ヤツを狙え。

・・寝た・・かな?

ベッドの上でうつぶせになってる彼を確認。

寝息なんかたてちゃって・・寝てる・・よね?

よし。

絶対起きませんように。

両手を合わせてそっと願った。

では。

そう思いながら彼の首筋にゆっくりと手を伸ばした。

するとさっきまで止まっていた手が反応して腕をつかまれる。

「残念でした。」

枕で曇ったそんな声が聞こえた。

「・・バレてた?」

「バレバレ。」

「ちっ。」

なんか・・むかつく。

 

 

「だーかーらー、うなじ見せてって。」

うつ伏せだった彼が仰向けになって私の話を聞いている。

でもしっかり腕はつかんだまんま。

「なんでそんなもんみたいわけ?」

「えー・・ビデオ見てたらなんか見たくなったの。」

「それだけ?」

「・・・それだけ。」

彼が来るまで今までのビデオの整理をしているとカミセンが映ったビデオ。

それが目の前に現れた。

たまには・・なんて思ってみてみたらどっぷりはまってしまったわけで。

「ねー剛くーんっ。」

「なんなんだよっ。」

「岡田くんには見せたのにさー。」

「あれはファンの子に・・だよ。」

「私も森田剛のファンなんだけど。」

「・・・ファン・・ねぇ。」

「だから見たい。」

「見て楽しいか?」

「・・・さぁ。」

「じゃだめ。」

「楽しい。ものすごく楽しいです。」

「・・・変なヤツ。」

「なんとでも言って。言うだけ言ったら後で見せてもらうからさ。」

「・・・・・・なんでそんなに見たいわけ?」

そう言われると困るんだけどなー・・・。

「だってさー・・はまっちゃったからさ。」

「ビデオに?」

「森田剛に。」

・・・。

あれ・・しくった?

「あーっ、顔赤いっ。かわいいかわいい。」

どうしよう。剛くんが耳まで真っ赤とかなかなか見れないよー。

「かわいいとか言うなよ。」

拍子に腕を思いっきり引っ張られて彼の隣に横になる。

うぁ・・剛くんがちょーどあっぷ。

「あー・・赤くなってる。かわいいかわいい。」

そう言いながら頭をくしゃくしゃにしやがる。

こんのおー。

そう思いながら手を後ろ髪に伸ばしたんだけど・・・

「そんなのお見通し。の考えてることくらいすぐわかるよ。単純だもんなお前。」

・・腹正しさ極まりないんだけど。

「なんでそんなに見せてくれないの?いいでしょ、減るもんでもないし。」

そう言うと彼の動きが止まった。

そして、少し考えたように視線を宙に浮かせた後、まじめな顔して聞いてきた。

「あのさ、人間ってさ、不意に見られんのはどうでもいいの。わかる?」

「わかる。」

「でもね、見せてくれって言われたら見せれなくなるの。わかる?」

「わかんない。」

「あまのじゃくなの。」

「さらにわからん。」

・・いや・・わかってるんだけどさ。

と思ってたらまたもバレバレ?

「お前・・こりないやつだなぁ。」

でも、1度決めたら引かないのはお互い様。負けられない。

「ねー剛くん。知ってる?人間ってねー、1度みたいと思ったら見ずにはいられないわけ。わかる?」

「・・わっかんねーなぁ。」

「んでね、拒まれると絶対見てやるって気持ちが強くなるの。」

「・・・あー・・わかるわ。」

「・・なんでわかるんだよ。」

「わかるわかる。すごーくよくわかる。お前が拒むと俺は押し倒したくなる。」

・・・。

待って。

一瞬空気が止まったんですけど。

えっと・・・。

いやだからその・・・アナタ様の眼が・・めちゃくちゃ・・怖いのよ。

。」

「うなじが見たい。」

「ほらそうやってまたムード壊すー・・・。」

なんのムードだ、なんの。

「見たいったら見たいのー。わかるって言ったでしょ?なら見せてよ。」

「あーもー、わかったわかった。」

そう言うと私に背中を向けた。

どうやら好きにしろって合図らしい。

ずっと茶髪だったり金髪だったりした彼は、

いつの間にか黒く染まっていた。

何の心境の変化?

って聞いたら、「さぁな。」って曖昧だったけど、

きっとそれだけ舞台にかけていた証拠。

そっと首筋に触れると「くすぐってぇ」って少し身をよじった姿が、とにかく好きだった。

あーなんか。

なんか・・岡田くんが「剛くんのうなじはかわいい。」っていうの。

わかる気がする。

でもそれよりも私は、この後ろ姿がたまらなく好きで。

「もーいい?」

笑いながら聞いてくる彼だけど、なんかもの足りなくて。

「まだー。」

なんて答えてみた。

「もう当分見せないからしっかり見とけよ。」

なんてうひゃひゃと笑ってる。

その笑い方は全然変わってないねと、こっちも笑ってしまった。

ねー剛くん。

春はまだ来ないね。

なかなかあったかくならないけれど、あなたがいれば私は暖かい気持ちになれるんだよ。

この背中がたまらなくいとしくて。

ずっと側に・・ずっと横にいたら幸せだろうななんて考えて抱き枕にしてみた。

「・・どした?」

「んー?」

なんか・・日差しが気持ちよくって。

彼の体温を感じられることがとても幸せで。

ここだけ春の気分。

「なんかねー・・すっごい気持ちいーの。」

「そぉ?」

ねぇ剛くん。

空がきれいだね。

「今日って出かけるのー?」

「行かねーの?買い物行きたいっていってただろ?」

「別にいいや。なんか・・このままでもありかなーなんて。」

「なに?俺、そんな疲れてるって顔してた?」

「うん、ちょっと。」

「なんだ・・結構元気なフリしてたんだけど。」

ねぇ剛くん。

このまま2人で昼寝でもしようか。

「この体制で眠るのしんどい?」

「いーや。でもどうせなら逆がいいな。」

「だーめ。」

「なんで?」

「剛くん見て寝たら緊張するから寝れない。」

「なんだよそれ。」

「昼寝でもしませんか?」

「いいよ。」

安らぐ時間は2人で。

小さな春が来た気がした。