微熱のWOMAN

喫茶店の一番奥の席。

映画を見た後の昼食場所。

オレ達の指定席のように通う店。

で、今日もパンフを片手にアイスコーヒーなわけなんだけど、ちょっと違う。

「・・なぁ・・・」

「んー?」

ストローで氷をつつきながらパンフの3ページ目。

アイスコーヒーにはガムシロ2つとミルクを3つ。

テーマはカフェオレらしい。

・・健じゃねーんだからさ・・・。

「今日の映画さー・・おもしろかった?」

言ったあとにきづいたのは、自分でも信じられないくらいのイヤそうな声。

「えっ?」

「だーかーら。おもしろかった?って聞いてんの。」

感情とは別にだんだんやけになって自分のコーヒーの氷をくるくる回す。

「・・おもしろくなかったの?すっげー笑えたっしょ?CM見た時から見たかったんだよねー。」

なんてニコニコ笑いながら最後の1カップのミルクを入れている。

オレは予想外のコメントに正直焦っていた。

「あのシーンとか最高に笑えなかった?笑えるのにかわいいってかなんてーか・・」

なんて、一番の見せ場のシーンを熱く語りはじめた。

・・おもしろくない。

何が面白くないか。

オレは見てしまったからだ。

「お前さー・・そのシーン時寝てたじゃん。」

さも涼しげに言ってやる。

語っていたコメントが一気に沈んだ。

「・・集中してみててよ。」

特に否定する気はないらしい。

でもどうも疑問なとこはここ。

「なんで寝てたのに内容知ってんだよ。」

「あ・・いや・・その・・」

「へー・・2回目なんだ。」

「なんでわかったのっっ?・・あ・・いや・・」

「わかるよ。そんくらい。誘ったのお前だろ?あのシーンがステキそうだからどうのって。」

話し出すと一気にしゅんとなる彼女。

「CMにしては具体的だなーとか思ってたけど、そういうことかよ。」

「・・ごめん。」

「別にいいけど。いい映画は何回見ても飽きないっていうし。」

「・・でしょ?」

小声でちょっと言ってくる。

・・別にいいけど。

「でっ。久々のデートだっていうのに、なんで寝てんのお前。」

「あ・・あは。」

いつもそうだ。

得意の笑顔で笑ってごまかしやがる。

「なんか・・新しい環境に慣れなくてちょっと。」

そういや進学したんだっけなお前。

4月の頭か。

まぁ一番忙しい時期だわな。

「べーつにいいけど。」

ちょっと怒った風に言うと決まってこういう。

「怒った?」

「別に。」

「今日の剛くん別にばっか。」

「んなことねーよ。」

「そんなことない。」

「別に・・・」

「ほら。」

「ど、どうでもいいだろそんなこと。」

「はいはい。」

そういいつつマジで甘そうなアイスコー・・いやカフェオレに口をつける。

「・・それってうまいの?」

「飲んでみる?」

「いや・・」

「飲んでみって。ぜったいおいしいから。」

あんまりにも強く勧めるから、とりあえず一口飲んでみたんだけど・・

「あ・・・あま・・・」

「うまくねー?」

「うまくねー。」

「なんでよ。」

「知るかよ。」

「だってそっちのコーヒー苦いっしょ?」

「飲んでみる?」

「もらう。」

けど・・一口でノックアウトらしい。

「・・岡田くんってコーヒーブラックってマジ?」

イキナリ岡田の話かよ。

「ああ。かーなり無理して飲んでるけどな。その点健はこんな感じ。」

「じゃ今度健くんとお茶しよ。」

おまっ・・なんで話がそこまで飛ぶんだよ。

一瞬の動揺が顔に出てたらしくコイツは、

「妬ける?」

なんて聞いてきやがる。

「別に。」

「ほらまた言ってる。別に・・だって。」

「悪いかよ。」

「悪くないけど。」

「妬けるよ。」

流れにそってちょっと言ってみたんだけど、彼女はきょとんとしている。

「悪いかよ。」

「わ・・わるくないよ。」

あのー・・声がどもってますよお姉さん。

・・沈黙かよ・・。

おれ・・一番嫌い・・沈黙って。

き・・きまずい。

「で。」

とりあえず言ってみたものの、次の言葉が出ない。

あ・・

「次はいつ会えんの?」

咄嗟にでるのはいつもこれ。

「次じゃなくて、今からなにする?でしょ?」

癖だった。オレの。

このまま別れてしまうと、次にいつ会えるかわかんない。

急に不安になって聞いてしまう。

でもそれは、お互い不安なことなんだってことが最近わかった。

だから今を大事に。

今を。

「何したい?」

「なんでもいい。」

「なんでも・・なんでもねー。」

「どっか行きたいな。あ、お花見とかしたいな。」

「サクラ見にいくか。」

「行きたい。」

「じゃ決まりな。」

こんな何気ない一日がすごくスキだったりする。

「だーもう、アイスコーヒーくらいおごってやるって。」

「いいよ、割り勘しよって。私払う。」

「いいんだって。あ、じゃぁお前の寝顔代な。」

「・・なっ・・・」

「ひっさびさに見たもん。お前の寝顔。」

「さいてー。」

「そっちが勝手に寝たんだろ?」

「ちがっ、森田さんと違って、こっちはお疲れなんですー。」

「お前、オレがどれだけ苦労してるか知らねーだろ。」

「知らないよ知らなーいっ。」

なんて言いながら、しっかり自分の代金だけ置いて外に出てしまう。

いいっつってんのに。

あ・・・10円足りてねぇ。

なんだよ、俺10円しかおごれねーのかよ。

男のプライドをぶち壊す女だなぁ。

「剛くん早くー。」

なんて、そんなことも気にさせない笑顔。

ばーか。

っ。」

サクラ並木を駆けるキミを呼んだ。