夢のような。

「進路の紙、まだ提出してないんだって?」

「うん。」

「お前だけだってよ。先生嘆いてた。」

「知ってる。」

「なんか適当に書いときゃいいんだよ。」

「剛はどうすんの?」

「俺?俺は・・・サッカー強いとこ。」

「いいね、夢があって。」

「お前・・・ないのかよ?」

「あるよ。」

「じゃぁそれ書けば・・・」

「お嫁さん。」

「・・・。」

「剛の・・・嫁。」

「・・・それは・・・書けねぇな。」

「うん。さすがのおおらかなあの先生でも、きっとぶち切れるよ。」

「ったりめーだ。」

「剛と結婚して、一緒に店をやるんだ。」

「へー。」

「なにがいいかなぁ?」

「スポーツ用品売ってるとこがいい。あ、サッカー専門店でもいいぜ。」

「もー、それしか興味ないんだから。」

「店やる自体興味なんてねぇよ、俺。」

「私も。」

「なっ、」

「適当に書けばいいって言ったでしょ?」

「なんだよ。」

「なんて書こうか。」

・・・永久就職って書いとけ。

ばーか。

 

 

「剛。」

「なに?」

「大丈夫?」

「お前に言われたくないよ。病み上がりなんだろ?」

「そうだけどさ。」

「おれ・・・なんか変か?」

「ううん、そうじゃないけど、泣いてる。」

「え?」

なんか・・・目が・・・泣いてるよ。

「んなことないよ。」

「寂しい?」

いいや。

「つらい?」

そんなことない。

「じゃぁどうして泣きそうな目してんの?」

そんな目してねーよ。

「・・・そっか。」

・・・。

・・・。

「なぁ健。」

「なに?」

一番大事なヤツ失った気持ちってさ、どんなだと思う?

「えっ?」

また・・・置いてかれちまったよ。

「誰に?」

わかんねー。

「やっぱ今日の剛、変だ。」

そうかも。
 

 

「ねぇ剛、逆立ちできる?」

「イキナリなんだよ。」

「できる?」

「できるわけねーだろ。」

「私できるよ。」

「できてなんの得があるんだよ。」

「剛に勝てる。これは大きいぞ。」

「・・・。」

「ほれ、いくよ。」

「・・・。」

「すごいでしょ。」

「一週間待ってろ。俺は絶対できるようになる。」

「いーや、できないね。剛にできてたまるか。」

にゃろー・・・。

 

 

「剛くん、食べへんの?」

「食うか?」

「いや、ええけど。」

「そっか。」

「そんな細い体して、ちゃんと食わな死んでまうがな。」

・・・死んでまう・・・か。

「そうや。もともと華奢やねんから、ちゃんと食って肉つけてくれや。たまにぞっとするわ。」

死んで・・・しま・・う。

「ごーくーん?聞いてるー?」

「ああ。」

「大丈夫かいな。健くんも心配しとったで。」

「なぁ岡田。」

「なんや?」

死んじまうって・・・どんな気持ちだろうな?

「剛・・・くん?」

いや・・・なんでもない。

 

 

「飛んでみたくない?」

「空か?」

「うん、鳥になってみたくない?」

「そりゃ、なれるもんならなりたいさ。」

「でも、大変なんだろうな。」

「まーな。」

「ただ、飛んでるだけだったら、どれだけ楽だろう?」

「お前さ・・・。」

私が死んだら・・・どうするよ?

「・・・そんな言葉、簡単に使うんじゃねーよ。」

どうする?

・・・。

・・・。

どうもしねーよ。

どうかなってよ。

なんだそりゃ?

ほったらかしはやだからね。

ほっとくことなんてできねーよ。

そう・・か?

そうだよ、未来の俺の嫁。

ふふ。

あれ、進路変えちゃったの?

まんまだよ。未来の旦那。

 

 

「ねぇ剛、なんか食べに行く?」

「え?」

「おいしいラーメン屋さんできたんだよねー。」

「あんたほんっとラーメン好きだよな。」

「剛はキライ?」

「好きだけど。」

「ならいいじゃん。行かない?」

「いつ?」

「今から。」

「・・・おい。」

「いいじゃん、だってもう終わりだしさー。」

今日・・・もう終わりなんだ。

「どうする?行く?行かない?」

「・・・元気だよ。」

ふぅー。

んだよ?

「心配してたからさ。健も、岡田も。」

わかってるよ。

「みんな心配なんだよ。なんかやらかすんじゃないかって。」

「俺ってそんな信用ないわけ?」

「そうじゃないよ。でも、無茶すること、好きでしょ?」

・・・。

「図星。」

「限度くらい、わかってるよ。」

「ならいいけどね。」

 

 

「剛は・・・ちゃんと生きてね。」

「何言ってんだよ?」

「死なないでね。」

「・・・お前・・・変だぞ?今日。」

「普通だよ。」

「言ってることが、おかしい。」

「どうして?」

・・・どうしてって。

「なんで?」

どっか・・・行っちゃうんじゃないかって。

行かないよ。どこにも行かないよ・・・。

ただ・・・不安で。

行くわけないよ。

信じていいか?

・・・。

答えろよ。

たぶんね。

たぶんってなんだよ。

知らない。

 

 

「おーい弟。」

「誰があんたの弟なんだよ。」

「お前だよおーまーえ。」

「全然似てねーじゃねぇかよ。」

「そうか?目なんてほら、そっくり。」

「無理して二重になんてすんなよ。」

「・・・今日やっと笑ったな。」

「・・・なに?何の用?」

「つれないなぁ、剛は。」

「・・・なんなんだよ?」

「用がないと話しかけちゃダメなのか?」

「・・・いいけど。」

「なに悩んでんだ?」

「別に。」

「あー、悩み持ちか。」

「悪いか?」

「別に。」

「対したことじゃねーよ。」

「だったら、笑え。」

「笑えって言われて笑えるもんじゃねー。」

「笑わないな、最近。」

「そんなことないよ。笑ってるよ。」

「うわべだけで笑ってねーか?」

「そんなことないって。」

「俺の思い過ごし。っか。」

そうだよ。

そーか。

ちゃんと笑ってるよ。

だな。

笑い方忘れるほど・・・ばかじゃないよ。

 

 

「ゆめ・・・見てた。」

「どんな?」

「お前が消える夢。」

「・・・勝手に消さないでくれる?」

「じゃぁ・・・いなくならないでくれる?」

「最近の剛、そんなことばっか言ってる。」

「どうしたらいいんだよ?」



どうしたら、この胸騒ぎおさまる?

知らないわよ。

なんで俺が女のことでこんなに悩まなくちゃいけないんだ?

なんで俺、お前のためにこんなに悩んでんの?

ばかみてーじゃん。

そんなこと・・・知らないわよ。私のせい?

・・・ああ。

んなことさー、言われたって、どうすればいいわけよ?

わかんねーよ。

わからないんだったら言わないでよ。

抱きしめても・・・抱きしめても・・・どんだけ強く抱きしめても・・・どんだけ近くにお前いたって・・・満たされないんだ。

なにそれ?私じゃ不満なわけ?

そうじゃないっ。

じゃぁなに?

怖い。

え?

すっげーこわい。不安なんだ。どうすればいい?

ちゃんとそばにいるよ。

・・・ああ。

ずっとそばにいるよ。

・・・ああ。

どこにいたって、ずっと剛と一緒にいる。約束するよ。

・・・あったけーな、お前。

 



「いつまでそこにいんだ?」

「・・さぁ。」

「・・・なに泣いてんだよ?おい。」

「知らねー。」

「しっかりしろよー、剛。」

・・・ああ。

「ったく。」

「坂本くん。」

「なに?」

・・・なんでもない。

「なんだよ?気になるじゃねーか。」

「なんでもねぇよ。」

・・・。

・・・っ・・・

「いい加減泣き止んでくんない?俺が泣かしたって思われんじゃん。」

・・・

「どうした?」

 

 

ばいばい。

おいっっ

剛は・・・ちゃんと生きてね。

何言ってんだよ?おいっ。

私追っかけて・・死ぬなんてこと・・・しないでね。

な・・なに弱気なこと言ってんだよ?

夢だったのにな。

なにが?

私の名字が森田になること。

現実になるよ。もうすぐじゃねーか。

一緒にお店やんの。そうだな、サッカーの専門店か。別にいいかもしれないね。

やろうよ。やろうぜ?二人でやろうぜ?

子供とかできちゃったりしちゃったらさ、休みの日に3人でボール蹴ってさ。

ああ、毎週でもできるよ。

犬とかも飼っちゃおうか。そしたらボールにじゃれついてさ、蹴ったりするどころじゃなくなるんだ。

そうだな、それもいいかもな。4人で1つのボール取り合ったりな。

夢だったな。

何言ってんだよ?全部やろうよ。できるよ。

もう無理だよ。

そんなことないって。しっかりしろよ?

いい人見つけなよ。

何言ってんだよ?

進路・・・変えちゃうわ。

え・・・?

だから、また1からやり直す。先生の指導受けるよ。

いいじゃねーか?変えんなよ?なんでだよ?

剛が・・・幸せになれないから。

俺は、幸せだよ?お前がいて、子供がいてペットがいて。最高じゃねーか。

「ほんとの幸せ・・・見つけてね。」

・・・。

 

 

「剛?」

「おれ・・・。」

「・・・。」

まだ言ってなかったのに。

・・・。

ちゃんと・・・好きだって・・・言ってないのに。

・・・。

どうしたらよかったんだ?

悔しいか?

ああ。

好きか?

ああ。

本当に好きか?

・・・ああ。

じゃぁ、本当の幸せ、ちゃんと見つけろよ。

・・・俺にとっての幸せはアイツだったんだ。

でも、彼女は報われないよ。彼女の幸せも考えてやれよ。

どうして?

好きだったんだろ?

今でも。

だったら、彼女の一番喜ぶこと、考えろよ。

俺が・・・幸せになること。

ああ。

幸せってなんだ?

知るか。それはお前が見つけるんだろ?

 

 


・・・ああ。

そっか。

おれが・・・

おれが・・・見つけるんだよな。

本当の幸せってやつをさ。

おれが、あいつの分まで、幸せになるんだよな。


おつかれさまでした。