大学生日記。

 
「うぁー、終わったー。」
本日4回目の終わりの鐘が鳴った。
今日は7月の最終日。
言い替えれば集中講義の最終日。
「だりぃ、できるわけねーよこんなの。」
隣りでは剛くんが小さく嘆いている。
「だって剛くん、起こしても起きないんだもん。」
「あー。」
心当たりがあったのか、そのまま机に伏せて、
「つーか、あの親父がすでに無理だから仕方なし。別にいいし。他とればいいし。」
ぽそぽそと言葉を落とした。
こっちは絶対取らないと4回生で苦労しないといけないのに、結構呑気な剛くん。
でもさ。
「放棄4つもつけた人が言うセリフ?」
「朝は起きれねんだよ。」
「じゃあ取らなきゃいいのに。」
彼の前期は散々で、特に朝イチの授業は寝坊とかで学校に来ない。
必然的に出席日数が足りなくて単位を落としていた。
「あ。」
「な、なに?」
いきなり這い上がってきたかと思うと、
「水曜1限ありがとな。おかげでなんとかなった。」
思い出したように告げられた。
・・・え?
「うそ、取れたの?」
「テスト思ったより簡単だったしな。」
唯一一緒だった授業だけ、出席カードの代返を私がやっていた。
てゆーか、すっごい私がんばったんだけど。
なのに、テストが結構簡単で。
「剛くん取れて私取れてなかったら泣く。」
本気でそう思う。
なんかむかつく。
「んだよそれ。いかにも俺が不真面目みてーじゃん。」
「え、真面目なつもりでいたの?じゃあ後期の出席カードはいらないね。」
「わー待てお前。朝は無理っつっただろ?」
「どんな理屈やねんそれ。」
私達の後ろからひょっこり顔を出したのは准くん。
「あ、准くん。おつかれ様。テストできた?」
「まぁ3限ゆうてたことしか出とらんかったし、多分大丈夫やろ。」
あっさり言いきる准くんに、
「マジかよー。」
と剛くんの非難の声が聞こえる。
「それより。」
准くんが剛くんの肩を叩くと、一気に言いきった。
「後期こそちゃんと出席してや。俺らこき使いすぎやねん。」
そうだそうだーって内心思ってちょっと睨んでみたんだけど、
「いいじゃん、今度なんかおごるからさ。」
悪びれた様子もなくさらっと言いきる剛くん。
要領いいってこういうこと?
「そういう問題やあれへんっ。」
必死に嘆く准くん。
真面目だからな、准くんは。
「じゃぁ今度私達に松坂牛ね。」
「・・・はぁっ?」
突然の提案に、森田サン、声裏返ってますよ?
「えっとー、私は1科目だから1キロ分でー、准くんは。」
「俺3科目やから3キロな。ラッキー、楽しみやな。」
ノリノリな2人に、剛くんは呆れ顔。
「ちょっ、お前ら勝手に決めんなよ。んな金あるわけねーだろ。」
「じゃぁ後期はナシね。」
「ラッキー、これでひやひやせんでよくなるわー。」
「ありえねー。本気でありえねー。」
「なんならモーニングコールでもしたぁげよっか?」
ってニコニコ笑ってると、
「ごーぉ。ご飯食べ行こ。」
遠くから甘い声が聞こえた。
あれ・・・また女の子違う。
「わりぃ、今行く。じゃあな。」
「剛くんっ。」
「なに?」
カバンを持って向かう彼を咄嗟に呼びとめる。
「もうすぐサッカーの試合よね?」
「ああ、えーっと、8日の2時から。」
「応援行くから。がんばってね。」
そう伝えると、右手だけ上げて彼女の元へ走っていった。
「彼女が取るゆうたから授業取ったってことか。意外と優しいねんな。」
准くんの声がした。
数ある授業の中で取ったこの授業。
剛くんが取るから私も取ったなんてことは、言えない話。

 

「試合って1人で見に行くん?」
俺との家は結構近くて駅が1つ離れてるだけ。
明日から夏休み。
休みになってまうと、一緒に帰ることもでけんくなんねんなーってしみじみ感じてしまう。
「うん。まだわかんないけど、そのつもり。」
今年の夏は地元の友達こっちにくるし、楽しい夏になりそうなことは確か。
やけど、夏休みはなにかしら用事を作らないとには会えないわけで、
去年はなんとなく寂しい思いをしていた。
「俺・・一緒に行ったらあかんかなぁ?」
なんとなく。
ほんとになんとなく言ってしまったこの言葉。
「いいけど、めずらしいね、なんか。」
「なんで?」
「だって、剛くんのサッカーの試合ってはじめてじゃない?」
「あ、いや、その・・・」
・・・困ったな。
一緒に行きたいっていうのは、別になんでもよくて、ただと一緒にいたいだけであって、
サッカー。
いやキライでは決してないんやけど、
えっと、ど、どないしよ。
「す、すきやねん。サッカーが。」
・・・変やな。おかしいな。
これは間違ってんな。失敗したな。
だって、の頭から?マーク出てるもん。
「へー。そうなんだ。」
・・あ・・あら?
「うん、1人より楽しいと思うし。」
・・え・・マジで?
「一緒行こっか。」
オッケー?
「おん。軽いデートやな。」
って、勢いまかせで言ってみたら。
「あはは。」
って、笑って返された。
わからん。ほんまにわからん。
女心は今年もわからんなぁと、本気で考えてしまう。
やけど。
「明日の夏祭りは一緒行こうね。」
その言葉でまた救われる。
明日は夏祭り。
まぁ、剛くんと3人で・・・やけどな。

 

「ねぇ、なんでお祭一緒に行けないのー?」
目の前でパスタを食べながら彼女が問う。
テスト前に前の彼女とは別れた。
別に、そんなつもりはなかったんだけど、ノート見せて?っつったらキレられた。
あとからに言わせると、
「そりゃ、あの子成績いいもん。それ目的って思われたんじゃない?」
って言われた。
言われてみればアイツは成績優秀だったなぁって後々気がついた。
好きになったのはそんなことじゃないのに。
いつも本気の俺の恋は、なかなか相手に届かない。
今日だってそう。
「だーかーら。友達と行くんだって。」
「だって女の子いるんでしょ?やだよ。」
「べーつになんもねーよ。」
「剛くんはそういうけど、なんかあってからじゃやだもん。」
最近付き合い出した彼女はとにかくよく笑う。
よく笑うなぁっつったら「笑ってる方が幸せになれるよ?」って、
教祖みたいなことを言われた。
出会った時はほんとに沈んでた時で、
この笑顔に救われた。
幸せ顔の彼女が笑うと、俺も幸せになれた。
「だーからさー。」
いじける顔さえも可愛い俺の彼女。
思わず軽く笑ってしまう。
「ちょっと、なに笑ってんのよー。」
「なぁ。お前男女の友情って成立すると思う?」
いじけた顔が一気に疑問の顔に変わる。
「突然何?」
「いや。なんとなく。思う?」
表情豊かな彼女は、見ていて飽きない。
びっくりした次は少し悩んだ顔。
「思わない。」
きっぱり言い放つ彼女。
「そか。」
「うん。」
俺は成立すると思う。
だって成り立ってんもん。
今でじゅーぶん。
「お前にも男友達いるだろ?」
「いるけど・・・大人数でしか合わないもん。」
「3人も大人数だろ?」
「・・・だってぇ。」
「だーいじょうぶだって。」
それでも悩ましい顔をしている彼女に魔法の言葉をかける。
「俺が好きなのはお前だけだって。」
言葉っていうのは不思議なもんで、
好きだとか、愛してるとか、その言葉1つで笑顔を作ることができる。
現に、彼女は今照れた笑いを見せている。
「単純。」
「だって、うれしいんだもん。」
やっぱり笑顔で答えてる。
言葉って大事だなって思う反面、
それは、どこか軽いものとしか思えなくて。
言葉では伝えきれない思いがあるのに、
言ってしまうと陳腐なものに思えてしまう。
「・・・ごぉくん?」
「ん。」
まぁでも。
可愛い彼女が笑ってくれることに悪気がしないのは当たり前で。
言葉で安心させることができるなら、いくらでも言ってやる。
「ほら、早く食えよ。」
やべ、なんか耳熱い。
えへへって笑ってる彼女を見て、バレたなって確信したから、
目線をはずした。
で、ちらって見たらやっぱり笑ってる。
あーあ。
やっぱ、明日の祭は一緒に行きてーなー。
浴衣とか、似合うんだろうな。
いいなぁ。
・・・って思ったけど。
後期の授業はおしいよな。
明日は俺の奢りかな。
ま、それでごまかせるなら安いもんか。
「んじゃさ、次の試合終わったらどっか行くか。」
そんな約束の言葉を告げる。
笑顔で返す彼女は、今の俺の宝物。