対戦物語

〜第1章〜
〜国家誕生〜
〜第1部〜
〜平原の四天王〜
治者猛者智者勇者
 1年、神子は平原全域に農耕を強化して国力の増強を図った。  2年、治者と名乗る男が農耕の新しい術を見出したと言って現れた。齢15で あった。治者は生まれも育ちも平原で、幼い頃から農耕に勤しんでおり10歳の 時に様々な作物を育てる事を考え、苗を育てはじめた。そして5年後、つまり2 年に神子に目通りして、それらの作物を献上した。 「この度、私が育て上げました作物をここに献上いたします。どうか御相伴下さ いますよう。」  神子は献上された作物を手にとって見つめた。 「むむ、これは初めて見るものだな。これをどこで手に入れたのじゃ。」 「はい、平原の川沿いでございます。湿地のような水分の多く含んだ土壌一面に ありました。しかし、いささか小さな湿地でございましたので我が家へ持ち帰り 似たような環境を作って育ててまいりました。」 「ほう、なるほどな。では、早速味の方を見てみようではないか。」  神子は香りを確かめ、一口口に入れて目を閉じてしっかりと味わった。そして 目を見開き、 「なんと、これは見事。ほのかな味わい、柔らかな歯ざわり、そして口から咽へ と滑らかに流れ込む。味や香が強くないために他の食材と見事に調和し食も進む。 極めつけはこの満腹感。これはまさに主食の作物と言っても過言ではない。」 「はは、ありがとうございます。私はこの苗を育て、収穫をする事ができます。 世の皆にこの作物を伝授し、一層の繁栄をもたらしとうございます。」 「うむ、領内の農耕を任す故に領民を指揮して内政に従事せよ。」  治者はこれより領内の内政を一手に任され、大いに活躍した。  同じくして神子は平原勢力の拡大を図った。聖地、湖畔、中原、平原の4つの 地の外は人のいない地域が広がっていた。そのため、神はそれ以上の天下の拡大 を行わなかった。しかし、神子は治者の新たな作物を得た事により、人のいない 地域に耕作地を求め天下を広げようとした。命知らずの人間を集めて軍を作り、 未開の地の進出に備えた。  4年、そんな兵の中に武勇の光る逸材があった。その男の名は猛者、齢19。 生まれは平原で、集落を襲った猛獣達の群れをたった一人で退治したという。そ の武勇を聞いて神子は臣下に取り立てた。  神は軍の中に女性がいるのを見つけ、 「女が何故兵となって我が軍におるのだ。見た所周りの男達よりも強いという感 じも受けぬ。我が軍に力無き者は不用だ。足手まといになるのは必定である。何 故ここにおる。」 「いかにも私はここにおります男達よりも力はございません。しかし、軍には力 だけでなく知略も必要となりましょう。見た所、私よりも抜き出た知謀の持ち主 は見られませぬ。」  彼女の名は智者、齢15で平原に生まれた。聡明で物事を冷静に見つめる事が でき的確な判断が出せると地元では知られており、皆の反対を押しきって兵に志 願してきた。 「なるほど言う事には一理あるが、お前にそれだけの智があるのか。」 「先日、海より一つの果物が北から流れてまいりました。この地の海は河口に近 いにために北からの潮の流れを止める地域があります。そのため、ここに流れ着 いたのでしょう。その果物は皮が剥いてあり、食べかけでした。皮が剥いである 事から動物や鳥の物ではありません。この事から言える事は一つ。平原を海沿い に北上すると人の住む所が存在する事です。」 「おお、なるほど。この世は平原の北にさらに広がっておるのか。よし、お前に は軍務を担い兵を動かす策と輜重の管理を行わせよう。」  神子は智者を取り立てた。  その数日後、智者に一人の男が会いに来た。 「おお、ここにいたのか。捜したぞ。まさか本当に軍に仕官しているとは。周り を振り切って行ってしまったので皆は随分心配していたぞ。」 「あら、勇者じゃない。元気してた?皆には悪い事したと思っているわ。でも、 あのままじゃ引き止められるだけで先に進まないもの。ちょっと強引だったけど 時間が経てば皆分かってくれるわよ。」  智者を訪ねた男の名は勇者、齢17、智者と同じく平原に生まれた。智者とは 幼なじみであった。集落を飛び出した智者の様子見にやってきたのである。 「戻る気はないのか?」 「ええ。ここは私の力が十分使える所なのよ。」 「そうか。その気持ちはよく分かる。皆から連れ戻すように言われていたが、お 前の決心が変わらないんであれば精一杯がんばるようにとも言われてた。そうい う訳だから、その期待にも応えられるようにな。」 「そう、皆にもありがとうって伝えておいてね。」 「ああ、分かった。だが、もう一度ここへ来る。俺もここに仕えることにする。 まぁ、なんだその・・・お前一人がここにいると皆が心配するだろうし、お前に 何かあった時は守ってやる奴も必要だろう。それに何よりも俺のお強さを知って いるだろう。役立つことは間違いない。だからお前の達者な口でしっかり推挙し てくれ。」 「??何??最初の方のは。皆過保護ね。でも、あなたの実力は本物だから推挙 してあげるわ。でも武勇はあなたより上の男がいるわよ。猛者っていうすごい男 よ。知略も治者っていうあなたより上がいるわよ。それからあなたより私の方が 知略には自信があるしね。」 「そ、そうか。」 「ふふふ。でも、あなたの方が猛者よりも知略はずっと上だし、治者よりもずっ と武勇が光っているわよ。」 「おい、フォローになってないぞ。」  その後、智者の推挙で勇者が臣下に加わった。

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