対戦物語

〜第1章〜
〜国家誕生〜
〜第6部〜
〜三国同盟〜
介子嬰
入江領主
龍牙
入江軍師
籠範安栄
北原領主
神農
中原領主
孫亮
北海領主
桜恋
介子嬰妻
州麻
入江将
龍華
入江将
圭明
入江将
龍角散
介子嬰側近
介子良
入江将
呂音
入江将
美土里
中原使者

中原使者将
嘆豹瑛樺
北原将
 介子嬰曰く、 「ついに来るべきものが来たというところだな。戦うべきか、従うべきか皆の意 見を聞きたい。」  州麻曰く、 「この世に生を受け一度は、天下を夢みた者がおとなしく人の後についておるこ とができるのでしょうか。」  龍牙曰く、 「確かに州麻殿の言われるとおりであるな。例え人の後につくことができたとし てもそれは、共に戦った者に限ります。敵として相対した者の後につくことは適 いません。」 「もし、中原が本気で天下に覇を唱えようとするならば、家臣達は許されて中原 に仕官することができても、殿や私のように一度領主となった者は、北原や北海 の領主達に見せしめるために天下争乱の罪を被され許されることはないでしょう。 殿と神農は倶に天を戴くことはできない敵同士です。」  龍魅曰く、 「しかし、今戦端をを開いてこの入江が中原に勝利する見込みはあるのでしょう か。」  龍牙曰く、 「中原は確かに他の諸侯に倍する国力を保持し、天下に最も近いといえるでしょ う。また、入江を包囲していると申していることも事実でしょう。しかし、中原 のみで北原、北海、入江をはじめとした他の諸侯を一度に相手にするほどの力は ございません。もし、北原、北海、がこぞって中原の敵に廻れば包囲されている のは入江では無く中原ということになります。中原を包囲することができれば勝 機はあります。」  介子嬰曰く、 「北原はまだしも、果たして北海を中原包囲網に引きずり出せるかな。」  龍牙曰く、 「中原にしてみれば、逆包囲を受ける前に、北原、北海と境を接していない入江 を臣従させるか各個撃破するかして、河南を制圧し後顧の憂い無く全力で北伐を 敢行し、北原、北海をを圧倒し、一気に天下を決するつもりでしょう。つまり、 入江の滅亡は、北原、北海の滅亡に繋がることを説けば北海を包囲網に取り込む ことは可能かと思います。」 介子嬰曰く、 「桜恋よ、戦費の調達はどのくらい可能か?」 桜恋曰く、 「河の氾濫で備蓄は、殆ど使い果たしております。いかに圭明殿が手際よく治水 工事をされたとしてもすぐには備蓄を増やせません。少しの時を稼げれば、圭明 殿の治水工事の効果も現れ国力が充実いたすものを.....。来年の備蓄をそ のまま戦費といたしましても1会戦分がやっとでしょう。」  介子嬰曰く、 「圭明よ、この国で知略においてそなたに比肩する者はいない。」 「中原包囲網ができたとしても、その包囲網が脆弱では話にならん。包囲網を強 固なものにするためにも、この国が中原に対して1勝し、北原や北海にみせるこ とが必要である。」 「もし、中原包囲網ができなくても、1勝できれば、中原は入江に簡単には攻め 込めなくなるであろう。その1勝を導く策はないか」  圭明曰く、 「確かに、殿の言われるとおり1勝は必要でございましょう。また、今の入江で は中原に対して1勝することがやっとでございましょう。戦が長引けば入江は必 ず敗れることでございましょう。」 「この入江が中原に勝るものがあれば、それは、水軍のみでしょう。そこで、私 に策がございます。水軍随一の州麻殿の部隊をお借りし、殿には魚油を集めてい ただきとうございます。」 「おそらく中原は、来年の収穫を終えてから攻めてくるでしょう。その時が戦の 時となるでしょう。」  介子嬰曰く、 「そうか、火を使うのか。よしわかった桜恋に命じ国中の油を集めよう。」  州麻曰く、 「少し、お待ちください圭明の両親は、中原の将ではございませんか。そのよう な者の言葉で入江の命運を決する戦を行うというのですか。私には納得がいきま せん。」  介子嬰曰く、 「もし、入江に圭明がおらなければ、中原と矛を交えることは玉砕必至の戦いと なるだろう。そのような愚かしい戦いをするのであれば、中原に臣従した方がま しだ。圭明が裏切るというのであれば、それもいたしかたない。入江の命運はそ の時に決まったも同然である。」  州麻曰く、 「しかし!」  介子嬰は、ゆっくりと立ち上がり傍らの水瓶に近寄り、銅剣で水瓶を叩き割る。  介子嬰曰く、 「黙れ!入江は中原と戦うことに決した!以後異議を唱える者あらば、この水瓶 のようになるものと心得よ!」 「州麻は後ほど私の部屋へ参るように。軍議はこれにて解散とする。」  介子嬰の部屋にて  介子嬰曰く、 「洲麻よ、この入江が天下に覇を唱えることは、お前の父親の悲願でもあった。 その悲願を達成しようと思えば、圭明は必要不可欠な人材だ。中原の活や明に対 抗できる知略を持っているのは圭明だけなのだ。」  洲麻曰く、 「しかし、圭明をまだ信用することができませぬ。他の国とのことならいざしら ず、中原とのことは、親をとるか、入江をとるかの選択に他なりません。普通で あれば親をとることでしょう。」  介子嬰曰く、 「確かに、普通であれば洲麻の言うとおりかもしれん。しかし、圭明を信用せず その才を用いなければ天下に覇を唱えることはできぬであろう。天下に覇を唱え ることができなければ、いずれ入江は滅びるであろう。」 「洲麻よ、圭明を信じろとは言わん。この私をしんじてくれ。」  洲麻曰く、 「わかりました。殿を信じることにいたします。圭明の指揮下にはいることにい たします。」  翌日、介子嬰曰く、 「42年に中原に攻め込むことに決した。ついては皆の者に役割を命じる。」 「龍華は北海に龍美、龍魅は北原に使者として赴け。口上は、先日龍牙が申した ように入江の危機はやがて北原、北海の危機となることを説き、42年に北原は 中原の都に向け、北海は旧平原の沿岸部分の拠点の制圧を頼むのだ。」 「特に龍華は、北海に対し同盟まで得られなくても良い。42年に出兵してくれ れば良い。」 「桜恋は国中の魚油を集め輸送隊を組織し、圭明と部隊2と行動をともにせよ。」 「部隊1、部隊3、輜重1は私と行動を共にせよ。」 「さらに市は部隊2を補助し、龍牙は私の側近くに侍し、軍師として私を補助し てくれ」  龍角散曰く、 「殿!それでは、入江の留守を守る武将がおりません。誰かが謀反をおこしたら 入江の都を失います。」  介子嬰曰く、 「入江の都に武将も兵もおらぬのに誰が謀反を起こすというのだ。」  龍角散曰く、 「ああ、そうでございますな。」  介子嬰の部屋にて、介子嬰曰く、 「圭明よ作戦は、どのようにいたす。」  圭明曰く、 「進撃路はこのようになります。ここで、殿は、部隊1と輜重1を率いて中流の 拠点で部隊3と合流していただき、ここで陣を張っていただきます。黄色で示し た経路でございます。この際旗は、部隊3のみのものをしようください。部隊1 と輜重1は拠点内に姿を隠し中原の部隊にその所在を知られてはなりません。」 「続いて、私と部隊2は先行し、河の上流で待機し、部隊3のみと思い数を頼み 中原軍が河を渡りましたらば、上流より一気に下り、中原の渡河根拠地を焼き討 ちいたします。青で示した経路です。  この際魚油を備蓄100使用いたします。焼き討ちを行うのは、中原の予想渡 河点でございます。」 「火の手を合図に殿は、全部隊を率い、中原の軍に攻めかかってください。この 際注意しなければいけないのは、決して包囲せず、なるべく殺さず、中原の兵に 船に乗って逃げる間をお与えください。」 「殿は、敗走する中原軍に着かず離れずの距離を保ち、中原の都まで追い立てて ください。さしずめ羊を囲いに追い込む要領でございます。この際追い立てる速 度が、この作戦の成否の鍵を握っております。なるべく敗走を急がせ、中原軍の 混乱を拡大してください。」 「次に、殿は、敗走する中原軍とともに中原の都に突入し、町に火かけ、建築中 の宮殿を灰燼に帰してください。焼き討ちを行った後は、私が率いていった水軍 の兵船により全部隊を本国に戻します。」 「この作戦は、敵の大将首よりも、中原の都に火をかけることが最大の目標でご ざいます。また、この程度の勝利では中原を滅ぼすことはできないので、すぐに 兵を引き上げ勝利を確定してください。さすれば、中原軍の中に、入江兵への恐 怖心を植え付けることもでき、北原、北海に対して、対中原同盟誘う格好の材料 となりましょう。」  介子嬰曰く、 「ふむ、わかった。」 「しかし、中原軍が大軍で向かってこなかったり、北海や北原が同時に中原に攻 め込んで、少数の部隊しかこず、対岸の拠点に止まった場合はいかかがいたすの じゃ。我が軍には長期の対陣をするだけの備蓄が無いぞ。」  圭明曰く、 「その時は、中流の拠点に部隊3を残し、部隊1と輜重1は夜陰に乗じ、対岸の 拠点より上流で上陸し、一路中原の本拠地を目指してください。そこで、敵の本 拠地守備隊が迎撃してくれば、本拠地守備隊を殿の部隊が引きつけていただき、 その間に私が中原の本拠地に火をかけます。 本拠地に火の手が上がれば、本拠地守備隊は動揺するでしょうから、中原の本拠 地守備隊が退却を開始を機に殿の部隊は突撃をし、規定の退却路にて入江にお戻 りください。もし、本拠地に立て籠もるようならば、私の部隊と合流し、夜襲を かけ焼き討ちにしましょう。」 「その際部隊3は、対岸の中原軍が殿の部隊を追うような姿勢を見せればすぐに 攻撃を仕掛け、足止めをさせてください。」  介子嬰曰く、 「私を囮に使うのか、ははは、よし、それでいこう。」 「部隊の進退の合図は、歴戦の勇士である龍牙に任せよう。」 「備蓄は残りすべてを持って参る。」  大広間にて  介子嬰曰く、 「それでは、それぞれの任務を個々に命ずる。」 −−−−略−−−−−−−  介子嬰曰く、 「出発時期は、介子良の婚儀が終わった後とする。」  介子良曰く、 「国の一大事であれば、私どもの婚儀は戦いが終わった後の方がよろしいのでは ないでしょうか。呂音殿も結婚してすぐに夫を失うのでは、あまりにかわいそう でございます。」  呂音曰く、 「介子良殿、優しいお心遣いありがとうございます。私へのお心遣いでしたらお 気になさらずに存分に戦ってください。」  介子嬰曰く、 「さすがは、領主の娘であるな呂音殿は。しかし、二人とも心配いらぬ。この戦 いは生き残るための戦いじゃ。ここにいる皆は、必ずこの大広間で生きて相見え るのだ。」  かくして、入江と北原の中原攻略が開始された。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  中原との戦いに引き分けた後、中原より使者が入江に訪れた。  使者美土里曰く、 「介子嬰殿、この度、我が領主神農の書を届けに参りました。介子嬰殿、貴殿は それだけの力を持っており、それを天下大平のために使わなければならないと思 う。我が中原の盟友となり、中原入江ともに子々孫々まで天下泰平につとめよう ではありませぬか。  今後、互いに努めることを以下に示す。  流通を開き、生産力向上を行う。  技術の行き来、人の行き来を盛んに行う。  中原、入江に関らず領土の防衛に努める。  また、介子家の一門と婚儀を取り行なえないものでしょうか。神家の血を引く 大地(男22才)と介子家の息女を。」  介子嬰曰く、 「美土里殿に問う。同様の使者は、北原や北海にも出されておられるのか。つま り、中原が盟主となって平和をもたらそうという事か?」  美土里答えて、 「いかにも。この乱世に早く終止符を打ち、この天下に大平をもたらすためにも。」  介子嬰曰く、 「もとより、人々の交通を妨げたり、流通を妨害する意図は微塵もない。しかし、 私も外敵より入江を守らねばならぬ。よって10人以上の集団による移動は禁じ させていただこう。中原の人々が先の条件を守り、入江国内においては、我が国 の法を守るのであれば、その安全は保証しよう。しかし、我が国は、北原と共に 助け合いこの乱世を生き抜いてきた。北原に断りもなく貴国と同盟を結ぶわけに は参らぬ。また、婚儀の件については当家に適齢の女子はおらぬ。さらに、先の 恫喝をもって、我が国に臣従を強いた件と、今回の貴国に人質を差し出すような 形での婚儀を求めることから考えあわせれば、本気で対等の同盟を結ぶつもりが あるのか非常に疑わしい。同盟締結の件は、懸案とさせていただきたい。」  美土里は天を仰いで、 「ああ、なんという・・・これも我が力の及ばぬがゆえか。」  介子嬰は龍牙にを呼んだ。 「龍牙よ、わたしと一緒に別室に来てほしい。」  別室にて介子嬰は、 「龍牙よ今回の中原の使者の一件をどのように見る。」  龍牙答えて、 「私が考えますに、中原は先の渡河戦で首都近郊まで敵国の兵が侵入したことに 強い衝撃を受けているようです。さらに、中原は入江を滅ぼす順番を後回しにし たようでございます。」  介子嬰曰く、 「そうだな。中原に対しては期待以上の効果あったようだ。この効果が北海に現 れてくれると良いのであるがなぁ」  龍牙曰く、 「殿、渡河戦の効果を北海に及ぼす良い策があります。もし、中原が入江へ提示 した同盟の条件が我が国だけであるならば、中原が入江に同盟締結をもちかけた 件を北海に伝え、中原が入江滅ぼす順序を後回しにし、北海を先にしたことを吹 き込めれば、目先の事に弱い北海を本気にさせることも可能でしょう。一生懸命 拡充した北海の兵を中原にぶつけることができれば、中原を倒す機会も生まれし ょう。対中原戦の主導権を北海に与え、入江と北原は、北海の後押しをする形が 取れれば籠安栄殿も三国同盟を承諾していただけるのではないでしょうか。それ でも、北海が三国同盟に乗ってこないのであれば、北原と同時に対等の同盟を中 原と結び北原を中原と共に攻めましょう。当然盟主だと思っている中原は、自ら 戦の主導権を握って北海を攻めましょう。その時は情報を北海に流し、籠城戦に 持ち込ませ、北原と共に包囲作戦をしている中原軍背後から襲いましょう。包囲 の布陣をしている背後は脆いですから、必ずや神農の首を取れましょう。中原を 倒し中原の領土を三分した後に、北原と共に北海を攻めましょう。」  介子嬰曰く、 「しかし、北海にしても中原にしても一度同盟を結んだ者を同盟中に裏切っては、 天下に信を失うのではないか。」  龍牙答えて、 「確かに殿の申されようは、一つの見方でございますが、目先の利につられ大局 を見定められぬ者が領主の座に座っていたのでは、領民はたまったものではござ いません。また、中原のように力づくで攻めて天下に覇を唱えようとする者は、 力に敗れてもいたしかたございません。殿が裏切るのではございません。天が中 原をさらには北海を滅ぼすのでございます。」  介子嬰曰く、 「そうは言っても、天が示した道を歩んでもその後ろに民衆がついてこないので あれば、私は天から落ちよう。」  龍牙答えて、 「殿、何を迷われます。もし、天から落ちるのであれば、それも運命でございま す。今のままでは、天から落ちるどころか、中原によって地に還る躯となるのみ です。殿ご決断を!」  介子嬰は腹を決めて、 「よし、わかった。龍牙の申すとおりにいたそう。それでは北海に使者をだそう。 北原には、我が国を信じてもらわねばならぬから私自身が秘密裏に赴こう。龍牙 よ留守を頼む。北海には龍美を使わそう。それから今ここで話したことは、他言 無用じゃ決して家族の者にも話すな。特に圭明には、秘密にしておこう。圭明は 入江を裏切ることは無いと思うが、この事を知れば圭明にまた、辛い思いをさせ てしまうであろうからな。」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  介子嬰北原口上 「籠安栄殿お初にお目にかかります。入江領主の介子嬰です。今回私自身が直接 参りましたのは、内密にお話したいことがあって参りました。もし、よろしけれ ばお人払いを願います。」  嘆豹瑛樺 「お、おお!!おおお!!あの井出達、あの風貌、噂に聞いてはいたが・・・。 と、殿!!殿!!入江から使者が参っております。 し、使者はあの領主介子嬰でございます。まさか本人が北原の地に足を運んでく るとは・・・。」  籠範安栄は何事かと思い、慌てて出迎えた。 「おお、これはこれは介子嬰殿。こちらこそお初にお目にかかる籠安栄にござる。 こたびはわざわざ自らが足を運び入れられるとはよほどのことのようですな。そ れでは早速人払いをいたしましよう。」  介子嬰は早速本題を切りだした。 「このほど中原より対等の同盟の話が参りました。これは、先の渡河戦の結果、 中原は入江を手強いと感じ、入江を潰す順番を後回しにしたものと思われます。 さすれば、中原の次の攻撃目標は、北海か、北原ということになります。籠安栄 殿のもとに中原からの使者は参られましたでしょうか。」  籠範安栄は、大いに驚いたが、真実を話し、 「ううむ、中原からそのような話しが。実の所某のところにも中原の使者は来ま した。内容は貴公と同じ物でございます。私としてはこれは平穏にことを収める 時期と思っていますが。貴公はいかにお思いにて??  中原が我らを手強いと思ってるのは、下手に手を出せないという証拠。ここで 一時和睦を結び兵力の回復をしてみてはいかがですか?私としましては、この際 中原と和睦を結び中原の目を北海に向けてほしいと思っています。これは今まで 友好的にしてくれた介子嬰殿だから言えること、ここは北の北原、中央の中原、 そして南の入江という天下情勢こそ理想だと思います。」  介子嬰曰く、 「左様でございますか。籠安栄殿にも同じ内容で使者が参っておられるならば、 中原の次の攻撃目標は北海でしょうな。  北海には我が家臣の龍美を使わして中原から使者来た旨を伝えております。も し、北海に中原からの使者が来ていないのであれば、北海は自分自身が攻撃目標 となっていることを知りましょう。さすれば、北海は三国同盟に積極的に参加し、 自ら戦の主導権を握って中原と戦うことでしょう。そうなれば、北海は北原を攻 める余裕はなくなります。籠安栄殿も安心して中原攻めに本腰が入 れられるでしょう。この時籠安栄殿は決して北海を攻撃してはなりませぬぞ。北 海を攻撃するのは中原を倒してからでございます。いかかでしょうか三国同盟締 結していただけますでしょうか。」  大広間にて、介子嬰曰く、 「龍美よ此度の中原からの同盟締結の使者があった件を伝えるだ。書面は無い。 全て口頭にて伝えるのだ。よいか、今から私の申すとおりに申すのだ。」 「承知いたしました。」  介子嬰は龍美に、 「まず挨拶の口上を述べた上で次のように申せ。この度、中原より入江に対して 中原と対等の同盟の申し出がありました。しかし、中原は何としても自らの手で、 天下を治めたいはずでございます。その中原が対等の同盟を申し込むということ は、先の渡河戦で、入江の手強さを認識し、北原、北海、入江のうち入江を滅ぼ す順番を最後にしたというところでございましょう。さすれば、次の攻撃目標は、 北海か北原ということでございます。北海には入江と同様の使者が中原から参ら れたのでございましょうか。」 伝えた。  龍美は早速北海に飛んで、孫亮に謁見しようとした。しかし、孫亮に会うこと は叶わず、そのまま北海の地に留まり内情を調べた。  その後、北原領主籠範安栄は介子嬰に、 「北海らの正式な使者がこれば応じようとはおもいますが、向こうが何の反応も 見せなければこちらから出ることもありません。ようは北海次第です。」 と、介子嬰の三国同盟に対して返答し、北海との停戦について述べた。  介子嬰は北海と中原の内情について述べ、 「当方にも未だに北海より三国同盟に関しては、何ら返答はございません。また、 当方で調べさせたところ、内容はわかりませんが、中原は北海にも使者を送って おるようです。中原は、今回の戦と河の氾濫で大きなダメージを受けているかも しれません。そのため、時間稼ぎをしているか、本気で和平を願っているかもし れません。」  籠範安栄は、将来の展開について介子嬰殿に尋ねた。 「貴殿はこの天下を今後どうしていこうとお思いか?」  介子嬰は答えて、 「中原を倒せば、国力からみれば、北原、北海、入江は勢力が均衡することなり ます。この均衡を破るべく北海が兵を動かしても、北海は国力に比べ多すぎる兵 を抱えて戦わねばならなくなります。さすれば、北海は兵力にものを言わせて短 期決戦にもちこもうとうるでしょう。多すぎる兵を抱えて長期戦は戦えないから です。北海がもし、北原を攻撃するようなことがあれば、入江は必ず北原に味方 いたします。北海が北原を攻撃するのであれば、入江は一部の兵だけではなく、 全軍をもって救援に向かいます。中原が無くなれば、北原と入江の間を妨げる勢 力はありません。  仮に北原、中原、入江で天下を三分したとしても、中原の国力がずば抜けて大 きくなってしまいます。それに中原は、肥沃な中原領と旧平原領は、入江と北原 の挟撃受けやすく、中原としては何かと両国を排除したいと考えるはずです。」  介子嬰は、中原と北海の策略を予想し、さらに、 「しかし、中原が北海と同盟を結でのあれば、北原と入江の2国では、対抗する ことが困難です。仮初めの平和でも中原との同盟に参加する以外に道はないかと 考えております。今のところ北海は中原に返答の使者を出していないようですの で少し様子を見たいと思います。」 と、語った。

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