第五十一回 ショカツリョウがカンウを斬らせようとしたとき、リュウビが、 「昔、我ら3人生死をともにせんと誓い合ったゆえ、後日に功をもって償わせて 下さらぬか。」 と言ったのでショカツリョウはようやく死罪を免じた。 さてシュウユはそれぞれの軍功を記録してソンケンに報告し、さらに兵を南郡 に進めた。そこにリュウビよりの祝賀の使者としてソンケンが来た。しかし、リ ュウビが油江口にいることで、彼らも南郡を狙っている事を知り、シュウユは自 ら返礼に行く旨を伝えて彼を帰した。 そして、自らロシュクとともに騎馬三千を率いて油江口に向かった。 ソンケンはシュウユが返礼に来る事をショカツリョウに伝えた。するとショカ ツリョウはシュウユが南郡を攻めるために来ると察知した。そしてシュウユが来 たことを聞くと、チョウウンを迎えにやらせた。リュウビはシュウユを厚くもて なした。シュウユは、 「このような所に兵を置くのは南郡を取ろうとするおつもりじゃな。」 と言うと、ショカツリョウは、 「都督が南郡をお求め故に加勢し参ったのですが、お取りにならないのであれば 我々が頂きますが。」 と言った。シュウユは笑って、 「南郡は我々で取る。もし取れねば貴公が遠慮なくとられい。」 と言った。ショカツリョウは 「男に二言はござらぬな。」 と念を押して言った。 シュウユ等が帰った後、リュウビは南郡は呉の物になってしまうのかと嘆いた が、ショカツリョウは、 「以前荊州をお取り下されと言ったときは耳も傾けられなかったのに。」 と皮肉って、 「今、シュウユに存分にやらせておけば、南郡は殿のものとなります。」 と言って、計略を語った。 さて、早速シュウユは、我こそと進み出たショウキンとジョセイに南郡を攻め させた。しかし、ショウキンとジョセイはソウジンの前に破れてしまった。怒っ たシュウユは彼らの首をはねようとするが、大将達のとりなしで見逃した。次に カンネイが出てソウコウを攻めて城を取るが、逆にソウコウとソウジンに挟撃さ れ、シュウユに救われた。シュウユは城を乗っ取ろうとするが、チンキョウの矢 を受けて負傷したので兵を退いた。 そして、シュウユは痛みに苦しみながらも、計略を用い、自分が死んだという 偽情報を流した。 ソウジンはシュウユ死すの情報で、夜襲をかけようと自らソウコウ、ソウジュ ン、ギュウキンを率い、留守をチンキョウにわずかな兵を与えて守らせた。 敵陣に突入したソウジンだが、これが計略であることに気付くが遅く、シュウ ユらに囲まれ、大敗し襄陽に落ち延びた。 シュウユは兵をまとめて南郡に向かったが、すでに城はチョウウンに落とされ ており、 「都督殿、それがし軍師の命により当城をもらい受ける。」 シュウユは大いに怒って攻め取ろうとするが、上から矢を浴びせられやむなく 陣屋に引き返した。 その後、シュウユのもとに、「ショカツリョウの計略で襄陽も、「ソウジンが 加勢を求めている。」という偽情報を用いてカコウトンを欺き、カンウに乗っ取 らせた。」という報告が入った。 それを聞いたシュウユは、あっと一声叫んで傷口が張り裂けた。 さて、シュウユの命は。それは次回で。
第五十二回 シュウユはショカツリョウに南郡を目の前で奪われ、荊州、襄陽も取られたと あっては腹を立てずにいられなかった。かっとなった拍子に矢傷が裂け気を失い、 半時余りしてようやく生き返った。大将達が口々になだめるが聞き入れずに南郡 を奪い返そうとする。ロシュクも、 「都督、今は魏を討つが先決ですぞ。」 と言って、さらに、 「それがしがリュウビと対面し、道理を説いて話してみましょう。それでも聞き 入れられぬ時、力ずくで押せばよろしいではござらぬか。」 と言って荊州に向かった。 荊州でロシュクはショカツリョウに会い、 「先にソウソウが江南に攻め入ったのは劉皇叔を滅ぼすため。それを退け危機を 救ったのは東呉でござる。さすればソウソウの領していた荊州は当然我が東呉の もの。莫大な犠牲を払った東呉をよそに利益を独り占めにされるとは余りに無道 ではござらぬか。」 ショカツリョウも、 「この地はもとはリュウヒョウ殿が治められていたもので、我が君はリュウヒョ ウ殿のご舎弟であらせられる。ご子息リュウキ殿の叔父として助けてこの地を治 めておられるのに何の不思議がござるか。」 「ならば、公子がお亡くなりになられたらどうされる。その時は東呉にお返し下 さろうな。」 「承知いたした。」 話のついた二人は酒宴を開いた。そして、宴が終わるとその夜のうちに戻ってシ ュウユにこの事を伝えた。するとシュウユは、 「リュウキはまだ子供ではないか。いつになったら東呉のものになるかわからぬ ではないか。」 「いえ、それがしの見たところ、リュウキは病におかされ後半年も持ちますまい。」 シュウユはそれでも怒りがおさまらなかったが、ソンケンが援軍の使者をよこ したので、やむなくテイフに命じて援軍に向かわせた。 リュウビはイセキの進言でバリョウを迎えた。バリョウはリュウビに 「南方の零陵、武陵、桂陽、長沙を取り基盤を固めるべきでござろう。」 と進言した。 まず、零陵のリュウドをショカツリョウが平定し、太守のリュウドはそのまま 現職に就かせた。 チョウウンとチョウヒは、我こそが桂陽を落とすと言い争っていたが、チョウ ウンは桂陽は三千で十分落とせると言って誓紙をしたためて、攻めに行った。桂 陽の太守チョウハンは降伏しようとしたが、チンオウが、 「それがしがチョウウンを討てなければ降参なさればよいではございませぬか。」 と言って軍勢を率いて討って出た。しかし、チョウウンと4、5合いして捕らえ られ、釈放された。 リュウドはチンオウに 「だから最初から降伏すると言ったではないか。」 と怒ってチョウウンを迎え入れた。 同姓、同郷のよしみでチョウウンとチョウハンは兄弟の契りを結んだ。そして、 チョウウンの方が4ヶ月生まれがはやかったので兄となった。チョウハンは宴席 で嫂の樊氏を呼んで、 「未亡人となりまして3年。よろしければ娶っていただけませぬか。」 と言ったところ、チョウウンは怒って席を立って、 「そのような人でなしの事ができるか。」 と彼を殴って城を出た。 チンオウとホウリュウは偽りの投降をしてチョウウンを討とうとしたが、見抜 かれて首をはねられた。 リュウビは桂陽に入って、チョウウンの縁組みをチョウハンから聞くと、 「何故、このような良い話を断ったのじゃ。」 「それがしチョウハンと兄弟の契りを結んだ故、その嫂と結ばれては名を汚しま す。これが理由の一つ。人の妻となった者が再縁すれば女としての節操を失いま す。これが理由の二つ。今は女にうつつを抜かしている時ではござらぬ。」 リュウビは 「男の中の男じゃ。」 と褒め称え、チョウハンを許してもとの太守に就かせて、チョウウンに厚く恩賞 を与えた。 そこにチョウヒが、 「俺だって、三千で武陵のキンセンを破ってみせる。」 と言う。ショカツリョウは喜んで、 「異存はないが行かれる前にやってもらいたいことがある。」 と言う。 さて、何を言い出すか。それは次回で。
第五十三回 さてショカツリョウはチョウヒに、 「チョウウン殿と同じく誓紙をしたためてもらいたい。」 と言った。チョウヒはその場で誓紙をしたため三千で武陵に攻め入った。 従事のキョウシが降伏を進めたが、キンセンは怒って自ら軍勢を率いて討って 出た。しかしチョウヒにかなわぬと逃げ帰るが、キョウシに、 「我らは領民と共に降伏する。」 と言って城から矢を浴びせられ首を取られた。かくて城は落ち、リュウビよりキ ョウシは武陵の太守に昇格した。 次に、荊州のカンウがチョウヒと守備を交代し、長沙に攻め入った。しかし、 長沙には猛将コウチュウがおり、カンウは彼と百合い以上したが勝負がつかなか った。 翌日、再戦するが勝負がつかず、カンウが馬を返して退くと、後ろでコウチュ ウの馬がこけた。カンウはコウチュウのもとに行ったが、 「ここは見逃してやる。馬を代えて出直してこい。」 と言った。コウチュウは城に逃げ戻った。 翌日、コウチュウを討てないで苛立つカンウが追って来た。コウチュウは逃げ て得意の弓で射抜こうと誘ったが、カンウの兜を射抜いて昨日の返礼をした。 城に帰ると、戦いを見ていた太守のカンゲンが二人が内通しているので決着が つかないと思い、コウチュウを処刑しようとした。しかし、そこに以前襄陽から 落ち延びてきていたギエンがカンゲンを斬り棄て彼を救った。そしてその首をカ ンウのもとに届けた。かくして、コウチュウとギエンはリュウビの配下となった が、ショカツリョウは、ギエンの処分で、 「主を殺すとは不忠きわまりない。即刻首を打て。」 と命じた。しかし、リュウビの取りなしもあって彼も配下に加わった。 さて、ソンケンとソウソウは赤壁の戦いの後も幾度も戦っていたが、決着が着 かないままであった。そこに、チョウリョウからソンケンに挑戦状が送りつけら れ、怒ったソンケンは攻め込むが、危うく討たれそうになり、ソウケンは守って リテンの矢に討たれてしまう。そしてテイフに守られ陣屋になんとか帰ることが できた。 タイシジは、敵城内に内応の噂を流して混乱させようとしたが、これもチョウ リョウに阻止され逆に矢を浴びせられて負傷してしい、リクソンとトウシュウに 救われて退却した。一旦チョウショウはソンケンに戦いをやめるように進言し兵 を退かせた。タイシジは養生したがこの傷がもとで息絶えた。 ソンケンが破れたころ、リュウビの所ではリュウキが病没した。その知らせを 聞いたロシュクが弔問に訪れ、 「お約束通り荊州を東呉に返還していただきたい。」 とショカツリョウに迫った。 さて、ショカツリョウの返答はいかに。それは次回で。
第五十四回 さてショカツリョウは、ロシュクに 「我が君はリュウヒョウの兄上。兄の跡を弟が継ぐのは当然ではござらぬか。ま してや劉氏でもない孫子が荊州を預かるのはおかしいとは思われませぬか。」 「しかし、それでは荊州を東呉に返還するというお約束を破られることになりま すぞ。それではそれがしの面目も立ちませぬ。」 「いや、それならば我が君に蜀一国を得られるまで荊州を拝借したす旨を誓紙に したためるよう勧めます。それならば面目もたちましょう。」 ロシュクは誓紙を持ってシュウユのもとに帰ったが、シュウユは口惜しがった。 数日後、リュウビの妻甘夫人が亡くなり、シュウユはソンケンの妹を新しく妻 にすることを勧めた。早速、リョハンを使いにやって縁談を取り持った。 シュウユは結婚を口実にリュウビを呼び寄せて殺そうとする策を立て、ソンケ ンも大いに賛成した。しかし、シュウユの企みは呉国太にも伝わり、 「策もない故に我が娘をも利用するとは。彼が死んでしまえば娘は嫁入り前に後 家となり、二度と嫁にいけぬではないか。」 と大いに怒った。ソンケンも返す言葉がなかった。 呉を訪れる際にショカツリョウは、チョウウンに三つの錦を与えた。そして、 「呉に着いたら、順に開けられよ。計略が記してござる。」 と言った。 リュウビはチョウウンと共に呉を訪れ、呉国太に会った。呉国太はリュウビを 気に入ってしまい婚姻は成立した。リュウビは庭に出て 「無事に荊州に帰り、覇業が成るならば二つになれ。」 と思って石を剣で切った。すると石は二つに割れた。それを見ていたソンケンは、 「何をされているのですか。」 と訪ねた。リュウビは、 「ソウソウが破れるならば二つになれ。と念じて切ったのです。」 と言った。ソンケンも、 「ならばそれがしも。」 と言って、実は「再び荊州を取り戻し呉が栄えるならば二つになれ。」と念じて 剣を振ると石は二つに切れた。 数日後、リュウビと孫夫人の挙式は盛大に行われた。その夜、リュウビは花嫁 の部屋に行こうとすると、薙刀を持った侍女が並んでいた。さては東呉に計られ たかと思う。 さて、これは如何なることか。それは次回で。
第五十五回 侍女達が薙刀を持っているのを見て驚いていると、 「お殿さま、奥方様は幼いころより武術をお好みで常に侍女達に撃剣をさせては お楽しみ遊ばれていたゆえ、このようにされているのでございます。」 「これは女のすべき事ではない。落ちつかぬからしばらくとりはらってくれい。」 と人払いをした。 シュウユは孫夫人が嫁に取られたのを知って大いに驚き、呆然としていたが、 しばらくして一計を思いついた。それは、リュウビに美女を送り、館に住まわせ て呉に引き留め、その隙に攻めるというものであった。 ソンケンは大いに喜んで早速、館と美女を与えた。呉国太もソンケンの好意で あると思い、大いに喜んだ。そして、リュウビも荊州に帰ることも忘れて楽しん でいた。 年も暮れかかるころ、チョウウンは、ショカツリョウから渡された錦を思いだ し中を見た。そして、リュウビに魏が荊州に攻め込んだと言って、荊州に戻るよ うにさせた。そこで、リュウビは元旦に、祖先の霊を祭りたいと言って、孫夫人 を従えて脱出した。チンブ、ハンショウ、ショウキン、シュウタイ、ジョセイ、 テイホウが追ってきたが、チョウウンは錦を開いて、リュウビにそれを見せた。 リュウビは今回の婚儀が呉の謀略であった事を孫夫人に話し、孫夫人が怒って、 「兄が私を他人同然に扱ったのなら、私も二度と兄と会うつもりはございません。」 と言って、追手に向かって、 「お前達はシュウユの言うことは聞いても、わらわの言うことが聞けぬのか。」 となじり、軍勢を引かせた。 リュウビらは、劉郎浦に入りショカツリョウらに迎えられた。そして、リュウ ビが船を進めるうちに、シュウユ自ら大軍を率いて追ってきた。ショカツリョウ は岸に上がって黄州の境まで来ると、カンウの軍が討って出て、追ってきたシュ ウユは慌てて逃げ出した。 そして、リュウビ等の兵から 「夫人を取られて、戦にも勝てぬ。」 とはやし立てられて、南郡で受けた古傷が開いて昏倒した。 さて、シュウユの命は。それは次回で。
第五十六回 シュウユは、大将達に手当されながら船を出して逃げ去った。 知らせを聞いたソンケンが荊州に攻め込もうとしたが、チョウショウは諌めて、 「ソウソウとリュウビを噛み合わせて、その隙に荊州を奪いましょう。」 と進言した。そして、カキンに上奏文を持たせて許都に向かわせた。 時に建安15年、銅雀台が落成したので盛大な祝賀を催した。 そして、宴の中大将達がみな弓を競い錦を奪い合った。そして最後にはジョコ ウとキョチョが争い錦は跡形もなくなってしまった。 ソウソウモウトクは笑って、 「そなたらの手並みを見たいと思っただけじゃ。錦の1枚や2枚惜しくはない。」 と言って、大将みなに蜀錦をとらせた。 そして、さらに宴は盛大になり、ソウソウは筆を取って銅雀台の詩を作ろうと した。 そこに、ソンケンの使者、カキンが荊州のリュウビを荊州の牧に推挙する上奏 文を携えてきた。 テイイクは、 「これは我らとリュウビを戦わせるための呉の策ですぞ。おそらくシュウユの仕 向けたものでしょう。」 と進言し、 「シュウユを南郡の太守、テイフを江夏の太守とし、カキンを朝廷に留めて重用 いたせば、やがてシュウユとリュウビは戦い始めましょう。」 と策を言い、ソウソウはすぐさまこれを用いた。 シュウユは南郡の太守に封ぜられて以来、荊州を取ろうと、ロシュクを使わせ た。そして、 「いつ西川をとり、荊州を返して下さるのですか。」 とロシュクは問うと、ショカツリョウは 「西川のリュウショウは我が君の弟にあたられ、いずれも漢皇室の血を受け継が れております。もし兵を起こせば天下に恥をさらす事となります。よって、呉に 荊州をお返しすることも西川を攻めることもできずに、我が君は悲しんでおられ るのです。」 と言った。 ロシュクはこれをシュウユに伝えると、シュウユは悔しがった。しかしすぐさ ま策を思いつき、西川を呉が取ってやるという旨をロシュクに伝えさせた。 しかし、ショカツリョウは、西川を取ると見せかけて荊州を奪いに来ると見抜 いて、チョウウンに計略を授けた。 さて、シュウユは、ロシュクからリュウビとショカツリョウががたいそう喜ん でいた事を聞くと、笑って兵を挙げて荊州に向かった。 荊州に着き、城下に来て門を開けろと叫ぶと、 「都督のご到着ぞ。」 と城壁から声がして城壁に兵士が現れた。そして、チョウウンが、 「都督が自ら来られるとは何用か。貴公の謀略は既に判っておる。」 これを聞いて慌ててシュウユは兵を退こうとしたが、そこにカンウ、チョウヒ、 コウチュウ、ギエンがこちらに向かっているという伝令が入り、あっと叫ぶなり 矢傷が裂けてもんどりを打って馬から転げ落ちた。 さて、シュウユの命は。それは次回で。
第五十七回 シュウユは、左右の者に助けられて船に戻ったが、そこに、リュウビとショカ ツリョウが前の山でうれしそうに酒を呑んでいると知らせが入り、 「おのれ、わしには西川が取れぬと思っておるのか。こうなったら誓って取って 見せる。」 と悔しがった。そこに、ショカツリョウから「西川は兵が強く地堅固故、遠征を して魏に虚を突かれたら呉はおしまいだ。」と書面が届いた。 シュウユは、深い溜息をついて 「何故、天下はショカツリョウを生まず、我一人にしなかったのか。」 と繰り返し叫んで息絶えた。 シュウユの遺書は、ロシュクを後継に推挙したもので、ソンケンは悲しみで泣 きながら、ロシュクを都督にした。 ショカツリョウはシュウユが死んだことを知ると、弔問に訪れた。その帰りに ホウトウに会い、 「呉ではあまり重用されていないだろう。気が向いたら来ないか。」 と言って別れた。 ロシュクはソンケンにホウトウを推挙した。しかし、ソンケンはシュウユの上 を行く者などおらぬと思っており、また、ホウトウの容姿や態度もあまり気に入 らなかった。ロシュクは、連環の計を進言したのは彼だと言っても、 「ソウソウが勝手にしたことじゃ。」 と言って用いようとはしなかった。 ロシュクは、ホウトウを訪ねて、リュウビに推挙した。ホウトウは書面を持っ てリュウビを訪れたが、この時ショカツリョウは四郡の巡視に出ていて不在であ った。リュウビもソンケン同様、容姿や態度があまり気に入らなかったので、と りあえず空いている県令の席を与えただけだった。ホウトウもショカツリョウが 不在だったので、ロシュクからもらった書面を見せずに下がった。 ホウトウは県令に着任しても一切の仕事をしなかった。そこである者からの知 らせを聞いて、リュウビは腹を立てて、チョウヒに巡視に向かわせた。 チョウヒが来るとホウトウは、百日余りためていた仕事を目の前で片づけた。 これにチョウヒは驚いて 「先生の才を存じ上げず、大変無礼つかまつりました。それがしより兄者によく 推挙いたします。」 と言った。そう言われてホウトウは書面を渡した。 「何故、兄者と対面された時にこれを出されなかったのですか。」 「出せば、推薦状を頼りに仕官を求めるような形になるではござらぬか。」 と言った。チョウヒは荊州に戻りホウトウの才を伝えた。 リュウビは慌ててホウトウを迎えた。ショカツリョウが戻ってホウトウと再会 した時、彼はショカツリョウからの推薦状を見せた。 リュウビはホウトウを副軍師中郎将任じた。 ソウソウは、呉と荊州が手を結んだので近々北伐の恐れがあると警戒した。そ こで、以前流言のあった西涼のバトウを警戒して、バトウを召しだした。 しかし、バトウは亡きトウショウともに逆賊を討てという帝の密詔を持ってお り、息子のバチョウの進言で、都に行ってから機を見て行動を起こせばよいとし た。バトウはバキュウ、バテツ、バタイを引き連れて許都に向かった。 ソウソウモウトクはバトウが着くとコウエンの子コウケイに迎えに行かせた。 コウケイはバトウを訪ね、 「我が父コウエンはリカク、カクシの乱で命を落とし無念に思っていましたが、 また逆賊に会うとは思いもよりませんでした。」 と言って、バトウを驚かして、 「貴公は衣帯の密詔をお忘れか。」 と本心を言った。 そして、手を組んでソウソウを討とうとした。しかし、コウケイはそれを妾に 漏らしてしまい、妾はそれをソウソウの耳に入れた。事が露見しコウケイとバト ウ、その子バキュウは首をはねられた。バタイはやむなく軍勢を棄てて落ち延び ていった。 一方、ソウソウはリュウビが西川を取ろうとしている事を知り愕然とした。そ こに 「それがしに一計あり。」 と策を献じた。 さて、この男一体誰か。それは次回で。
第五十八回 さて、策を献じた男は治書侍御史チングン。チングンが言うに、 「リュウビが西川を狙っているうちに呉を滅ぼしましょう。」 ソウソウもこれに同意して30万の兵を起こそうとした。 この知らせを聞いた呉ではロシュクが、荊州に加勢を求めようとソンケンに進 言し、荊州に向かいショカツリョウに加勢を求めた。ショカツリョウは、ロシュ クに 「我らは兵を動かさずにソウソウを止めて見せましょう。」 と言って、西涼のバチョウに軍を起こす事を進める書面を送った。 バチョウはバタイから、バトウ、バキュウの死を伝えられ、復讐を誓う。そこ にリュウビからの書面を受け取り、西涼の太守カンスイとともにバトウの仇討ち と逆賊討伐に兵を起こした。バチョウはホウトクの活躍で長安を落とした。 ソウソウはソウコウが大敗したのに大いに怒って自ら兵を進めた。バチョウは ソウソウを見るなり槍をしごいて飛び出した。ウキンが出て両者ぶつかり合うが、 8、9合いしてウキンが敗走した。これに代わってリツウが出たが数合いして一 撃で突き落とされた。ソウソウはさらに追われ、 「長い髯の奴がソウソウじゃ。」 と言われ髯を切って逃げた。 バチョウは追走するが、途中ソウコウとカコウエンが立ちはだかった。バチョ ウは一人で深入りしてはと馬を返した。 ソウソウはバチョウが目の前に兵を集めるのを見て挟撃の体勢に入ろうとした が、バチョウに襲いかかられキョチョが奮戦して食い止めている隙にソウソウは 逃げ延びた。 その後、カンスイとホウトクは5万の軍勢を率いて殺到したが、落とし穴には まり、バチョウの軍勢に助けられた。 そして両軍日暮れまでもみ合って帰陣した。 その夜、バチョウとカンスイは夜討ちを仕掛けようとした。 一方、ソウソウは敵の夜討ちを読んで伏兵を仕掛けておいた。 その夜、バチョウがセイギに30騎与えて物見に行かせた。セイギは人影がな いので本陣まで入り込んだ。そこに伏兵が周りを囲めば30騎だけ。カコウエン がセイギを斬って棄てたところにバチョウ、ホウトク、バタイが押し寄せた。 さて、この勝負どうなるか。それは次回で。
第五十九回 この夜の戦いは明け方までもみ合いになった。 その後、ソウソウは土城を築こうとするが、城壁を作ろうとするとバチョウが 攻めかけ、その上、土がやわらかくできあがりかけると崩れてしまう。そこにロ ウシハクが現れ、寒気を利用し土に水をかけて一夜にして城を築く方法を授けた。 バチョウは、一夜にして氷の城が築かれたのを見て驚き、そこにキョチョが出 てきたので逃げ帰った。 そして、改めてキョチョを呼び出して一騎打ちをするが勝負はつかなかった。 ソウソウはカクの策により、バチョウとカンスイと和睦を計った。そして、所 々墨塗りにした書面をカンスイに渡した。これを見たバチョウはカンスイが内通 していると疑い、仲違いを始めた。ついにカンスイは本当に内通をしてソウソウ についてしまった。怒ったバチョウは攻め進んだが敗退し、安定のあたりまで下 がった。 漢中のチョウロは西涼のバトウが討たれ、バチョウが破れたと知ると、次は漢 中かと警戒し、益州のリュウショウを討って足場として迎え討とうと考えた。 一方、リュウショウは、チョウロの動きを知って急いで役人を集めて協議した。 そこに一人の男が、 「殿、チョウロが西川に目も向けられないようにして進ぜましょう。」 と進み出た。 さて、この男は一体誰か。それは次回で。
第六十回 さて、献策したのはチョウショウであった。 「それがしが許都に行ってソウソウに漢中を滅ぼすように説得して参ります。」 リュウショウは大いに喜んでチョウショウを使者に立てた。 許都に着いたチョウショウはソウソウに会うが、その容姿と言葉にソウソウは 袖を払って奥入ってしまった。 そして、ヨウシュウが出てきてチョウショウの態度を責めた。しかし、チョウ ショウはヨウシュウを論破し、仰天したヨウシュウは再びソウソウに取り次いだ。 ヨウシュウは、 「丞相の「孟徳新書」を見せましたところ、ただの一度で暗記いたしました。」 と彼の才を伝えた。ソウソウは、 「古人のものとわしのがたまたま一致していただけかもしれぬ。」 と言って、孟徳新書を破いて焼き捨てた。そして、 「わしの軍を見せてやれ。国へ帰ったら西川を攻めてやると伝えよ。」 と言った。 翌日、チョウショウはソウソウの軍を見て馬鹿にした。周りが諌めたので死罪 は免れ、棒打ちにされた。 客舎に戻ったチョウショウは、 「ソウソウに西川をくれてやるつもりだったのに、あのような無礼な奴とは。殿 に大言を吐いた手前どうしたものか。」 と、考えて、荊州のリュウビのもとに馬を走らせた。 途中でチョウウンに迎えられ案内された。チョウショウは厚くもてなされ、西 川をリュウビに託そうと考えた。そして、蜀への道が記された地図を献上した。 帰ってチョウショウは、親友のモウタツとホウセイとともにリュウビを迎え入 れるようにリュウショウに進言した。リュウショウは喜んでホウセイを使者に使 わした。 ホウセイが荊州に着いてリュウビを迎える話をすると、ホウトウは今が西川へ 出るときと行って西征を勧めた。そして、リュウビはホウトウ、コウチュウ、ギ エンとともに西川に向かった。リュウショウは道中、金銀兵糧を与えて厚くもて なした。 しかし、リュウショウの側に仕えるコウケン等が、リュウビを迎え入れれば益 州は彼に奪われると諌めたが、 「兄者に二心あろうはずがない。」 と信じて疑わなかった。 さて、ホウトウは、リュウビに宴席を設けてその席でリュウショウを討つこと を勧めた。しかし、リュウビは同族を討つことはできないと同意しない。 さて、リュウビの心内は。それは次回で。