〜序章〜
〜神話誕生〜
人が大地に誕生して以来、時がどれだけ流れたのか解らない。
人々は集団で暮らし始め、やがて集落ができた。その集団を取りまとめる者が
現れると、人々はそれに従い安住の地を求めた。肥沃な土地を求め、あるいは土
地を拡大し、他の集落と接触すると争いや友好を深めた。
かつて人が生まれていない時代、神によってこの世が造られたという。
人の世になるまでにどれだけの時が流れたのかは解らない。
そんな神話が生まれて間もなく、神の血筋を名乗る者が各地に現れ、各地の集
落を一つに統一に乗り出した。また彼等に反発する多くの勢力も現れ、長く大き
な戦乱の風が起ころうとしていた。
この戦乱の果てに勢力が分裂や併合を繰り返し、やがて一つにまとまるような
風が吹いていた・・・。
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かつて神がいた地は、天にとどく山とその山の麓には広大な森に囲まれた大き
な湖があった。山と湖の恵みによって人々は豊かに暮らしていた。
神が幼かった頃、人々は魚を獲っていた。神は網を与え、漁を教えた。また、
牛や羊を飼うことも教えた。
神が少年だった頃、いつも食べている実の種を見つづけた時があった。種は根
を伸ばし芽を出し、やがて花を咲かせて実を結んだ。その種を集めて地に植えて
みると、多くの種は根を張り芽を出し実をつけた。
実を探さず、種を植えて育てる事を人々に伝えた。これが農耕というものの始
まりであった。農耕を知った人々は採集や狩猟と併せて農耕を行い、以前にも増
して豊かになった。農耕のための道具も開発し、惜しみなく人々に渡すと同時に
その製作法も伝授した。
農耕が広まると近隣の多くの者が集った。また、新たな農耕の地を求めて周辺
に広がっていったので、先の住民との争いも盛んになった。これも調停し共存の
道を選び大いに発展した。住民は皆、作物の一部を納めて友好、従属を誓ってい
った。
農耕が定着してしばらく、湖の周辺の住人はその噂を聞きつけて農耕を覚えた。
さらに湖の対岸に広がり、そのまま河沿いに南下して広い範囲に広まり、皆はそ
の傘下に治まった。しかし、同時に農作物を奪う者も現われ、その輩との攻防も
盛んになった。農地を守るために常に番がつき、その番人達は己の武を互いに磨
きあった。やがてこの番人達は兵となり、己の地の死守や拡大に努めるようにな
った。兵の集まりは軍となりその人数は膨らんでいった。ある地ではこの軍の強
大さに恐れおののいて従い、ある地ではこれに対抗して兵を向かわせて迎撃した。
後の世でこれを戦と言った。
長女が産まれた年、湖の対岸から南に向かって従えた後、軍を返して本拠より
河に沿って南下した。同時に北にも勢力を伸ばした。北を流れる河沿いは森林に
囲まれた土地で住人の数も少なく、農耕の技術を伝授すると皆大いに喜んで従っ
た。一方河沿いに下ると、そこには広大な平地が広がっていた。農地を拡大し繁
栄を願った。
そんな矢先に長女が死んだ。長女がわずか7歳でこの世を去り、何日もの間神
は大いに嘆き悲しみ霊前に座りつづけていた。その悲しみは世に呼応し、空がう
なり、地が傾き、海が荒れた。空からは火の玉が次々と降り注ぎ、地からも火柱
が吹き上げ豊かな地は一夜にして荒野に変わった。さらに海も煮えたぎり、大波
に大地は大きく剥ぎ取られた。そんな天変地異が数ヶ月に渡って続いたため、世
は大いに荒れた。
やがて悲しみも収まり再び娘が誕生すると、荒れた地を元に戻すために大勢の
人間を従事させて河の水を利用して水路を築き治水を行った。その効果は瞬く間
に現われ、何年も豊作が続いた。この噂を聞きつけた周辺の勢力は虎視耽々とこ
の地を狙い、目を光らせていた。
娘が誕生した翌年には続いて長子も誕生した。
長子が誕生した3年後には次子が誕生し、この年に周辺よりこの地を得ようと
下流の勢力が押し寄せてきた。これを迎撃するべく兵を総動員し、明朝よりの戦
いは夕暮れまで続いた。自ら先頭に立って兵を率い、敵の猛攻を正面から受け止
めた。その間に後続の兵は左右から敵軍を挟撃しものの見事に撃ち破った。敗走
する軍を追撃するも、敵軍の殿軍は一歩も退かぬばかりか追撃する軍に斬ってか
かり、勝利の追撃で弛緩した味方の軍勢は瞬く間に崩れ去った。これを取り直す
ために自ら殿軍を指揮する兵に向かった。両者一歩も引かず、その打合いには両
軍ただただ見惚れるばかりであった。しかし、もはや敵軍を追撃できぬと悟ると
一括してその場を後にした。
翌日も同じく明朝から戦いが始まり、自ら派手な衣装に身を包み敵軍を威圧し
た。昨日の武勇に敵軍は恐怖を覚えていたので、その存在を大きく示されると敵
軍に怯みが見えだし、徐々に押すことができた。そして、休むことなく追撃した
ので敵は慌てふためき散り散りになった。さらに敵の本拠まで押し寄せて勢いに
乗じて本拠を陥落させて降伏させた。殿の兵の武勇に惚れ込み、真先に殿の兵を
従えようとしたが、昨日の戦いで軍を退いた罪で既に葬られていたので叶わなか
った。降伏した全ての者を冷遇することなく己の民と同じく扱ったので、皆は大
いに喜び付き従った。
この勢いに乗じてさらに河を下って下流の勢力を従えた。先の戦いにより軍の
精強さは伝わっており、敵軍の士気は低下し逃亡するものも後を絶たなかった。
その上、降伏した者を冷遇しなかったので敗残兵や住民は大いに喜んだ。それに
怒ったのはその地をまとめていた者である。喜ぶ者をことごとく打ちのめし、己
に従うことを強要した。そのためますますもってその地の住民は降伏し、ついに
は本拠とその周りしか残らなかった。それでもわずかに残った軍を率いて討ちか
かってきたので、これを撃退した。しかし、味方が圧倒的に多数であったにも関
らず敵軍と同数の兵で正面から迎え撃ったので、敵味方ともに大いに驚いた。同
時に同じ兵数の敵軍は撃ち破る事ができなかったので、さらに指揮が乱れ、戦意
を失っていった。その後は言うまでもなく敵の本拠を陥落させてその地を従えた。
その地をまとめていた者は軍が破られたので行き場を失って自害した。
翌々年に末子が誕生し、大いに喜んだ。さらに下流に勢力を拡大し、遂には河
口と海を手中に入れた。河口と海に面した土地には人がほとんど住んでいなかっ
た。河口に面した土地は度々河の氾濫と潮の干満が激しくおのずと人は去ってい
ったらしい。
翌年には兵を返して、内陸の平原に出た。鬱蒼と繁る草木の草原地帯で、動物
達の営みしか見られなかった。
神がこの世を去る少し前、神は5人の後継を残した。
最初の一子はたいそう可愛らしい女子で、幼くして聡明であった。神は長女を
たいそう可愛がり成長した暁には後事を託そうと考えていたが、長女がわずか7
歳でこの世を去り、何日もの間神は大いに嘆き悲しみ霊前に座りつづけていた。
その3年後、再び神に娘が誕生し、翌年には続いて長子も誕生した。そのさら
に3年後には次子が誕生した。次子が生まれて2年後には末子が誕生した。神の
子の名は誰も知らぬが、神娘、神長子、神子、神末子と皆は呼んだ。その4人が
成長する頃には元の世に戻りつつあった。
神末子が15歳を迎えた時、神は4人に後事を託してこの世から去っていった。
神が世を去る直前に暦を作り、月と太陽から1日を定め、4つの季節が一巡する
と1年と定めた。これによって農耕を始め、人の生活から史書類に至るまで時の
支配を受ける事となった。