「へ・・へっくしっ・・。」

ちくしょー、なんだよ花粉症の次は風邪かよ。

なんでだよ。

そりゃ日頃から健みたいに健康管理とかやってねーけどさ、俺が風邪なんてめずらしくねーか?

まあいい。

こんな日は寝てしまうに限る。

俺はさっきまでかぶってた布団をさらに深くかぶせ、潜った。

ぴりりり・・・ぴりりり・・・ぴりりり・・・

あん?

あ、携帯鳴ってる。

どこにしまったっけ?

あ、かばん中。

マジかよ、きれちまう。

そう思って重い体を起こし、立ってはみたものの見事に倒れてしまった。

ぴっ。

一応横になりながらも手探りであさりボタンを押した。

「もしもし。」

画面は見ていなかったが、声は長野くんからだった。

「へっくしょんっ。」

言葉の変わりにくしゃみをひとつ。そして、

「もじもじながのくん?」

なんだこれ、俺の声かよ。

なんか・・ズタボロじゃねーか。

「なにー?」

「風邪?」

柔らかい声でそんな言葉が聞こえた。

「風邪。ながのくんはげんきそーだねー・・・へっくしっ。」

さみーっ。

「俺も風邪ー。剛は元気かなーって思って。」

長野くんも風邪ってことは昨日のロケかな?

おのれー、覚えてろよちくしょー。

って、誰に言ってんだ俺。

「元気じゃないよー。死ぬかも。バイバイ長野くん。」

風邪ひいてる時はなぜか悪い方悪い方に考えてしまうのは人間の悪いくせだ。

「おいおい、しっかりしろよ。」

なんか、そっちこそ風邪ひいてるわりには声元気そうじゃん?

「今日さー、家誰もいないんだけど、誰か来てくんねーかなぁ。」

なんで今日に限って一人かなー?

「もーおれやだ。長野くん来てよ。」

「へっくしゅ・・・行けるかよ。」

「長野くんって今一人?俺今日一人だよ。」

「ふーん、じゃぁお互い明日は元気に顔合わせれること願ってます。」

「お大事に。」

「お互い様。」

ぴっ。

長野くんだって寂しいくせにさ、絶対寂しいって言わないんだから。

俺は持っていた携帯をいじり始めた。

そして、もうそろそろ出そうにない声を振り絞って電話した。

気がついたら俺はまた布団の中にいたらしい。

目が覚めると、不規則なトントンという包丁の音が聞こえていた。

・・誰?

あ、誰か帰ってきたのかな?

そう思って体を起こそうと試みる。

おや?

でこが冷たい。

それは、ビニールに入れられた氷と水。

ありがたいなー。

立上った時はもう倒れることはなかったけど、やっぱりふらふらしているのは自分でもよくわかった。

そして、重い足取りで部屋を後にした。

「ちょっとダメだよ、何歩いてんの?」

台所につくとを発見。

どうやら包丁の音はの音だったらしい。

「なんでお前いんの?」

「えー?」

そう言いながらもしっかり俺は誘導されてそばにあったイスに座らせられた。

「重症だね、大丈夫?」

なんだよイキナリ。

「剛が迎えてくれたんだけど?」

はぁ?何言ってんの??

「ちゃんとピンポン鳴らして剛が迎えてくれて。あー、じゃぁあれから意識なし?」

の話によると、一応対応はしたものの、そのまま倒れ込んだらしく布団まで運んでくれたんだと。

たまには体重軽いのも役に立つじゃん。

「でもさ、なんで風邪ってわかったんだ?」

「朝さー長野くんから電話あったのー。なんか「剛が死にそうだから助けてあげてくれる?」ってさ。」

なんだ、長野くん、俺と同じこと考えないでよ。

ありがたみがねーじゃねーか。

「それも朝言ったんだけど?」

「ごめん、記憶が・・・」

「死なれちゃ困るから来たの。」

「・・・暇だったの?」

「別に。」

いつも暇だったらしっかり言うが別に。と答える。

あっちゃー、なんかあったよな、絶対。

案の定の携帯が鳴った。

「なってるぜ?」

「あ、でも今手離せないから。」

別にさー、そこまで隠さなくても俺妬かないよ?

「友達心配するんじゃないの?」

「バレてた?」

そう舌を出すとは自分の携帯のボタンを押した。

「もしもし。」

今日は友達と出かける予定だったらしい。

悪いことしちゃったなー。

でもよく考えると別に俺が悪いわけじゃねーよな?

勝手に長野くんが電話したわけであって、勝手にがうちに来たわけであって・・・

「ほんとごめんねー、じゃぁまた今度。はーい。」

・・・。

俺は悪くないからな。

「おかゆとかだったら食べれるよね?」

「ん?・・ああ・・まぁ。」

「ちゃんと野菜とかいっぱい入れといたからさ。」

は俺の前にデーンとどんぶりに山盛りなおかゆを渡した。

「ほら、風邪ひいたときは、いっぱいご飯食べて、いっぱい寝て、早くよくなってね。」

なんか・・これ食えんのか?

すげー適当・・もとい、ワイルドに野菜がぶちこまれてる。

「あーんしたぁげよっか?」

なんてがニヤニヤしている。

「いいよっ。」

言葉をふりはらっておかゆに手を出した。

「あっつっ・・・。」

「おいしい?」

「あつい。」

「熱くないとおかゆじゃないでしょー?」

そうだっけ?

「ねー剛くーん。」

なんだよ。

あれ、これ結構うまいじゃん。

「迷惑でした?」

「え?」

「え、だって一応さ、剛に呼ばれてきたわけじゃないしさ、勝手にいろいろやっちゃって。」

えーっと・・こういうときってどうしたらいいわけ?

なんか風邪のせいか頭がうまく回らない。

「ごめんね。あ、じゃぁご飯作ったし、帰るね。ちゃんとゆっくり休むんだぞ。」

立ち上ったを返すわけにはいかない。

なんでそう思ったかはわからない。

だけど、本能的に体が勝手に動いてた。

「帰んなよ。」

手をひっぱろうとしたのに、急に立ち上ってくらくらな俺はに倒れ込んだ。

「ちょっと大丈夫なの?」

慌てる彼女に嫌味のように言ってやる。

「死なれちゃ困るんだろ?だったらこんな病人ほって帰るんじゃねーよ。」

「迷惑・・じゃない?」

「いてよ。ここに・・いてよ。」

「じゃぁいる。」

なんて、すぐに笑顔に変わっちゃうんだもんな、お前。

そうだ。

「キスしたら風邪移るっていうよな。」

「え?」

そう言って俺はの唇を重ねた。

「ちょっとなにすんのよっ!」

真っ赤な顔してこっちを見てくる。

「お前が風邪ひいたら俺が看病してやるよ。」

ガキみてーに笑ってやった。