「ほんっとになんもないの?」 「ほんっとになにもないの。」 そう答える私に、剛くんはあからさまに嫌そうな顔をした。 先ほどから何度しているだろう会話はずっと繰り返されている。 「さんさー。」 嫌気がさすとすぐに私の名前にさん付けする。 鈍感な私がやっと気づいた癖は、2人の距離をまた短くした気がした。 「なんですか?森田さん?」 いやみのように言ってやる。 そういうと彼は決まってこういう。 「もういいよ。」 と。 どうせまた30秒もたたないうちにまた聞いてくるんだよ? そう思って立ちあがろうとしたら、 「あのさー。」 ほらきた。 「めったに俺がこんなこと言わないのよ?わかってる?」 ええ、ええわかってますとも。 さすがに1年のお付き合いとはいえ、気づかない私ではありませんさ。 今日は1年記念日。 記念日とか面倒で覚えない私達も、手帳に丸しちゃったからねー。 しかも赤色。 嫌でも目に付くってやつだ。 そんなわけで、学校帰りにちょっとデパートにお買い物。 彼のお好きなものなんてわかるわけないんだけれども。 ちょっくら探らせていただきまして。 剛くんと仲よろしげな健くんにお話を伺いましたさ。 「だーかーらー。ほしいものなんてなーんもないの。」 覚えてたわけではあったけど、お仕事お仕事な森田さんには、早々暇なんてないのさ。 んで、こういうことになっちゃってるわけ。 「なんでないの?」 あー、慌ててる。 声裏返っちゃってるよ、森田さん。 「だってないんだもん。」 「普通さぁ、女だったらあるっしょ?ほら・・あのー・・なんとかのカバンとか。時計とか。」 「最近物欲ないのよ。」 「なんでないんだっ。」 「じゃぁなんでもいいよ。剛くんが、私が喜びそうだなって思うもんがほしい。」 そういうとしっかり彼はだまってしまった。 そのうちに、さっきから飲みたかったコーラをいただきに冷蔵庫へ行こうとしたら腕を引っ張られてまた逆戻り。 ・・・あのさー・・・。 のどが乾いたんですけど。 「ー・・・。」 ・・・だからさー・・・。 「わかんねー。」 プレゼントなんてねー、いらないのよ。 アナタがここにいればそれでいいんですっ。 「・・コーラがほしい。」 「そんなんでいいの?」 「そんなんでいいから冷蔵庫から2つ。取ってきてよ。ドアポケットに2つ入ってるからさ。」 「おし。待ってろよ。」 どこの勇敢な紳士さんなんだアンタは。 あーあ、こんな簡単なんだったら最初からそう言っておきゃよかったよ。 「ほい。」 しかも・・・はやっ。 「ありがと。」 「じゃなくてさー・・・。」 といいつつも、しっかり私の横に座ってコーラを飲み干すアナタ。 「あれ・・もう叶ったんだけど。」 どうやらまだまだ納得はしない様子。 「いや・・そうじゃなくって・・もっとないわけ?こう残りそうなもんとか。」 「指輪とか?」 「指輪ほしい?」 「・・・別にいらない。」 「ウソでもほしいって言えよお前。」 「だって・・この前かわいらしげなん買っちゃったし。」 「ほんっとウソつけねー性格してるよな。別にいいけど。」 「その方がいいでしょ?」 言った後の彼の反応が楽しくて仕方ない。 ちょっと照れて「まぁな。」って答える瞬間。 こういう瞬間が一番好きなんですけど・・私。 「あ・・いっこだけあった。」 「なになになになに??」 「剛くんの手料理食べたいっ。」 なんて勢いよく言ったもんだから、剛くんコーラ噴き出すしな。 「きったなー・・・。」 「お前が変なこと言うからだろ?雑巾は?」 「あっち。」 指差すほうに彼はとっとと走っていく。 あーあー・・散らかしちゃって。 「ちべてぇーっ。」 そんな声に思わず笑ってしまう。 いいな。 こういうの。 なんか・・バカバカしいっつったらそれで終わりなんだけど。 いっつも忙しいからさ、森田さんは。 わかってるんだけどねー。 ちょっくら寂しいのよね。 今一番ほしいものは、アナタと一緒にいる時間がほしいよ。 そんなこと言ったら・・悪いからね。 たまにはワガママくらい言ってみろとか言ってくるけどさぁ。 無理だよ。 モリタゴウだからさ。 ・・・はっ。 「ちょっっちょっと剛くんっっシャツ着てよシャツっ。」 「ああ?」 何考えてんのあのバカ。 「仕方ねーだろ?びしょびしょなっちまったんだよ。」 「ゆうほど濡れてへんかったやんっ。」 「コーラってべたべたすんじゃん。」 そ・・そうか・・・。 「タオル借りるよ。」 「あ・・うん。」 それだけ返すと、彼はせっせと手際よくタオルを濡らしてる。 普通に返されると焦ってるうちがバカみたいやん。 すっげー・・腹筋割れてる・・・・。 ・・違うだろ。 何処見てるんだ自分っ。 えっと・・なんだ・・そうだ。 脱ぐなら家にしろ。 はっ。ここも家だ。 ちがーうっ。 自分家だけにしろーっ。 「なんか着てよーっ。」 「テレビで見なれてるからいいだろ。」 ダメです。 なに淡々と答えてるんだ。 そういいつつ思いっきり近くにあったタンスからでっかいバスタオルを出して投げつけた。 「いってー・・・。」 「ばかもの。」 「あ・・お前俺の姿みてドキドキしてんだろ?」 投げつけたバスタオルを渋々羽織る。 ・・渋々って・・そう見える私ってなに? 「なっ・・なに言って・・・」 「なーんだ。最初から言えばいいのに。」 ちょっと待ってもらえます? 「・・・森田さん・・・。近づかないでいただける?」 「やだ。」 「クッション投げるよ?」 手元にないけど。 「・・俺のこときらい?」 「・・それ反則。」 「じゃいいじゃん。」 こ・・こわいわ、こわいわこわいわよ、このお方。 「あ・・ほしいもん見つかった。」 「・・後で聞く。」 ・・っておい。 思わず後ろのソファに助けを求めたわよ。 「よ。」 そう言って彼は私の目の前に座った。 「ちゅーしていい?」 「・・・あのさー・・・」 話そうとしたのにしっかりふさがれてるし。 ねー・・森田さん・・・。 「なんか・・ちょー久々。」 なんて言いながら自分の唇をいじってやがる。 「ほしいもの、言っていい?」 「ああ。」 「あんねー、ほっぺた引っ張っていい?」 「・・なんだそりゃ。」 「なんかねー、夢なの。」 「ほしいって・・俺のほっぺたほしいの?」 「なにをゆってんだか。」 「いや・・ほしいっつーから。」 「いいじゃん、願望だから。」 「くだらねーなぁ。」なんて言う頬にそっと手を伸ばす。 皮しかねーぞ・・この人。 「えへへ。」 なんか・・たのしー。 「そんなに楽しい?」 「うん。」 「変なやつ。」 「だって、めちゃくちゃ今近いもん。」 「あっそ。ねー・・もういい?」 「んー?」 「オレもっかいしたいんだけど。」 そう言って私の右手を自分の口に当てた。 うぁー・・今めちゃめちゃ顔赤いんだろーなー、私。 だってなんか・・剛くんの笑い方が・・いや・・ニヤけ方がそんな感じ。 「りょーかい。」 ・・なんだかなー・・・。 |