この人はきっと気づいてないんだろうな?

もう晩御飯はできたんだぞ。

そんなことを思いながら台本片手の彼を見つめた。

「ねぇ。」

「なに?・・おおっ。」

ほら・・やっぱり気づいてない。

「すっげー・・うっまそ。いつの間に。」

それって失言ですよ、そこのお兄さん。

さっきからずっと作ってたんですけど。

「覚えた?」

「うーん・・そこそこ。」

健くんは最近ご多忙さん。

別に・・今始まったことでもないけど。

ドラマ始まるといつもそう。

だって真面目さんなんだから。

・・そこが好きなんだけどさ。

「食べる?」

「食べる。」

でも、ご飯の時はちゃんと一緒の話しながら食べてくれる。

こう言う時に台本片手に食べられたら寂しいもん。

「おいしい?」

「うんっ。」

どんだけ辛くても、この笑顔のためならがんばれるんだよね。

「健くん。」

「何?」

「油とね、牛乳もうすぐ無くなっちゃうんだけど。」

「あ、マジで?じゃぁ今後買い足しとかなきゃ。」

「明日も来ようか?」

「いいのっ?」

「不規則なんでしょ?生活が。」

「いやー、ドラマん時はロケ弁とか出るけどさ、それ以外って時間が中途半端なわけ。」

「何食べたい?作って待ってるから。」

「でもさ、
の家とか心配しないの?」

「大丈夫。なんのための夏休みだと思ってんのよ?」

「勉強するためだろ。」

「・・待ってる間やってるからいいの。」

「ホントかよ。」

「ホントですー。」

「なんかウソくさいなー。よし、明日からブルーとJを監視につけてやるように。」

「面倒みてくれの間違いじゃないの?」

「あれ・・バレてた?」

「バレバレです。」

こんな時間・・最近ないよね。

寂しくないなんて言ったらうそになるし、実際寂しいんだよ。

でもさ、お仕事の邪魔しちゃ悪いから。

私はまだ学生だし、バイトだってやってないから仕事の大事さとかってそこまでよくわかんないけど。

わかんないけど、健くん見てたらわかるし。

わかるからこそ・・そういうのってワガママになるかなーって思っちゃうと言えないし。

うーん・・難しいな。

「ねー
。」

「なに?」

「ごめんね。」

「・・なんで?」

「あ・・いや・・俺ってめちゃめちゃ不器用だからさ。」

「どしたの急に。」

「いや・・一緒にいたって全然話せないし。ずっと台本覚えてるし。申し訳ないなと思って。」

「そんなことないよ?」

「でもさ、寂しい・・でしょ?ってゆうか寂しくなかったらちょっと俺が辛いんだけど。」

なんてヘヘって笑うのは照れ隠し。

「寂しいけど。でも、健くんはお仕事がんばってるの見てたら、私も元気出るから。」

「そう?」

「一緒にいるのもなんか気が散って邪魔だから出てってくれ。って言われるより全然いい。」

「言わないよ、そんなこと。俺、
がいるから安心して任せられるの。」

・・え?

「ブルーとJだって、もっとかまってあげたいけど、それやっちゃドラマうまくいかないし。でも・・」

で・・も?

「でも、
がいてくれたらなんか・・2匹ともなついてるから心配ないし。」

そう言いながら彼は近寄ってきた2匹の頭をなでなでしている。

「俺だって・・
がいなかったら食生活めちゃくちゃかもしれないし。」

健くんが・・なんかいつもと違う。

「だから・・感謝してるんだってこと。言っとかなきゃかな・・って思ったから。」

ホントに・・優しいんだから・・。

「そんなこと・・気にしてないのに・・・。」

突然の優しい言葉に涙が出た。

この人好きになってよかったなって、改めて実感する。

「な・・なくなよー。俺変なこと言っちゃった?」

違う。

違うって伝えたくて、でも言葉が出なくて必死で首を横に振った。

「俺・・
に泣かれるのって・・苦手で・・どうしていいかわかんなくて・・・」

「あのね。」

健くんが言ってくれたから。

聞き逃げなんてズルイよね。

「今だけでもいいよ?頼ってね。がんばるから。」

こうやって笑ってる時間が一番好き。

この時間があるならば、寂しくなんかならない。

だから・・ずっと側にいてね。