「剛と一緒にいるの・・辛いよ。」
そんな言葉を残して彼女は出ていった。
『ずっと一緒にいたいから。』
そんな理由で始めた共同生活。
楽しい時は1年・・2年・・そして、ジンクスの3年目が来た。
ジンクスとか占いとか、あんまり信じない俺。
3年目になると飽きる。
知っているのはその程度の知識。
関係ないよ。
俺達は大丈夫だから。
信じていた。
だけど、それは俺の中だけのことであって、彼女には通じてなかった。
その事に気づいたのは、彼女が出ていってから。
どうせ戻ってくるんだろ。
そう思ったから、俺はその場から動かなかった。
いつものことだ。
元々ケンカなんて少なくはなかった。
ケンカがあって崩れる2人と、ケンカがあって分かり合える2人がいる。
俺達は後者だった。
いつもケンカの後は笑っていた。
笑って・・それで終わり。
だけど、それ以上にわかりあえたような気がしていた。
今日もまた、そんな繰り返しだ。
多くの罵声が飛んだ後、
「剛と一緒にいるの・・辛いよ。」
そう言って彼女は部屋を出ていった。
いつもは普通だと思っていた空間が、妙に小さく思えた。
孤独という言葉がぴったり合うような。
彼女に会うまで、俺はずっと孤独だった。
すべてがうまくいかなくて、全部が嫌になって、できない自分が悔しくて。
そんなときに手を差し伸べてくれたのが彼女だった。
大袈裟かもしれないが、俺はコイツと一緒に生きていこうと、
真剣に考えた。
くしゃりと髪をかきあげる。
シャワーを浴びた後の髪は、妙にストレートで、気持ちが悪かった。
いつか彼女は、そんな俺をみて、
「なんか置いてけぼりにされた犬みたい。」
と笑っていた。
でも、
そんな俺を支えてくれるといった。
置いてけぼりになんかしないからねっ。と。
だから、人前じゃ絶対にしなくなった髪型。
彼女の前だけで。
そんな姿を見せられるのは、彼女だけだった。
時計の針はいつもと同じ十分な時間を満たしていた。
もうそろそろいいかな。
そう思いながら携帯を片手に取る。
メモリーに1番に入った番号。
だけど、そんな短縮しなくても、覚えている彼女の番号。
今日は短縮なんか使わないで、自分で押そう。
ぴっ。
音が響くのがすごい怖かった。
「おかけになった電話は、現在・・・」
お決まりのアナウンスが聞こえた。
間違えたのではないか?
そう思って短縮に手を出した。
「おかけになった・・・」
今度はそこで切った。
電源なんて切るのことのなかった彼女。
俺がいない夜中も、ずっと電源は入ってるはずの携帯。
なんで?
「大丈夫だよ。いつものことじゃねーか。」
自分に言い聞かせる。
最後はいつも彼女からの電話だ。
コール音がなるのはいつも俺の携帯。
だから大丈夫。
・・・大丈夫。
血の気が引くのがわかる。
鳴らない携帯。
時間だけが過ぎていく。
怖いくらいに。
いつもの1分が・・・長い。
脈を打つ早さが増したのにも気づいた。
聞こえそうなくらいに。
不意によぎる、最悪の事態。
不安な思いが頭を通過する。
そして、無意識のうちにドアを蹴った。
気がつけば彼女の名前を呼ぶ俺がいる。
呼ばれた彼女の姿はない。
かき消すような雨の音。
俺達の大嫌いな雨の音。
孤独な日を思い出せるから。
大嫌いだった。
彼女を求めて走り出す。
俺は一人だった。
『行かないで。』
そんな声が聞こえた。
『仕方ねーだろ、仕事なんだから。』
強くあたる俺がいる。
あれは・・あれは小さな彼女の束縛。
小さな愛だった。
汲み取ってやることができなかった。
考え出せばきりがないほどの彼女の束縛。
本当は気がついていたはずなのに、彼女のわがままだと流していた。
今夜ならわかる。
今ならわかる。
やっと・・やっと気がついた。
冷たい雨に打たれて、涙を流してるのかどうかわからないくらいボロボロになっている俺がいる。
ただ彼女が必要で。
彼女以外愛せなくて。
でも辛くて。
いつも愛されている自信があった。
どっから沸いてくんのかわからないほどの。
いつでも好きだと言うのは彼女の方。
悔しくて。
後悔ばかりがよぎってくる。
見つからない。
抱きしめたい。
この手でキミを抱きしめたい。
近い位置にいたはずなのに、俺の心だけ遠かった。
彼女はずっと、オレのことを求めてくれていたのに。
触れたいもう一度。
ずっと一番近い場所でキミを感じていたい。
本当の意味での近い場所で。
「好き」という言葉を伝えない俺に、彼女は「言葉で欲しい時もあるんだよ。」と笑った。
不器用だった。
素直じゃなかった。
「ドラマじゃあんなにかっこいい言葉言うのに。」
今度は寂しそうに笑った。
こういう時に限って、ドラマの台詞が全部飛ぶ。
ドラマのようなステキな恋愛がしたいと思った彼女。
ドラマの台詞じゃキミに届かないと思った俺。
「・・バカだよな・・オレ。」
格好悪くたっていい。
オレはキミのそばにいたい。
キミはオレの側にいてほしい。
離したくない。
そんなことに、やっと気がついた。
一緒にいるから安心した。
安心感に、いつのまにか慣れていた。
やっと気がついた。
やっと気が着いたのに。
キミは見つからない。
遅すぎた。
気がつくのに遅すぎた。
何処にいるの?
すげー・・バカみたいに寂しい。
もしかしたら・・戻ってるんじゃないかと、部屋のドアの前に立った。
かちゃり。
「・・ただいま。」
「おかえりなさい。どこ行ってたのよ。びしょびしょじゃない。タオル持ってくるから。」
待って。
行かないで。
手を掴もうとしたら、それはするりと抜けていく。
「・・バカみてー・・オレ。」
幻覚だ。
真っ暗な部屋。
誰もいない孤独な部屋。
彼女の笑顔が見たい。
もっと・・大事にしたいよ。
何も出来ない自分がはがゆくて。
それでも・・見つけたくて。
オレはもう1度立ちあがる。
車のカギをもちだして、孤独な部屋を抜け出す。
びしょびしょになった体で車に乗りこみ、アクセルを踏む。
キミに・・伝えたいことが・・あるんだ。