「剛くんの試合の応援、一緒に行かない?」
そう言われた時の心境はとにかく微妙やった。
健くんも誘ったけど、バイトがあるらしくて、
それを聞いてもっと微妙やった。
俺は俺で試合終了を少しすぎたあたりにゼミの先生に呼び出されとったから、ある意味断る理由がなかった。
ああ、考えようによってはデートか。
なんて、ほんとにのんきに考えていた。
せやから、
「ええよ。」
って二つ返事で答えた。
呼び出しかて、そんなに大したことやないし、
レポート出すだけやしすぐ終わるし、深く考えてへんかった。
きっと楽しいはずや。
そう思ってた。
「試合、准くんと見に行くからがんばって。」
俺の大好きな笑顔を剛くんに向ける彼女を、
俺は結構余裕で見ていた。
まぁ、が剛くん好きなんは知ってるし、
剛くんがいたほうが笑顔がかわいいのも知ってるし。
ま、えっか。
好きやねんからしゃーないよな。
そんな気でいた。
サッカーをしてる時の剛くんは、かっこいいし強い。
まぁ1回戦やし勝つやろな。
うわぁ、また剛くんの株上がるやん。
でもなー、前の試合見た帰りのはどうしようもなくかわいかったなぁ。
・・・剛くんの話ばっかやったけど。
ああもう。
でもしゃーないねん。
うん。
見守るって決めたんや。
どうせ今ゆうても叶わんだけや。
だけど、結局は今の自分がどういう場所にいるのかを、
思い知るだけやったことに、
この時の俺は考えてもいなかった。
「何を着ていけば。」
スカートじゃだめだよな、とか、やっぱパンツ?とか、シャツよりキャミ?でも
焼ける?とか、
・・・デートじゃないんだから。
あ、いや准くんとはデートか。
むむむ。
「なぁ、試合の日、時間どうすんの?2時からやっけ?」
文章で呼んだのは准くんで、
「スカートとパンツ、どっちが好み?」
なんて、ほんとにデートみたいなことを聞いていた。
「スカートがええなぁ。」
なんて、この「ぁ」でアピールかよって笑ってしまった。
「准くんオヤジ。」
って返したら、
「なら聞くなや。」
と、最もなことを言われた。
「1時50分にグラウンドの入口。バス乗り場があるとこね。」
待ち合わせを勝手に決めて返事を待つ。
「へーい。」
一言だけの返事にわくわくする。
剛くんの選手の姿は一番好き。
いつも軽い剛くんが輝かんばかりに硬派な選手に見えるから。
勝ってほしい。
勝たせてあげたい。
神様、最後の試合、守って。
ワクワクする。
明日が最後にならないための通過点。
負けらんない。
今までは次があったけど、俺に次はない。
ワクワクする。
不謹慎だけど、緊張が心地よくて仕方ない。
勝ちたい。
てゆーか、勝つ。
さっき健からメールが届いて、
「楽勝で勝つ。」
と宣言しておいた。
ほら、人に言うと叶うって言うじゃん。
「と行くし、応援してんで。」
岡田からも届くメール。
全く、2人ともデートなことアピールしてんじゃねーよ。
もちろん岡田にも勝利宣言をしておいた。
次々と送られるメールにくすぐったさを感じた。
がんばらないとな。
時計は12時をもうすぐ指している。
眠れないからとはいえ、さすがに明日に響く。
眠らないと。
目を1度閉じてみるが、右手に持つ携帯が気になって仕方がない。
新着メールはありません。
この1時間で何度か問い合わせをしてみたけど、やっぱり来ない。
試合前になると3日前くらいからメールがきて、もうわかったから!って言わせるアイツからメールがこない。
3日前に岡田と応援に来ると言った、からメールがこない。
携帯機種違うから、トラブルでも起きたかな。
5回くらいそう思ったけど、納得がいかない。
岡田と電話でもしてんのかよ。
なんか、気に食わない。
試合に影響するくらい悩むなんてことはないけど、
なんとなくしこりが残ってた。
長針が6を指す頃に、俺は無理やり眠りについた。
眠れない。
剛くんの試合前は眠れない。
さっきからずっと文章を打っては消している。
3日前に行くと行った日は、珍しく疲れて眠ってしまった。
剛くんにメールしようと思ったのにな。
2日前は友達の誘いをどうしても断れなくて泊まった。
こんな気分じゃメールなんてできなくて、明日すればいいやと思い眠りについた。
そしたら夢を見た。
怖い。
あってはならない夢を見た。
怖くて。だからメールを打てないでいる。
何を書いていいかわからない。
何を書いてもウソになりそうで怖い。
ねぇ剛くん。
言葉って難しいね。
とっても。
不安だよ、とっても。
結局今日はメールを送ることができなかった。
試合の前日に剛くんにメールしなかったのは、これが初めてだった。
好きだから、考えることを辞めた。
好きではないけど、なんとなく気になった。
好きだから、夢であってほしいと信じた。
思い思いの夜は更けて行く。