ジン様だ。

「何落ち込んでんだよ。」

むしろ泣きてぇのはこっちだよ。

「泣いてないよ。」

ウソつくなよ。

顔が泣きそうなんだよ。

「どした?」

 

 

うまくいかなかった。

別に、支障は何もないはず。

ただなんか、なんとなく気を抜いてしまった気がして。

昨日の方がよかったなんて、

思いたくもないのに思ってしまった。

泣くほど落ち込むことじゃない。

たまにある。

こういうこと。

表に出る仕事ばっかりしてると。

たまに、ある。

ただ、初めてのことばかりだから。

全部全部初めてだから、こういうことあるってことも知れてよかったかもしれない。

同じ時の取り直しはできないってことを。

だから、こんな日は会いたかった。

コイツの顔を見たら安心できる気がしたのに。

「なんで泣きそうな顔してんだよ。」

笑えよ。

なんだよ、タイミングわりぃなぁ。

「会いたかった。」

しがみつくような、俺を求める手。

「大丈夫かよ。」

強く抱き締めると、少し安心した。

会いたかったのは俺の方。

抱き締めたかったのも、全部俺。

「なーにしけた顔してんの。幸せ逃げるぞ?」

それは、自分に言い聞かせるように。

「なんか人恋しくなっちゃって。」

えへへって。

肩が少し揺れたから、きっと笑ったんだと思う。

彼女が。

照れ笑いもいいけど、いっぱい笑った君が見たい。

俺を幸せにしてくれる君の笑顔。

抱き締めた腕をはずしてキスをする。

軽い、触れるだけの。

そして、おでことおでこをつけて問う。

「元気出た?」

って。

少しだけ笑顔が戻ったけど、

「もうちょっとかなぁ?」

なんて、少し甘えた顔をする。

こういう時って思いきったキスをするより、

少しづつ、おでことか頬とか、

子供みたいに顔中にキスをした方が、

照れた笑いをもっとしてくれる気がする。

「くすぐったいよ。」

会った時より幸せそう。

「剛くんも、なんだか泣きそうだよ?」

咄嗟にそんなことを言われてドキっとした。

「んなことねぇよ。」

「ほんとに?」

「ああ。」

「ほんとにほんと?」

「人恋しくなっちったんだよ。」

って笑ったあとに閃いた悪魔の尻尾。

「じゃお前が俺を笑顔にしてくれんの?」

今俺すっげぇやな顔してんだろうな。

コイツにとって。

「ん。」

照れた顔をしながらも、同じように触れる唇。

安心した。

忘れずにいよう。

今日の感じ。

来る客は毎日が初めてなんだ。

その人の記憶には、今日の舞台しか存在しない。

負けられない。

そして、上り詰めたい。

感じたい。

終わった後に何が残るのか。

見てみたい。

もう一度彼女を、強く抱き締める。

もう大丈夫。

俺は、魔物の中の魔物。

ジン様だ。