大学生日記。

「おーい、まだかよ?」
外から剛くんの声が聞える。
思った以上に時間がかかってしまった着つけ。
美容師の先輩に頭はやってもらったんだけど、
着つけもやってもらえばよかったなぁなんて、今更ながら思ってしまう。
「去年浴衣着れなかったから絶対着たいの。」
言ってしまった限りは絶対着たい。
着るからには、やっぱり見て欲しい。
アナタに。
アナタだけに。
「おまたせ。ごめんね。」
時間よりちょっとオーバー。
「おっせぇよ。お前。」
「ねぇ。どう?」
かわいいって一言言ってほしいだけだった。
ほんとにそれだけで救われる気がしたのに、
「あー・・・まぁ・・うん、そんなもんだろ。」
って突き放された。
どうせアナタの彼女にはかないませんよ。
ええ、かなわないですよ。
いじけた私を見てか、剛くんは少し笑ってこう言った。
「いいんじゃね?」
「ほんと?」
「ほんとほんと。ほら、早く行くぞ。岡田さっき着いたって。」
「あ、うん。」
そんな一言で胸がドキドキする。
剛くんといると、全部全部がどきどきする。
「ねぇ。」
「なに?」
「なんで俺呼び出されたわけ?」
「なんでじゃないの。ノート返して。」
「んなの祭で渡せばいいじゃん。」
「やーよ。巾着に入んないんだもん。」
「あっそ。まぁ別にいいけど。」
前期の授業でやばいのあるから。
その授業は私が昨年取ったやつで、
彼にノートを貸していた。
返してもらう機会はいくらでもあったし、
彼が借りていることを忘れているのも、実は知っていた。
「明日返して欲しい。」
そう言って彼を呼び出した。
その時は気にもとめていなかったのか、
借りている身だから何も言わなかったのかわからないけれど、
まさか一番最初に見せたかったなんて、全力で言えない。
「ねーねー、今日たこ焼き食べたいなー。あとりんご飴とー、焼きソバとー。」
「お前、そんな食うの?」
「剛くんの奢りなんで☆そりゃ昼も抜いてますよ。」
「おかしいだろ、それは。」
やっぱり呆れ顔。
けど、そんなこと言っておきながら、
「いいよ、払う。」
って、電車代から全部出してくれた。
呼び出したのはこっちなのに。
悪いから、せめて交通費は出すって言ったのに。
「いいって。今日は姫様をエスコートいたしますから。」
なんて、ほんっと適当なことを言いやがる。
「ではお言葉に甘えて。」
致し方なく乗ってやったのに、
「姫って柄じゃねーよな。」
って今度は笑ってきた。
いや、私にどうしろと?って感じ。
でも、こんな時間さえ幸せと感じる自分。
やっぱり勇気出して呼び出してよかったなってしみじみ思う。
普通お祭事は絶対彼女と行きたいに決まってる。
なのにワガママに付き合ってくれる。
「ねぇ。」
「ん?」
「彼女いいの?」
そう聞いたら、
「だったら最初から誘うなよ。」
って笑って答えた。
余裕って感じがする。
「・・・ごめん。」
やっぱり罪悪感がうずくんだけど、
「気にすんなよ。今日は今年初の祭だからな。張り切ってくか。」
逆に気を使わせてしまった気がする。
でも、ここでまた謝ったら空気落としちゃう気がして。
「花火すっごい楽しみ。」
切り替えていかなくちゃって思う。
それでも。
今年の最初の夏祭りに、彼と来れることをホントにうれしく思う。
ドキドキする毎日が、今年もきっと待っているような予感がする。
「あ、岡田いた。」
「准くーんっ。」
「自分ら遅いねん。」
呆れながらも笑ってくれる准くんを見て、
やっぱり楽しい夏がくる。
そんな予感でいっぱいだった。

 

剛くんと一緒に来るを見てすぐにわかった。
いや、わかってたけどわからないフリをしていただけ。
ああ、剛くんのこと好きやねんな。
改めてそんな事に気付かされる。
「剛くん、次あれやりたーい。」
目が剛くんの事好きってゆうてる。
なんか、なんつーか、どうしたもんかなぁ。
「准くん早くー。」
「ん。」
俺今日一日これ見せ付けられるんやろか。
まぁ、2人ともみんなで楽しくやろうってタイプやから疎外感はないけど、
気持ちだけが疎外感。
さ。」
「なにー?」
「今日めっちゃかわいいな。」
出会った時にほんとは言いたかったのに、
剛くんと一緒に来た事に勝手にヤキモチを焼いた。
だから、うっかりタイミングを逃してた。
俺に手を振る笑顔。
素直にそう思えた。
「ちょっ、ちょっと准くん。」
照れた顔して俺の背中を叩く。
かわいいなーって思う。
正直な素直さが。
「ええやん。そう思ってんから。」
ゆうたら、横から、
「お前、マジにそう思ってる?七五三だぜ、これは。」
なんて言葉に、ちょっとむってした彼女。
「ちょっと、剛くーん?酷くない?」
そういう表情でさえ、かわいいと思ってしまう。
あかんな、俺。
「なぁ、剛くん酷いわーホンマ。」
だから、俺はいつも側で剛くんを一緒にからかってる。
「おんまえらはほんっとに。相変わらずだなー。」
もうどうにでもしてくれ状態の剛くん。
「えへへ。」
なんて笑ってるを見ると、
きっとこの言葉は剛くんから言ってほしかったんやろうなって、ちょっと切なく思う。
「次どこ行くん?」
「あ、そうそう、次ねー。」
キミの笑顔を見ると、俺はすごく癒される。
それは少し、母親にも似たような安心感。
キミといると俺は正直な自分でいられる。
着飾ることもなく。
そして、その姿をアナタは受け入れてくれている。
大事にしたい。
「剛くん剛くん。」
「ん?」
「俺たこ焼き食いたいなー。」
「あー、ハイハイ。今日はなんでも奢らせていただきますから。」
負けてるなんて思ったことはないけれど、勝てないって思う時も多い。
しぐさの1つ1つに色気があるというか、とにかくかっこいい。
どことなく軽く見られてしまう剛くんだけど、
実はすごく一途なことを知っている。
が好きになるのはわかる。
わかるけど、譲れない。

 

「きれー。」
両手を合わせながら目を輝かせるを見て、彼女を少し思い出す。
「やっぱ夏は花火やなぁ。」
って、ふわふわした岡田の言葉が聞こえる。
「そうだな。」
今年は最後の夏。
部活は3年で終わる。
だから、最後の夏の試合。
負けられない。
夏の最後に見る花火は、感動的なものでありたい。
「今度ボーリング行こうよ。」
そんなの声を聞いて、
「いいねぇ。」
最近そういうのしてなかったなとふと思って即答した。
もうすぐ就活始まるし、尚更いろいろしなきゃな。
悔いのない夏休みを過ごさねば。
「なんか、めずらしいな、剛くんがのってくんの。」
少し笑ってる。
「たーまにはね。今年は目一杯遊ぶぞー。」
「そっか。」
そっかそっか。って、少し目線が花火に戻った岡田。
「ねぇねぇ准くん、あのね。」
の言葉に、岡田の表情が少し変わった。
なんか、ころころかわるやつだな。
知ってたけど、少し気になった。
なんとなく。
なんとなくだけど、少しだけ予感がした。
大学で知り合った2人。
今ではずっと一緒にいる関係。
いつもはそれぞれ違う誰かとつるんでるけど、
なんとなく一緒にいて楽な存在だった。
には女の世界がある。
岡田には、岡田の世界がある。
もちろん、俺には大事なサッカーがあって、部活があって。
大事な彼女と、ツレがいる。
人それぞれ、きっと大事なものがあると思う。
でもそれは、天秤にかけると、もしかしたら傾いてしまうのかもしれない。
だけど、俺にとっては全部大事。
なかなか理解されにくいけど。
「ほわぁー。」
なんて目をキラキラさせてみているを見てかわいいと思う。
それは、恋愛とかじゃなくって。
ああ、こういう時間が、すげぇ大事だなって思えるような、
そういう存在。
「おお、今のめっちゃきれーやなぁ。」
育った場所も、環境も何も違う。
この時間全てを、俺はずっと大事にしたいと、
輝く火花を見て、思った。