この世界に神様という者がいるならば、どうか叶えてください。

これは、ほんのささやかな願い。

両手を合わせて正座をし、1つ礼をしてから携帯を手に取った。

メモリーは一番に入っている。

そして、短いコール音の後に、心地いい声が聞こえた。

「もしもし。」

「もしもし、?俺俺、いのっち。」

「あ、いのっち?元気?」

俺との関係は所詮こんなもんさ。

付き合ってまだ2ヶ月。

元々仲のいい友達だっただけに、甘いムードなんてもんは遠いものである。

確かに、それはそれでいい。

そんな時間が楽しいから。

だけどさ、たまにはさ・・・やっぱ・・ね。

だけど、相変わらず俺は本題を切り出せずにいる。

オチのある俺の話には笑ってばかり。

それが嫌とは言わない。

今日は伝えたいことがある。

だから普段信じない神様を拝んだ。

そして、やっとの思いで俺は切り出した。

「あのさ、明日って暇?」

久しぶりに1日空いたオフの日だった。

いつもは朝だけ・・とか昼だけ・・な俺のスケジュール。

1日空く日なんて早々あるわけがない。

「明日?ちょっと待ってね。」

うぁーっ、待たせるなっ。

この時間がすげー緊張するんだって。

ほら、例えば、テストが返ってくるのに出席番号が後ろの方でなかなか返ってこないかんじ。

あ、俺は「い」だから速攻なんだけど、後ろからなんて言われた日にゃイライラして仕方ない。

おっと、そんなことはどうでもいい。

早く結論をくれ。

「あ、空いてるよ?どしたの?」

神様ありがとう。

「あのさ、明日俺空いてんの。どっか行かねー?」

いつもは味気ない・・なくはないけど、俺の部屋とかでバカ騒ぎしたりのデート・・でもないデート。

でも明日は違う。

ずっと一緒に居られるそんな日。

「あれ、つれてってくれちゃったり?」

「おー、どっか行きたいとことかあるか?」

「遊園地っっ。」

おや?

「・・・めずらしいな。遊園地?」

「そうっ、遊園地に行きたい。」

「いいけど、なんで?」

俺はてっきり映画とかそういうのを予想したんだけど。

この前電話した時だってCMで見たあれが見たいとかいっぱい言ってたのに。

「ウサばらしだ。」

「・・なんか煮詰まってることでもあんのか?」

「別にないけど。」

「あっそ。」

遊園地なんていつぶりかなぁ?

もうそーとー行ってねーぞ俺。

「ねーいのっち。」

「なんだよ?」

「あのね・・恋人・・でいいんだよね?」

はぁ?お前なに言っちゃってるわけ?

「友達がさ、遊園地に行くって言ったら大体彼氏とーとかなわけよ。」

「へー。」

「そりゃ友達同士でもいくけど、やっぱり・・さ・・ねぇ。」

「お前さ、2ヶ月前に俺言ったじゃん。付き合おうって。」

「でもさ、あんまし変わってなくない?」

「なにが?」

「付き合う前とそれから。ずっとこうやって電話とかしてきたし、一緒にでかけたりもしてたし。」

「気持ちの問題だろ?」

「気持ちの問題?」

「俺はのこと本気で好きだって思ったし、彼女だってちゃんと思ってるし。」

「ほんとに思ってるの?」

「思ってるよ。だから・・」

「だから?」

「やっぱやーめた。」

「ちょっとなにそれ?」

「明日10時にいつもんとこで待ってろよ。迎えに行くから。」

「ちょっと快彦っ。」

彼女は慌てたり焦ったり、とっさに俺を呼ぶ時快彦と呼ぶ。

普段からそう言ってくれれば彼氏って感じもするんだけどなー。

別にいのっちでもいいけど。

「続きは明日言ってやるよ。」

「なにそれ。」

「ちゃんと来いよな。遊園地行きたいんだろ?」

「行く行く、ちゃんと行くよ。あ、快彦も忘れちゃダメだかんね。」

「何を?」

「続きだよ、続き。ちゃんと言ってよね。気になって眠れなかったら快彦のせいなんだから。」

「わかってるよ。じゃぁ、おやすみ。」

「おやすみ。」

電話で言うなんて味気ないから。

ちゃんと会って、ちゃんと言いたいことだから。

俺、のこと守ってやりたいって思ってるし、これからも、ずっと傍にいてほしいからさ。

ちゃんと、愛してるって伝えたいからさ。

どうか神様、贅沢だけど、明日も守ってくれよな。

俺との幸せ、ちゃんと見届けてくれよな。