると思っているの?」

「悪いとは思っているわ。でも、ずっと隠すつもりはなかったから正直に話したじゃない」

「そんな大事なことは一番最初に言いなさいよ!」

「でも、言ったら泊めることを渋るでしょ?」

「当たり前よ!」

「そう思ったからこそ最初は黙っていたのよ。ついでを言えば昨日はそんな気分になれなかったのもあるし」

「勝手すぎるわ」

「今は何とでも思ってくれて結構。けれど、これだけはわかって欲しいわ。あたしたちの年頃って色々デリケートな悩みってあるでしょう? 同年代のあなた達ならそういう部分も察して、静かに見守ってくれるんじゃないかなって思ったの」

「でも、事情がわからないままだと、私たちだって理解しようがないよ〜」

 激しいやりとりを繰り広げていた若葉ちゃんとはうってかわって、私の方は静かに呼びかける。

「ごめん、彩音。事情はあとでちゃんと話すから今は許して」

「本当に?」

「ちょっ、ちょっと待ってよ、姉さん! 悪質なことされてるんだから、事情なんか関係なしに今すぐ追い出すべきよ」

 若葉ちゃんは聞く耳もたぬといった様子だった。

 でも、それに対して部屋の中の美冬ちゃんは、

「今、ドアを開けたら妹さんに殺されそうでしょ? とても話せる環境じゃないわよ」

 とだけ返してくる。

「あなたが素直に帰ってくれれば、わたしだって何もしないっ!」

 顔を真っ赤にして若葉ちゃんが吠えた。

「そんな恐い声で言われても説得力ないわ」

「怒らせるあなたが悪いんでしょうがっ!」

 若葉ちゃんと美冬ちゃん。ドアを隔てての激しい言いあいが再びはじまる。

 わたしは両者を鎮めようと色々な言葉をかけてみるものの、全然とりあってもらえなかった。そうするうちにも時間だけはどんどんと流れ、最後には美冬ちゃんがこう告げた。

「あなたたち、そろそろ学校にいかなきゃヤバいんじゃないの? あたしに構ってたら遅刻しちゃうわよ」

 それがここでのやりとりのトドメとなった。

「…………卑怯だわ」

 妹は拳を震わせ、悔しげに呟いた。

 どうにも私たちに分の悪い展開なのは言うまでも無い。

「若葉ちゃん、あなたは先に学校へ行って。美冬ちゃんは私が何とか言い聞かせるようにするから」

 このままだと本当に遅刻しそうだったので、妹だけでも先に学校へ行くよう促す。

「でも、姉さん一人で大丈夫なの?」

「仕方ないよ。今となっては若葉ちゃんがいるほうが、彼女だって出にくいのは事実でしょうし。せっかく頼っておいて、こういう事を言うのもなんなんだけど…………」

「…………別に姉さんが悪い訳じゃないわ。でも、わかったわ。こっちは一度退散する。姉さんも遅刻しないようにね」

 妹はそれだけ言うと、心残りな表情を向けながらこの場を離れていった。

「美冬ちゃん、妹は先に学校へ行かせたわ。もう危なくないから出てこれるよね?」

「それは遠慮する」

「どうして?」

「だって部屋を出たところで、あたしは家に帰る気ないもん。それより彩音も早く学校に行きなさいよ。そのために制服や鞄を廊下に置いといてあげたんだから」

 なるほど。そういうことか。

「けど、美冬ちゃんを家に置いたまま出て行くなんてできないよ」

「別に家のものをいじったりしないわよ。おとなしく留守番しててあげるから」

「そうは言っても……」

「とりあえず今はひとりにして。あなたが帰ってきたら、ちゃんとあたしの事情も説明できるように気持ちの整理をつけておくから」

「本当に本当? 信じていいの?」

「迷惑かけてるのはわかっているから、それくらいは約束する。でも、彩音もあたしの話をちゃんと理解してくれるだけの余裕を持っておいて」

「理解できるかは保証しかねるけど、頑張ってはみるよ」

「ありがとう。あとさ、あたしの居場所とかは姉貴に教えないと約束して」

「…………心配されてるんじゃないかな?」

 約束には頷かず、逆にたずね返す。

「大丈夫よ。ちょっとくらいオロオロさせる方がいいクスリだわ」

 そう言う彼女の言葉には明らかな刺があった。そこから察するに、お姉さんとの間で何かトラブルがあったと考えるのが自然だろう。

「わかったわ。でも、学校くらいはやっぱり行かない?」

 私はもう一度、駄目押しで言ってはみた。けれど美冬ちゃんは頑としてそれを拒む。

「駄目よ。家に制服を取りに行って姉貴と遭遇したら元も子もないじゃん。それに姉貴が学校に連絡してたりなんかしても厄介だし。あたしはしばらく行方不明のままでありたいの」

「そう……」

 私はそれだけ言うと、廊下にある自分の制服と鞄を手に取った。

 学校を休むという美冬ちゃんを止め切れないのは残念だけど、このままでは自分も遅刻してしまう。

 今はとりあえず彼女に留守を任せることを決め、私は学校へ行く仕度を整えた。

 

 

 

 三学期の初日は始業式とホームルーム。あとは大掃除だけなので学校は午前中のうちに終わる。

 放課後はお友達との会話もそこそこで切り上げ、クラスの違う若葉ちゃんとは下駄箱で合流して校門を出た。そして、帰り道の途中では案の定というか、若葉ちゃんに不満をもらされる。

「まったく呆れた! 身勝手な家出娘に留守を任せるなんて無用心すぎるわ」

「でも、そうしないと私も遅刻だったもの」

 私はしゅんとなりながら答えた。

「そりゃまあそうだけど、姉さんはあの人に甘すぎるのよ。親友っていったって限度はあるでしょ」

 妹の言う事はまったくもって正しかった。それだけに反論しにくい。

「とりあえず帰ったら、あの人には即刻出ていってもらうからね」

「それはもうちょっと待ってあげてくれないかな…………」

「まだあの人を庇う気?」

「事情を話すって言ってくれていたし、それを聞いて相談にのってあげるくらいはしてあげたいの」

「優しすぎるわよ」

「でも、美冬ちゃんの強情さを考えると、このまま追い出したって素直に家に帰るとも思えないわ。それこそひとりにして、何か大きな事件にまで発展しちゃったら後味が悪いと思わない?」

「たしかにそういうのは嫌だけど」

 若葉ちゃんは不満そうな表情を崩そうとはしない。

「だったら、あまり性急に追い出そうとはしないで。私だってずっと泊めるつもりはないの。ただ、美冬ちゃんの言い分も聞いたうえで、彼女が納得できる形で家に帰れる方法をみつけたいんだよ」

「…………わかったわ。姉さんがそこまで言うんだったら、わたしもほんの少しだけ黙っていてあげる」

 若葉ちゃんは、深いため息をつきながらもそう言ってくれた。

「ありがとう、若葉ちゃん!」

「黙っているだけで、力は貸さないんだからね」

 ぶっきらぼうに突っ込まれるが、これが若葉ちゃんなりの優しさであることは、双子の姉である私にはよくわかる。

 こうして自宅に帰ってきた私たちは、お店の準備を若葉ちゃんに任せ、自分は美冬ちゃんの様子を窺いに部屋まで戻った。

「美冬ちゃん、ただいま〜。帰ってきたよ」

 そう呼びかけると部屋のドアが少しだけ開いて、美冬ちゃんがひょっこり顔だけ出す。

「おかえりなさい。妹さんは?」

「安心して。今は部屋で着替えているわ。それが済んだらお店の準備をしてくれるみたい。とりあえず私も着替えたいから部屋の中にいれてね」

 そうお願いすると、美冬ちゃんはすんなり部屋の中に入れてくれた。もっともここは私の部屋だけに、こんなふうにお願いして入れてもらうというのも妙な気分ではあるけど。

「美冬ちゃんは私たちが学校に行っている間、何かしてたの?」

 脱いだ制服をハンガーにかけながら何気ない調子で訊ねてみる。

「ほとんど寝ていたわ。別にお部屋のものとかいじったりしていないから安心して」

「そんなこと心配してないよ〜」

「はは。一応は信頼されてるんだ、あたし」

「信頼してあげなきゃ、これからのことだって話し合いにならないでしょ」

「なるほどね。そりゃそうだ」

 苦笑する美冬ちゃん。私は着替えを終えると、ベッドの上に腰を掛ける。

「さて、早速ではあるけど、美冬ちゃんの家出理由を教えてもらえるかな?」

「約束だもんね」

「うん」

 私が頷くと、美冬ちゃんは「くだらない理由と思われるかもしれないけど」とだけ前置きをし、ゆっくりと語りはじめた。

「昨日、スーパーで買い物をしていた時なんだけど、あたしたち姉妹がむかし好きだった紅茶を見つけたんだ。だから、つい懐かしくなって買って帰ってあげたんだけど、姉貴のやつ、あたしの淹れてやったそれを飲むなり口にあわないとか言うんだ…………」

「それは淹れ方が悪かったとかじゃないのかな?」

 紅茶は、淹れ方やちょっとした時間経過だけでも味が変わってしまうなんていうのはザラにある。

「ちゃんと美味しく淹れたつもりよ! 淹れ方については彩音からもさんざん聞かされてきたし、そんな初歩的なミスはしないわ」

 たしかに美冬ちゃんは、普通の人よりかは美味しい紅茶の淹れ方を心得ている。何度か彼女の淹れた紅茶を飲んだ事はあるけれど、お湯の温度も葉の開き具合も悪くはなかったしね。

「でも、お姉さんには口に合わないと言われちゃった、と。まさかとは思うけれど、それを言われただけで家出しちゃったなんてことはないよね?」

「そのまさかよ」

「ええっ?! 本当に……たったそれだけの理由で…………??」

 呆れ半分、驚き半分。くだらない理由だとは前置きされてたけれど、これはいくらなんでもあんまりのような。

「彩音にはわからないかもしれないけれど、あたしにはどうしても許せないことがあったんだ」

 美冬ちゃんは悔しそうに呟く。しかもその瞳には涙も溜まっている。

 この思いつめたような表情を見たとき、私は自分の軽率な解釈を恥じた。家出の理由は一見くだらないように感じたものの、それは第一印象からくる勝手な思い込みだ。少なくともまだ、美冬ちゃんが本当に思い悩む理由までは聞ききれていないというのに。

「なら、その許せなかった部分を教えてもらえる?」

 私は慎重に言葉を選んで訊ねると、美冬ちゃんは顔をうつむけながら静かに頷いた。

「あたし、その紅茶の淹れ方には絶対の自信があったの。その紅茶は、あたしたち姉妹と亡くなった両親との思い出でもあったから」

「思い出?」

「うん。両親がまだ生きていた頃は、皆で仲良くその紅茶を飲んだわ。あたしは母さんの側で何度もその淹れ方を見て、手伝いも沢山したんだよ。大袈裟な言い方かもしれないけど、あれはあたしが母さんから受け継いだ唯一の“味”なの。だから失敗なんて考えられないわ。それなのに姉貴は口に合わないなんて言う。姉貴は薄情にも母さんの味を忘れてしまってるんだよ。あたしには、それが許せなかった」

「…………そういうことだったの」

 そこまで語られると、彼女が悔しい思う気持ちもわからなくはない。

 ただ、美冬ちゃんのお姉さんは本当にお母さんの味を忘れているのだろうか? 懐かしい味……特に自分が好きでいたものなら、そう簡単に忘れはしないと思うのだけど。

「とにかくあたしは、あんな薄情者の姉貴とは一緒にいたくないの」

「でも、お姉さんも悪気はないんじゃ」

「彩音はあたしのほうが悪いっていうの?!

 こういう風に直情的に物を言ってくるのは、美冬ちゃんの欠点でもある。

「どっちが悪いとかそういう問題じゃなくって……」

 私は少し言葉に詰まりながらも、どうしても確かめたい大事なことに触れた。

「…………美冬ちゃんはその紅茶は飲んでみたの?」

「それは……」

「まさか、飲んでないの?」

「むうううう」

 美冬ちゃんは唇を噛んで唸る。これって図星ということ? 私は今度こそ脱力を感じるとともに深いため息をついた。

 でも、彼女だってこのまま黙ってはいない。

「確かにあたしが飲む前にこうなってはしまったけど、淹れた紅茶は完璧な筈よ。口に合わないなんて絶対にない!」

 ムキになってそう叫ばれる。

 こうなってしまうと、こちらが理屈で言い聞かせようとしても、聞き入れてもらうのは難しいだろう。単純に過ちを責めるだけでは、かえって美冬ちゃんを追い詰めることになるだろうし、それでは何の解決にもならない。

 淹れ方は完璧だという美冬ちゃん。それにもかかわらず紅茶が口にあわなかったというお姉さん。どちらか一方を悪いと考えるのは簡単だけど、両者の言い分どちらもが正しいということはありえないだろうか?

 そうなると、ひとつ確認しておかないといけないことがある。

「ちょっと教えて欲しいのだけど、美冬ちゃんが淹れた紅茶はどういう種類のものだったの?」

「ダージリンよ」

「ストレートで? それともミルクとかいれた?」

「うちの家ではいつもミルクをいれてたわ」

「なら、どこのメーカーのダージリン?」

「メーカー? そんなの知らないわよ。というか、それって意味あるわけ?」

 訝しげな顔で問い返されたので、私は静かに頷いた。

「大ありだよ。メーカーはかなり重要なんだから。同じ名前の紅茶でもメーカーによって味がかわってくるのよ」

「……マジ?」

「嘘いっても仕方ないでしょ。紅茶っていうのは、各メーカーごとに自社のブレンドがあるものなの。ダージリンとかは産地の名前であって、そこで摘めた茶葉をどうブレンドするかで各メーカーの個性が出てくるのよ」

「けれど、同じ産地の茶葉使っていてそんなに味が変わってくるものなの?」

「色合いの濃さとか、目に見えて違ってくるものもあるよ。味は微妙に重いか軽いかの差だけど、その先に落とし穴があるの」

「それは?」

「ミルクをいれるかどうか。同じ銘柄の紅茶でも、メーカーのブレンドによってはミルクと馴染まないものがあるのよ」

 美冬ちゃんがメーカーのことを意識せずに紅茶を淹れたのだとすると、それがどんなに完璧な淹れ方であっても、今まで馴染んでいたものとは別物になっている可能性がある。お姉さんの口に合わなくて当然なのだ。

「…………それじゃあ、あたしの淹れた紅茶は、母さんの味とは全然違うかもしれないってこと?」

「うん。いつも使っていたメーカーの茶葉と違う場合はね」

 そう言うと、美冬ちゃんはがっくりとうなだれる。

「だとするとあたしって相当なバカじゃない。そんなことも知らないのに完璧だなんて」

 ショックだったのだろう。彼女はポロポロと泣き出した。

 私はそんな美冬ちゃんをそっと抱きしめ、耳元で囁く。

「帰ろう。そして、ちゃんとお姉さんに謝ろう」

 過ちに気づく事ができたのなら、そのことを心から反省して謝るのが大事。少なくともまだ取り返しのつく問題だとは思うから。

 けれど、美冬ちゃんは首を横に振った。

「帰れないよ。…………どんな顔して姉貴の前に出ればいいのよ」

「美冬ちゃん……」

 予想しなかった反応。私は言葉に詰まる。

 その時だ。部屋の扉が軽くノックされたのは。

 そして。

「姉さん。ちょっと悪いんだけど大至急、手を貸して欲しい事があるんだけど」

 外から妹の若葉ちゃんがそう呼びかけてくる。

「あ、うん。いまいくよ」

 大至急と言われては仕方がない。私は美冬ちゃんに一言だけことわりをいれて部屋を出た。

 若葉ちゃんは廊下の少し離れた場所で手招きをしている。

「どうしたの? 何か手を貸して欲しいってことだけど」

 近づいて訊ねると、若葉ちゃんは軽く頬をかきながらこう言った。

「ごめん。あれは姉さんをこっちに来させる為の口実なの」

「口実?」

「うん。それとまず最初に謝っておくけど、姉さんたちの会話、部屋の外で立ち聞きさせてもらったわ」

「えっ」

「わたしにだって知る権利くらいはあるでしょ?」

「それはまあそうだけど、立ち聞きなんかしなくても」

 あとでちゃんと教えてあげたものを。

 でも、いまはそのことで妹を責めても仕方がない。若葉ちゃんには別に問うべき事がある。

「それよりも、どうして私をこっちに呼び出したの?」

「今は藤原さんを一人にしてあげたほうがいいと思ったからよ。彼女、まだ帰りたくないっていってるんでしょ。あんな状態の中では、

何を言っても無駄よ」

「でも…………」

 反論しようとする私を、若葉ちゃんは軽く制した。

「藤原さんは過ちに気づいたとはいえ、まだ心の整理をつけるので手一杯なのよ。もう少しだけ黙って様子見してあげるのがいいわ」

「若葉ちゃんはそれでいいの?」

「何をいまさら。第一、駄目ならこんなこと言わないわ。それに別段、藤原さんの面倒をずっとみるとまでは言ってないんだから。あくまでも“少しだけ”の間よ」

 力を貸さないと言っていた割には、しっかり私たちのことを見守ってくれていた妹。

 立ち聞きはどうかと思うけど、若葉ちゃんの優しさには感謝したい。

「あ、それと姉さん。これわたしからの意見なんだけど…………」

 妹はそう前振りをすると、私に“ある事”を提案してくれた。

「…………なるほど。それはやってみる価値はあるよね」

 それを聞いた私は、二つ返事でそれを了承する。

 若葉ちゃんの提案はかなりステキなものだったからだ。うまくいけば美冬ちゃんも自分から家に帰りたくなるかもしれない。

「喜ぶのはまだ早いわよ。余計なお世話かもしれないし、成功するとも決まった訳じゃないんだから」

「そうだね。でも、いま私たちがしてあげられることであるのも確かだよ」

「なら、行動開始ね」

「勿論っ!」

 私は元気よく頷いた。

 自分達にもできることがある以上、出来る限りでそれを頑張る。それが私たちらしさでもあるのだから。

 

 

 

 表向き、何ごともないように時間は過ぎ去った。夕方にはいつものように“宿り木”を営業し、閉店時間がくればお店を閉める。

 お昼の出来事から後、美冬ちゃんが部屋を出てくることはなかった。何度か様子見で顔は合わせたけれど、彼女はただひとりでぼんやりとしている感じだった。

 どこか空虚さを思わせる彼女の表情は、見守る私も少しだけ胸が痛んだ。声をかけるのは簡単だったかもしれないけれど、そのときの私には彼女の興味を引くだけの“切り札”がなかった。

 でも、お店の営業が終わった今、私のほうに“切り札”のひとつが届く。“切り札”なんていうと大袈裟にきこえちゃうかもしれないけれど、これは私たちが行動の末に手に入れたもの。

 そして。

 私はその“切り札”を手に、美冬ちゃんのいる部屋に入る。

「お待たせ。ようやくお店終わったよ〜」

 声をかけると、彼女もこちらに向き直って「お疲れ様」とだけ言ってくれた。

 いつもの元気な美冬ちゃんと比べれば、まだまだ何か違う。それでも反応がないよりは良いのだけど、まだ気持ちの整理がうまくついていない様子ではあった。

「そういえば、さっき持ってきてあげた夕飯はちゃんと食べてくれた?」

 私と妹はお店の営業の合間に、交代で手早く夕飯を摂ることが多いけれど、お客様の美冬ちゃんにもちゃんと夕飯は届けている。

「うん、一応は」

 美冬ちゃんは頷いて、食器を載せたお盆をこちらに返してくれる。

「全部綺麗に食べてくれたようだし、食欲はあるみたいだね」

「美味しかったからね」

「口に合って良かったわ。まあ、お料理上手の若葉ちゃんが作ってくれたものだし、美味しいのは当然なんだろうけど」

 私はクスっと微笑んでから、彼女の目の前にひとつの小鉢を差し出す。

「よかったらこれも食べてみない?」

「…………これって肉じゃがよね」

「うん。頂いたものなんだけど、なかなか美味しいのよ」

「ふうん」

 美冬ちゃんは小鉢を受け取り、肉じゃがを一口たべる。私はその様子を静かに見守った。

「………………………」

 彼女は一度だけ箸を止めるが、それからまたすぐに食べ始めた。

 そして、すべてを食べ終えてから小さく呟く。

「彩音。おせっかいすぎるよ」

 どうやら彼女は悟ってくれたらしい。この肉じゃががどういったものなのかを。

「でも、美味しかったでしょう?」

「…………うん」

「美冬ちゃんが慣れ親しんできた味だものね」

 この肉じゃがは、美冬ちゃんの家の味付け。つまりは藤村家の味ということ。

 私たちは、心配されているであろう美冬ちゃんのお姉さんに連絡をとりつけ、彼女の居場所を伝えると共に家出の事情も説明し、最後に何かひとつ家庭の味を持ってきてくれるようお願いしたのだ。

 そして用意されたのが、この肉じゃがだった。

「こんなものがここにあるってことは、姉貴はあたしを迎えにきてるってこと?」

「そうだよ。今はお店のほうで妹が相手をしてくれているわ」

「本当におせっかいすぎるよ」

 あくまで憎まれ口っぽく言われるが、そこに刺は感じられない。

「でも、どうして肉じゃがなんて用意させたの?」

「それは美冬ちゃんに、お姉さんが引き継いだお母さんの味も思い出してもらいたかったから。既にわかっていると思うけれど、あなたのお姉さんはお母さんの味を忘れるような薄情な人じゃないんだよ」

「そうよね。嫌ってほどそれはわかったわ。むしろ薄情なのはあたしの方よ……」

「それも違うわ!」

 あまりにもネガティブな考えに走る美冬ちゃんに対し、私は強い口調でそれを否定した。

「…………彩音?」

 美冬ちゃんは少し驚いたような顔で私を見る。

 無理もない。私がさっきみたいに強い口調で言い放つことなど、珍しいのだから。

「今回の紅茶の件では失敗しちゃったとはいえ、お母さんの味を大事に思う気持ちは本物でしょ? そんな風に思えるあなたが、薄情な訳ないじゃない」

 私は彼女の目をみてしっかりと言ってあげる。

 でも、最後にはふっと表情を柔らかくして………

「それにずっと家出をしていたら、この美味しい肉じゃがだってもう食べれないかもしれないよ」

 と、だけ告げた。

 すると、さっきまで硬い表情だった美冬ちゃんも、一気に毒気が抜けたような顔になる。

「…………はあ。あたしってば、子供みたいな諭され方してるわね。なんか姉貴と顔合わすより、こっちのほうが恥ずかしい気がしてきたわ」

 美冬ちゃんが苦笑しながら呟く。そして。

「あたし、姉貴と一緒に家に帰ることにするわ」

 彼女は自らの意思で、ようやくそう決意してくれた。

「うん。それがいいよ」

「彩音。迷惑かけちゃってごめんね」

「そう思って謝ってくれるのなら、これからはこんな騒ぎ起こさないでね」

「…………努力はするわ」

「なら、こちらはその努力を長い目で見守ってあげるよ」

 私は笑顔でそれだけ言ってから立ち上がる。そして、彼女にそっと手を差し出した。

「さ、行きましょ。お姉さんが下で待ってるよ」

 

 

 

 私は美冬ちゃんたち姉妹を店の外まで見送った。

 美冬ちゃんはちゃんと謝りもしたし、お姉さんの方も苦笑だけして彼女を許してくれた。これからどうなっていくかは二人の問題だけど、きっといつもどおりの生活には戻れることだろう。

 私は二人の姿がみえなくなったのを確認してから店の中に戻った。

「おかえりなさい。あの二人はちゃんと帰った?」

 お店の片づけをしながら若葉ちゃんが訊ねてくる。

「うん。仲良くお帰りになられたと思うよ」

「それはよかったわ。これで肩の荷はおりた感じね」

 カップを棚の中にしまってから、若葉ちゃんは大きく伸びをした。

「ごめんね。今回の一件では若葉ちゃんにも心配かけちゃったね」

 私もカウンターの席に腰をかけてから、軽く頭をさげる。彼女には余計な世話をかけちゃったと思うから。

 でも、そんな私に対して若葉ちゃんは…………

「こらこら。ごめんね、じゃないわよ。そこでわたしに言うべき正確な言葉は、もっと別にある筈よ」

 ウインクしながらそんなことを言ってくる。

 正確な言葉? 

 一瞬、なんだろうとは思ってしまうけれど、すぐにその答えはみつかった。

「ごめんね、じゃなくて、ありがとうってことだね」

「うふふ。そのとおりよ」

 若葉ちゃんはにっこり微笑む。

 つまりはこういうこと。私自身が特に悪い事をしたわけでもないので謝るのは筋違い。むしろ、私は若葉ちゃんには助けてもらったので“ありがとう”と感謝することの方が大事なのだ。

「正直、若葉ちゃんが私を支えてくれなかったら、今回の一件はまだ解決してなかったと思うよ。若葉ちゃんこそ、美冬ちゃんを助けた功労者だね」

「それはあくまで結果。わたしは藤原さんを助けるというよりは、姉さんの助けになりたかっただけよ」

「あは。なんだか嬉しいな」

「ま、姉さんだけに任せたままだと頼りないからね〜」

「ええ〜〜〜」

 せっかく嬉しい気持ちに浸っていたのに、いきなり落とされる。

「うふふ。半分は冗談よ」

「でも、その言い方だと半分は本当ってことじゃない」

「うん」

 若葉ちゃんは笑顔のままサラリと頷く。

「でもね、わたしは今のままの姉さんでいいと思うんだ」

「そう?」

「だって姉さんが完璧すぎたら、わたしは姉さんを支えてあげられないじゃない。それって少し寂しい気がするんだよね」

「でも、支えてばかりでは若葉ちゃんも苦労しない?」

「あまりにも頼りなかったら困るけど、姉さんくらいのバランスなら丁度いいのよ。そういう姉さんだからこそ、わたしもかえって甘えやすいのもあるし。要はどっちかが一方的に助けてもらうんじゃなくて、互いに支えあえる強さも弱さもあるほうがいいんだよね」

 若葉ちゃんはそこまで言ってから、「ちょっと恥ずかしい事いいすぎたかな?」なんて苦笑する。

「全然恥ずかしい事ないよ。私も若葉ちゃんの考えに同感だよ」

 あえて加えるならば、自分の見せる弱さも、裏をかえせば強さに繋がるようにはしたい。

 弱い自分をみせるというのも、勇気がいるし、そこには強さも必要だから。

「一人じゃ無理なことでも、二人ならできるかもしれない。そして、二人でできたら一緒になって喜び合える。理想論かもしれないけれど、わたしは姉さんとそんな関係をずっと築いていけたらなって思う」

 目を閉じて、静かにそう語る若葉ちゃん。

 私たちは生まれる前から一緒の双子だから、普通の人たちよりこういう考えが強いのかもしれない。

「一人じゃ無理なことでも、二人ならできる…………それって、いまの私たちのお店と一緒ね」

 この店、“宿り木”も私たち姉妹が支えあって成り立っている。

「本当そうよね」

 私たちは顔を見合わせて笑いあった。

「ねえ、若葉ちゃん」

 カウンターに頬杖をつきながら妹の顔をみつめる。

「うん?」

「私もあなたと同じ気持ちだから、これからも一緒に頑張ろうね」

「ありがとう、姉さん」

 

 本当は先のことなんてわからないけれど、今この瞬間の気持ちは大事にしたいと思った。

 大切な思いを語り合える相手がいる。それは何よりの支えになる。

 

 

 

〈了〉