WITHOUT YOU

 

「昌行なんてだいっきらいっっ!!」

彼女にそう言われてからもう4週間と少し・・・か。

 

 
以前から2人とも仕事とかで忙しくて、

そう会ったりするもんでもなくて、

家に帰ると夜中が当たり前。

電話もできない。

もう少ししたら、俺の好きな舞台が始まる。

何もかも忘れて没頭してしまうような舞台。

俺はあいつと仕事、どちらも選べない。

選べって言われてもどっちも大切すぎてそんなの無理だ。

こんな質問なんて、ホントはされたくもない。

けど・・・悔やむよ。

不器用だった俺を。

いっそ恨んでしまいたい。

だけど、恨んでも恨みきれなくて、

悔やんでも悔やみきれなくて・・・。

こんなに君を愛しいと思ったことはないくらい。

失って初めて気がついた。

本当に愛してた・・・と。

愛してるなんて、今の俺には言えない言葉。

けど、それくらいに好きだった。
 

 
 

今の俺の生活は君のいない生活であって、

別に今までと変わるところはなにもない生活。

だって普段からそんなに会ってなかったもんな。

ただ、仕事から帰るとすぐに眠ってやる。

やりたいことだって底尽きないはず。

君の笑顔が俺の目の前に現れないうちに眠ってやる。

オフの日は、会うはずだった君との約束はもうなくなって、

友達と飲みに行ったり気ままに過ごしてる。

気がつくと俺は少し変わってた。

君が帰ってきたら誰かわからないくらい性格が変わってしまった。

君の知らない自分がいた。

言えば、肩の荷がなくなった。

なくなってしまって・・・楽になりすぎた。

 
 

 
だってそうだろう?

忘れたくても忘れられなくて。

いつも気がつくと君のことを想っていて。

それは、留守番電話の君の声を探す俺と、

忘れられない指先が覚えてしまった君の電話番号。

捨て切れない君の写真と、2人の写真。
 

 

朝、目が覚めるとこれは全部夢だったんじゃないか?

そう思いたい。

夢であって欲しいと願った。

けど、そんなわけにはいかなくて、

『だいっきらいっ!』

といわれたことも。

そんな君に俺は黙って手を振ってしまったことも、

変えることのできない、真実。

いっそ出会った頃から全部なかったことであってくれたら、

どれだけ楽だろうか。

だけど、忘れたくなくて、

君が居なかったら今の自分もいないから。
 

 

そんな夢から覚めたかもような顔をして俺は仕事にむかう。

毎日そんな日が続く・・・はずだった。

だけど、彼女が死んだ。

これは夢?現実?

終わったことと割り切ってしまえばいいじゃないか。

無理だよ。

あれだけ好きだったのに。

こんなことになるなんて思ってもなかったよ。

やりきれなかった自分と、素直になれなかった俺の気持ち。

残ったのは、そんなものばかり。

きっといつかまたどこかで帰って来てくれるんじゃないか?

もう1度大好きな君の笑顔を見れるんじゃないか?

そう思ってた。

舞台だって本当は知ってる。

チケットを買ってくれてたこと。

カレンダーに真っ赤なまるいしるしをつけてくれてたことも。
 

 

おかしなことに涙がでなかった。

寂しいのに、寂しすぎるはずなのに。

ああ、そうか。

寂しすぎたんだ。

だから涙が出ないんだ。

初めてこんなことを知った。

けど遅かったね。

気付くのが遅すぎた。

夢で見た俺と彼女の結婚式。

残された君への指輪。

もう2度とこんな恋はできないだろう。

俺のなかでの君は大きすぎたから。
 

 

燃やしてしまった君とのすべて。

これは夢。

まやかしで幻。

そんなふうに簡単に忘れてしまえばいいさ。
 

 

俺は広く晴れた青空、君の好きな天気を見つめながら歩き出す。

忘れてしまうなんて、今の俺にはできるわけがないだろう。

けどいつか・・・。