「結構へこむよなー。」
は自分の彼の出ている雑誌を見つめながらぼやいた。
BGMは彼のラジオ。
そして、彼のコメントを聞いて、もう1度ぼやいた。
「だからへこむねんって。」
聴いていたはずのラジオの電源をオフににする。
これ以上聞きたくない合図だった。
読んでいた雑誌も閉じてしまった。
けど、しばらく考えてからもう1度ラジオをつける。
声が聴きたいんだ。
こんなコメントを聞きたいわけじゃない。
そう言い聞かせた。
そして、最後の音が流れる。
「これってさー・・いじめかな。」
その言葉と共に電源を切った。
そして、見ていた雑誌の横にある本を持って台所に向かった。
『簡単料理レシピ100』
そんなタイトルだった。
「んー・・・。」
昌行さんって料理うまかったよなー・・・。
「えー・・なんで?」
なんでできんの?
おかしいんちゃうん?
鍋の中身を混ぜながら思った。
ちゃんとおかんのん見とったはずやねんけどなぁ・・おっかしいなぁ。
なんか・・怪しい。
大丈夫かな・・・これ。
料理って・・難しすぎるわ。
なんなん?
めっさムカツク。
きぃーっ。
できへん。
なんか泣きそうになった。
「味見なんかしたくないなぁ。」
でもこれ。まんま剛くんに食わしたらたぶん死んでまうよな。
・・うまくいって食中毒。
うー・・・アイドル1人殺す気にはさすがになれへんし。
・・って、これって自殺行為やん。
それもいややなぁ。
でもなー。
横目で時計を見てみる。
もうすぐ彼が到着する時間だ。
「ん。」
スプーンに1口分すくって口に入れる。
・・・。
「・・・。」
・・・。
なんやろ・・これ。
初めての味。
・・あ・・あまっ・・・。
えーなんでぇ?
あ・・・チョコレート入れすぎた・・・。
ピーンポーンっ。
・・・マジっすか?
「・・・はい。」
「オレオレ。開けてくれる?」
明るい彼の声にため息が出た。
「どうぞ。」
「ただいま。」
「おかえり。」
「・・なに?来ちゃまずかった?」
「なんで?」
「歓迎されてなくねー?」
「そんなことないもん。」
そう言って先に中に入っていった。
「。」
「何?」
「背中に哀愁漂ってんだけど。」
「そんなことない。」
あ・・怒ったかな・・。
また態度出ちゃったかな。
どうしよ。
「・・カレーの匂いする。」
げっ・・やっべー・・。
「・・そんなさー、思いっきりびびらなくてもいいじゃん。」
「あ・・のね・・剛くん。」
「はいはい。またやっちゃったってか?」
「・・・そんなさー。思いっきり言うことないやんか。」
「そんなさー、思いっきり失敗なんてしてねーだろ?」
「・・ホンマにそう思う?」
「うっそ・・マジ?」
「料理きらーいっ。」
「わかったわかった。」
そう言って彼は鍋に近づいていく。
もーいややわぁっ。
「小皿って使っていいの?」
「それさっきうちが使ったやつ。」
「・・じゃいいな。」
味見のための道具らしい。
「し・・しらんで、食中毒とかなっても。うち責任とらへんからな。食べたん・・剛くんやねんから・・・」
もう死んじゃいたいくらい辛いわ。
でもそんなんゆうたら「死ぬなんて言葉、簡単に使うんじゃねー。」っつって怒られんねんで。
わかってるわ、そんなことくらい。
わかってるけど。
「んー・・・。」
そんなん言われてもこっちはドキドキしてんのっ。
「うっ・・・」
「ちょっ・・ちょっと剛くん??しっかりしてやぁっ。剛くん?」
「おれ・・もうだめかも。」
「えーっ、マジで?ちょっとまってや、いややで、剛くん?ごーくんっっ??」
「うひょひょ、涙目なってやがんの。」
「・・・さいてー。」
寿命も縮まるっちゅーねん。
あほぉっ。
「すねんなって。大体オマエ味見したんだろ?オマエが倒れなくてオレが倒れるなんてバカなことあるかよ。」
「・・あー・・そっか。」
「うひゃひゃ、オマエってちょーバカ。」
「うるさいわアホぉっ。」
言ったとたんに涙が出た。
悔しかった。
「はいはい、ごめんなごめん。」
泣いたらすぐに彼はうちを抱きしめてくれる。
「ホンマにそう思ってんの?」
「思ってる思ってる。」
「ウソつき。」
「・・なんでだよ。」
「そんなさ・・あからさまにラジオとかで「料理はできた方がいい」なんて・・言わんといてや。」
「だって事実だもん。」
・・・この人、うちのこといぢめてんちゃうん。
なんか腹立つわー。
・・でも・・好きになってしもたから。
「いいよ別に。」
「・・なにそれ。適当なこと言ってファンの子困らせようってこと?」
「違うよ。」
「なんでやねん、そうやんか。」
「違うの。オマエはこれから勉強すればいいの。結婚するまでに間に合えばいいんだから。」
「・・え?」
「・・聞こえた?もう絶対言わねーかんな。」
・・・聞こえたよ。
ちゃんと聞こえたから。
「さてと。これからどうするかが問題だな。」
「え?」
何?
な・・なにが始まるん??
「カレーだよ、カレー。あ、オマエ今なんか期待したろ?やらしー。」
「してないしてないしてないもんっっっ。アホっっ。」
「うひょひょ。これさ、もっと粉入れたらなんとかなるんじゃねーの?」
「ホントに?」
「知らん。」
「適当なこと言わないでよ。」
「じゃぁどうすんだよ。」
「・・知らん。」
「じゃ粉入れようぜ。」
・・・剛くん絶対この状況楽しんでるわ。
「オレさ。」
「なによぉ。」
「甘いカレーってキライじゃないから。」
「・・・え?」
「ただちょっと甘すぎるけどな。」
なんて、ニヤって笑ってきやがる。
そうやってたまに真剣な表情見せるから、こっちは目が離せないんだよ?
「アホ。」
そう言って剛くんのほっぺたをひっぱってみた。
「なにすんだよーっ。」
したらそっちもひっぱってくんねん。
うちらってどうみてもバカップルやんなぁ。
「うちも甘い彼って好き。」
「・・・シャレ?」
「寒いっしょ。」
「かなりな。」
「ちょっとくらい乗ってよ。」
「オレは辛い彼になるつもりだから。」
「剛くんは甘い彼なの。だって辛い彼だったら鍋ひっくり返すと思うから。」
「・・それって愛がないだけじゃねーの?」
「・・そうなの?」
「オマエは激甘なカレーだな。」
「なんでよ。」
「普通だったらこんな時間まで起きてないよ。しかもカレーなんか作ってさ。」
時計をみると午前2時。
あらら、いつの間にこんな時間に。
「じゃぁ剛くん専用の激甘カレーになったるわ。」
「わけわかんねー。」
なんてからから笑ってる。
あかんなー、この笑った顔。
好きやわー、ホンマ。
でも怒らへんねん、この人は。
たまには怒ってくれてもキライになんかならへんのに。
・・でも怒られるんキライ。
・・・まぁ・・ええか。
そんなこと考えてたら剛くんにどつかれた。
でも、こんな瞬間が結構好きやったりすんねん。
これって・・好きになった方が負けってやつやんな。
・・あーあ。