赤兎馬 〜本当に一日千里走れるのか〜

 赤兎馬とは三国志で有名な馬である。
 一日で千里を駆け、山や河を平地のように越えるという名馬である。
 三国志最強の漢、呂布や関羽が乗った馬である。

 ここで一つの疑問がある。本当に1日で千里も走る事が可能なのであろうか。
ちなみに1里は約3.9km。千里といえば3900kmである。
 そして、一日は24時間であるから、3900/24で一時間当たりの走る距
離が算出される。一時間に約162.5km進む事になるのである。つまり時速
162.5kmである。飛ばしすぎである。馬に乗っている方も24時間この速
度に耐えているわけであり、おそらく新幹線の屋根にしがみついているような気
分ではないだろうか。

 さらに調査をすると、1里は約36町であった。しかし、昔は1里は6町であ
ったが、後に36町に改正されたという。つまり、1里とは0.65kmであっ
たのだ。ということは、千里は約650kmである。
 1日千里とは650kmを24時間で走った事になるが、果たして1日を24
時間で考えて良いものだろうか?なぜなら、古代においては走行のために必要な
ライトはおろか、道の街灯すらないのである。現代社会と違って太陽が沈むと大
地は闇に包まれるのである。おそらく走行時間は日照時間にほぼ等しいと考える
のが妥当ではないだろうか。日照時間の長い夏では約15時間前後である。
 ということは、15時間で650km走ることになる。約時速43kmのペー
スで走行している事になる。もちろん実際は休憩のため立ち止まったり、登り降
りでペースダウンしているであろうから速度はそれ以上速い事になる。

 そこで筆者は実際に試してみる事にした。しかし、現代社会、しかも日本にお
いて馬に乗って再現する事は不可能である。ましてや赤兎馬など手に入れる事も
不可能である。
 そこで、筆者は現代社会の馬であるバイクを利用する事にした。
条件は、なるべく空気抵抗があるもので、風を受けるもの。そして、高速道路は
使わない。直線的で起伏の乏しい高速道路ではふさわしくないからである。山あ
り市街地ありの一般道路がより現実的である。

 これより出発である。
 ひたすら山あり谷あり街ありの一般道を1日走りつづけた。日中の暑さ、峠の
鋭いカーブなど、何気に過酷な状況であった。

 結果は、650kmを15時間で走ることは可能であった。だいたい15時間
で走り終えた。しかし、相当な疲労感を覚えた。バイクから降りると全身が重苦
しい。しかも、途中から目が充血してくる。なぜなら、ヘルメットをしていると
はいえ前からの風を長時間受けている訳だから目が乾いてくるのである。
 しかし、ここでさらに考えなくてはならないのは、馬に乗っているとめちゃく
ちゃ揺れるという事である。おまけにヘルメットなどは着けていないわけだから
風をもろに体に受けて進むのである。
 これらの事を考えると、現代の文明の力で1日千里走る事は一般人でも可能で
あるが、古代と同じ条件では不可能に近いと思われる。馬もすごいが乗る人間も
相当な力量が必要とされるのは間違いない。

 こんな事をやってのける赤兎馬は怪物である。そして乗り手の呂布、関羽も怪
物である。
 ・・・関羽の赤兎馬を奪った馬忠もこんな事ができるのだろうか。